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鏖殺寺院の砦

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鏖殺寺院の砦

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8:戦後処理
 
 戦闘が終結し、戦闘後の確認が行われた。
 死者・行方不明者はこちら側だけで200人以上に達し、契約者と米軍、自衛隊は行方不明者の捜索を行った。
 地下、地上の捜索が行われ、200人の死者・行方不明者のうち発見できた行方不明者は18人。彼らはいずれも瀕死の重傷を追っており加夜などのグレーターヒールで大幅に回復させて何とか命を救った。だが、150名が遺体で発見され残りは以前行方不明のまま。おそらく機体ごと消失したかばらばらになったと思われた。
 寺院側の死者も合わせればその総計は膨大な数にのぼり、遺体を回収し街の人々に確認をしてもらう。多くが強化手術されたこの街の元住人だった。また、ヴァルキリーや機晶姫、魔法使いなどの随伴飛行歩兵の遺体はほとんど回収できず随伴飛行歩兵というものを使う寺院の非道さを明らかにすることとなった。
 遺体は疫病を防ぐために火葬され、灰と骨だけになった学生や米軍兵士、そして街の元住人らはイコンで掘った穴に合同で埋葬され、その上に献花の花が大量にならんだ。
 オリガは今回友人とそのパートナーを一組亡くしており、戦争の罪深さを、愚かさを、改めて考えることになった。
 敵だけではなく、味方も死ぬのだと、思い知ったのである。
 その友人は景勝とも共通の友人だった。だが景勝は悲しみを見せながらも、オリガに
「これが戦争なんだ。俺達は殺し合いをやってるんだ。仕方のないことなんだ」
 と語る。
「わからない! 私には分からない!」
 オリガは悲痛な叫びを返す。
「これが現実なんだよ……」
 景勝は悲しげに呟く。
 米軍はパイロットと戦闘車両の乗組員に多数の死者を出し、米軍だけはキリスト教式の葬儀を行った。
 他のものは無宗教形式だった。ただ、死者の冥福を祈るのみ。そして、認識票を皆で分け合った。
 寺院の死者も無宗教形式で葬られた。今更寺院式の葬儀はおこないたくないというのが住民達の意見だった。また、涼司がそう希望したことも有る。寺院の忌まわしい風習は、少しでも避けるべきだった。
 涼司は、ひどく落ち込んでいた。自分が起こした戦争の死者を直接葬るということは、多大なる心労を彼にもたらした。
 だが、【ファング】の綺雲 菜織は涼司に近づくとこう言った。
「かつて、古代の戦争では戦争を起こしたものが最前線にたった。それゆえに武勲は尊ばれた。だが、近代の戦争は、戦争を唱えるものは安全なところでアジテートするだけだあった。それに比べれば山葉校長は前線に立っただけましな指揮官と言えるだろう。今までも校長は前線に立ち続けてきた。これからも立ち続けるがよかろう。それでこそ、付いてくるものもいるし死者も報われる。辛いからと言って前線に立つのをやめたならば、私はその時あなたを思いっきり侮蔑するだろう」
 と。
 それに涼司はこう答えた。
「とはいえ、こいつらはみんな俺が殺したのと同じだ。俺が起こした戦争で殺したんだからな。これは俺の罪として、一生背負わなければならないことだ」
 その言葉にカノンはこう言う。
「涼司君が一人で罪を背負うことはないよ。あたしだって殺したもの。あたしだって罪を背負ってるの。涼司くんと一蓮托生。地獄に堕ちる時も一緒よ」
「地獄……か。だよな。俺は天国にはいけねえよな」
「あたしも行けないわよ」
 涼司のつぶやきにカノンは囁くように答える。そして、花音がこう言った。
「涼司様、私は剣の花嫁です。兵器です。私は剣の花嫁として敵を倒すことは名誉だと思っています。でも、人を殺すための兵器です。私は存在そのものが罪にまみれています。それに比べれば、涼司様や設楽さんの罪なんて軽いです」
「花音……」
 涼司は驚いたように花音を見る。
「兵士は駒だ。また、駒でなければ困る。そして兵士が指揮官に思うのは、正義の体現者たれということだけだ。それ以外は望まないよ。罪を背負ってくれとかそんなことは望まない。寺院と、そのバックに居る帝国は悪だ。そして、俺たちは正義だ。そう思わなければ、兵は戦えん」
 小次郎がやってきてそう言う。
 そして【ファング】の有栖川 美幸がこう言う。
「正義……ですか。寺院だって自分たちは正義だと思っていますよ。戦争って言うのは、結局は正義と正義のぶつかり合いです。絶対に正しい正義はなく、絶対に悪い悪もありません。そして、自分たちの生き残りをかけた争いでもあります。生存競争です。共存しようと思わない限り、そこに戦争は発生します」
「生存競争……ね。確かに寺院はパラミタから地球人の存在を抹消しようとしているからな。これもある意味生存競争だわな。寺院をやらなきゃ俺達がやられる」
 静麻がそう言って頭をかく。
「校長。事後処理はすべて終わりましたよ。全く、俺に押し付けるのはやめてくれよ。それから、そう落ち込むな。前校長を殺したやつの犯人がわかったら、そいつとも戦争しなきゃならんしな。いちいち戦争のたびに落ち込んでいたら校長なんてやっていけないぜ」
「そうだな……」
 静麻の言葉に、涼司は静かに頷く。
「地球にはアフリカ・中東を中心に寺院の拠点が数多くある。そしてそいつらに出資しているスポンサーがどこかにいるはずだ。そのスポンサーを叩かない限り、寺院との戦争は終わらないしな」
「そういう事だ。戦争をして特をするやつがいる限り戦争はなくならない。わかっちゃいるがね……」
 静麻はそう言うと立ち去っていった。
「寺院の幹部を捕まえていれば、戦争犯罪人として裁けたかも知れないが、今回は敵が上手過ぎたな」
 クレアがそう言う。
「エイミー、寺院拠点の探索はどうなった?」
 謎の電波の発信源を突き止めるべく寺院の探索が行われていた。
「はい、それが瓦礫が大量にありすぎて難航しています。イコンは土木作業には向いていませんし……」
「そうか。今回我々を同士討ちさせた謎の電波……あれの発生源だけはつかまねばと考えていたが、難しいか」
 クレアがそうつぶやくとカノンが割り込んだ。
「だったらさ、コームラントのビームキャノンの集中砲火でかたしちゃえば?」
「物騒な。発生源ごと破壊してしまいかねん」
「そうかな? 出力を絞ればいいんじゃないの? ねえ、涼司君?」
「難しいな……想定出力を計算できない」
「それもそっか……だったら諦めるしかないね」
「また寺院と戦うときに、今回と同じ現象が起きるとしたら厄介なことになるな……」
「そうだね」
 涼司のつぶやきにカノンはうなずく。
 天貴 彩羽はそんな涼司たちを見ながら、内心舌打ちしていた。
(ちっ、失敗しちゃったのね。まあいいわ。これからも戦争が続くなら、蒼空学園と天御柱学院に復讐する機会はあるはずよ。とにかく、姉さんを壊した強化人間手術を生み出した奴ら、絶対に許さないんだから。でも、バレなかったのは幸いね。パラ実か、最悪寺院に逃げこまなきゃって考えてたけど……でも、よく考えたら寺院も強化人間使うのよね。強化手術はどこで二つの陣営に根付いたのかしら。そこから探っていかなきゃだめかもしれないわね……)
 彩羽は知らず知らずのうちに根本的な問題にたどり着いてしまった。彼女は、これからどうするのだろうか? このまま復讐を続けるのか、秘密を探るのか、それとも……それは彼女にしか分からない問題だ。

 そして、葬儀を終え、街の人々のケアも専門の施設で半年ほど治療すれば解決することがわかって関係者一同は安堵していた。
 その間は施設で衣食住が保証され、治療が終わってからも公共工事や何やでコインとパンを与えることはできる。
 鏖殺寺院に教化されたとしても、救うことはできる。それが立証されたことが、今回の戦争の一番の成果かもしれない。
 トライブ・ロックスターも、その点については安堵していた。
 自爆テロなど彼の趣味ではない。もし今後も戦争が続くならば、彼は多分また同じ行動を取り続けるだろう。彼も自分自身シャンバラの人間か寺院の人間かで安定はしていないものと思われる。しかし、非戦闘員が死ぬような事態だけは避けたいのだろう。

 そして、天沼矛に帰りデブリーフィングが行われた。
 作戦の総括である。

 朱音がまず意見した。
「鏖殺寺院の拠点はまだまだあるし、戦争は終わらないよね。他の学校の人もイコンに乗れるようになったことだし、合同訓練とか行ないたいな」
(合同訓練については考えておこう)
 コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)校長がそう言った。
 今度は冴璃が発言する。
「敵の新しい武器も回収できましたし、こちらでも研究して生産・装備できるようにして欲しいと思います」
(検討しよう……)
 和葉が意見する。
「そろそろミサイルが欲しいよね。コームラント用の新武装に」
(それはすでに考えている。次の作戦までには実用化されるだろう)
 次に真司が発言した。
「コームラントが遠距離戦に特化しすぎている。敵の実体剣なりビームサーベルなり、装備させたほうが良いと思うぜ」
(検討しよう。接近されたときに脆いのは是正すべきだ)
 そして、カイ。
「鏖殺寺院のイコンの資料を全学校に配布し共有してはどうだろう。構造や弱点を知ることでより楽に戦えると思うぜ」
(すぐに行う。情報の共有化は最大の命題だ)
「今回反省文と罰掃除は無し?」
 茉莉の言葉に校長は笑った。
(功績をあげたのだ。なぜ罰する必要がある)
「うー、よかった」
「修理用のイコンが欲しいですね。あと弾薬と機晶エネルギーをチャージできるイコンも。修理と補給が戦場でできるようになるといいのですけれども」
 真琴の発言だ。
(検討しよう。時間はかかるだろうがな)
 そして景勝が発言した。
「俺達は殺し合いをやっているって自覚がそろそろ必要だと思うぜ? サバゲーじゃないんだ。戦争なんだ」
(うむ。その自覚は必要だろう。鏖殺寺院との戦いは戦争だ)
 アンジェラが呟く。
「強化人間の技術、ロシアで開発された。寺院に強化人間たくさん……どこかで技術漏れた?」
(どこで漏れたかを調べる必要性はあるな。重要な意見だ)
「さっきも意見でたけど、他校生もイコンに乗り込めるようになったけど、練度低いし訓練が必要じゃない?」
 椿がそう言うと校長は賛同した。
(うむ。年明けにでも訓練を行なおう。それまではそう大きな作戦はないはずだ。敵が攻めてこない限りはな)
「校長、私は戦うことに、殺すことに、仲間が死ぬことに、慣れることができません。どうすればいいのでしょうか……?」
 オリガが質問する。
(わからん。答えは自分で出すしかなかろう……)
 コリマ校長も応えられない。
「イーグリットにも機関銃が欲しいですね。連射が効く武器があると助かるのですが……」
 昇が発言する。
(検討しよう。コームラント用の汎用機関銃を応用できないか考えておく)
「ありがとうございます」
「敵の謎の電波が気になるわ。イコンの腕を土木作業用に改造してでも拠点の跡を探るべきとちゃうか?」
 妙子がそう言うとコリマは頷いた。
(あのような兵器は私の記憶にもない。敵の新兵器と見るべきだろうな。マニュピレーターの改造も検討する)
「そういや、イコン運用を前提とした陸海空全対応型強襲戦闘母艦とかの運用は考えられてるのかな?」
(開発は検討されているが、問題が多く検討段階としか言えんな……)
 静麻の問にコリマはそう答えた。
「今回も戦闘を記録しておきました。米軍の無差別攻撃のシーンなども収録してありますので、問題なようなら削除しますが、ご覧になられますか?」
 優希がそう言う。
「いや、削除しなくてもいい。そのまま報道機関に流して構わないぞ。俺もあれは腹に据えかねたからな」
 涼司が答える。
「それから美羽とロザリンドは抗議をしてくれて助かった。後でコリマ校長と一緒にこちらからも抗議をしておく」
(うむ。あのような行動は問題視すべきだろう)
「二丁拳銃のイコンまだー」
 エリィが催促するようにそう言うと、コリマ校長は苦笑した。
(検討しておこう。しかし二丁拳銃で撃つ訓練もしなければならなくなる。訓練時間が増えるぞ)
「それはやだなー」
 軽い笑いが起きた。
 そして最後に涼司がこう言った。
「俺のイコンに細工をした奴がいる。俺を事故死に見せかけようとしたようだが、申し訳ないが、俺は環菜が返ってくるまで死ねん!」
「涼司君……」
 加夜が驚いた。そんなことがあったとは知らなかったのだ。
 そして涼司は更に言った。
「俺を殺したい奴がいたら、小細工などせず、堂々と殺しにこい!! いつでも受けてたってやる!!!」
 彩羽はそれを聞いて忌々しいやつ。と感じたようだった。
「以上だ。他に意見がなければデブリーフィングは終わる。なにかあるか?」
 特に無いようだった。
 そうして一同は解散した。

 それから――
 ダリルが団長に報告書を提出している間、ルカルカは涼司のもとに口頭報告の名目でやってきた。
 そして、親友として労いの言葉を掛ける。
「色々お疲れさま」
「おう、サンキュー」
「Wカノンは大変よねえ」
「まあな……あ、二人にはないしょだぞ」
「もちろん」
 そうして二人は笑いあう。
「それにしてもさ、あの街どうなるのかな?」
「半年で洗脳は解けるそうだ。その後は蒼空学園の出資で自衛隊が復興支援をする。まあ、自衛隊の復興支援には定評があるから、悪いことにはならないと思うぜ」
「そうね。住みやすい街になるといいんだけど」
「そうだな」
「ねえ、涼司、あたしは涼司が校長になっても涼司の友人のままだからね。変に気を使わなくていいからね」
「助かる……ルカルカこそ変な気使うなよ」
「うん」
「それにしてもな、ナカラ行きか」
「環菜さんが復活する可能性があるなら、それに賭けてみてもいいんじゃない?」
「そうだな。陽太のやつが張り切ってる。今回も色々と裏でやってくれたし、あいつにはいつも助けられてるよ」
「環菜さんも幸せ者よね。あんな人がいて」
「ああ……」
「ねえ、また戦争するの?」
「今イコンプラント奪取作戦が動いているから、それの結果次第だな。必勝のドクトリンは簡単だ。敵の六倍の戦力を揃え効率的に運用せよ。それだけだ。鏖殺寺院にどれだけイコンがいるかわからんが今の状況じゃそうなんども連戦できるほどの体力がこっちに無い。六倍とは言わんから、せめて三倍くらいは揃えられるようになって欲しいもんだぜ……」
「パイロットも育成しないとね」
「そうだな。日本って国は今の鏖殺寺院と同じ失敗を犯したことがあるんだ。第二次世界大戦開戦当時、日本はゼロ戦って言う優秀な戦闘機とベテランのパイロットがいたからアメリカ軍を苦しめた。ところがアメリカにゼロ戦以上の戦闘機ができるとどんどんベテランのパイロットが戦死して、とうとう制空権を失しなちまった。鏖殺寺院も何度かに渡る戦いで練度の高いパイロットが戦死してる。だから今回は練度の低い子どもがパイロットに引っ張り出される始末だ。そのかわり振動剣なんて新しいもん引っ張り出してきたがな」
「だね。イコンの質と量、そして熟練パイロットの数。これが揃わないと勝ち目はないよね」
「ああ。だから今は待ちの時期だ。辛抱して、訓練して、数増やして……優秀な指揮官も揃えないとな。一頭の獅子に率いられた百頭の羊は一頭の羊に率いられた百頭の獅子に勝るって言葉がある。指揮官が如何に大事かってことだ」
「下士官も大事よ。頭脳の命令を伝える神経も優秀じゃないと、喧嘩には勝てないわ」
「……なんだか大変だなぁ」
「そうね。コリマ校長は訓練は年明けって言ってたけど、もうちょっと早く訓練して欲しいわね」
「同感だ。イコンばかりはちょっくら冒険して鍛えてきますってわけにはいかないからなぁ」
「うん。地道な訓練の積み重ねよ。機甲科もそうだけど、乗り物の訓練は大変よ」
「俺も今回イコンに乗ってみて身にしみた。訓練が必要だよ、ありゃ」
「それで、天御柱以外へのイコンの本格的な配備はいつごろになるの?」
「未定だ。プラントが奪還できれば早めになりそうだが」
「そっか。天御柱の生徒には頑張って欲しいわねー。私たちも歩兵としてなら戦えるけど、イコンの攻撃力をまともに受けるわけにはいかないし」
「だな。随伴飛行歩兵が哀れだ。恐ろしい戦力だが、脆すぎる」
「そうよね。対戦車歩兵とかも立ち回り方次第ではうまいこといくけど、失敗すると大変だもの」
「ふう……」
 涼司はそこまで一気に話して溜息をつく。
「賢者タイム乙?」
「ばっか……」
「ふふ……」
「ははは……」
 小さく笑いあった。
「さて、そろそろ花音を呼ぶか。陽太のやつを後押ししたいし」
「わかった。それじゃ、おじゃまするね」
「ああ、すまないな」
「ううん。気にしないで」
「じゃ」
「じゃ」
 そうしてルカルカは去っていった。そして花音を呼んで花音に陽太を呼び出させる。
「お呼びですか、先輩」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
 陽太が校長室に入ってくる。
「どうしたんですか?」
「ナカラに行くお前に少しだけ後押ししようと思ってな。お前に【御神楽校長専属終身SS】の肩書きをやるよ。環菜を復活させたら、今度こそずっと守ってやってくれ」
「……わかりました。でも先輩、やたらと肩書を出す組織は壊滅しますよ?」
「まあ、好きな方を選んでくれ。ちょっと語呂悪いしな」
「そうですね。でも死ぬまで守りますよ、今度こそ」
 そう言って陽太はロケットを取り出し、環菜の写真をみつめる。
「陽太」
「はい」
「今回は世話になった。色々と裏で動いてくれたおかげで助かった」
「いえ、少しでもお役に立てたのなら幸いです」
「ああ、ずいぶん役に立ってくれたよ。感謝する」
 そういうと涼司は頭を下げた。
「いやだな、よしてくださいよ先輩。僕なんて愛する人の死の場面にすら立ち会えなかった、専属SSのくせに守れなかったんですから。でも、その分今度のナカラ行きのミッションには気合を入れてます。絶対に、連れて帰ってみせます」
「おう、がんばれ」
「はい、がんばります」
 と、その時ノックの音がした。
「おう」
「涼司様、設楽さんがいらしてます」
「分かった、通してくれ。じゃあな、陽太。無事に再開できることを楽しみにしてるぞ」
「はい、失礼しました」
 そして陽太と入れ替わりにカノンが入ってきた。
「涼司君♪」
 そして涼司に抱きつく。
「アームルートさんって好きな人がいるんだってね」
「あ、ああ……」
「これであたし達の仲を阻むのは何も無いよ。ねえ、パートナー契約しよ♪」
「だから、パートナー契約は環菜の敵を討ってからって言ってるだろ」
「御神楽のお姉ちゃんの敵を討ったら? そしたら本当にパートナー契約してくれる?」
「ああ」
「約束だよ、涼司君。パートナー契約をすれば、死が二人を分かつまで、ずっと一緒なんだよね♪」
「まあな。一緒に死んじまうし……」
「んふふーうれしいなー。涼司くんとずっと一緒にいれるようになるなんて。早く御神楽のお姉ちゃんの敵討ってね」
「ああ」
 涼司がそういうとカノンはうれしそうにくるくる回る。
「ねえ、涼司君は、ずっとカノンのこと守ってくれるよね?」
「もちろんだ。カノンは、世界で一番大切で、危険な目に合わせたくない。ずっと守ってやりたい」
「わぁい。涼司君はね、カノンにとってはずっと憧れだったんだよ。だからね、一緒になれたら幸せ」
 そしてまたくるくる回る。
「おいおい、そんなにはしゃぐと……」
 どんがらがっしゃ〜ん。
「あいたたた……」
「だから言ったじゃないか」
「だってー」
 拗ねた子供のようにほっぺたを膨らませるカノン。
「だからね、涼司君。他の女に取られたら絶対に嫌だからね」
「あ……ああ……」
(加夜……俺はどうすればいいんだ)
 理解者のことを心で呼んでみる。
「じゃあね、涼司君。忙しいだろうから、今日はこれで帰るね」
「ああ。またこいよ。カノンのために閉じる門はないからな」
「うん。また遊びに来るー。じゃあね、ばいばい」
「またな」
「ばいばい」
 そう言うとカノンは帰っていった。
「涼司様、ほかに何かお仕事はありますか?」
「いや、今の所ないな。ああ、お茶でも入れてくれ。喉乾いた」
「わかりました。それにしても設楽さんの誤解が解けて良かったです。美羽さんに感謝です」
「ああ。あいつのことではお前にも迷惑かけたな。美羽にも後で礼を言っておかないと」
「いえいえ。まあ、ほんのちょっと怖かったですけどね、本音を言うと」
「昔はあんな性格じゃなかったんだけどなぁ……やっぱりあの事故のせいなのか……?」
「涼司様、あんまり自分を責めちゃだめですよー。涼司様も幸せになってください。私は十分に幸せですから」
「ああ」
「では、お茶を入れてきます」
 そう言って花音は給湯室へと向かった。
「やれやれ……これから一体どうなることやら」
 それを知る者はだれもいないのである……


 ――鏖殺寺院

 メニエスが鏖殺寺院の幹部と会談していた。
「アレ、回収しないといけませんねえ」
「なかなか有効だったようだな」
「ええ。それだけに、あそこに放置しておくのは色々問題があると思いますわ。今は民衆も治療とやらで留守にしていますし、狙いどきだと思いますわ」
「そうだな。今のうちに回収しよう。進言に感謝する」
「いえいえ、当然のことよ」

 そして、鏖殺寺院の拠点跡にいつの間にか大きな空洞が出来ていた。