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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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第17章


   遙かな蒼空 その彼方
   何があなたの心を奪った?
   天の向こうにあなたは往く
   その思いは 私にさえも止められない
   ああ 流星が往く
   あなたの思いが 星になって――

「すまん」
 野武は燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)に声をかけた。
「――はい?」
「いい声だしいい歌だとは思うが、『流星』とか『星になって』とか歌詞が不吉過ぎる。今はちょっと止めてくれないか?」
「……はい。すみません」
 ザイエンデはしょんぼりしながらひな壇に座った。
「不吉、って言っても、ねぇ?」
 クド・ストレイフはちらりと野武を横目で見ながら溜息をついた。
「もう、こっちでできる事なんてないじゃないですか?」
「そうですわねぇ」
 リカインも溜息をついた。
 ふたりは今、欠伸をしながらキーボードをいじり、操作盤の液晶に出ている表をスクロールさせ、書かれている情報をダラダラ眺めていた。
 映っているのは、ハッキングでかっさらってきた迎撃衛星の情報だ。
「うわー、随分打ち上げたもんだねぇ」
「星の数ほどってのは誇張じゃなかったのですね」
「よくもこんなに……アレですかい? この仮想地球の中じゃ、『宇宙に行っちゃダメ、抜け駆け禁止』みたいな取り決めでもあったんですかねぇ?」
「ラビットホール建造と、仮想宇宙の作り込みでムカついた学生さんが好き勝手やりまくった、とは聞きましたが」
「あぁ、お兄さんはもうちょっと夢のある解釈を聞きたいんですがねぇ?」
「夢が無くて失礼しました……例えば?」
「例えば……そうですねぇ、この仮想地球には古代の高度な文明があって、その文明がどういう事情かで宇宙にこんな迎撃衛星をブチ上げて……」
「どういう事情で?」
「アレじゃないすか? 人類が宇宙に出ないように、出る気を起こさせないように、みたいな……ん?」
 不意にクドの手が止まった。
「どうしました?}
 怪訝な顔をするリカインに、クドはモニターの一隅を指さす。
 迎撃衛星群の.とある「統制担当」の個体。個体の備考欄には、「有事の際はBSKを解放」とのコメント。
「BSK――BerSerKer?」
 リカインがボソリと呟いた文言に、クドの顔が強張った。
「モルディブ上空、静止衛星軌道上に異常!」
 天貴彩羽の叫びに、管制室の空気が一気に緊張した。
「モルディブ上空の衛星が自壊、破片のひとつが高速で移動――信じられません! 初速で秒速196キロ!?」

 「OvAz」2号機では、索敵に「殺気看破」と「超感覚」を使っている。
 先日の第2フライトでは、大破する直前に全方位から大量の「気配」を感じたものだ。
 今日のフライトでももちろんそういう「気配」はあったが、密度は希釈されていた。
 されていたのだが――
 その時、「OvAz」2号機で「殺気看破」を使っていたセルフィーナと青白磁、「超感覚」を使っていた詩穂と美央とオルフェリアらは、明確な「殺気」「凶気」を感じた。
「詩穂!」
 青白磁に言われる前に、詩穂は人型となった「OvAz」の姿勢を変える。
 直前まで胴体があった位置を「何か」が走り抜けたのを感じた。
「! 何がいる!?」
「4号機です!」
 スピーカーから、彩羽が叫んだ。
「敵方の『OvAz』タイプです――現在探査船〈迷子ちゃん〉に向けて加速中! 速度は第3宇宙速度、太陽系脱出速度を既に突破! どこまで速くなるのッ!?」

「……参ったね」
 「OvAz」3号機の操縦室内で、正悟は嘆息した。
 地球の「夜」上空、高度3万9000キロ。時折推力をかけながら、高度と「夜」内の位置の維持に留意する。
 1号機の任務は、ステルス状態で大気圏を突破後、迎撃衛星の指令系統を寸断する事。
 2号機の任務は、先行して宇宙に上がり暴れる事で、迎撃衛星側の反応の偵察と、迎撃衛星側の注意をひきつけ、後続して宇宙に上がる機体の任務遂行及び、地上管制側の情報戦の補助を行う事。
 そして、「OvAz」3号機の任務は、〈迷子ちゃん〉の回収だ。
 フェライト塗装、「夜」の中での行動、こちらからの通信連絡禁止等、1号機同様のステルス運用に加え、如月正悟の「隠行の術」で隠密性をさらに高めて〈迷子ちゃん〉との合流を待つ。
 高められたステルスは、自分からバラそうとしない限りは見つかる事はほぼ有り得なかった。が、唯一の弱点が、回収のタイミングだった。
 〈迷子ちゃん〉回収時には、背部のペイロード部を開かなければならない。さすがに機体内部にはフェライトを塗ってはいなかったので、もしこの時に電波観測を受けると、位置が発覚してしまう可能性がある。
「迎撃衛星側の最後の守り手、ラスボス登場って感じかしらね?」
 四方天唯乃も溜息をついた。
「さっきから、私の『超感覚』がものすごいビリビリ来てるのよ」
「奇遇だな。俺の『禁猟区』もいい感じで仕事してるぜ」
 七尾蒼也が苦笑した。
「なかなか素敵な反応だ、普通の冒険だったら今すぐ尻尾まいて逃げたいくらいだ」