リアクション
13.スカウト連盟和風カフェ 「セルマ。これ正悟から預かってきたわよ」 スカウト連盟和風カフェにやってきた小早川真由美が、ブースの前で何やら中国古典 『老子道徳経』(ちゅうごくこてん・ろうしどうとくきょう)ともめているセルマ・アリス(せるま・ありす)に、何やら大きな紙づつみを手渡した。 「ありがたい。それを待ってたぜ」 セルマ・アリスが、早くそれをよこせと手をのばす。その姿は、短いスカートのメイド服姿だ。御丁寧に、頭はなんとかゴムで無理矢理縛ったという感じのツインテールとも言えないツインテールにされている。 「せっかくの私の見立てなんだから、いいじゃない。すっごくかわいいわよ。へたな女の子なんか目じゃないくらいよ」 セルマ・アリスにメイド服を無理矢理着せた張本人の中国古典『老子道徳経』が、自信をもてとばかりにセルマ・アリスに言った。 「俺は男だ!」 叫んでから、セルマ・アリスは、小早川真由美がつつみを突き出した格好のまま凍りついているのに気づいた。 「あ、真由美さん、これは気にしないで。それよく早くそのつつみを……」 ひったくるようにして小早川真由美からつつみを奪い取ると、セルマ・アリスはそれを開けた。中には、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の顔写真を立体加工して作った何とも面妖なお面が入っていた。被り物タイプのすっぽりと頭全体を覆う形になっている物だ。 セルマ・アリスは、素早くそれを頭に被った。 「ようし、これなら俺じゃない。俺は、高峰結和だ。さあ、宣伝に行こうぜ」 お面の下から、くぐもった声でセルマ・アリスが言った。 「えーっ、顔隠しちゃうの? せっかく可愛くできたのに。まっ、しかたないか。ここでぐずぐずしてたら日が暮れちゃうものね。さあ、宣伝に行こー。ボーイスカウトパラミタ連盟の和風カフェへぜひお越しください!」 何とも珍妙なセルマ・アリスを連れて、中国古典『老子道徳経』が会場内練り歩きの宣伝に出発した。 「ははははははは……」 高峰結和は、引きつった笑いをあげ続けることしかできなかった。できれば、いや、ぜひともお面はやめてほしかった。だが、ここでもめては、ブースのイメージが低下する。リーダーとして、それだけは避けなければならなかった。 「みなさん、コミュニティフェスティバル楽しんでらっしゃいますか〜? こちらボーイスカウトパラミタ連盟です〜。和風カフェをやっております♪ 最近は吹く風も冷たくなってきていますからねっ。あったかい大判焼きを食べながらホッと一息なんてどうでしょう♪ おすすめはギャンブル味です! 食べてみるまでどんな味か分からないのです〜」 普通にちゃんとパンフレットを配って呼び込みをしているアニエスカ・サイフィード(あにえすか・さいふぃーど)が、ものすごくまともに見える。そのそばでは、「スカウト連盟和風カフェ」と書かれた段ボール看板を首から提げた夕夜 御影(ゆうや・みかげ)が、道行く人に飛びついて客寄せをしていた。 「御主人も来てー! 一緒に大判焼き食べるにゃー♪」 「いや、うちは和風カフェであって、メイド喫茶ではないから……」 突っ込みを入れたいと、高峰結和が痛む額に手をあてた。しいて言えば、メイド喫茶ではなく、全員がお揃いのネッカチーフを首に巻いた、正統派ボーイスカウト・ガールスカウトカフェだと声を大にして言いたい。 「御影ちゃん、来たよー」 「わーい、本物の御主人様にゃー♪」 夕夜御影が、やってきたオルフェリア・クインレイナーに飛びついた。彼女の後ろからは、負けが込んで落ち込んで使い物にならなくなったため、おひまを出されたミリオン・アインカノックがとぼとぼとついてきている。 「でね、でね! 皆でお揃いのネッカチーフをつけるんだよ!」 「本当だ。可愛いわねー」 「早く大判焼き食べよー」 夕夜御影に手を引かれて、オルフェリア・クインレイナーたちはブースの中へと入っていった。 結構、和風カフェは人気のようだ。ひっきりなしにお客がやってくる。 「アニー、様子を見に来たよ」 「わーい、みんなありがとう。おすすめは大判焼きです。ぜひ食べていってね」 アニエスカ・サイフィードが、ぞろぞろとやってきた九条 イチル(くじょう・いちる)たちを出迎えて言った。 「うんうん、頑張ってるね。じゃ、そのおすすめをいただくとするか」 アニエスカ・サイフィードの頭をなでて褒めてあげると、九条イチルたちは高峰結和に案内されて中へと入っていった。 「こちらのお席なんだもん」 中では、和服を着たネコミミ姿のパルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)が北郷 鬱姫(きたごう・うつき)と一緒に、ゴットリープ・フリンガーと天津幻舟を空いている席へと案内していた。 「ああ、落ち着きますのじゃ。この落ち着いた雰囲気。西洋かぶれのちゃらちゃらとした喫茶店とは一線を画しておりますのう」 ブース内の装飾を見て、天津幻舟が和んでいる。 「ど、どうぞ、お、お、お座り、ください! にゃん!」 真っ赤な顔をした北郷鬱姫が、パルフェリア・シオットに言われたままに、無理矢理語尾ににゃんとつけながらゴットリープ・フリンガーの椅子を引いた。もともと接客など無理な性格なので、すでにいっぱいいっぱいを超えて、崩壊寸前だった。 「ここはボーイスカウトのブースらしいですが、基地とか本部とかあるんでしょうか?」 椅子に座ったゴットリープ・フリンガーが、普通に北郷鬱姫に訊ねた。 「ご、ごめんなさーい!!」 真っ赤になった北郷鬱姫が、脱兎のごとく逃げだしていく。 「あ、おい、ちょっと……」 残されたゴットリープ・フリンガーがあっけにとられた。 「御注文が決まりましたら、また呼んでなんだもん♪」 ニッコリと言うと、パルフェリア・シオットがパタパタと北郷鬱姫の後を追っていった。 「うにゃ〜」 厨房に、北郷鬱姫が逃げ込んでくる。厨房と言っても、テントの横においた屋台を、中から見えないように幌で隠したものだ。 「だめだよー、鬱姫〜」 続いて入ってきたパルフェリア・シオットが、楽しそうに北郷鬱姫を叱責した。 「どうした。何をやっているんだ?」 大判焼きの型にタネ生地を流し込みながら、フリルのついたピンクのエプロンを着けたホロケゥ・エエンレラ(ほろけぅ・ええんれら)が二人に訊ねた。 「もう嫌。代わって、ホロ」 「こんなむさいおっさんが注文とりもないだろうが。コミュのためにしっかり働けよ」 ホロケゥ・エエンレラに言われて、北郷鬱姫がシュンとなった。 「抹茶ラテ二つ、注文入りましたー。それから、大判焼き十個です」 混んできたので注文とりの応援に入った高峰結和が、厨房に飛び込んできて告げるとまたすぐに出ていく。 「おにーちゃん、教えてあげたとおりに抹茶ラテお願いだよ」 「おっ、おう……」 アリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)に言われて、大判焼きのタネをこねていた七尾 正光(ななお・まさみつ)がなんとか返事をする。生地を練ったりあんこを練ったり、朝から結構な重労働の連続だったので、さすがにバテ始めているようだ。 「頑張ってね、おにいちゃん」 アリア・シュクレールが、七尾正光にチュッと可愛くアリスキッスをする。 ――うおおおっ、みなぎってきやがったぁぁぁぁぁ!! 「うん、頑張るよ!」 七尾正光が一瞬で復活した。 「大判焼きも焼けたぜ」 単純なことだと心の中で微笑みながら、ステア・ロウ(すてあ・ろう)がホロケゥ・エエンレラと共に焼いた大判焼きをお皿にてんこ盛りにして持ってきた。 「はい、抹茶ラテも二つできあがり!」 アリア・シュクレールが作った抹茶に、七尾正光がミルクを注いで抹茶ラテを完成させる。 「ほら、ニーサンは早く結和さんを呼ばなきゃ」 ステア・ロウに言われて、七尾正光が急いで高峰結和を呼ぶ。 「はい、お待たせしましたー」 お皿にてんこ盛りになった大判焼きとカフェラテを、高峰結和が九条イチルたちのテーブルにおいた。 「来た来た。アニーのおすすめだから楽しみだなあ。何でもギャンブル味らしいけど」 大判焼きを見て、九条イチルが楽しげに言う。彼の足許には、雪だるま王国でもらった雪だるまの入った袋がおいてあった。 「ふっ、全種類制覇しちゃるで」 さっそく手をのばしたハイエル・アルカンジェリ(はいえる・あるかんじぇり)が、大判焼きにぱくついた。 「普通に粒餡やった」 「それは、あたりなのか、外れなのか」 意気込みが空回りしているハイエル・アルカンジェリに、抹茶ラテを飲んでいたファティマ・ツァイセル(ふぁてぃま・つぁいせる)が苦笑する。 「俺のはいちごジャムだった……」 別の大判焼きを食べた九条イチルが、内容報告をする。 「どうやら、本当に全部中身が違ってそうだね」 頑張って作ってるなあと、ファティマ・ツァイセルが変に感心してみせた。 「よし次や!」 あっと言う間にノーマル大判焼きを平らげたハイエル・アルカンジェリが、次の大判焼きを口に運んだ。 「うっ……、あかーーん! これあかーーーーん!」 だが、突然固まって、ハイエル・アルカンジェリが叫び声をあげる。いったい、中に何が入っていたのだろうか……。 「なんだか、運の悪い者もいるようなのだな」 まったりと紅茶ラテを飲みながら、透玻・クリステーゼが言った。 「ええ、私は普通にカスタードクリームでしたから。美味しいですよ、この大判焼き。それに、店内の雰囲気もいいですし」 もぐもぐと大判焼きを食べながら、璃央・スカイフェザーが店内を見回して言う。 「そうだな。葦原島の城下町にありそうな店なので、ずいぶんと落ち着けるのであろう」 「今度作る下宿も、こういった落ち着いた和風にしたいものですね」 「そうだな。参考にさせてもらうとしようではないか」 しっかりとメモをとりつつ、透玻・クリステーゼたちはくつろいでいった。 |
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