リアクション
17.天御柱学院 海洋生物学研究会 「これは、ほとんど水族館ですね」 海洋生物学研究会のブースを見た璃央・スカイフェザーが、好奇心に満ちた目で言った。 「水族館と言っても、これでは電子の水族館であるな」 透玻・クリステーゼの言葉どおりに、実際に水槽がならべられていて、水の中に生きた海洋生物がいるというわけではない。だいたい、ちゃんとした環境整備もできないこんな場所に持ってこられる生き物など限られている。 水槽の代わりにブースにならべられていた物は、多数のモニタだった。その画面の中に、様々な海洋生物が再現されていた。 「どうぞ、御覧になっていってください。そんじょそこらの水族館には負けませんよー」 エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)が、一所懸命呼び込みをしている。モニタ群の後ろでは、巨漢のラグナル・ロズブローク(らぐなる・ろずぶろーく)が、窮屈そうにパソコンでそれらのプログラムを管理していた。 もっとも、ほとんどの物は、CCDカメラやタッチセンサーつきのモニタで、前に人が立ったときや画面に触れたときに、オートで中の生き物たちが反応するようにプログラミングされている。彼がコントロールしているのは、この会場のメイン展示であるシャチのAI「ジャンゴ」君であった。 このAIは、有限会社オルカ・システムエンジニアリングス社長であるリーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)が開発したものだ。実際のシャチの反応パターンを解析して、人間とのコミュニケーションをとる研究のシミュレーションとして利用されている。 今回、それをちょっと改良して、営業部長に仕立てているのだった。 『キュウ、コンニチハ……』 「か、可愛いものであるな……」 画面の中で上半身だけ出してつぶらな目でこちらを見つめるジャンゴ君に、透玻・クリステーゼが思わず表情を崩した。 「ふむ、海洋研究ということは、いずれは海底基地などを作るということなのであろうな」 「いえ、主に生物の研究ですから、まだそこまでは……」 イーオン・アルカヌムの質問に、エルフリーデ・ロンメルがちょっと戸惑ったように答えた。 「なあに、研究成果でがっぽり稼いだら、三日月珊瑚礁基地だろうが、海底都市だろうが、うちの会社でおっ建ててやるぜ」 リーリヤ・サヴォスチヤノフは、結構やる気ではある。だが、それにはまだまだ環境が整ってはいないというところだろうか。 「これ、宙返りとかはできるのか?」 透玻・クリステーゼが、画面の中のジャンゴ君を見つめて訊ねた。 「もちろんできるぜ。ジャンゴ、ジャンプだ」 ラグナル・ロズブロークがマイクにむかってしゃべると、画面の中のシャチが大きくジャンプして一回転した。 おおと、観客たちから歓声と拍手があがった。 18.夢の跡 『会場整備の方々は、ブースの撤収と、役目を終えた展示を校庭中央へと移動するように各担当者に指示をしてください。あと少しで、ストームが始まります』 ノア・セイブレムの声で、場内放送が響いた。 「さあ、みんな、さっさと運ぶわよ」 撤収を終えた和風カフェの高峰結和たちが、お焚き上げ用の看板などをぞろぞろと運んでいく。 「ちょっとゾディ! アタシ部外者なのよぉ! ただ働きはイヤぁよ、後で美味しい屋台で御飯食べさせてちょうだい」 地面に散乱したBB弾を箒で掃き集めながら、ヴェルディー作曲レクイエムがアルテッツァ・ゾディアックに言った。 「はいはい、分かっていますよ。校庭でのお焚き上げの後で、出展者たちで余った食べ物で懇親会もするようですから楽しみにしていてください」 銃撃戦闘研究会ブースの後片づけに最後まで残っていた顧問のアルテッツァ・ゾディアックが、そうヴェルディー作曲レクイエムに言い聞かせる。 「おや、火がついたようですね」 夕焼けから星空に移る空の下、空京大学キャンパスの後者を赤々と照らし始めた炎に気づいて、アルテッツァ・ゾディアックが言った。 担当マスターより▼担当マスター 篠崎砂美 ▼マスターコメント
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