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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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第4章 昼の工房

 せっかくの休日……だからこそ、学校に残る者もいる。
 これは、そんな少女達の物語。。。

(うんうん、やっぱ一人で鍛冶の修行をするよりは大勢で競い合って修行した方が張り合いが出ていいわね!)

 黙々と、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は赤くなった鉄を打っていた。
 顔はもちろん、全身から汗が止まらない。

(あとほかの人と比べられていまの自分の力量がわかったり、自分の成長度合いもわかって助かるわ。
 私のそばにいつもいる人は『鍛冶の神』なのに鍛冶作業してるところなんて見かけないし!)

 それでも緋雨は、苦しいとかつらいとか、そんなことは思っていなかった。
 工房での修行許可が下りてからというもの、放課後や休日などの時間を見つけてはかよいつめている。

(千里の道も一歩から……例え困難な目標でも、日々の努力で叶えられると信じているから!)

 技術を磨き続けているのは、『ワンオブウェポン』作成に一歩でも近づくためなのだ。
 夢を現実にするため、妥協はしたくなかった。

(ふむふむ、緋雨は今日もがんばっておるのう、感心感心)
(あ、今日は来てる!
 しかもあんなすみっこに座って)

 ふと顔を上げると、天津 麻羅(あまつ・まら)の姿が眼に入る。
 緋雨と違い、麻羅が工房を訪れるのは完全なる気まぐれ。
 ふらっと立ち寄ったかと思えば、刀を鍛えるでもなく、すみっこで皆の鍛冶作業を眺めているのである。
 のんびりまったり、『鍛冶の神』はマイペースなのだ。

(修行すればするほど、技術は確実に身についていく……あとは目標に対してのやる気の問題じゃからのう)
(う〜んう〜ん、あの子ったらホントなに考えてるのかしら、やたらじじくさいし!)

 麻羅の心配は、緋雨にはつうじていなさそう。
 口には出さないけれども、苦言をつぶやいてみたり。

(まぁでもいまの私じゃ麻羅に師事されるようなレベルじゃないのはわかっているわ。
 いつか必ず麻羅の技術を盗めるほどに成長して、そしていつの日か麻羅に認められる日がくるのよ。
 そんな日が来るまで毎日毎日がんばらなくっちゃね♪)
(このまま精進していけばいつの日かワンオブウェポンに届くじゃろう……わしが、最高傑作である『天叢雲剣』を鍛えた頃のように)

 『鍛冶の神』の異名を持つ麻羅、実は『天叢雲剣』を鍛えた天目一箇神の分霊である。
 その人格は『天叢雲剣』を鍛え終わったのちの満足感や充実感を基礎に構成されているため、進んで鍛冶作業を行う気はなかなか起きない。
 ただ緋雨には自身の技術を伝えているし、必ずや目標を達成して欲しいとも考えていた。
 弟子想いの素晴らしい師匠と、がんばりやの弟子コンビだ。

「ほえ〜…………………………………………ZZZzzz……」
「命ったら、また寝ちゃってる」

 炉の前に座ったままで、火軻具土 命(ひのかぐつちの・みこと)は夢のなか。
 しかし、さすがは火の精霊である。
 命が腰を下ろした瞬間から、炉の温度が安定するのだ。
 そしてなにより、眠っている姿が可愛いときた!
 ほかの修行者から邪魔者あつかいされることもなく、いまでは工房のマスコットとして人気者になっている。

「ふふふ……さて、午後もはりきっていこ〜♪」

 自身の置かれた環境に満足し、感謝しつつ、緋雨は金槌を握り直したのであった。