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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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第7章 夕の城下

 朱に染まる大空は、1日の終わりが近いことを知らせてくれる。
 行きあたりばったりの散策も、そろそろ帰路につく者が現れていた。

「ん〜、城下町はとても楽しかったです。
 久しぶりにゆっくりとした時間を過ごせました!」
「そうか、よかった」
(いつも苦労かけてるし、あの事件のこともあったからな。
 ミーナにはぜひ楽しんで欲しかったんだ、葦原へ来てよかった)

 ハイナ達とわかれて、来た道を戻るミーナ・ナナティア(みーな・ななてぃあ)長原 淳二(ながはら・じゅんじ)
 今日はいろいろな店をまわり、葦原の文化や自然を堪能した。
 特に想い出深いのは、茶屋『四季の滝』である。
 『葦原大滝』を見ながらお茶を飲むことができる、ちょっとした観光スポットなのだ。

「写真もたくさん撮れたし、来られなかったみんなに見せてあげようかな」
「あ、あの写真は駄目ですよ……恥ずかしいですからっ!」

 件の写真とは、昼に立ち寄った呉服屋にてミーナが着物を試着したさいのもの。
 淳二のデジカメで撮影してもらったのだが……淳二以外の人には、見せてほしくない。
 複雑な乙女心である。

「分かったよ、そこまで言われちゃしょうがないからな」
「ありがとうございます」
「じゃあさ、ここでお土産でも買って帰ろうか」
「はい、なにか葦原らしいお菓子でもあればよいですね」

 ミーナのいやがることはできないと、淳二は申し出を承諾した。
 土産物屋『葦原の味』へと立ち寄って、『葦原島せんべい』と『葦原明倫館校章饅頭』を購入。
 前者は葦原島の形をしたせんべい、後者は校章をかたどった饅頭である。
 どちらも城下町限定の菓子で、淳二とミーナの希望にそったものだったのだ。

***

「……お互い苦労が絶えないね……女って強いよ、ホント」
「同感だ、勘弁して欲しいよな」

 団体の最後尾でこそこそと話すのは、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)と匡壱である。
 ほかの者、特に互いのパートナーには絶対に聞こえないよう注意しながら、愚痴をこぼし合っていた。
 匡壱の女難はご存じの方も多いと思うが、実は佑也も同類項。
 今日なんて、朝から振りまわされて大変だったのだ。

 〜回想はじまり〜

(本当は剣の稽古がしたかったんだけど……まあ、アイン達に頼まれたし、今日はつきあってやるか)
「私、葦原って初めてだからすごく楽しみでした!
 城下町って、人がいっぱいで、とても活気のある場所ですね!
 お店もいっぱいあって、どこから見に行けばいいか目移りしちゃいます!」
「葦原の文化というものを一度見たいと思っていたのですが、なかなか風情があっていいところですね」

 佑也の気持ちなどつゆ知らず、ラグナ アイン(らぐな・あいん)ラグナ ツヴァイ(らぐな・つう゛ぁい)はそれぞれの感想を述べる。
 蒼空学園やその周辺とは、なにもかもがまったく異なっているだろう。

「あっちの服屋さんにも行ってみたいし、こっちの装飾品店にも行ってみたいし!」
「あの和服なんか、姉上にとても似合いそうですし……はふぅ……」
「うーん……刀を置いてる店はあっても、銃とかはないのね。
 さすがブシドーの町、葦原」
「それは違うだろう」
「……え、なんか違う?
 細かいことはいいのよっ!」

 3人いれば、その関心もてんでばらばらなわけで。
 アインとツヴァイは衣類や装飾品、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)は武具類の店に興味を示している。
 つっこみを入れてきた佑也の背中を、恥ずかしさを隠すためにもばんばんとたたいた。

「……あれ?
 お店を巡ってるうちに、なんだか道に迷ってしまったみたいです……」
「あぁ、こうなるんじゃないかなとは思ってたけど、やっぱり道に迷っちゃったか」
「ん、どうしましたか兄者?
 え……道に迷った?
 すでに人生という名の道に迷っているではないですか、なにをいまさら……あ、違う?」
「ま、焦っても仕方ないし、少し休憩して落ち着きましょ」
「えーと……と、とりあえずここは一服いれて、落ち着きましょう!
 ちょうどそこにお団子屋さんもありますし!」
「姉上の言うとおりお団子屋で一息ついて、ついでに道を訊ねればよいではありませんか」
「「「すいませーん!」」」
「お団子くださーい!」
「あたしは、お茶を玉露でくださーい!」
「ボクには、三色団子とみたらし団子5本ずつください。
 代金はすべてこのメガネが払いまーす」
「アイン達が好き勝手動きまわるから速攻で道に迷った!
 しかも無遠慮に団子なんか頼んで……あれ、代金全部俺持ち?」
(ダメだコイツら……俺の財布が無残なことになる前になんとかしないと。
 あ、あそこに見えるのは匡壱くん達じゃないか!)
「おーい、助けてー!」

 迷子になっても、相変わらずマイペースな3人。
 1人てんぱる佑也の前に、しかし救いは現れた。

「お、佑也じゃないか、どうしたんだ?」
「匡壱、助けてくれ……道に迷っちゃってさ。
 あいつらがいろいろまわりたいみたいなんだけど、地理が分かんないうえに勝手にどっか行くし」
「じゃあ一緒に来ればいいぜ、俺達も今日は城下町を散策する予定なんだ」
「いいのか、助かった!」
「しかし……佑也はあんまり乗り気じゃない、よな?」
「そういう匡壱こそ。
 ちなみに俺は、剣の稽古をしたかったんだけど、アイツらに『どうしても城下町に行ってみたい』ってねだられてな」
「俺も、その場のノリで連れ出された感じだ」
「お互い苦労人だよなぁ……」
「……む、そちらのお侍さんは兄者の知り合いですかな?
 よろしければ一緒にお団子でも」
「遠慮しておくよ、あんまりゆっくりしているとみんなを見失っちまう」
「そうですか……せっかく兄者のおごりだというのに」
「……へぇ、ここってマホロバで有名なお団子屋さんの支店だったんですね。
 道理でお団子が美味しいはずですっ!
 佑也さん、いくつか買って帰ってもいいですか?」
(……あ、そうだ。
 いつもお世話になってるし、佑也にプレゼントでも買ってあげようかな?
 えーと、近くでよさ気なお店は……あ!
 あそこのお店によさそうなものが置いてるわね!)
「おまえら……ツヴァイもアインも、いま食べてるので最後!
 アルマは勝手に動かないっ!」

 どうにかこうにかパートナー達の暴走を止めて、佑也も匡壱達一行の仲間入りを果たしたのであった。

 〜回想おわり〜

***

「戦乱の世に突入したシャンバラ情勢をうけ、このたび、俺は闇の鍋奉行として総奉行ハイナさんに挑むことにしました。
 いわゆる下克上というヤツです……えっ、イルミン所属のくせになに言ってるんだ?
 あっはっはっはっ、そんな細かいこと、気にしたら負けですよw」

 朝、盛大なる独り言が、ひっそりとした店内へと響き渡る。
 ハイナが城下町へ散策へ出るという噂を聞きつけたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、城下町に闇鍋屋を開業。
 城下町の空き店舗を1日だけ借り切って、非公式に勝負を挑むつもりなのだ。

「これは絶好のチャンスですよ!
 闇鍋奉行の方が総奉行よりもすごいことを、世に知らしめてくれましょう!」

 ぐっと拳を握りしめて、クロセルは高笑いをするのであった。

「こんにちは〜クロセルさん主催の闇鍋ですか、久々な感じがしますね。
 以前の闇鍋ではいろいろと大変な目に、しかもたくさんの人と一緒に遭ってしまいましたが……それもいまではよい想い出です」
「クロセルの『闇鍋』という単語を聞いてから、どんなにこの日を待ったか……書物でしか読んだことがなかったから楽しみだったんだよね!
 セラが読んだ本だと、持ち寄った食材を入れて皆で楽しくつつくという魅力的なものだったんだ♪」
「このようにセラもとても興味を持っているようなので、今回も参加させていただきます!」

 開店準備をしていたところ、ルイ・フリード(るい・ふりーど)シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)が現れる。
 
「闇鍋といえど鍋物!
 鍋物といえばご飯はあった方がよいかと思いますので、闇鍋完成と同時に炊き上がるようがんばりますか!」
「お、いいですね〜お願いします」
「がんばれ〜あ、セラにもできることあったら言ってね〜♪」

 持参した葦原産のお米を炊くために、ルイは炊事場へ。
 クロセルとセラエノ断章からの応援を受けて早速、米をとぎ始める。
 ルイはもう1つ、白味噌も準備してきており、こちらはクロセルの手によって鍋の味の最終調整に使われることとなった。
 そうしているうちに、なにやら参加者が集まってきた模様。
 実はクロセル、つてをたどって『ハイナ総奉行と闇鍋する』噂を流しておいたのだ。

「闇鍋と言いましても、元はちゃんと食べられる食材を持ち寄る鍋物ですし、さすがにクロセルさんも以前のようなことは……」
「ルイ?」
「ま、それなりに人が集まってますしちゃんとしたお鍋になるでしょう!」

 米と水を入れたおかまを火にかけて、ふぅっと一息つくルイ。
 蘇るカオスな記憶に一時思考を止めるも、セラエノ断章の呼びかけに我をとり戻す。
 期待と不安を胸に……さぁて、あとはメインゲストを呼び込めるか否か。。。

「あれ?」

 店先では、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)がぼうぜんと立ちつくしていた。
 なにやら心配そうな表情で、幾度も闇鍋屋を覗き込んでいる。
 そこへ現れたのは。

「あ、あのっ!
 パートナーがここへ入って出てこないのです。
 なぜか私は入れませんし……誰か、助けていただけませんか!?」

 とおりかかったハイナ総奉行ご一行に、思わずミュリエルは泣きついた。
 それは、クロセルの待ち望んでいた瞬間でもあり。。。

「ハイナ総奉行!
 闇鍋での決闘を申し込みます!」
「ふん、闇鍋じゃと?
 妾がそんな怪しいものに手を出すわけなかろうて」
「おや、明倫館の総奉行たるお方が尻尾を巻いて逃げるというのですか?
 ではシャンバラ一の奉行の座は、この【闇鍋奉行】ことクロセル・ラインツァートがいただきますよ!?」
「おぬし、いい度胸でありんす!
 よかろう……この勝負、受けて立つ!」

 かくして、ハイナの参戦が決定した。
 店内ではすでに、クロセル以外の参加者12名が鍋を囲んで座っている。

「学生と言えば闇鍋、と相場が決まっているくらいにはメジャーな娯楽……娯楽?
 だけど、なんと言うか、ひどいことになる予感しかしねーんだよな。
 一応なんかあったときのために備えておくが……別にオレが食べないための言いわけじゃねーぞ?」

 ということで、救護班として日比谷 皐月(ひびや・さつき)が控えているのでご安心を。

「みんな、ハイナ総奉行が来てくれましたよ!」
「だーれだっ」
「ぐわっ!?」

 ハイナ総奉行がのれんをくぐった瞬間、皐月の両目が何者かによって覆われた。
 その正体は、雨宮 七日(あめみや・なのか)である。

「なっ、七日、なにするんだ!?」
「皐月は破廉恥ですから、あんな格好の女性を見ればなにかするかも知れませんしね」
「なんだそれ、いい加減なこと言うなよ!」
「ささ、ハイナ校長。
 あんなの放っておいてどうぞ」

 皐月を適当にあしらうと、七日はハイナの手をとってエスコート。
 座らせたのは『髑髏の御輿』、スケルトンが暴れ始る。

「きょぬー死すべし、です!」
「はかったでありんすか!?」
「ちっ、あと少しだったのに!」

 七日は、ハイナを闇鍋のなかへ落とすつもりだったのだ。
 しかしそこはさすが、ハイナ総奉行である。
 さっと飛び退き、難を逃れるのであった。

「あ、皆さん、ご飯炊き上がりましたのでどうぞ〜♪
 闇鍋の汁が残りましたら、白米を入れておじやにしちゃいますか?」

 闇鍋にしては比較的明るい照明は、誰でも自由にご飯やお茶をお代わりできるようにとの配慮。
 それにもしかしたら……食べたら明らかにやばいものとか、混ざっているかも知れないし。

「セラ、一度はしをつけたらちゃんと食べるのですよ〜」
「わ、分かった、けど……ねぇ。
 クロセル、この鍋なんだかうごめいてない??
 闇鍋って楽しいものじゃないの??
 この鍋なんだか命の危険を感じるよ!?」
「まぁ、闇鍋ですからこれくらいは。
 それに命の心配はしなくても大丈夫ですよ、前回も死人は出ていませんし」
「っく……本に騙されたぁ!
 でも、参加したからには最後までお勤め果たすよ!」

 壁に貼られた訓示を読み、セラエノ断章へと伝えるルイ。
 だがセラエノ断章は、それどころではなさそうで……クロセルにつめよっても不安は解消されなかった。

「よぉし、じゃあパルフェリアからいっちゃうよ!」

 誰よりも速く鍋に箸を入れたのは、パルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)である。
 ぐるぐると鍋を混ぜ、とりいだしたはいしづきに顔のあるキノコ。

「これはなにかな?」
「僕が持ってきた、なんかダンディでやたら喋るキノコですね」
「喋るの!?」
「えぇ……すごくおいしいって聴いたので、イルミンスールの森で拾ってきたのですよ。
 採ったときには『俺に惚れるなよ?』とか『これが男の生きざまだぜ!』とか、すごく渋い声で喋ってたのですけど。
 いまはあんまり喋らなくなっちゃいました」
(鮮度が落ちてもいけるのでしょうか……ちょっと不安ですねぇ)

 音井 博季(おとい・ひろき)の食材紹介に、パルフェリアは興味津々だ。
 しかし鮮度っていうか、ぐつぐつ煮たのだから死んでるんじゃ?

「なんか普通っぽくてよかった、いただきます!
 美味し〜い、ありがとう!」
「うん、僕も喜んでもらえて嬉しいです」

 パルフェリアの喜ぶ様子が、博季にとってはなにより嬉しい。
 あえてまともな食材を選んだのは、皆と楽しい想い出をつくりたかったからなのだ。
 自分の持ってきたもののせいで誰かが倒れたりしたら、本末転倒であるゆえに。

「パルフェリアさん、無事でなによりです。
 じゃあ改めて、食べる順番はパルフェリアさんから時計まわりってことにしましょう」
「あっ、はい、じゃあ次は私ですね」

 クロセルによるとり決めに従って、2番手は北郷 鬱姫(きたごう・うつき)となった。
 そろそろと箸を入れ、えいっとつかんだものは。。。

「シュールストレミングをひいたな、それは俺が入れたのだぞ!
 遠慮なく食べるといい。
 わざわざ地球からパラミタまで輸送してもらった一品なのだからな……くくく」
「い、いただきます」

 そうか……ありえないにおいがしていると思っていたが、この食材だったのか。
 ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)から、にやにやしながらの解説を聴いて。
 『世界一くさい』という異名を持つシュールストレミングを、鬱姫はおそるおそる口に含む。
 不味い、えぇとっても……そしてくさい。
 しかしながら鬱姫は、なんとか表情を変えずに食材を食べきった。
 口のなかがものすごくくさいし、吐く息も負けず劣らずくさいのだが、一口サイズだったことが唯一の救いであったろう。
 そんな調子で、皆は次々と具材を食していく。
 さてさて、この巨大鍋にはいったいどんな食材が入っているのだろうか。。。

 〜回想はじまり〜

「これはアレだね……微妙なものを入れるべきだよね!
 えっと……こんなこともあろうかと用意してあったコレを!!」
「オルフェ、お鍋ってつくったことないので、ネットで検索してきたんですよ☆
 闇のお鍋さんということで、黒いモノを集めてみました!
 亀の子せんべい、胡麻、黒砂糖、あんこ、昆布、ヒジキ、あとマジパンですっ!
 マジパンって初めて知ったのですが、ケーキの飾りなんですねー♪
 それでケーキの飾りを入れるのならケーキに必要なものも必要かと思いまして、こんなものも持ってきました!」
「ご、ご主人……!!
 さすがに粉モノはまずいんじゃないかと思うんだよ……」
「せっかくだし、これはこれでデザートを作りませんか?」
「そうですね、じゃあそうしますー♪」
「えっと、えっと、にゃーは魚とか持ってきたよー♪
 サケ、サンマ、アジ、ブリ、イカ、タコ、あとはね、ねぎと白菜と大根ー♪
 カツオも持ってきたから出汁はいい感じだよー♪
 あとね、あとね、キクラゲと麩!
 麩ってあんまり入れないからどんな風になるか楽しみだよね!」
「うんうん、どんなモノができかすごく楽しみなのですよー♪」」

 パルフェリアがとり出したのは、『カカオ成分99%なチョコレート』かける10枚。
 そのまま食べるのもためらわれるのに、鍋に入れるとかもってのほかですけどっ!?
 闇鍋だからこそ許されるのか……溶け出した漆黒と鳥の子色のマーブル模様が、まさに混沌を創出する。
 そこにだばだばと追加される、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)夕夜 御影(ゆうや・みかげ)の食材。
 魚ベースで甘めな味つけの鍋か……まだ、なんとか食べられそうなレベルかも。
 ちなみに御影が『粉モノ』と称した食材は、小麦粉、薄力粉、重曹、生クリーム、バニラエッセンス、ミントの6品目。
 あとちょっと材料を追加すれば純粋にケーキができると判断したクロセルによって、鍋入りは免れたのであった。

「えっと……自分の好きなものを入れればいいんだよね?
 これなら普通に食べれるものだし、出汁も出るし。
 普通すぎて、つまらないかもしれないけど……いいよね?」
「我の食材もしっかり出汁のとれるものばかりですよ。
 ただし適当につんできましたのでどんなキノコかは不明です……もしかしたらヤヴァいキノコも混じってるかも!?」

 続いて鍋の前に立つのは、鬱姫とネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)
 鬱姫は実家から贈られてきた利尻昆布を、ネームレスは大小さまざまのキノコ達を投入した。

「世界一まずいとされる飴と世界一くさいとされる食べ物……この至高と究極の融合がどう反応するのかわからんが、俺が箸でとらないかぎり大丈夫だろう」

 さらに2人の頭を飛び越えて、ジークフリートがサルミアッキとシュールストレミングを入れる。
 それぞれ、フィンランドとスウェーデンからの特注品だ。
 ただおそらく、サルミアッキは鍋のなかでとけてしまうだろう。
 ただでさえ不味い鍋が、さらに不味くなることうけあいである。
 
 〜回想おわり〜

「ふはははっ、闇鍋は最後まで立っていた者の勝利なのだろう?
 俺は負けはせんぞ!
 闇鍋の闇を喰らい、俺は闇鍋魔王になるのだっ!」

 満を持して、ジークフリートの番がまわってきた。
 つかみ上げたのは……黒い、は虫類。

「くくくwww
 魔王さん、俺が入れたトカゲをひいたな!
 ちゃんと食用の奴だから、安心して食べていいぜ!
 それとも、あれだけ大きなことを言っておいて残すかね?」
「せっかくの食材に失礼であるからな……残すことなどありえん。
 必ず最後まで食べきるのだっ!」
(ハイナやほかの者に俺の覚悟を見せてやるとしよう!)

 月代 由唯(つきしろ・ゆい)に挑発され、ジークフリートは気合いを入れ直す。
 なにはともあれ、鍋に入ってしまったからには食材なのだ。
 感謝の心を忘れることなく、完食を目指して口へ運ぶ。

「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」

 すべてを飲みこんだときには、皆からの感心の言葉や拍手が浴びせられた。
 鍋にかける情熱は、闇鍋魔王を名乗るに値するというわけか。

「くっ……そこに、鍋があるから、食べるのだ……意味などそれで充分!!」

 腹をくくったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、裏山で見つけた蜂の子入り蜂の巣をひきあてた。
 気合いの抜けぬうちにと、速攻で口につめこむ。
 セラの入れた食材だがこれもまた……正直、食べたくない。
 そういえばエヴァルトはもともと、和菓子を買うために城下町を訪れていたのに、なぜ闇鍋を。。。

 〜回想はじまり〜

「実はこれでも、日本、しかも結構な田舎で生まれ育った身。
 和菓子の類は大好きだ」
「私も、甘いものはとても美味しいので大好きです」

 ミュリエルを伴い、エヴァルトは和菓子の店を巡り歩いていた。

「どら焼きもいいし、おはぎも好きだし。
 あ、金平糖も食いたいな。
 すあまもあればなおよし」

 2人とも薄味が好きであり、エヴァルトはつぶあんよりこしあん派。
 ということで、試食をしたり店主と相談したりしながら、好みに合う和菓子を購入していく。
 満足するだけ買い込んで、荷物は2人で半分ずつ分担。
 そろそろ帰ろうかと来た道をもどっていたら、なぜか闇鍋屋にたどり着いてしまった……と。
 なにかに惹かれるように入店してしまったエヴァルトは、持っていた和菓子をすべて鍋に投入してしまっていた。

 〜回想おわり〜

「あ、なんだか口のなかでどしがたい動きがぁぁぁ、ぷちぃっと言ったぁ!?
 ……きゅ〜」
「セラ、よくがんばりました……残りは私が処理します!
 これもパートナーの務め!」
「あっ、セラちゃんとそれにルイも倒れちゃった!
 ひびやん、出番だぜ!」
「はいは〜い、じゃあこっちに寝かせてくれ!」
「ミストちゃんが入れたキノコを食べたみたいなんで、なにが悪かったのかさっぱりわかんねぇんだ。
 よろしくな!」

 セラエノ断章が言い残した言葉によれば、キノコが生きていたことになる。
 そんな物騒なものをよく食べきったなぁと、皆に感心されるルイ。
 さて2人は、奥の畳部屋に敷かれた、ふわふわの布団に寝かされた。
 原因不明ということもあり、まずは【キュアポイゾン】で浄化。
 続けて【ナーシング】を発動し、手厚い治療をおこなった。

「まったく無理しやがって……とりあえずお前ら、無事でいろよ?」
(問題にさえならなきゃ、それでいい。
 今日という日を皆で無事に過ごせるだけで、充分なんだ……)

 ルイとセラエノ断章の顔色がよくなったのを認め、肩の力を抜く皐月。
 寒くないように毛布をかけると、休憩室と居間の境界付近へと腰を下ろす。
 ギターを構えると、スキル【幸せの歌】で『幸せの感情を喚起させる曲』を演奏し始めた。
 混沌もまた、幸福を呼ぶための手段となるなら一興である。

「さぁて、それじゃそろそろ後片づけを始めましょうか」

 あらかたの食材を食べ尽くしたところで、クロセルが皆へ呼びかけた。
 鍋を炊事場へと運ぶのだが……あれ、やけに重い。
 残り汁を捨てて、鍋を覗いてみる。

「なんだ、なにか残ってる!?」
「ってまさか、人でありんすか!?」

 鍋底に転がっていたのは、翌桧 卯月(あすなろ・うづき)だった。
 魔鎧であるゆえに、2時間弱煮込まれていても生きていたという。
 だが、その状況が引き起こされた理由もなにもかも、誰にも分からない。
 あまりにも重くて固くて大きかったために、誰も箸ではとりきれなかったのだ。

「おっきいなぁ……いいなぁ……」
「くっ、来るな、近づくなでありんす!」

 食後、ハイナの胸を羨ましそうに眺める女性が1人。
 手をわさわさしながら寄ってくる鬱姫に、ハイナは異常な雰囲気を感じとる。
 ささっと入り口側へまわりこみ、店から退場するのだった。

「ハイナ総奉行、ありがとうございました〜!
 また機会があればよろしくお願いしますね〜!」
「あ、あぁ、またのう!」
「お帰り〜ってちょっと、待ってくださいよっ!」

 クロセルに見送られ、ハイナは葦原明倫館の方角へと走り去っていく。
 護衛にと残されていた匡壱が、全力で追いかけるのであった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅倉紀音

▼マスターコメント

お待たせいたしました、リアクションを公開させていただきます。
今回も予想外のアクションが多々あり、読んでいてとても面白かったです。
楽しんでいただければ幸いです、本当にありがとうございました。