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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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葦原明倫館の休日~真田佐保&ゲイル・フォード篇

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第6章 夕の裏山

 昼食休憩をとった湖の対岸には、うってかわって荒々しい風景が広がっている。
 大地の起伏が激しいうえに、大小の岩石がごろごろ……隠遁の訓練にはもってこいの場所だった。

「ゲイルはんの修行えらいもんやなぁ、さすが忍どすえ」
「忍の修行……なるほど」
「えぇ、ゲイルはがんばりやさんですから」

 くるりと湖を半周したところにござを敷き、房姫の淹れた茶を飲んでいた伊達 黒実(だて・くろざね)紅蓮 焔丸(ぐれんの・ほむらまる)
 岩から岩へと飛び移る素早さは、普段の諜報活動のたまものか。

「……なんや、ゲイルはんが修行するとこ見とったら、わても身体動かしたくなってきましたわ。
 邪魔にならん程度に、修行によせてもらいましょ」

 もとより修行好きな黒実は、ゲイルの修行風景に感化された模様。

「行ってきますわ……ゲイルは〜ん!」
「黒実、ぬけがけは許さぬ」

 湯飲みを置くと、房姫に挨拶をしてすっと立ち上がる。
 と、人型化した焔丸があとを追ってくるではないか。

「にしても……この山の地形、身を隠すにはうってつけの場所ぎょうさんありますなぁ」
「確かに、なかなか貴重な修行場であるかな」
「なぁ、ゲイルはん。
 わてとあんさんで隠れて、焔はんに見つからずに一本とりまへん?
 気配を消して相手に近づく訓練や、どうでっしゃろ?」
「うむ、面白そうですな。
 その勝負、受けて立ちましょう」
「……よかろう。
 討たれるより早に黒実、忍から一本とるまで」

 渋々ながら焔丸のうなずいたことを認め、黒実もゲイルも姿をくらませた。
 気配を消し、岩陰から様子を覗う。

(こないな修行ができるなんて楽しおすなぁ。
 ゲイルはんに負けんようわてもきばらんとあかへんなぁ)

 口許だけで笑み、黒実は神経を集中させた。
 たまに、ゲイルの微動が感じられる。
 位置は……焔丸を挟んで、反対側。

(行くでっ!)
「させぬわっ!」
「うしろががら空きゆえにっ!」
「くそっ!」

 黒実の一撃を躱す焔丸だが、背後にはゲイルが迫る。
 空中で身体をひねり、なんとか回避。
 攻撃に失敗した2人は、またすぐに姿を消した。

「ふむ、忍も黒実もなかなかやるな……面白い!」

 焔丸は再度、攻撃の瞬間に生まれる気配を読むため、気合いを集中させる。
 隠れたりはせず、ただ無心に、敵を迎え撃った。

***

「ふふ、やっぱあれやな。
 1人で修行もええけど、ゲイルはんみたいなお人と修行するんもいろいろ教えられますし、なにより楽しいどすなぁ」
「黒実に続き忍、貴公とも手合わせ願いたいものだ」

 対決は、黒実の勝利に終わる。
 最後にものを言ったのは、実戦経験の量だった。
 しかしながら黒実も焔丸も、ゲイルの実力を認めたよう。

「房姫はんたちもおるし、ほんまにええ1日や。
 ゲイルはん、今日はおおきに」
「我も、よい修行になった」

 礼儀正しく辞儀をして、黒実と焔丸はまた房姫のもとへと戻る。
 と、鋭い金属音が響き渡った。

「忍者というものには すこし前から興味をもっていました」
「何者っ!?」
「どんな訓練をおこなっているのか、どういった能力をもっているのか、そして……どの程度強いのか……ねえ?」

 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の『虚刀還襲斬星刀』は、ゲイルの喉まで数センチ。
 受け止めこそしたクナイの端が、軽く首に傷をつけていた。

「生半可な物理攻撃など 私には無意味ですよ?
 死体相手に毒を盛るなど、それは愚かな……」
「貴殿は……アンデッド、なのだな」

 そのまましばらくの力勝負、互いに後方へと大きく飛び退く。
 ゲイルも抜刀し、間合いを見計らうこと数秒。

「はっ!?」

 気づいたときには背後をとられており、振り向きざまに薙いだ太刀も躱されてしまう。
 神経を集中させるが、エッツェルは気配をすら読ませない。
 スピードも気配のコントロールも、もちろん攻撃力も、格段にエッツェルの方が上のようだ。
 幾度か技を放つも、エッツェルのスキル【痛みを知らぬ我が躯】の前には無力。
 そのうえ【冥府の瘴気】や【絶対闇黒領域】に【リジェネレーション】と、自身の体躯を護るスキルを活性化している。
 ゲイルの攻撃では、にわかにエッツェルを傷つけることかなわない。

「そろそろ終わりにしましょうか?」
「ぐっ!」
「這いよる混沌……ゲイルさん、楽しかったですよ」

 【地獄の天使】の効果による『腐肉の絡まった骨の翼』を拡げ、高く空へと舞い上がる。
 見下ろすゲイルめがけて【罪と死】を放出し、飛び去るエッツェル。
 残した台詞は衝撃音にかき消され、誰にも届かなかった。

***

「ほぅ、派手にやられたようだな」
「くっ……貴殿は……誰であるか?」
「そうだな……葦原の悪党、とでも名乗っておこうか」

 仰向けに倒れたままで、ゲイルは訊ねる。
 逆光でよく見えないが、視界を埋めるのは渋い男性……三道 六黒(みどう・むくろ)の顔だった。
 これまでことあるごとに葦原藩を敵にまわしてきた六黒だが、今回の用向きは少し違う。
 『努力する若者』の姿を眼にして、かつての記憶が、人の師匠であった頃の記憶が、蘇ってきたのだ。

「すまぬ、かたじけない」
「なに、ただの気まぐれよ……『絶対悪』なりの稽古のつけ方をしてやろう」

 ゲイルが立ち上がるのを助けた六黒……その顔から、笑みが消える。
 刹那、場の空気も一気に凍りついたよう。

「そういえば『悪人商会』の依頼に、房姫殺害も入っていたな。
 力なくした女一人、殺すのはつまらぬと放っておいたが……ちょうどよい理由を得た。
 若造、貴様の修行に1つ項目をつけ加えてやろう」
「まさか……」
「その女を護りきれ!」

 六黒の指す先には、不安気な表情の房姫の姿があった。
 速攻で【封印解凍】のうえ【アボミネーション】を発動し、ゲイルに畏怖を与える。
 
「歯をくいしばれ。
 これくらいで竦んでは、先が思いやられるぞ。」
「わてらも助太刀や、焔丸!」
「承知!」

 あまりにも唐突な戦闘開始に、地を蹴った黒実と焔丸。
 そう、ゲイルはエッツェルとの戦闘により、ぼろぼろの状態のままなのだ。

「まったく、ダンナの酔狂にはたまらんね。
 が、退屈だけはしねーから助かンよ!」
「くっ……邪魔するんかいな!」

 焔丸をまとった黒実の前に、羽皇 冴王(うおう・さおう)が立ちはだかる。
 双方ともが『碧血のカーマイン』を、それもほぼ同時に突きつけ、静止した。

「速いっ!?」
「得意のスピードがつうじない敵にはどうするのだ?」

 スピードにはそれなりの自信を持つゲイルだが、六黒も負けていない。
 【奈落の鉄鎖】および【勇士の鎖】発動、さらに『黒檀の砂時計』の効果も併せてゲイルを追いつめる。

「諜報を得意とするならば、見た目にだまされるな。
 でかければ遅いという先入観は貴様を殺すぞ」

 ゲイルの横に並ぶと、六黒は超近距離で『闇黒ギロチン』を振り下ろした。
 とっさに足を止め、その場に伏せるゲイル。
 大きく後退し、気配を消す。

「カカカッ」

 同じく六黒も移動をやめ、葬歌 狂骨(そうか・きょうこつ)を装着した。
 武器を肩に乗せ、360度をぐるりと見まわす。

「なんか面白そうなことやってんな、俺も混ぜてくれよ!」
「おっと、師匠はいま忙しいんだよ!
 俺が相手してやる!」
「よっし、んじゃあよろしくっ!」

 張りつめた空気のなか、どこからともなく三船 敬一(みふね・けいいち)が現れた。
 実はずっと、参戦の機会を覗っていたのである。
 思わぬ横やりに、それまで黙っていたドライア・ヴァンドレッド(どらいあ・ばんどれっど)が駆けつけた。
 六黒と敬一のあいだに割りこんでの宣言、即座に戦闘が開始される。

「そんな銃で俺とやり合うつもりかよ!?」
「たかがライフルと思うかも知れないが、銃剣による斬撃刺突、銃身を使った受け流し、銃床だって使い方によっては強力な打撃武器になるんだぜ?」

 ドライアの挑発にも、『三連回転式火縄銃』を構えたままで冷静に対応する敬一。
 ちなみに、敬一の目的は銃を使用した格闘術の修行であり、発砲することは考えていなかった。

(歩兵たる者、どんな状況でも戦闘が続けられなくてはいけないからな。
 銃を使用しているときに接近されてなにもできずに倒された……なんて、笑えない)
「いいね、いいな!
 やはり実戦に勝る修行はねぇよな!」
「隙ありっ!」
「ぁいてっ……くぅ〜っ、やっぱりいてぇーっ!」

 体勢をいろいろと研究しつつ、敬一は近接攻撃を繰り出していく。
 たいするドライアはというと、『ヌンチャク』をまわしながら【殺気看破】と【後の先】でカウンターを狙っていた。
 しかし、不用意に喋ったことで生まれた隙を敬一は逃さない。
 すかさず、【破邪の刃】をたたきこんだ。
 どうもクリーンヒットしたらしく、【心頭滅却】で我慢しようとするも耐えられないドライア。
 
「こ、こいよ……まだオレぁ戦えるぜ」
「よし、じゃあ遠慮なくいくぜ!」

 ふらふらしながらも、どうにか体勢を立て直す。
 がんばりに敬意を表して、敬一は倒れるまで戦おうと心に決めた。
 その背後で……樹上から、一閃。
 【先の先】でゲイルの動きを読んでいた六黒が、【鬼神力】および【遠当て】遠距離攻撃を放った。

「見え透いている。
 最後の手段と不用意に飛びこむな……さあ、つみだ!」
「カカカッ!」

 ゲイルの捨て身の攻撃も、【絶対闇黒領域】によって回避される。
 背後にまわられ、とどめの【面打ち】を喰らったゲイル。
 六黒の最終宣告と狂骨の唄が、戦場に響き渡った。

「くっ……待て、房姫は、やらせぬ……」
「安心しろ、ただの余興よ……悔しいか若造。
 護るべきものを護れず、情けまでかけられ……ならば強くなれ」
(おぬしに必要なのは明確な敵だ。
 漫然と修行するのではなく、明確な目的意識を持ち、せいぜい修行に励め)

 地に伏せるゲイルは、息も絶え絶えに六黒を呼ぶ。
 頭上から降る言葉にほっと胸をなで下ろすが、言われたとおりの悔しさもこみ上げてきた。
 ざっ……と、きびすを返した音が聞こえる。

「チッ、もう終わりかよ。
 じゃ、忍法土遁の術、なんてな。」

 黒実と対峙していた冴王だが、六黒の戦闘終了を受けて【破壊工作】発動。
 火薬で土砂を巻き上げると、ドライアを伴って姿をくらませる。
 残された面々は、急ぎゲイルのもとへと駆けるのであった。

***

「やわらかいところは優しく……あ、力入れすぎ……です」
「思ったより……やわらかいんだな」
「固くなってるところは……力を込めて……」
「下の方は……」
「い、痛い……そんな、舐めないでください……はずかしい……」
「仕方がないだろ、初めてなんだから……」

 落陽の朱に追われるように、裏山を下り始めた修行者達。
 だが、中腹の草陰から男女の妖しい声が聞こえてくる。

「おや?
 ゲイルさんに皆様、どうしましたか?
 鼻息荒いですよ?」
「な、なんだゲイル達か……」

 こっそり様子をうかがうと、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)と……熊。

「なにをしていたのであるかな?」
「ちょっと、熊の解体で指を切ってしまいまして。
 手当てをしてもらってました」
「いやな、ここで練習してたらラミタ熊と出くわしてな。
 ちょいと退治したんだが……さすがに放置するのもなんだし、と思ってさ。
 毛皮をはいで襟巻に、肉は熊鍋にしようかと解体してたんだよ」
「なるほど、それで熊が……」
「しかし、ゲイルは普通なのな」
「ほかの鼻息荒い方達は、会話だけ聞いて淫らなことをしてると思ったと……むっつりスケベさんですね」
「つか、お前ら……なにを想像したんだ?」
「優しくしてくれるって……言ってくれたのに……」
「灯も、なにしてるんだ」
「え、空気を読んでみました」

 ゲイルの問いかけに淡々と答える灯だが、牙竜ともども残念そうなのは気のせいだろうか。
 思いついたようにぽんっと両手を合わせると、両手で自分の体を抱きしめて、涙を眼に浮かべる灯。
 牙竜がツッコミを入れるよりも早く、不思議な魅力で何人かの男性陣をノックアウトしちゃったり。
 ちなみに……牙竜によると、熊との遭遇シーンはこ〜んな感じ。。。

 〜回想はじまり〜

「よっし、準備体操はこんなところだな!
 練習開始だぜ!」
「はい、よろしくお願いいたします」
「そうなんだよなぁ……灯と契約してから、まだ装備したことなかったんだよな」
「実はそうなんですよね」
「じゃあまずは決めポースの練習でも……ん?」
「がっ、牙竜、熊だわっ!」
「まさか、変身の練習中にパラミタ熊に襲われるとは!?
 灯、変身だ!」
「初装着ですね、気合いが入ります!」
「変身!
 ケンリュウガー!」

 説明しようっ!(ぇ
 ケンリュウガーが魔鎧を装備するタイムは、わずか0.05秒にすぎない。
 では、変身プロセスをもう一度見てみよう。
 変身カードを右手のリュウドライバーにセットすることにより、瞬時に魔鎧の姿と化した灯が牙竜へと装着されるのである!
 なお、灯は魔鎧になる瞬間、生まれたままの姿になる……だが0.05秒のなかの一瞬なので見られないっ!

 〜回想おわり〜

「と、変身して倒したんだ……OK?」

 一部まだどきどきしたままだが、牙竜の言葉に首を縦に振った。
 誤解もとけたところで、皆はともにふもとを目指す。

「皆様も修行でお腹減っているでしょう?
 早く戻って熊鍋を食べるとしましょう!」

 収穫は上々、今晩は巨大熊鍋で大宴会だ。
 楽しみすぎて灯は、誰よりも速く裏山を駆け下りていくのだった。