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リアクション
第18章 挑戦者の姿・8 環七東/24時半頃
“環七“東をタンデムで走っていた機晶バイクが、赤信号で止まる。
乗っているのはエルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)とサリー・クライン(さりー・くらいん)。エルフリーデの胸には、フラッシュメモリの姿の【戦術情報知性体】 死海のジャンゴ(せんじゅつじょうほうちせいたい・しかいのじゃんご)がぶら下がっていた。
「週末の環七はバイオレンスだって聞いていたけど、随分静かねぇ?」
エルフリーデが、フルフェイスヘルメットのバイザーを上げて周囲を見渡した。
エルフリーデの背中にしがみつきながら、サリーがふるふると首を振った。
「平和なのがいいの、みんなでぱらりらぱらりらとかケンカしたりなんかない方がいいんだよ」
「ま、良かったんじゃねーのか?」
死海のジャンゴが口を挟んだ。
「考えてみりゃあ、俺達の誰もが『探知系』や『危険察知系』のスキルを習得してないんだからな。知らない内に囲まれて、寄ってたかってボコられたりしちゃシャレにもならねぇ」
「うわぁぁあ〜!」
ジャンゴの台詞に、ますますしがみつくサリー。
「……あ、すみません」
エルフリーデは、すぐ隣で停まっていた軍用バイクに声をかけた。乗っていたのは「“環七“東部自警団」の腕章をつけたクロス・クロノスである。
「週末の“環七“って、こんなに静かでしたっけ?」
「あぁ、大捕物があったんですよ」
クロスは答えた。
「ちょっと離れた所に暴走グループさんの合同集会場があったんですけど、そこで騒ぎが起きまして。で、ロイヤルガードさんがやって来て一網打尽。あと、ついさっきも北方面で最大勢力が一斉にお縄についたみたいで……話が一気に広まって、今夜は皆さん“暴走(ハシリ)“を自粛してるみたいです」
「そんな事があったんですか」
クロスは頷いた。
「……ですが、北の方は最大勢力の残党狩りみたいな動きが、暴走族の皆さんの中にあるみたいです。そっちの方は、危険かも知れません――とは言え、その騒ぎが“環七“の道路まで及ぶ事はあまりないと思います」
信号が青に変わる。
クロスと一緒に、エルフリーデもバイクを進めた。
「私は北の方に急ぎますので、それじゃあ、気をつけて」
「はい。お仕事お疲れ様です」
クロスは速度を上げ、先行した。
「……まぁ平和ならそれに越した事はない、か」
気を取り直し、エルフリーデらは走り始める。
第19章 責任と代償と 環七北/25時頃
レジカウンターで宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は大きく欠伸をした。
“環七“北部の、とあるスーパーマーケット。ここ最近の暴走族騒ぎのおかげで、週末の客の入りは上がったりだ。
やる事がないので、責任者の目を盗んで携帯電話でニュースサイトを回ったりして時間を潰す。
その中で、“環七“の東と北で、警察による大規模な“暴走族狩り“が行われた事を知った。北については「ついさっき」と言ってもいい時間だ。
(これからはこのあたりも少しは静かになるかな?)
そう思っていた矢先、店先の駐車場で物凄い音がした。
──!?
控え室から飛び出してみると、駐車場でバイクが数台転倒しており、乗っていたと思われる白の“特攻服“を着た少年らが地面に転がっている。
そして、その後ろから木刀やらバットやらを構えたのがバイクに乗って追いかけてきて、転がってるバイクや人やらを殴ったり踏みつけたりしている。客はなく静かだっただけに、叫声喚声、そして悲鳴が店の中にまで聞こえてきた。
(……ええ加減にせぇよ?)
祥子は自分の担当のレジカウンターに「休止中」の札を置くと、ひとたび控え室に戻り、ロッカーの中から鞘入りの大剣を引っ張り出すと、駐車場に飛び出した。
「あんたたち! とっととここから出て行け!!」
がつん! と鞘の切っ先をアスファルトに叩きつける。
「何もしてない『ここにいること自体が迷惑行為』だって自覚なさい!お陰でお客さんこないじゃない! ココに乗り入れていいのは買い物客! 暴れたいならその辺の空き地に行きなさい!!」
スキル「警告」を使ったのだが、片方は袋叩きにされて「畏怖」するどころではなく、もう片方は頭に血が上って、人の話を聞くどころではない。
「うるせぇ、このアマ! ガタガタ抜かしてっとテメェから先に“躾(シメ)“んぞコラ!?」
「このチンケな店ごとクシャクシャにしてやんぞオラァ!?」
「あ゛あ゛!? やってみるか、このヌケサクがぁ!」
祥子は鞘入りの「レプリカ・ビックディッパー」を振るい、飛び出した
――数分後、駐車場には粉砕されたバイクの残骸が散らばり、それからこぼれたガソリンやオイルの臭いが立ちこめ、アスファルトの地面には全身に腫れとアザを負った“特攻服“姿の暴走少年達が転がっていた。
その正面に仁王立ちする祥子の口から、ドスの利いた声が漏れる
「正座」
「……ぐ……うぅ」「『ヒール』かけて……せめて医者か救急車……」
「正座ッつってんだろがぁッ!」
スキル「警告」を交えて怒鳴りつけると、傷だらけの少年達はヨロヨロと体を起こし、冷たくてゴツゴツして痛いアスファルトの上に正座した。
「お前ら、どんだけウチの店に迷惑かけてっか知ってるか!? ウチでこんな風にして暴れなくったってな、『夜が物騒で出歩けない、買い物できない』ってだけで被害が莫大なんだよ! なんなら数字出して、被害総額出してやろうか? で、損害賠償請求したっていいんだぞ?
分かるか? バイショーだよ、バイショー!! てめえらがやってる“恐喝(カツアゲ)“なんぞと違って、そいつは払いきるまで一生てめえらについてまわる“責任“ってやつなんだよ!
お前ら、万ゴルダ単位で『カネ払え』って言われて払えるか? 払えねぇよなぁ!
いいか、ガキども。お前らがバイク乗り回して暴れてられんのはな、世間様がビビってっからじゃねぇんだ。てめぇらが『ガキ』だから目こぼしして暴れさせてやってんだ! 本気になりゃあな、てめぇらのチャチな人生まるごとぶっ壊すなんざ簡単なんだ!
やらかしたら、必ず“ツケ“を払う! 払わなくても、世の中ァそいつを払わせにやって来る! そいつから逃げる事なんざこの世の誰にもできやしねぇッ! そいつが世の中の“掟(ルール)“だ! 分かってんのかコラァッ!」
「あの、祥子さん?」
「大体なぁっ、てめぇらは甘ったれて……あら、ロザリィ?」
後ろから声をかけられて、祥子は我に帰った。いつの間にか、ロザリンドがそこにいた。
「その、この子達、後は私が引き継ぎますんで、祥子さんはご自分の仕事に……」
「いや、私はもうちょっとこいつらに説教してやんないと」
「そのお説教なんですが……『警告』スキル使ってのお説教のせいで、その……付近住民から苦情が……」
「あ」
祥子の怒鳴り声は、夜の空京の空に響き渡っていた。付近の民家やマンションにもその声は届き、声に乗った「警告」の影響を受けた「非契約者」が次々と心身の不調を訴えているという。
(……やり過ぎた……)
「う、宇都宮さん」
肩を叩かれた。振り向くと、怯えた顔つきの店長がいた。
「ぼ、暴走族の相手、どうも、あ、ありがとう。つか、つかれただろう」
「いえ、それほどの事は……
「き、君、きょうは、あ、上がっていいから」
「……はい。すみません」