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空京暴走疾風録

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第22章 “醍堕郎子“ 環七北/27時半頃

 環七北方面のビル壁や塀に「“空狂沫怒参上“」とスプレー書きしていた高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、不意に手を止めた。
 イヤな気配を感じて「超感覚」を使ってみると、自分が10人以上の人間に囲まれているのが分かる。
「!」
 逃げ出そうとすると進路をふさがれ、腕を後ろに取られて押さえつけられてしまった。
「どこの者だ? 目的は?」
と問われて、悠司は、
「『南』の“醍堕郎子(ダイダロス)“
と答えた
 だが、相手の反応は「嘘をつけ」というものだった。
「俺達はお前なんか見た事がない」
(……ヤベェ、本物か!?)
 自分を押さえつけているのは本物の“醍堕郎子(ダイダロス)“らしい。悠司の顔に、腕を極められた痛みとは別の冷や汗を浮かべる。
「ここ最近、『北』に“醍堕郎子(ダイダロス)“の名を騙るヤツがいる、とは聞いていたが」
「どうやら“悪い子“はお前だったようだな……覚悟しろ」
 ――悠司の目的は、「北」と「南」を噛み合わせる事だった。
 その為に「北」の縄張りの中で、ことさら目立つように「南」の名前をあちこち書いたりしていたのだが――
(半殺しで済めばいいがな……)
 リンチが始まる、と悠司が覚悟した矢先、
「待った。『覚悟しろ』ってのはどういう事だ?」
という声が入った。
「『どういう事だ』、ってのはどういう事だ? フクロにするに決まってるじゃねえか?」
「おいおい。俺達は仮にも『契約者』だぜ? ちょっと本気出したら、フツーの人間なんざ簡単にお陀仏じゃねぇか?」
「何いってやがる。こいつだって『契約者』だろ?」
「『契約者』ったってピンキリよ。真っ正面からケンカ売らねぇで裏でコソコソやるチキンなんざ、『未契約』のがやる真似じゃねえか」
(何だこいつは?)
 悠司は、妙にこちらを擁護しようとする者の真意を図りかねた。
「で、『未契約』ならどうだってんだ?」
「ここはちっと大目に見て、フツーにお家に帰ってもらうのよ。こいつがイヤだって言ったって、ちゃんとオレが送り届けてやるぜ……例え引きずってでも、な」
「てめぇ……何勝手な事吹いて……」
「文句あるか?」
 声に、「警告」のスキルが乗っていた。
「……ふん、好きにしやがれ。ただ、『上』には伝えて置くからな」
「構わんさ」
 手首が縛られ、次は腕ごと体が縛られ、地面に引き倒された。悠司が顔を上げると、自分を縛っているロープの一端が小型飛空挺オイレにくくりつけられるのが見えた。
 人影がオイレにまたがり、鍵を捻る。オイレは悠司を地面に引きずるようにして移動を始めた。
 引きずられる痛みに、悠司は耐えた。袋叩きにされるよりは、遙かにマシだ。

 大分離れた所で、オイレは停まった。
 オイレの乗り手は悠司の縄を解くと、「ヒール」を施して回復させる。
「口きくぐらいできるだろう? 礼ぐらい言ってくれ。こっちはお前を助けたつもりだぜ?」
 そう悠司に言ってきたのは、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)だ。
 が、悠司は礼の代わりに、
「どういうつもりだ?」
と訊ねる。
「袋叩きは趣味じゃない」
「……そちらさんのお心ひとつで助けていただいたわけですか。へぇへぇ、ありがとうございました」
「へぇへぇどういたしまして」
 全く誠意のこもってない謝辞に、全く誠意のこもってない返礼をするアストライト。
「ちょっとでもありがたいと思ってるんなら、しばらく空京には、何より環七には近づくんじゃねぇぞ。『南』の“醍堕郎子(ダイダロス)“ってのは、ただバイクで突っ走ったり“環七“でお山の大将狙ってるだけの“暴走族(チーム)“じゃない」
「……じゃあ、何だってんだ?」
「分からん。だが、迂闊に近づいたら今度は袋叩きや半殺し程度じゃ済まない」
「あんた……“醍堕郎子(ダイダロス)“のメンバーじゃないのか?」
「もちろんメンバーさ。ちょっと色々知りたがりの、な」