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【カナン再生記】襲い来る軍団

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【カナン再生記】襲い来る軍団

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 足止めされているイノシシとそれより後方をうろついているイノシシを空飛ぶ箒に乗り、空から確認した芦原 郁乃(あはら・いくの)は、彼らが通りそうなルートを考えた。
 そして、ここだと考えたところに、降りていく。
 彼女のパートナー、秋月 桃花(あきづき・とうか)は、そんな彼女を守るため、着いていった。
 まず仕掛けるのは、足元。建物の瓦礫にロープの端を固定して、通りを渡すと、反対側の瓦礫にロープの端をまた固定する。
 簡単なスネアトラップであるが、真っ直ぐ進むだけ、建物に当たらないと止まることの出来ないイノシシには、効果ありそうだ。
 1体でも引っかかることがあれば、その後方から続くイノシシは将棋倒しで次々と倒れていくはずである。
 更に、ロープを跨いでしまったときのことも考えて、いくつかの落とし穴も掘ると、箒に乗ると、イノシシへと近付いていった。
 桃花は白馬に乗り、地を駆け、着いていく。
 1頭の目の前まで来ると、鼻先を掠めるように飛び、郁乃は注意を惹いた。
 イノシシは火炎弾を吐き出して、鼻先の邪魔者を追い払おうとする。
 それを避けながら、郁乃が少し進むと、イノシシは何度か火炎弾を飛ばすものの悉く交わしていく彼女に苛立ちを覚えたか、突進してきた。
 追いつかれないよう郁乃はスピードを上げ、トラップを仕掛けた通りへと向かう。
(それにしても……自分より力弱き相手に暴力を振るい、力を誇るなど到底許すことはできません。こういう相手に手加減するつもりは毛頭ありませんから、覚悟なさいませネ)
 白馬に乗ったまま、箒の下を駆けながら、桃花は思う。
 先にスネアトラップ――通りに張ったロープが見えると、彼女は白馬をジャンプさせた。
 そのジャンプの意味をイノシシは知ることなく、ロープに向けて、突進していく。
 ロープに足を引っ掛け、躓き倒れるイノシシを箒の上から見た郁乃は作戦が成功したことに喜んだ。
 そして、倒れてしまったイノシシの後は他の学生に任せることにして、他のイノシシを落とし穴などに嵌らせるために探しに向かう。

 小型飛空艇オイレに乗ったレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)は、上空からイノシシの群れへの接近を試みた。
 最も奥のイノシシの背に、人影が見えたけれど、自分の手には負いかねる強敵だと判断した彼は、先ずは周りのイノシシから倒していこうと、まだ足止めされていない1体のイノシシへと目をつけ、その鼻先に向かって飛んでいく。
 讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)は、レイチェルが1体のイノシシに狙いを定めたことを確認すると、そのイノシシと併走できるよう、近付いていった。
「顕仁、荒っぽくてもいいけど、安全運転で頼むよ。相対速度がなるべくゼロに近づくように……僕の射撃がなるべく上手くいくようによろしく頼むね」
 彼の駆るスパイクバイクの後部座席に座ったフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が声を掛けた。
「分かっておる」
 頷くものの、暴走しかねない彼の様子に、フランツは不安を覚えた。
 イノシシの鼻先に向かったレイチェルが小型飛空艇オイレを駆り、イノシシの注意を惹く。
 火炎弾を吐き出し、打ち落とそうとするイノシシであるが、レイチェルはギリギリのところで交わしたりなどして、早々打ち落とされることはない。
 それならばと、イノシシは何度か足元の砂をかくと、走り出した。
 隣をスパイクバイクが併走する。
 後部座席からフランツはパワードレーザーを構え、狙いをつけると、脚を狙って引鉄を引いた。
 発射されたレーザーがイノシシの脚を貫き、よろめくもまだ走りは止まらない。
 突撃してくるイノシシを大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は僅かに身体を動かすことで避けながら、すれ違い様に手にした強化型光条兵器――ルミナストンファーで、イノシシの脚に打撃を与えていく。
 脚に痛みを覚えて、スピードを落としながら、それでも何かにぶつかるまで止まることのないイノシシの進行方向に、レイチェルは光条兵器で大剣を作り出すと、地面へと突き立てた。
 突然現れた大剣にイノシシはぶつかり、足を止める。砂に立てられた大剣も倒れた。
「手伝うよ!」
 立ち上がるイノシシに再び立ち向かう泰輔の後方へと近付いた那那珂 那那珂(くになか・ななか)は声を掛ける。
 エンシャントワンドを掲げ、火を呼び出すと、イノシシに向かって、放った。
 火はイノシシの背へと当たると、毛や肉を焦がしていく。
 痛みを与えたことに喜んだ那那珂は不意に、身に迫る危険を感じて顔を上げた。
 イノシシが彼女に向かって火炎弾を吐き出したのだ。
 直撃しそうになるところを反射的に身体を動かし、避ける。完全に避けれたわけではないけれど、直撃していれば、重傷であっただろうところ、掠り傷と小さな火傷を負うくらいの軽傷で済んだ。
 避けることで崩れた体勢を立て直した那那珂は、再び、泰輔たちの後方から、火を用いてイノシシへと放ち、僅かずつながら、与える痛みを積み重ねていく。
 幾度と無く火を放っていれば、己の限界も近付くもので、那那珂は文献で見た大技を繰り出そうと試みた。
 掲げたエンシャントワンドに集中し、力を集めていくものの、己に見合わぬ力は纏まることなく、それまで放っていた火と同様のものが放たれる。
 それと共に、力尽き、那那珂はその場に倒れた。

「マスターお腹減ったよ〜」
 小型飛空艇オイレに乗り、パートナーの椿 椎名(つばき・しいな)や仲間たちと探索をしていたソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)が空腹を告げた。
「なんだソーマ腹減ったのか?」
 隣で小型飛空艇ヘリファルテに乗る椎名が首を巡らせ、辺りを確認する。
「おっ、イノシシがいるぞ。ちょうどいいあれにしよう……てかデカ!」
 先の方にイノシシを見つけたはいいものの、その隣にある崩れた家の残骸と比較して驚きの声を上げる。
「わーい、猪鍋だ〜」
 大きさなど気にせずに、ソーマは喜び、近付いていくと、持っていたロケット花火をイノシシの頭上に打ち上げた。
「おっきいのいっくよ〜! どっか〜ん!」
 彼女の言うとおり、大きな音がして、イノシシは驚き、駆け出した。
「……来るよ」
 椿 アイン(つばき・あいん)がぽつりと呟き、駆けてくるイノシシに向かって、どこか薄気味の悪い拳銃――禍心のカーマインを構えた。
 イノシシの目に狙いを定めると、引鉄にかけた指に力を込める。
 発射された弾丸は、やや狙いからずれるものの、目の下に当たって痛みを与えた。
「――ッ!」
 痛みを受けながらも足を止めず、突進してくるイノシシの前に立った椎名は龍骨の剣を構えながら、獣特有の感覚を研ぎ澄ませる。
 漆黒の狼の耳と尻尾が生える。
 突進してくるイノシシを交わし、構えた龍骨の剣で脚を斬りつけた。
「あわわーこっちくんな〜」
 傷ついた脚を庇うようにしつつもまだ走っているイノシシがソーマへと向かえば、彼女はもう1つ持っていたロケット花火を放ち、小型飛空艇オイレを上昇させる。
 再び音に驚いたイノシシは、目の前に迫った建物にぶつかって足を止めた。
 ぶつかったくらいでは倒れることのないイノシシは、ゆっくりとその巨体を持ち上げ、振り向くと、椎名やアインを見据えた。
「オーナー……猪鍋って言ってる場合じゃあ……」
 その渋とさに、ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)は心を落ち着けることが出来ず、そう口にする。
「いいや、絶対、猪鍋にするぜ!」
 ナギの言葉に反して、椎名は決意を口にすると、龍骨の剣を構えた。
「椎名さん……猪鍋楽しみです。お手伝いします」
 アインも猪鍋には乗り気のようで、禍心のカーマインを構えると、突進しようと足元の砂をかいているイノシシに向けて、狙いを定める。
「ウオオオオオオオオオ」
 気合を入れるように、椎名は吠える。
「ワオオオオオオ」
 ソーマも一緒になって吠えた。
 それを合図にしたかのように駆け出すイノシシに、椎名が構えた龍骨の剣で斬りつけ、アインも禍心のカーマインの引鉄を引く。
 何を告げても引き下がることはないだろうと確信したナギは、ヒートマチェットを構え、いざというときに備えた。
 脚を斬りつけられ、目元を打ち抜かれてもまだ走るイノシシの目の前に小さな光が現れたかと思うと、目映い光となり、イノシシの目を眩ませた。
 突然の光に驚いたイノシシはよろめき、通りの脇の瓦礫にぶつかって転ぶ。
 再び立ち上がったイノシシはゆっくりと首を巡らせ、己を驚かせた相手を探した。
「こっちです!」
 それを見て、声を上げたのは笹野 朔夜(ささの・さくや)だ。
 声の方を見るイノシシが動き出さないうちにと、彼のパートナーの笹野 冬月(ささの・ふゆつき)は、高速ダッシュでイノシシへと近付く。
 スピードの出しすぎで対象の向こうの建物の残骸にぶつかりそうになってしまったが、すぐさま体勢を立て直すと、彼は構えた翼の剣から、轟雷を放った。
「冬月さん。殺めてしまうつもりはないのですからね」
「元々丈夫なモンスターだ。これくらいで死にはしないだろう」
 朔夜が上げる声に、冬月は答える。
 放たれた轟雷はイノシシの身体を駆け巡るが、気絶するほどではないようだ。
「――ッ!」
 1つ吼え、大きく息を吸い込んだ後、火炎弾を2人に向けて、吐き出してくる。
「簡単には受けませんよ!」
 火炎弾を避けながら、朔夜が駆け出す。
 イノシシもそれを追い、駆け出した。
 ギリギリまで建物の残骸の傍まで駆け寄った朔夜は、高速ダッシュで横に避けた。
 追いかけていたイノシシは急に方向転換など出来るはずもなく、残骸に当たってしまう。
 なかなか立ち上がらないイノシシに、朔夜が様子を窺えば、ぶつかった衝撃で意識を失ってしまったようだ。
 狙い通りだと朔夜は思いながら、冬月と共に、他のイノシシも同じように気絶させようとその場を離れていく。

 小型飛空艇オイレの乗って、跡地の上空を飛ぶ氷室 カイ(ひむろ・かい)は、埋もれた建物の中でも最も高い建物を見つけて、その屋根に降りた。
 身を潜めながら、眼下を覗く。
 村のメインであっただろう広めの通りにも面していて、見晴らしは良く、あちこちにイノシシの足止めをするべく立ち向かう仲間たちの姿が見える。
「前線で武器で切りつけるだけが戦闘じゃないさ」
 呟いたカイはスナイパーライフルを構えると、既に足止めされているイノシシに狙いを定めた。
 まず、狙いを定めたのはその脚だ。
 機動力を奪えば、倒しやすいだろう。
 引鉄を引く。
 放たれた弾丸は距離があるとは思えないほど、正確に、イノシシの脚を貫いた。
 脚を貫かれたイノシシはよろめき、バランスを崩す。
 周りで足止めしている学生たちの攻撃もあって、イノシシが完全に倒れるのを見届けたカイは、次に目に留めたのは牙だ。
 長く鋭い牙は、突進することがなくても首を動かせば、容易に人を突くことが出来る。
 その戦闘力を削ぐのだ。
 再び、狙いを定めたカイはゆっくりと引鉄を引いた。
 弾丸は牙へと向かうが、それは硬く、埋め込まれただけだ。
 けれど、それだけで諦めるわけはなく、カイは何度も仕掛けた。
 次々と撃ち抜かれ、徐々にヒビの入っていった牙が、何度目かに放たれた弾丸により折れた。