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新春ペットレース

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「えっ、メールですか? ちょっとお願いしますわ」
 鞄の中の小人さんにツンツンつつかれて、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が頼んだ。なにしろグルグル巻きにされているので、身動きがとれない。そのため、細々とした身の回りの世話は、鞄からでてきた小人さんに頼んでいるのだった。
 よいしょっと携帯電話を取り出した小人さんが、よじよじとエリシア・ボックの身体をよじ登ると、肩の上から携帯電話を掲げ持った。なんとか首をよじって、エリシア・ボックがその画面を見る。
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)がそばにいればこんな苦労はしなくてもすむのだが、彼女はすでにゴーレムのフォルテシモのそばに行ってしまっていた。
「あら、陽太からですわね。なになに、ちょっと見にくいですわよ」
 視野角の関係でうまく画面が見えなくて、エリシア・ボックが小人さんに角度を変えるように頼んだ。
「ええと、……でレースを……見てます。フォルテシモを……応援……してます……かしら。まったく、どこで中継を見てるのかしら」
 影野 陽太(かげの・ようた)からの応援メールらしいが、まったくどこから発信しているのだろうか。おそらく、一番いたい所にいるのだろう。それは彼にとっては幸せなのだから、エリシア・ボックたちにとっては放っておくに限る。
「もちろん、上位を目指しますわ。わたくしのフォルテシモは一番ですもの」
 とりあえずメールを打ち返せないので、そう口で言うエリシア・ボックであった。
 
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「えっ、罠があるの!?」
 聞いてないよーっと、荀 灌(じゅん・かん)が、スタート地点にいる芦原 郁乃(あはら・いくの)に携帯電話で聞き返した。
『大丈夫、荀灌のペットってわたげうさぎでしょ。なんとかマイペースで進んでくれるよ。私もついていくから心配しないで』
「うん。ゴールで待ってるね」
 循環は、そう電話のむこうの芦原郁乃に答えた。
 
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「頼んだよミィちゃん、信じてるからね」
 椅子に縛りつけられてスタンバイしている神和 綺人(かんなぎ・あやと)が、使い魔の包帯猫に呼びかけた。
「大丈夫ですよね。ミィちゃんは、きっとゴールしてくれますよね。もし、ゴールできなかったら……ライトブリンガーで攻撃ですから」
 ニッコリと怖いことを言うクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)に、ミィがみぎゃぁっと怯えて神和 瀬織(かんなぎ・せお)の腕の中に逃げ込んだ。
「よしよし。頑張って、ゴールしましょうね。そうでないと、綺人が罰ゲームを受けてしまいますから。それ以前に、あなたの身が危ないですよー」
「こら、瀬織も脅すのはやめろ。クリスもクリスだ。ライトブリンガーなんて使ってどうする」
 さすがに、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が二人をたしなめた。
「あら、本当にライトブリンガーを使う気なんてありませんよ」
「口でそんなこと言っても、目が輝いてるじゃないか。とりあえず、これは預かっておく」
 そうクリス・ローゼンに言うと、ユーリ・ウィルトゥスはその手から龍骨の剣を取りあげた。
「まだ素手でも危ない気もしますが……」
 神和瀬織が、クリス・ローゼンも神和綺人と一緒に縛っておいた方がいいのではと言う顔をしたが、そんなことをして暴れだされても困ると思いなおした。
「とにかく、去年に続いての連勝、頑張ってくださいね」
 神和瀬織は、そう言うとミィをスタート地点まで連れていった。
 
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「ふふふふ、ついに特訓の成果を発揮するときが来た。リベンジだぜ!」
 夢野 久(ゆめの・ひさし)が、両腕でパラミタ猪の右介左介の太い首をかかえながら勝ち誇った。
「ちょっと、特訓ってあれよね、危険があると分かったら半径数キロ以内に近寄らないとか、片方が罠にかかったらその罠に攻撃するという、レースにとっては何の意味もない、というか、レースを放棄しかねないっていう特訓よねえ」
 ルルール・ルルルルル(るるーる・るるるるる)が頭をかかえた。何かをしているとは知っていたが、まさかこのレースのためだったとは。コースから遥か離れてしまったり、いつまでも罠だけを攻撃し続けたりしていたのでは、勝てる戦いも勝てなくなってしまうではないか。まったく、成長という言葉は、どこに転がっているのだろうか。
「いや、二匹はちゃんと成長した!」
 夢野久作が力説する。
 とすると、成長していないのか彼の方なのだろうか。
「とにかく、フォローはするつもりだけど……。はあ」
 思わず溜め息をつくと、ルルール・ルルルルルは、後で墨を拭くためのぞうきんと水を探し始めた。
 
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「待っておったぞ! この日が来るのをっ!!」
 ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)が、思いっきり力を込めて言った。
「ちょっと、力を入れすぎじゃないですか」
 心配して、月詠 司(つくよみ・つかさ)が言う。
「何を言うか。これでも我はちゃんと前回の問題点を反省したのじゃ。よいか、ずばり、問題はゴールまでにかかった時間、すなわち、二匹の走力不足じゃ! それを補うために、あの日以来、来る日も来る日もとにかく走り込みの特訓を密かにしておいたのじゃ!」
「特訓ってなあ」
 月詠司が軽く天を仰いだ。
 ウォーデン・オーディルーロキの特訓とは、ペットのゲリフレキの餌を制限して、ゴール近くで月詠司が用意した餌めがけて脇目もふらせず走らせるというものだ。わざと食事を抜いて、用意した餌めがけてまっしぐらに走るということを何度も繰り返して覚え込ませていた。
 だが、そもそも食事を抜いている狼たちがまともに走る力が残っているのかという問題と、用意した餌に飛びついてレースその物を忘れてしまうのではないのかという心配があるのだが。
「なあに、大丈夫じゃ」
 ウォーデン・オーディルーロキはそう自信をもっているが、はたしてどうなることやら。