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新春ペットレース

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新春ペットレース

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「クク……ククク……頑張って……ください……ね? ……ヨルムー」
 ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が、大きな毒蛇をなでなでしながら言った。
 本人曰く、障気を纏っているのだということだが、アストラル体が安定しないせいか、いつもゆらゆらとした影のような物をまとわりつかせているネームレス・ミスト同様に、この毒蛇も障気が蛇の形を成したものだという。実際にそうなのかは別として、ちょっとはた迷惑であることは確かだ。
 
    ★    ★    ★
 
うたまる、ファイトぉ!」
 「優勝」と書かれた鉢巻きを頭に巻いたユベール トゥーナ(ゆべーる・とぅーな)が、元気よく腕を突きあげて叫んだ。
「ほら、鴉もやる!」
「がーんばーれー、おー……」
 度津に気の抜けた声で、夜月 鴉(やづき・からす)が繰り返す。
「気合いが足りないよ!」
 ユベール・トゥーナに叱咤されて、夜月鴉が溜め息をついた。なんで、ここまで優勝する気満々なんだ……。
「さあ、応援するよ。フレー、フレー、う・た・ま・る!」
「ふれ〜、ふれ〜」
 レースが始まる前から、すでに疲れ果ててしまっている夜月鴉であった。
 
 

罠設置

 
 
「シルヴィットがここで牙城を築く……のですよ! さあ、ルナちゃん、やっちゃって」
「了解であります!」
 シルヴィット・ソレスターに言われて、ルナール・フラームが、44地点に、ドンとコタツをおいた。
「わーい、ミーツェさんすごい寒かったのですー。ぬっくぬくですー」
 すかさずミーツェ・ヴァイトリングがコタツの中に首までずっぽりと滑り込む。
「このように、誰でもおこたの誘惑には逆らえないのですよ。これでみんなを足止めですよ!」
「ガンバルであります」
「ぬくぬく♪」
 
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「くっ、またしても俺様を差しおいてペットレースとは! どうやら、この俺様が、真のNo.1ペットに必要なものが何かを、こってりと教えてやる必要があるようだな。確かに、速さや賢さを競うのもよいだろう……。だが、真に良いペットなら良き心も備わってなければダメだ! 俺様の完璧な演技で罠をかけ、それを説いてやるぜ! 行くぜみんな!」
 ヤンキーと事務員を二人ずつ引き連れて、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が46地点へとむかった。何やら小芝居を仕掛けるようである。
 
    ★    ★    ★
 
「ふっ、これだけ広い範囲に粘着シートを広げれば、みんなバタバタと引っかかってくれることでしょう」
 49地点に何枚もの粘着シートを広げながら、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がほくそ笑んだ。
 そのすぐ隣の50地点では、クロセル・ラインツァートが、ドボドボと2020年お歳暮サラダ油を容赦なく道路にばらまいていた。
「前回は自分まで凍りついて酷い目に遭いましたが、今回はこれですべってもらいましょう」
 今回は、自滅はしないと誓うクロセル・ラインツァートであった。
 
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「さあ、美味しいペットフードですぅ。みんな、寄っていくですぅ」
 88地点の道端に敷いたピクニックシートの上に、様々なペットフードをならべて、レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)がお店の呼び込みよろしく声を張りあげている。
「美味しいですよー」
 七輪の上においた露黒のサンマの煙をバタバタと団扇であおぎつつ、レティシア・ブルーウォーターはペットたちを待ち構えた。
 
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「大丈夫なんですかねえ」
 97地点にレティシア・ブルーウォーターと同様に餌をならべながら、月詠司は今ひとつ不安でしかたなかった。
 どうも、餌で自分たちのペットをスピードアップさせるというウォーデン・オーディルーロキの作戦は、明らかに穴だらけのような気がしてならない。スピードアップしてゴールを目指す前に、ここで餌にむさぼりつくのではないだろうか。事実、昨日餌をもらえなかったゲリとフレキは、ついさっき月詠司を食べようと噛みついてきたのだから……。
 すぐ隣では、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)がトランポリンを設置し、審査員席にちんまりと座ってペットたちを待ち構えていた。
 もしもトランポリンで飛び跳ねるペットが現れたら採点する気満々で、ちゃんと点数札も用意してある。
 さらにその隣では、満を持してアーサー・レイスが待ち構えていた。
「カレーでエントリーすることはできませんでしたが、ここで皆さんにカレーを堪能してもらいマース」
 いや、いくらなんでもカレーがペットだというのは無理がありすぎる。悪戯だと思って、エントリー用紙をポイされてもあたりまえであろう。
 しかし、97地点から始まるこのトラップ銀座のまさに最後の試練としてカレーがあるのは歴然とした事実であった。