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第9章 生き残るためのセット

「魔女もオメガも戻って来ないじゃない!どういうことだよぉ」
 なかなか統括の間からやってこないことに腹を立て、まるで孫天君は子供のように地団駄を踏む。
「ていうか、魔女のくせにどうしてこっち側じゃないのさぁ!?」
「敵対する理由?貴様の下品な笑い方が気に入らないだけですわ」
 人指を指して言う彼女をエリシアが鬱陶しそうに睨んだ。
「愚問もいいところですわね。お前たち、この者を八つ裂きにしてしまいなさいっ」
 ドンネルケーファーたちと牧神の猟犬に命令をして彼女に襲いかからせる。
「そっちが複数なら、あたぁしぃも1人じゃ戦わないよ。生意気なやつらを片付けちゃって」
 孫天君は傍にいる魔女たちに命令し、幻獣をファイアストームの餌食にする。
「さっさと片して上の階の様子を見にいかないとねぇ」
 留めを刺してやろうと孫天君が焔のフラワシを降霊し、虫のバーベキューにしてやろうとするが、エクスの凍てつく炎で阻止されてしまう。
「クワガタの丸焼きにしてやろうと思ったのに残念〜」
「事の元凶め、ドッペルゲンガーに近づくでない!」
 彼女の力を利用する卑しき女をエクスが敵視しする。
「秦天君を倒そうと思ってたんだけど。そっちに人が偏ってこっちを仕留めそこなうのはまずいからな」
「魔女たちは私たちが対処します。エースさんたちは十天君をお願いしますね」
「あぁ、助かるよ。だけど無理はしないでくれ。深追いしようとした者を叩くのは、向こう側の十八番なんだよ」
「はい・・・分かりました」
 彼の言葉に睡蓮が小さく頷く。
「話は終わったぁ?さぁて、狂気に満ちた夜を始めようかぁ〜♪」
 自分の用意した舞台に役者たちが集まったかのように、監督気分の孫天君はウキウキと楽しむ。
「命に保険はかけてきたよねぇ?よねぇ!?」
「そんなものかける必要はないな」
「コーンバージョンッ。クローズ、クローズ、クローズッ!!」
 いきなりエースに詰め寄り、わざとらしく隙をつくる。
「んなっ!?」
「この距離で技が使える?そんな突然、無理だよねぇ。無理ぃ無理ぃ〜。回転しなぁあっ」
 スキルを使う間を与えずトランプでエースの片腕をシュッと傷つけ、すぐさま彼の傍から離れる。
「ひっ、ひーひひひっ、ひきゃきゃきゃきゃ!!」
「耳障りですわっ」
 心底不愉快そうにエリシアが怒鳴り、雷術で孫天君の足元を狙う。
「危ないじゃないかぁ!?」
 彼女に対してブーブーと抗議の声を上げる。
「応急処置だけど一応治ったよ。パワーブレスをかけておくね」
「ありがとうクマラ。―・・・仕返しは倍でいいか!?」
 サイコキネシスで孫天君を壁際へ叩きつける。
「うぅ、痛いじゃないかぁあ」
「凍えてしまえっ」
 彼女を守ろうと魔女がエースにブリザードを放つ。
「こっちは不殺であったな」
「あらま、どんどん仲間が倒れていきますね?」
 吹き荒れる吹雪をエクスはファイアストームで相殺し、相手の術者の懐に飛び込んだ睡蓮がヒプノシスで眠らせる。
「はぁ、だからぁ?インサートッ!」
 今度は陣を狙い間合いを詰め、嵐のフラワシに襲わせる。
「近づくな、キショイんやっ」
 炎の精霊で噛みつこうとするフラワシを防ぐ。
「あたぁしぃ、ちょっと言葉に傷ついちゃった、ねっ!」
 視線とは反対方向に彼の足を蹴りつける。
「ち、ガードミスッたか」
 その目の動きの先からくらうと思ったが、逆側にくらってしまった。
「キューッ!レフ、クローズッ」
 一気に攻めようと孫天君がトランプカードを投げつける。
「そんなペラペラ、通さないよっ」
 陣を狙うカードをリーズがブレイドガードで防いで叩き落とす。
「まったく、こんなにキャストがいるなんて。よくない日だよぉお!」
 シュバババァアアッ。
 カードで切り裂いてやろうと孫天君が侵入者たちに投げつけるが、あっさりとレヴィアに紙ゴミにされてしまう。
「エキストラにも相応しくないねぇ、海に帰れぇえ」
「言われずとも戻るつもりだ。貴様を封神台へ送った後にな」
「今すぐだよぉ!?離開、返回!!」
「去れ、帰れ?だったらあなたが行くところは1つしかないわねっ」
 二刀のウルクの剣を抜き放ち、ルカルカは交渉も懐柔もせず、友達を苦しめる女を殺しにかかる。
 迫りくるカードを刃で斬り裂き孫天君に迫る。
「鬼女ぁ〜鬼女ぁ。そんなに凶暴だとお嫁に行けないよぉ〜」
「―・・・ルカのどこが鬼なのよ!?」
「言葉でバカにするのはもう分かっているじゃありませんの」
 挑発して逃げようと企む孫天君に向かってエリシアが牧神の猟犬を放つ。
「んにゃぁあっ」
 犬に突き飛ばされた孫天君がベシャッと床へ突っ伏す。
「相変わらず、逃げるのが早いですわ」
 遠くにいる相手は光術より雷術の方がいいかと足元を狙い、もう片方の手に持つ魔道銃で銃弾を放った。
 彼女に届く寸前、鉄のフラワシを盾にされてしまう。
「はぁ、まったくやり直しを要求したいねぇ。カットだよカット!」
「遊びにつきってるほど、ルカたちは暇じゃないのよ」
 焔のフラワシを降霊してミラージュを自分の周りに出現させ、剣を鞘に納めて光の気を込めた則天去私を繰り出す。
「火炎と拳、両方避けられるかしらね?」
「さぁ〜。避けられるかもしれないし、避けられないかも?あ、やっぱり避けられるねぇ」
 きょろきょろと視線を動かし、その先とはまったく別方向に動いてかわす。
「そっか。やっぱりそいうことなんやねっ。」
 ルカルカの攻撃が何故全て避けられてしまっているのか、疑問に感じた陣は孫天君の行動をじっと観察する。
 その女は明らかにずっとメンタルアサルトでミスを狙い、さらに行動予測で動きを予測されているせいでまったく当たらない。
「てことは・・・」
 大広間で礼青が言った相手の目の動きに気をつけろという言葉を思いだし、まさにそれだと気づいたのだ。
 好き勝手動く孫天君の標的からいきなり外れたりしたせいで、なかなか近づけなかった。
「何でばれたしぃ!?」
「オレはお前を滅ぼす役じゃねぇんだよ。敢えて言うなら・・・てめぇの枷や」
 女の首根っこと腕を掴み、動けなくしてやる。
「だったら開発室にいたやつがこれで・・・。ぎゃあぁあ!?爆発したぁあ」
 唯斗が作った五行炉が突然爆発してしまう。
 使ったら爆発するように仕掛けられていたのだ。
「いざとなったら何でも使って逃げるようなやつらだからな。確実に仕留めてやらないと」
 サイコキネシスで相手が手に持つカードを全部、エースが奪って床へ投げる。
「一度死ぬがよい。ただし俺のように現世に戻ることは許さぬ!」
 逃がすものかと鬼払いの弓の弦を引き、孫天君の足を射抜く。
「貴様ら、何するんだよぉお。離せぇえ」
「これで術はもう使えないな」
「手がなければ何も出来ないよね?」
 レヴィアとリーズがアヤカシの腕の神経を斬り裂く。
「殴っても壊れた頭は治らないこともあるわね♪」
 ターゲットの頭部にルカルカが則天去私を繰り出し相手の脳を揺らしてやり、エリシアは陣に当たらないようにそこへ銃弾を撃ち込む。
「そうそう、さっき言ったてめぇの枷って話、半分嘘ですからあああ!」
 蒼紫色の焔で元凶の1つを焼く尽くす。
「駄作だ、まったくもってつまらないっ。やり直しだよ、やり直し!重新拍攝!!演員也變更!!!」
「リテイク?呆れるわ。ましてやキャストを変えるなんてこと出来ないわね」
 ルカルカがそう冷たく笑うと、必死に要求する孫天君は封神台へ封神された。



 十天君を倒した後、術者がいなくなってしまった仮初の町や城が消え始める。
「何、地震!?」
 突然建物が揺れだしルカルカは目を丸くする。
「いいえ、孫天君がいなくなったから空間が維持出来なくなったんですわ」
 階を駆け下りてエリシアたちは急ぎ、中央の扉を開閉するレバーがある部屋へ走る。
「皆、早く!急いでっ」
 北都が床のタイルを1つ外して地下水路へ通り脱出する。
 仮初のものは全て消えて無くなり、後には魔女たちが作った機材や魔道具が残された。
「これは全部、壊しておきましょう。皆を苦しめるものでしかないもの」
 物質化・非物質化で小型飛空艇ヴォルケーノを出現させ、操縦室に乗り込むとルカルカはターゲットをロックし、ミサイルを発射させて粉々に砕く。
 ブリザードの吹雪で凍てつかせた淵が、弓矢を放ち破壊する。
 バキィイインッ。
 氷の破片のように砕けた機材が土の上へ降り積もる。