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合法カンニングバトル

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合法カンニングバトル

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「こんなものですか……」
 山田がパンパンと手をはたく。
 戦いの趨勢は決していた……なぶらと朔を見下しながら、山田は満面の笑みを浮かべる。
「わかりましたか? どうあがいてもゴミはゴミ……生まれてきてしまった事をたっぷりと後悔してください」
 簡単にしとめるつもりはない、もう少し罰を与えねば……
 わざと手加減をして痛みだけ与えようか……
 山田がそんな事を考えていた矢先、あからさまにカンニングを試みる生徒を発見する。
「おや、まだそんな生徒がいましたか……戦闘中だから見逃すとでも?」
 山田はそんな油断などしない、生徒に魔法を放つ……だがしかし……
「ふふ……炎で相殺が可能です」
 蒸気が立ち込める……その中から生徒……レイナが無事な姿を見せる。
 山田の攻撃と同時に炎の魔法を放ち、氷の魔法を相殺したのだ。
「おや、撃ち洩らしましたか……」
 もう一撃放つ山田、しかし再び炎で相殺されてしまう。
「思ったとおり……手の内を見せすぎましたね……おそらくこの距離ではそれが精一杯……」
 レイナは武術部との戦いから山田の能力を計っていたのだ。
 やはりここは安全圏……ここから再びカンニングするぞ、と山田を挑発する。
「生意気な……ではこれならどうです?」
 簡単には相殺できないよう、山田は魔法の威力を高めようとした……そこに隙が生まれる。
「今がチャンスですね……」
 山田の注意が逸れたこの隙に、美央は吹雪からの脱出を試みる。
 盾を凍った床に突き立てると同時に、足元の氷を砕く……これで身動きが出来るようになった。
 そして盾の後ろから一気に飛び出し、吹雪の範囲外へ……盾を手放す事になるが、その分、身軽に動けるはずだ。
 美央はまず、バイトの方へ向かった。
「お、お前は!」
「さぁ、どうしますか?」
 なぶらや朔に対峙した時と違い、明らかに迷っている。
 早々と戦力外になる予定の美央への対応は指示されていなかったのだ。
 そして、戦場でその迷いは、致命的。
「遅い!」
 美央の槍がバイトを捉える。
「じ、時給1500Gが……」
 そんな呟きを残し倒れるバイト……
「こいつら、そんなに貰えるはずだったのか……」
 おそらく成功報酬なのだろうが……時給の額に驚くなぶら、なんか複雑な気分だ。
「これで邪魔者はいなくなった……ってことはどうなるか……わかるよな?」
 朔が山田を睨みつける。
「く……まだ調子に乗らないで頂きたいですね……」
 山田は初めて焦りを見せていた……額に汗が浮かんでいる。
 もはや山田の盾となるバイトはおらず、三人の連携を止める事も出来ない。
「覚悟はいいか? 第2ラウンド開始だ」


「今だわ!」
 この隙に動いた人間がもう一人いた、須藤 雷華(すとう・らいか)だ。
 口笛を吹き、外に待機させていたワイバーンを呼び寄せる。
 ワイバーンの突入により、砕け飛び散る窓ガラス。
「雷華さん、さすがにコレはまずくないですか?」
 その惨状にメトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)が不安の声をあげる。
「大丈夫よ、既に教室の窓側は戦闘で荒れてるし、きっと山田先生達のせいにできるわ」
 さらっと他人のせいにするつもりの雷華だった。
「メトゥスは下から、よろしくっ!」
 ワイバーンに跨る雷華、上から一気に回答へ迫る。
「カンニングの極意は上から覗き見にあり! って聞いたんだからっ!」
 雷華の視力は悪くない、もう少し近づけば回答を読めるはずだ。
「わかってはいましたが……なんでもありですね」
 頭上のワイバーンに向かってクロセルが攻撃魔法を展開する。
「これ以上は近づけさせませんよ!」
 クロセルが放った氷に翼を破られ、撃ち落されるワイバーン……
「やった……あ……」
 喜んだのもつかの間、とんでもない失敗に気付く。
 ……撃ち落されるワイバーン……それはまっすぐ回答の元に落ちていった。
 落下するワイバーンに必死にしがみつく雷華。
「無理させてごめんね……でも……見えた、これで勝……???」
 回答のすぐそばに落下したワイバーン。
 回答はとてもよく見えた、それは間違いない……だが……
「……何語?」
 雷華の頭上に?マークが浮かぶ。
 そこになんて書いてあるのか……雷華にはまったくわからなかった。
「ドイツ語、フランス語、イタリア語、ラテン語、ウイグル語、アラビア語、サンスクリット語……全部で12ヶ国語を用意した、どれかひとつくらいは読めてしかるべきだ」
 アルツールが淡々と告げる。
「……に、日本語は?」
 おそるおそる聞いてみる。
「ああ、古典言語ならあるぞ、探してみるといい」
「古典……」
 よく見るとそれっぽい書体の文字があった……なんか芸術的だ。
 もちろん、雷華に読めるわけがなかった。
「妖精さん、コレなんて読むのかな? え、わからない?」
 横でメトゥスが妖精さんに聞いている……だが、妖精さんもバイリンガルではないようだ。
「うぅ〜、せっかくここまでたどり着いたのに……」
「残念ですが、失格です」
 二人を拘束するクロセル。
「ふぅ……一時はどうなるかと思いましたが、なんとか終わってくれそうですね」
 時計を見ると……もうすぐ終了時間だ。


 カタカタカタ……
 暗闇の中、ディスプレイの明かりだけが灯っている。
 軽快なリズムで北久慈 啓(きたくじ・けい)がキーボードを叩いていた。
 開いたファイルをコピーしている。
「機密情報にしては、セキュリティが弱かったな……」
 と言っても、ここまでたどり着くのにかなりの時間がかかってしまった……もうテスト時間も終わってしまうだろう。
「だがもう答えは手に入れた……無事に離脱さえ出来れば、俺の勝ちだ」
 教室の片隅に無造作に置かれたダンボールがかすかに動き出す……
 ダンボールから鏡を持った手を突き出し周囲の反応を伺う啓……
「こっちもあらかた片付いた後か……」
 そしてダンボールが動き出した……無人の野を行くが如く……
 もう誰も、それに気付く人間はいなかった。
「さて、解答欄を埋めようか……あれ?」
 その解答欄は入手したデータと大きく食い違っていた……
「くそ、ダミーを掴まされたか!」
 悔しがる啓。
 しかし、彼が手に入れたデータこそが、本来出されるはずだった問題のものだったとは、誰も知る由がなかった。