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合法カンニングバトル

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合法カンニングバトル

リアクション

 教師達が教室にぞろぞろと入ってくる。
 見たところ異常は見られない。
(どうやら、さっきの菓子折りは見抜かれたようね……)
 内心舌打ちする望……劇的な効果は期待していなかったが、全く通用しないとは……
「望、また何か企んでいますわね?」
 そんな望の内心も知らず、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が問いかける。
「残念ながら、もう既に一つ失敗したみたいよ、なかなか手強いわ……」
「ふん、くだらない……カンニングなんて卑怯者のすることですわ」
「お嬢様はカンニングしても変わらないですものね、0点は0点のまま……ヴァカキリー……くすくす」
「何を仰いますの! わたくしの実力なら正々堂々満点ですわ」
「はいはい、夢があって良いですね」
 などと言っている間に着替えを済ませた彩……そして江利子が来た……まだ少しフラついている。
(二ノ宮先生は相変わらずのようね、本当にクビになるんじゃないかしら……)
 その江利子によって、作戦が阻止されたとは夢にも思わない望だった。

 教師達が各々の配置についていく……
 巡回する清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)とエヴァルトに妙な視線が突き刺さる。
「……なんで教員の中にヤクザがいるんだ?」
「きっと山田の差し金だ……助っ人を呼んでるって聞いたぜ」
「そこまでするのかよ、汚いな山田」
 ざわつく生徒達。
「ふぅ……お互い、難儀じゃのう」
「だが、見た目でカンニングを抑止できるなら、楽でいい……」
「ハッ、言うじゃねぇか……おっと、そこの生徒」
「な、なんだ?!」
 青白磁が声をかけたのは相田 なぶらだ。
(くっ、相手がヤクザだって、武術部はびびったり……でも怖いな……)
 たちまち戦闘態勢になるなぶらだが……
「ガチガチに緊張しとるな、そんな事じゃあテストにならんけん」
「わわっ、な、なにを……」
 なぶらの肩をガッと掴んだと思ったら、揉みほぐす。
「ははっ、少しはほぐれたかのう」
 豪快に笑いながら通り過ぎていく青白磁……しかし、なぶらの緊張はほぐれたようだ。
(うぅ、なんかやりにくいな……)
 見た目とのギャップになぶらも戸惑いが隠せない。
「でも、戦うかもしれない相手だ、気をつけないと……」
 出来れば、戦いたくない相手だった。


 しばらくして、山田がテストの説明を始める。
「えー、皆さんご存知の通り、今回のテストではカンニングも評価されるようになっています……ですが!」
 話しながらも山田は手帳を開き、事前に要注意人物としてマークしている生徒の配置を確認する。
「カンニングをする生徒は例え校長が許しても、我々が許しません! 低能の、不良生徒が、何をしたところで失敗するだけと理解してください」
 ……見つけた。
相田 なぶら(あいだ・なぶら)赤羽 美央(あかばね・みお)鬼崎 朔(きざき・さく)ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)……生徒と呼ぶのも憚れる野蛮なゴミ共が……)
 彼らの方向を睨みながら低能、不良を強調する、山田なりの宣戦布告だった。
「くそ、山田の奴、絶対こっちに向かって言ってるな……」
 その予想は間違っていなかった……睨みかえす朔。
「……もっとも、今回のテストはこの私が用意した難問中の難問……カンニングでもしないことには、わからないかも知れません……
ですが、優秀な生徒諸君には最後までカンニングになど頼らず挑んでいただきたい、以上」
 教壇から降りる山田……そして、アルツールによって教室の中央に回答が置かれる。
「解答用紙が足りてない列はありますか〜とっても大事な紙ですよ〜」
 江利子が確認を取る……準備は整った。
「無事に終わってくれると良いのじゃが……そう簡単にはいかないじゃろうて……」
 アキラ 二号(あきら・にごう)が見渡す周囲は既に殺気のような気配に満ちていた。
「あと1分、かぁ……」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が時計を確認する……もうすぐだ。
「出来損ないの皆さん、準備は良いですかぁ?」
 山田の足元に魔方陣が浮かび上がる、最初から戦闘態勢だ。


「さぁて、もうすぐ始まりますねぇ」
 薄暗い部屋を魔法の焔が煌々と照らす……
 校長室の主、エリザベートはニヤリと笑みを浮かべていた。
 せっかく用意させたイベントだ、これを見逃すつもりはない。
 校長室の中央には、テスト会場の中継映像が投影されていた。
「くすっ……生徒達の為に私自ら用意した特別問題とすり替えておきましたぁ、さぁ、がんばってくださぁい」
 始まりを告げるチャイムが、鳴り響くのと同時に、エリザベートの手元で『本来の問題用紙』が灰となって消えた。


 裏返しに配られた問題が一斉にめくられる。
「まずは正解できる問題から埋める、カンニングはその後です」
 望は普通に問題に取り掛かる事にした。
(隣のヴァカキリーならまだしも、私の学力ならある程度は回答可能なはず……)
 これは望に限ったことではなく、多くの生徒がまず問題に取り掛かった。
 ある程度答えられるのなら、わざわざ危険を冒してカンニングすることはない。
 だが……



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 問1:偉大なる校長エリザベートの本日の下着の色を答えよ


 問2:偉大なる校長エリザベートの口に入ることの叶わない哀れな食物を答えよ


 問3:偉大なる校長エリザベートの現在の身長を答えよ


 問4:偉大なる校長エリザベートの着衣の洗濯に使われる洗剤の名を答えよ


 問5:偉大なる校長エリザベートが昨日成し遂げたばかりの偉業を答えよ



※この試験を体験した著者が書いた本
『実際に出た試験問題から学ぶ傾向と対策〜イルミンスール編〜』(○▽書房刊)
 14項「諦めるのは恥じゃない」より抜粋


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「な、なんじゃこりゃぁぁ!!」
 たちまち生徒達から悲鳴が上がった。
 まともな方法では一問も正解出来ないのだ、無理もない。
「クソッ、はなッからカンニングしねぇと解けネェってわけかい!」
(たまには真面目にやってやろうと思ったらこれだ……フザケやがって!)
 無駄になった試験勉強(15分)の記憶がゲドー・ジャドウの脳裏をよぎる。
「……だったらこっちも容赦しないぜ!」
 ゲドーの周囲に炎の魔力の渦が生まれる。
「おんやぁ? 開始1分も経たずにさっそくカンニングですか?」
 山田が迎撃体勢に入る、だが……
「カンニング? ハッ、くだらねぇ!」
 ゲドーの放った炎が一直線に伸びる……その矛先は教室の中央……回答だ。
「何っ! まさか?!」
 予想外の行動に山田の反応が遅れる。
「そのまま全部燃えちまえ! 教師は全員クビ、俺様達は皆で仲良く0点といこうぜェ!」
「いけない!」
 とっさに氷の障壁を構築しようとするクロセル、だが間に合わない。
 今まさに回答が炎に包まれようとした……その直前。
 ……飛来した何かによって、炎がかき消された。
「ふぅ、危ない危ない……」
 回答の前にはザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が放ったカタールが突き刺ささっていた。
 どうやらそれが炎を防いだようだ。
「て、手前ェ……」
「回答がなくなっては元も子もありませんからね……守らせていただきます」
 などと言いながら、ザカコの目線はカタールに向かっていた。
 カタールの刀身部分はよく磨かれており、鏡のように回答を映し出しているのだ。
(今なら怪しむ者はいないはず、これで回答を得れば……)
 と、そこで不意にザカコの視界が遮られる。
「……やってくれるじゃネェかよ!」
 ゲドーだ。
「この落とし前はしっかりとつけてもらうぜ?」
「な……」
 ゲドーはザカコとカタールの間に立ち塞がっていた、これでは回答が見えない。
「い、今は生徒同士が争うよりもですね……」
「はン! こちとらテストなんてもうどうでもいいンだ! まず手前を、ブッ潰す!」
 なんとか説得しようとするザカコだが、ゲドーは最初から聞く耳を持っていなかった。
 今度は彼を狙って炎が放たれる。
「くっ……せっかくのチャンスが……」
 飛びのいて避けるザカコ、彼の解答用紙は席ごと焼失していた。
「これで手前も0点確定だなァ、ヒャハッ!」
 ザカコをあざ笑うゲドー。
「はぁ……さすがに自分も、怒っていいですか?」
 サイコキネシスで先程のカタールを手元に戻す、戦闘態勢だ。
「上等だ! 楽しませてもらうぜぇ!」
 互いに相手の隙を探す……一触即発の状態……そこへ……
「待ちなさいっ!」
「そこまでじゃ!」
 ルカルカ・ルーとアキラ二号が二人の間に割って入る。