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葦原明倫館の休日~ティファニー・ジーン篇

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葦原明倫館の休日~ティファニー・ジーン篇

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第3章  校長室襲撃事件!

 第1試合が終わり、全体はお昼休憩に入った。
 温かい昼食を受けとりに、ほとんどの者がテントの一角を目指している……なのに。

「しかしでかいな……なかはどんなふうになってるんだ?」
「そういえば僕、葦原明倫館に来るのは初めてなんですよねぇ」
「お、あんたもか。
 俺も初めてなんだ」
「もしかしたら、隠し通路とか見つけちゃうかも知れませんね」

 城へと足を踏み入れたのは、小鳥遊 帝(たかなし・てい)藤井 つばめ(ふじい・つばめ)である。
 最初は別々に、ほかの校舎や校庭を探索していた2人。
 だがついさっき、ばったりと出会ってしまったのだ。

「やっぱ初めての場所っていろいろ探索したくなるよな」
「えぇ、分かります」

 帝もつばめも、即座に同士だと感じとったらしい。
 お昼ご飯もそっちのけで、一緒に天守へのぼろうということに。
 学園での生活や探索歴などを語り合いながら、ずんずんと上へ進んで。

「よし、ここで終わりだな」
「『展望の間』ですか……どんな風になってるんでしょうねぇ」

 ぎぎっ……と扉を開けると、なかは。

「うわぁっ、すごいです〜♪」
「これは圧巻だな」

 天守のてっぺん『展望の間』は、四方360度を強化防音ガラスで囲んだ部屋だった。
 床には畳が敷かれており、ちりひとつない。
 隅にあるちりめん座布団は、色彩鮮やかでとても上品だ。

「葦原島全部見えちゃいますね!」
「あぁ、それに晴れていれば対岸まで視えるのだろうな」

 6畳ばかりの部屋だが、こんなに素敵な光景が視られるとは思っていなかった。
 つばめも帝も、大満足な笑みをこぼす。

「帝君、座布団の手触りも確かめましょう!」
「そうだな……いてっ、なんだ?」

 それは、つばめが座布団をとろうとしたとき。
 助けようとしてバランスを崩した帝が、柱から突き出ていたでっぱりを押してしまったのだ。
 そう、これは。

「まさか、なにかのスイッチ!?」
「よくあるパターンのやつか!?」

 瞬間、2人の乗っていた畳がくるっと回転した。

「うわーーーーーーーーーーっ!」
「にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 突然のことに抵抗できず、帝もつばめも暗闇へ真っ逆さま。

「いたっ!」
「きゃっ!」
「くせものっ!?」

 投げ出された場所は、とっても明るくて柔らかい場所だった。
 聴き覚えのある女性の声が、歓迎していないことを2人へ教える。

「あっあのっ、怪しいものではありません!」
「そうだぜ、学校見学してたら偶然……ってえぇっ!」

 つばめと帝の前に立っていたのは、房姫その人。
 天守の隠し通路は、校長室へと繋がっていたのだ。

「房姫様っ!」
「大丈夫かよっ!?」
「お2人とも、『展望の間』からいらしたんですね」
「ってーと、この建物のいっちゃん上か」
「あの部屋の入り口には確か『関係者以外立入禁止』と貼り紙がしてありましたが」
「はっ、はいっ、ごめんなさい……です。
 誰にも、絶対に言いません、だから命だけはっ!」
「つばめは悪くねぇ、俺が入ろうって言ったから」
「そんなことない、僕も、僕も視たかったんです。
 だから帝だけのせいじゃない」
「すまなかった、このとおりだ」

 房姫を心配して駆けつけたゲイルと匡壱に、房姫も2人へとつめよる。
 たいしてつばめと帝は、揃って素直に頭を下げた。
 すると。。。

「悪気があったわけではなさそうですし、今回のところは許しましょう。
 ですが『展望の間』で視たことと通路のこと、それにこの部屋で視ることも、他言無用と心得てくださいね」

 房姫の恩情に、全身で肯定の意を示す帝とつばめである。

「そうですわ、貴方達も手伝ってください」

 このとき、校長室にはほかに3人の男女がいた。
 緊張のあまり機能していなかった鼻が、甘いにおいをキャッチする。
 午前中につくった景品のチョコレートを、みなで包装していたらしい。
 断ることなどできるはずがなく、作業の輪へと加わった。

(葦原の校長、普段であれば邪魔も多かろうがこれは好機よ。
 手合わせ願おう……ゲイルにも再戦の好機を)

 廊下にい立つは、三道 六黒(みどう・むくろ)の姿。
 一難去ってまた……校長室に、脅威が迫っていた。

「ん、ノックの音だ」
「ゲイル、視てきておくれ」
「分かりました」

 気づいた匡壱だが、いまちょっと手を離せない。
 房姫に言われてゲイルが立ち上がった、刹那……いやな気配を感じた。
 ためらいつつも、扉を開ける。

「こんにちは〜呼ばれて飛び出ました。
 私は伝説のチョコ商人です」

 それは、すらっとした1人の女性。
 真白いシルクハットを手に、帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)が深く頭を下げた。

「なにやら甘いにおいがしましたので、つい扉を叩いてしまいましたの。
 私は、博識の能力を使って手づくりチョコの醍醐味を伝授しているのですわ」

 さげていたかばんのなかから、さまざまな種類のチョコをとりだす尾瀬。

「わわっ、美味しそうです〜」
「なんかにおいからして違うのな」

 真っ先に反応したのはつばめで、尾瀬へとよっていった。
 帝はじめ手伝っていた者達も、チョコを味見している。
 ただゲイルは、気を許せないでいた。

「興味を持っていただけたようで嬉しいですわ。
 せっかくですから、調理室へ移動して本格的にとりくんでみませんか?」
「え、それは……」
「申し訳ないがそれはできませぬ。
 私達はいま時間に追われていてな」
「だよな。
 やってみたいけど、これを仕上げないといけねぇんだ。
 ごめんな、おねえさん」

 心の揺れる房姫に代わり、ゲイルと匡壱がお断りを申し入れる。
 なによりもいまは、景品のラッピングを終わらせることが先だから。

「これは残念……校長室は危険ですわ、いろいろと」
「そういうことだ」

 尾瀬の言葉に、寒気を感じたゲイル。
 いつのまにか尾瀬の背後には、六黒が立っていた。

「貴殿はっ!?」
「きゃっ、ゲイルっ、匡壱っ!!」
「ほら、だから言ったじゃないですか……ふふふ」
「お前らなにもんだっ!?」

 記憶もあいまって、六黒だけに注意を向けてしまった。
 隙をつかれ、尾瀬に房姫をさらわれてしまう。
 ゲイルと匡壱、そしてみなも、チョコとラッピングを避難させてから、武器を構えた。

「ふんふんふ〜ん、チョコはどうでありんすかね〜♪」

 ちょうどそこへ現れたハイナ……状況を把握し、形相が変わる。

「房姫っ!!」
「はっ、ハイナっ!」

 六黒は、尾瀬と房姫を背に廊下を後退した。
 追いつめられたように見えるが、人質の存在は圧倒的有利を実現する。

「さぁゲイル、貴様の借りをわしに返してみせよ。
 丹羽とやらもまとめて来るがいい!」
「総奉行のお相手は私が引きうけますわ」
(ふふふ、2人ともうまくやってくれましたね)

 こうしてもぬけの殻となった校長室へ潜入した、両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)
 六黒同様、『ベルフラマント』で廊下に身を隠していたのである。
 目的は、蒼空学園および空京大学へのハッキングだ。

(校長室ならば各学校へのホットラインがあるはずですよね。
 どちらもセキュリティが非常に強固ですが、葦原がわ、しかもホットラインからならば容易に潜入可能でしょう)

 しかしながら、悪路の思うとおりにはいかなかった。
 葦原明倫館のコンピューター設備は、悪路の計画を実行できるほど整っていなかったのだ。
 残念なことに、双校のプロテクトを打ち破れるだけのマシンパワーを有してはおらず。

「ちっ、もう追いつかれてしまいましたね」

 テクノクラートゆえに、ホストコンピューターへアクセスすることはできたのだが。
 特技の『情報収集』やテクノ系スキルをフル活用するも、破る前に書き換えられていくセキュリティ。
 数十分の奮闘むなしく、悪路の企みは失敗したのだった。

「残念ですね、悪人商会のために活用させていただきたかったのですけれど」

 すんなり諦めた悪路は、ホストコンピュータふくめ校長室をもとのとおりに戻して、去った。
 ただ現場は押さえられなかったものの、アクセス記録から今日の行動がばれたらしいことだけはつけ加えておく。

「わしとて、昨日のわしではないのだよ」

 スキル【百戦錬磨】のオーラを発動したうえ、さらに『ワイルドペガサス』の効果により速度は最高潮。
 ゲイルと匡壱の2人をしても、追いつくにはほど遠い。
 どうにか離されないよう必死に走ることしか、できなかった。

「お前らの目的はなんでありんすか!?」
「さぁて、なんでしょうね?」

 ハイナの攻撃をのらりくらりと躱しながら、尾瀬は笑う。
 尾瀬も六黒も、本気で技を繰り出してはいなかった。
 それもそのはず、2人は悪路が目的を達成するための時間稼ぎをしているに過ぎなかったのだから。

(あれは……終わったか)
「興が削がれた。
 今日のところは退こう……尾瀬!」
「はい!
 それではね、総奉行殿」

 校長室から出てくる悪路をとらえ、六黒はすべてを悟る。
 尾瀬を再召喚して引きよせると、スキル【スタンクラッシュ】で退却した。
 あとには、ただ房姫が残されるばかり。

「房姫っ、房姫、大丈夫かえ、怪我してないかえ!?」
「えぇ、ハイナのおかげです」
「よかった、よかったでありんす〜!」
「ちょっくすぐったいでしょう」

 身体にはなんの被害もなく、房姫は戻ってきた。
 ぎゅっと抱きしめるハイナに、思わず苦笑する余裕もあるみたい。
 たいへんな事件が起きたわけだが、それによって2人の絆も深まったのではないだろうか。。。

「あ、たいへん!」
「ん?」
「ラッピング、まだ終わっていませんわ」
「っとそうであったの、妾もその様子を視にきたのであった!」

 想い出したのは、房姫。
 ハイナも、こりゃやばいみたいな表情をみせる。
 みな、とりあえず校長室へ戻り、ちょっと休憩したのち作業を再開したのであった。