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葦原明倫館の休日~ティファニー・ジーン篇

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葦原明倫館の休日~ティファニー・ジーン篇

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第4章  決戦! 佐保チームvsティファニーチーム

 葦原明倫館のからくり大時計が、13時を告げる。
 お昼休憩を終えた参加者達で、運動場には再び活気が戻った。

「さてさて、そろそろ出番みたいだな……幸村!」
「ここに。
 先ほどは苦汁をなめさせられてしまいましたが、それは雪合戦がなんたるかを知らなんだゆえ。
 拙者、この試合では、そう簡単には倒れぬでござるよ」

 最前線で構えるのは、佐保チームのエースである柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)
 午前中の試合でも、佐保の次に長く生き残っていたチームの要だ。
 しかしパートナーの真田 幸村(さなだ・ゆきむら)は、今日まで雪合戦の経験がなかった。
 要領が分からず早死にしたが、そのぶんみなの戦い方を見て勉強できたのだとか。

「幸村殿、今回は期待しているでござるよ!」
「うむ……佐保殿より先には逝かぬでござる!」
(しかしよかったな、幸村)

 幸村は、葦原明倫館に足を踏み入れたときから佐保の気配みたいなものを感じとっていた。
 代々つづく血は、互いを呼び合うのだろうか。。。

 〜回想はじまり〜

「葦原ってのは侍が集う場所なんだよな。
 せっかくだしここの連中とも語らいたいもんだが……倫明館にでも寄ってみるか。
 校長殿とはお話できるんだろうかね?」

 近代における武士道を学びたいと、氷藍は今日という日に葦原島を訪れていた。
 城下の者達とそれについて話していると、3人に1人はハイナの話をする現象にぶちあたる。
 そのうちだんだんと本人の話を聴いてみたくなった氷藍は、葦原明倫館の門をたたいた。
 ちょうど、第1試合の参加者が整列したときである。

「ん……なんとなく胸がざわざわしまする」
「そういや、真田の家系の娘がいるとかいう噂を聴いたことがあるぜ」
「なんと、それは誠でござろうか!?
 できればその者と共闘し、親交を深めたいでござるな!」
「そうか……」
(どんな反応されるかは分からんが、できれば幸村に会わせてやりたいな。
 しかし、血族がいるのを直感で感じとるとは……犬か、こいつは)
「あ、とりこんでるとこすまねぇ。
 ここに真田の家系の娘がいると聴いてきたんだが……」

 観戦している者に声をかけると、佐保のことだと教えてくれた。
 列のなかの、あの子だよと。

「かたじけないっ!」
「っておいこら!
 すまねぇ、ありがとな!」
(さて、どうなるやら)

 礼を告げると、氷藍は幸村を追う。
 なんで整列してるのか不明だが、部外者がつっこんでいくのはまずいだろうと思ったからだ。

「佐保殿〜っ!」
「ん?」
「さっ、佐保殿でござるか、真田のっ!?」
「え、あぁ、そうでござるが……」
「やっぱりそうでござったか!
 拙者、真田幸村と申す。
 蒼空学園に所属していて、あ、氷藍!」
「ったくおまえは、勝手に走り出しやがって!
 邪魔してすまなかったな……ほら幸村、話はあとに……」
「なんと、ご先祖さまでござるか!?」
「おぉ、いかにも!」
(あれまぁ〜意外な展開だな、こりゃ)
「拙者はいま猛烈に感動しているでござるよ!
 あの名将と名高いご先祖さまにお逢いできるとはっ!」
「うむ、拙者も嬉しいでござる!」

 2人だけの世界に入り、きゃいきゃい話し始めてしまう。
 佐保の反応は、氷藍が想像していたよりも格段によかった。
 先祖になんて興味はなく、冷たくあしらわれるんじゃないかと思っていたのだが。

「そういえば、今日はなにをしていたのでござるか?」
「これから雪合戦をするのでござるよ」
「なに、合戦とな!?
 侍が集う地、葦原での合戦!
 これにはもののふとしては参加せずにはいられないでござるっ!」
「そんな勝手な……審判さん、どうなの?」

 佐保に教えられて、幸村はますますヒートアップ。
 そりゃさすがに無理だろうと、氷藍は裁決を仰ぐのだが。
 別に途中参加は禁止されていないので、よいということになった。

「しかし大丈夫なのか、雪合戦だぞ?」
「……ゆ、雪合戦でござるか。
 あまり経験はないが、我が故郷で雪面の戦闘にたいする心得は積んでいる!
 全力で試合に臨もう!」
「ご先祖さまが入ってくれれば百人力でござるよ!」

 審判の配慮により、しばしの作戦タイムがもうけられる。
 佐保チームの士気が最高潮まで上がったのは、言うまでもないだろう。

 〜回想おわり〜

「餓鬼の頃は、雪合戦なんざする暇はなかったな……俺も本気出しますか!」
「さぁ、いくでござるよ!」
「お〜っ!」

 にぃっと、氷藍が不敵な笑みを浮かべる。
 佐保と幸村の雄叫びの直後、合戦の火ぶたが切って落とされた。

「ミーナは……ミーナはっ!」

 フィールドの隅っこで、せっせと雪玉をため込むミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)
 なにか不穏なオーラを放っており、近寄れない。

「ミーナは真田先輩からチョコがほしかったです〜!」

 なんの前触れもなく、ミーナが雪玉を投げ始めた。
 無差別な弾丸と、せきをきったようにあふれ出す感情。

「みっ、ミーナ殿、落ち着くでござる!」
「ミーナはっ、ミーナはっ!」

 これはさすがにまずいと思い、すぐに佐保がミーナをなだめに入る。
 紙風船を護りながらたどり着くと、両の腕をがしっとつかんだ。

「分かったでござる、ミーナ殿!」
「ふぇ?」
「この試合に勝てたら、拙者からチョコレートをあげるでござる!
 だから一緒にがんばるでござる!」
「あっ……はいっ、もちろんです〜!」

 味方につけば、こんなに心強い者はいない。
 雪玉をつくるスピードは、すべての参加者のなかで最速ではないだろうか。
 そしてこの雪玉を、ほかのメンバーが的確な判断のもとに放っていく。
 みなの相乗効果により、チームの力は格段にあがっていた。

「負けないのだ〜!
 ティファニーチームを優勝に導き、ティファたんを『女』にするのだ〜!」

 猛攻撃を浴びながらも、敢然と立ち向かっていく屋良 黎明華(やら・れめか)
 なにやら面白すぎる野望を叫び、雪玉を投げる。

「黎明華、それはどういう意味なのネ?」
「ん?
 なにかおかしな表現なのだ?」

 当のティファニーに訊ねられるも、黎明華はきょとんと笑うだけだった。
 実は黎明華、これまでの人生のなかで雪に触れたことがない。
 もちろん雪合戦も初体験で、ちょいとテンションが高めになっている。
 ちなみに、雪のあつかいについては事前にティファニー達から教えてもらっていた。
 雪玉のつくり方から、適切な大きさや硬さまでと、その内容はいたでりつくせりだった模様。

「そんなことより先手必勝、先制攻撃は雪合戦の花形なのだ!
 女の子らしく突撃するのだ〜!
 仮にその直後、集中砲火を浴びたとしてもっ!」
「よし、ミーも行くのネ!」

 無謀にも駆け出した黎明華とティファニーは、予想どおり格好の的に。
 だがしかし、ティファニーチームの面々にとっては想定外だが都合のよい囮作戦でもあった。

「この反撃を省みない思いっきりのよさこそが、パラ実の『ひゃっはあー♪』精神なのだ!」
「ミーも『ひゃっはー♪』ヨ〜!」
「いつも心に『ひゃっはあー♪』を!
 なのだ!」
「なのネ〜!」
「ティファたんの明倫館魂と黎明華のひゃっはあー魂で、この寒い銀世界を打ち溶かすのだ〜!」
「溶けろ〜ゆき〜!」

 いつのまにか黎明華とティファニーのなかでは、標的が佐保達から雪に切り替わっている。
 まぁ、ちゃんと敵に向かって雪玉を投げているからよいのだが。。。

「雪玉、雪玉、もふもふもふもふ。
 楽し〜のだ〜♪」

 雪玉をつくる黎明華は、誰の眼にも本当に活き活きと映った。

「黎明華、それくらいでいいのネ、やっちゃうのネ〜!」
「よ〜しっ、戦略とかスキルとかグズグズ言っているやつらに、バツーンとイッパツ速攻攻撃をお見舞いするのだ!
 黎明華必殺『ガンナーガール・シューティング!』なのだ!」

 充填完了、黎明華は雪玉を四方八方に乱れ投げる。

「黎明華はすごいネ〜そんなに楽しいのカ!?」
「葦原は、雪だるま〜、かまくら〜、といろいろあって面白いのだ〜。
 でもニンジャの国だから、雪の落とし穴とかには注意なのだ!」
「もっともな心配ネ、まぁこのラインのなかは大丈夫なはずなのダ!」

 おや、黎明華の語尾がティファニーに移ったか知らん。
 そんな駄話をしていても、2人は降ってくる雪玉を器用によけて生き残っていた。

「芦原郁乃、見参っ!!」
「噂をすればニンジャなのだ!?」

 突然、黎明華の足下から芦原 郁乃(あはら・いくの)が出現。
 全身を白装束でおおい、【隠形の術】と【ちぎのたくらみ】で隠れていたのだ。
 防御も、【殺気感知】や【超感覚】に【禁猟区】と結構な重装備。

「あなた気に入ったわ!
 私もちまちま投げ合うのは性に合わないのっ!」
「ぐわっ、やられたのだっ!」

 強豪がいるであろうハイナチームを避け、小柄な佐保へと協力することを決めた郁乃。
 誰よりも派手にたちまわるべく考え抜いた結果が、この登場の仕方である。
 そして郁乃は見事、黎明華の2つめの紙風船をわってみせた。

「荀灌も行くですっ!!」
「華麗に登場!
 愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい!」

 郁乃の登場を受け、荀 灌(じゅん・かん)もいっそう張りきって前進する。
 だが、秋月 葵(あきづき・あおい)が頭上から飛来。
 葵は試合開始直前に、【光術】の演出ももりこんで魔法少女に【変身!】していた。

「ひゃぁっ!?」
「いくよー雪玉流星群☆」
「なんのっ、えいっ、とうっ、うわっ、わわっ!」
「どんどんいっちゃえ〜っ!」
「ひゃあぁあぁああぁぁぁぁ〜!!」

 ウインクと同時に、葵が【空飛ぶ魔法↑↑】で雪玉を墜落させる。
 初めのうちは【スウェー】で避けたり【ツインスラッシュ】で撃ち落したりしていた灌だが、残念ながらモノには限度が。
 撃ちもらした雪玉が首に直撃、背中に冷たい感触が流れた。

「こういうのは楽しんだ者勝ちだよね〜♪」
「うにゃぁぁぁぁぁ〜っ!!」

 びっくりして硬直した灌を、葵は上空から狙い撃ち。
 紙風船は全滅……そしてそれ以上に、全身が雪まみれの哀れな姿になってしまう。

「荀灌ちゃん……可愛い、惜しい子をなくしたわ……ナムナム」
「死んだわけじゃないですぅ〜!」
「あら?」

 雪山に手を合わせて、冥福を祈る蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)
 しかしぼこっと顔を出して、灌が抗議してきた。
 その姿が面白くて、マビノギオンは思わず苦笑するのである。

「ちょ〜悔しいですっ!!
 これで勝ったと思うなですぅー!」
「あははは〜これも勝利のためだから、ごめんね」

 戦闘不能と判断された灌は、黒子によって救護班へと運ばれた。
 謝る葵に向かって、最後まで文句を叫びながら。 

「荀灌ちゃんの弔い合戦です、お覚悟をっ!」
「あたしだって負けるわけにはいかないもん!
 同じロイヤルガード仲間のティファニーちゃんを勝たせたいの!
 チョコが欲しいわけではないけど、やるからには全力全開で優勝目指すって決めてたんだよ!
 その方がきっと面白いと思うんだ〜♪」

 マビノギオンに標的と定められた葵だが、速攻で 【ヒプノシス】を発動。
 うまいこと眠らせて、一気に紙風船をわってしまう。
 葵は当然のごとく対策をしていて、【不寝番】で眠りへの抵抗力を付与していた。
 持参していた噴霧器を使うことも、ダイヤモンドダストをつくりだすことも叶わず。
 無念、マビノギオンも救護班のお世話になるのだった。
 そしてここでタイムアップ!
 双方ともに幾人かの選手が残っており、勝敗は紙風船の数にゆだねられた。
 結果は。。。

「やったぁぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 自軍の生き残りメンバーとハイタッチをして、佐保に抱きつく郁乃。
 歓声は、佐保チームからあがったのである。
 
「やったね、佐保さん!」
「みなのおかげでござるよ、ありがとう!」
「これで真田先輩のチョコをいただけます〜v」
「やっぱり勝負事は勝たねぇと、俺達も参加した意味はあったかな」
「拙者も最後まで生き残ったござる、この達成感は大きいでござるよ〜!」
「お姉ちゃ〜ん、やったね〜っ!」
「あたしは途中でやられてしまいましたけど、とても楽しかったです!」
「魔法少女の力を持ってしても敗れぬとは、なかなかやるね〜☆」
「敵チームながらあっぱれなのだ〜!」
「でも悔しいネ〜!」

 温かい甘味のサービスを受けながら、選手達は互いの労をねぎらい合うのだった。