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荒野の大乱闘!

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第7章 見よ! これが生き様というやつだ!

「パラ実生と喧嘩して遊ぶんだって? 俺も混ぜろよ」
 不良たちを殴り倒す要のところに、イルミンスール魔法学校の制服を着た男と、そのパートナーらしき少女2人が合流してきた。
「おりゃ〜! ふぅ〜……、さすがに疲れてきたぁ」
「そりゃあそんだけ暴れてたらな……」
「ちょっといい加減体力もちそうにないよ〜。……あ、混ざるのはいいよ?」
「……どうも」
 疲れが溜まってきた要はその男たち――駿河 北斗(するが・ほくと)と、そのパートナーのベルフェンティータ・フォン・ミストリカ(べるふぇんてぃーた・ふぉんみすとりか)クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)の存在に、最初は気がつけなかった。乱闘が始まってから一体何人の不良を倒したのかわからない上、途中で少々休憩を挟んだが疲れを完全に取り除くことはできず、げんだのいる地点に近づく頃には動きも注意力も散漫になっていた。
 怪我といった肉体的なダメージはアレックスに治療してもらえるが、疲労の方は休まない限り無くなってくれない。たとえ契約者であってもそれは例外ではないのだ。
「ところで、キミ誰?」
 そういえば目の前の男の素性を知らないまま同行を許可していた。それに気がついて質問したのだが、要の言葉に北斗は思わず脱力しそうになった。
「誰なのかも聞かないまま同行を許可したのかよ……。俺は駿河北斗。ちなみにこっちは――」
「私はベルフェンティータ。剣の花嫁よ」
「はーい、クリムちゃんでーす!」
 パートナー2人も挨拶を交わす。実はこの3人はとある思惑の下に要に近づいたのだが、今の段階ではそれを知る者は本人たち以外にいない。
(まったく北斗ったら、わざわざきっちり制服着てイルミンスール生だってことを演出しちゃって……)
(クリムちゃんたちはその点大丈夫だよね。ベルは元々詩人だし、クリムちゃんは本職の魔女だし)
 パートナーがこれから起こすであろう行動について、ベルフェンティータは内心で頭を抱え、クリムリッテは逆に気にしないことにした。
「私は高島要。よろしくね」
「おう、よろしくな。というわけで、早速連中を殴りにいくか!」
「お〜!」
「……お〜、じゃねえよ」
 呆れの感情を隠そうともせず、アレックスは頭を抱える。さっきまで疲れたとか言ってた人間の言葉とは思えなかった。
 そしておそらくは最後になるであろう要の乱闘が始まった。要自身は相も変わらず向かってきた不良を適当に殴り倒し蹴り飛ばすだけの、技術も何も無い適当なケンカを展開させ、一方の北斗は時折光術で目くらましを計りながら、ソニックブレードの動きを応用したパンチを放つ。音速の域にまで高められた拳は、不良を弾き飛ばし、そのまま別の不良にまるでボウリングのように次々と倒していく。
「お〜、それ結構すごいね〜!」
「ま、俺は肉体派だからな」
 そのような会話を交わしながら、2人はハリボテの校舎に向かって歩いていく。
 一方で北斗のパートナー2人だが、まずクリムリッテが北斗に倣って暴れていた。
「はいはーい、燃えたい子はこちら。一列に並んでねー? あっはは、れっつパーティーターイム!」
 口調こそ非常に楽しそうだが、セリフの内容と行動はかなり過激だった。クリムリッテの異名は「紅蓮の悪魔」。古き魔女の1人であり、その象徴するものは炎である。それに忠実なのか、彼女は近くの不良たちを全力の火術をもって焼き払っていた。
「ぎゃー、燃えるー!」
「闘魂の前に体が燃えるわ〜!」
 その上で彼女は物理的に燃えに燃えている不良たちをサイコキネシスで投げ飛ばす。火の玉と化した学ランが飛んでくる光景はかなり危ない……。
「あはっ、このクリムちゃんに喧嘩売ろうなんて千年早いってのよ。出直してらっしゃい!」
 クリムリッテはそう言うが、実際のところ不良たちは彼女に対し本気で攻撃してはいなかった。相手が戦いに来ているというのは感じ取っていたが、やはりクリムリッテが女性であるがゆえに、不良たちはまともな攻撃ができなかったのである。
「まったく……。もう好きなだけやりなさい。でもこっちに火の粉をばら撒かないこと。良いわね」
「は〜い」
 近くを歩くベルフェンティータが眉をひそめながら歌い続ける。彼女はクリムリッテのように直接攻撃には出ず、北斗と要の両方に怒りの歌や恐れの歌といったミンストレルの歌を送っていた。乱闘ともなれば数で押し寄せてくるのが何よりも怖い。それを防ぐためには直接殴る2人の身体能力をいくらか底上げする必要があった。そこでベルフェンティータが選んだのが歌である。
「それにしても、ほんとに楽しそうだこと……、っと、こら私に触れるな。わかったわね」
 前方で楽しそうに拳を振るう北斗と要の姿に、ため息をつくことを我慢するのに苦労した。しかもやはり不良たちが襲ってくる。「氷雪の魔女」と呼ばれていたことのあるベルフェンティータは、やって来る不良を氷術で氷付けにし、その塊をサイコキネシスで吹き飛ばす。
 そうして暴れている最中、戦意の無さそうな者がそこにやって来た。高崎悠司である。
「ようよう、派手にやってんねぇ」
「うん、誰だあんたは?」
 悠司に反応したのは北斗の方だった。
「いやいや俺は単なる伝令ってやつだよ。で、高島要ってのは誰だい?」
「ん、私だけど?」
 名前を呼ばれて、要は悠司に向き直った。
「お、そうかあんたか。いやな、硬派番長のおっさんが高島要って奴とタイマンしてーんだとよ」
「え、タイマン?」
「ああ、いい加減このままだと埒が明かないから、さっさと終わらせたいんだとさ」
「ってことは、ようやくラスボス?」
「え……、あ〜、まあそういうことになるのかな」
「いいよ、行く行く!」
 いとも簡単に要は誘いに乗ってきた。悠司としては面倒が無くていいのだが、こうもあっさり乗ってこられると、いささか拍子抜けというものである。
「……まあいいや。んじゃあこっちだ。さっさと行こうぜ」
 そして悠司の先導の元、要たちは硬派番長げんだの所へと向かうこととなる。