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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

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「ようやく来たか……。無駄な挨拶は無しだ。さっさとはじめるぞ」
「もちろん! さっさと終わらせて、早くエンディング見なきゃね!」
 げんだと要が対面した際の言葉がそれだった。
 そして2人はゴングを待たずに、すぐさまケンカを始める。この勝負に決着がつけば、おそらくはその情報が全体に知れ渡り、乱闘も収束に向かうだろう。
 要としてはこの乱闘に何かしらの責任を取るつもりは全く無かった。そもそも彼女は乱闘がここまでエスカレートした原因が自分であると全く考えていないのである。これは単なる責任転嫁ではなく、全く物事を考えていないだけなのだが……。
 げんだとしては勝とうが負けようがどちらでも構わなかった。とにかくこの発展しすぎた乱闘を終わらせるいい手段としてタイマンを選んだに過ぎない。
 先に仕掛けたのはげんだの方だった。硬派を謳っているだけあって、彼はその拳に何も身につけておらず、まして武器の類も一切持っていなかった。その何も無い拳が真っ直ぐに要を襲う。連戦に疲れていた要は拳に意識は向くものの、それをかわすのは至難の業だったため、両腕を交差させることで受け止める。
 止めた拳を振り払い、今度は要が拳を突き出すが、その腕をげんだに掴まれ、力任せに投げ飛ばされる。体力全快であれば空中で体勢を立て直すことができたが、現時点では叩きつけられる際に受身を取るのが精一杯だった。
「どうした、さすがにもうスナミナ切れか?」
「えへへ、まだまだ気力ゲージは残ってるよ!」
 立ち上がった要は前傾姿勢をとり、げんだに突進する。その低くした姿勢からおそらくは上方向に拳が突き出されるものだろうと予想したげんだは、要のバランスを崩すのを狙ってバックステップを踏んだ。
 だがげんだはその一瞬の判断を誤った。彼は後ろに逃げるのではなく横に逃げるべきだったのである。
 要は突進の途中で地面を踏みしめ、前転の要領で宙を舞ったのだ。頭をさらに下げ、足を後ろから振り上げ、飛び込みざまに踵をげんだの肩口に叩き込んだ。それは蹴りというよりも、前転風の体当たりだった。
「おうっ!?」
 後ろに下がった分、前から飛んでくる攻撃の威力が余分な勢いとなって体を押し、げんだの体はそのまま背中から地面に叩きつけられた。要は逆に回転していた分、げんだの体をクッションとして立ち上がるのに成功した。
「油断大敵、ってやつだね!」
「何のこれしき!」
 倒されたがすぐに立ち上がり、今度はげんだの方から突撃を敢行する。これまでずっと、拳1つ蹴り1つで戦ってきたのだ。時々は投げ技を使ったりするが、基本は目の前の女のような奇策など用いない。ただひたすら打ち込むのみだ!
 だがその性格が災いしたのか、それとも要に一撃叩き込まれたことで頭に血が上ったのか、彼は冷静な判断力を無くしていた。
 そのため、要がげんだの突進を待っていたことに気がつかなかった。右の拳を固め、思い切り後ろに伸ばし、走る勢いを乗せた全力の右ストレート。真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすつもりだったのだが、要の右足が回転の動きと共にげんだの左頬に炸裂する方が速かった。
「ごほおおっ!」
 直線的な動きは、その勢いが強ければ強いほど横からの力に弱くなる。ひたすら前へと進むことしか考えていなかったげんだは、要の回し蹴りによって思い切り横へと飛ばされていった。
「こ、こんな簡単にやられるなんて……」
 それがげんだの断末魔だった。

「はあっ、はあっ……、や、やった……」
 乱闘を勝ち進み、ついにラスボスであるげんだに勝利した要は息も絶え絶えだった。当然だろう、疲労が限界近いところだったのにげんだと勝負したのである。自らの疲れを癒すよりも、ボス戦を選んでしまったツケが回ってきたのだ。
「やった〜、これで、エンディングだ〜……」
「なるほどな、なかなかやるもんだ」
 そこに声をかけたのは北斗である。彼の近くにはベルフェンティータもいた。
「そんじゃあ要、いきなりで悪いがエクストラステージってのはどうだ?」
「へ?」
 北斗の突然の申し出に要は目を丸くした。
 そう、これが北斗の真の目的だった。要が倒されたらそれまでだが、仮に彼女が硬派番長を倒したのなら、その時こそ自分の出番。要の実力がどの程度のものなのかを見極め、そしてその相手と「遊ぶ」。げんだの代わりに要を倒すというわけではなく、単純に機会を窺っていただけであった。なぜならば、彼女はげんだと勝負することが目的のため、その前に勝負を申し込んだところで、他の契約者の介入により邪魔されるのが見え見えなのだ。
 ベルフェンティータの体から北斗は光条兵器を引き抜いた。全長3メートル近い両手剣型の光条兵器「ミストリカ」――魔法剣士を自称する北斗愛用の武器である。
「改めて名乗らせて貰うぜ。パラミタ実業B級四天王、魔剣番長・駿河北斗。荒野で遊ぼうってんなら相手になるぜ。四天王と遊びたかったんだろ。目一杯楽しもうじゃねえか!」
「え、え……ええっ!?」
 これには要も仰天するしかなかった。途中まで味方として行動していた男がいきなり勝負を申し込んできたのである。裏切り、というわけではないようだが、それにしてもここで戦闘を挑むというのは、さすがにタイミングが悪すぎではないだろうか。
「ち、ちょっと待って! さすがにもう体力ゼロなんだけど……!」
「何言ってんだよ。荒野の摂理ってのは弱肉強食。たった今D級を倒したんだから、ここで別の奴に倒されたって文句は言えねえだろうがよ!」
 そして要の返事を待たずに北斗は剣を上段から振り下ろす。
「うわわわわ!」
 当然といえば当然だが要はそこから逃げ延び、アレックスの元へとやって来る。
「アレックス、剣お願い!」
「お、おう!」
 言われるがままにアレックスは光条兵器を要に渡すが、体力が限界に来ている彼女では、刀身を地面につきたてて北斗の攻撃を受け止めるだけが精一杯であった。
「ああもう、馬鹿北斗……、相手がもう限界なのわかんないのかしら」
「い、いやそれよりも、あれ止めなきゃまずいだろ! いくら要が体力バカつったって、さすがにもう限界だぞ!?」
 明確な戦闘力が無いアレックスではフェイタルリーパー2人の戦いを止めることなどできない。だとすれば、今この場で頼りになるのはベルフェンティータとクリムリッテの2人だが、前者についてはため息と共に「我関せず」を貫き通し、後者にいたっては、
「いーぞー北斗そっこだー! もし負けたりしたら許さないわよー!」
「何もせんでも十分勝てるわー!!」
 むしろ応援に回ってしまい、止める気などさらさら無かった。
 別のところでげんだを守るために動いていた面々、及びげんだへ襲撃をかけた面々は、互いに疲弊しており要と北斗の戦いを止めるだけの余裕は無かった。
 要と北斗の勝負は、剣で防御するだけしかできない要の敗北という形で最初から決着がついていたが、北斗の方はそれに構わずひたすら要に打ち込んでいた。
「分かるだろ、一瞬の油断が命取りになんのが。感じるだろ、死を真後ろに控えて生きてるって実感を! これが荒野だ! これがパラ実だ!」
 そして北斗はミストリカを大上段に構え、全力で振り下ろす……。

 だがその刃が要に届くことはなかった。
 要に命中する寸前で、別の誰かの介入によりミストリカが止められたのである。
 止めたのは1人だけではなかった。乱闘前に参加して長らく存在を忘れられていた安芸宮和輝、桐生円、そして鏡氷雨の3人である。要のすぐ前で和輝が全長5メートルの剣「数多叶尽世」を使い北斗のミストリカを受け止め、氷雨が怪力の籠手をはめた腕で北斗の手をがっちりと押さえ、魔鎧のアリウム・ウィスタリアを装着した円が北斗の背後から拳銃を押し当てて止めたのだ。
 本来ならこういった乱入者を止める立場にあったベルフェンティータとクリムリッテは、和輝のパートナーであるクレア・シルフィアミッドと安芸宮稔にそれぞれ牽制され、動きを止められていた。そのため3人は北斗を止めることに成功したのである。
「……B級だかなんだか知らないけど、単なる子供のケンカに大人が出てくるのは感心しないなぁ」
 単なる拳での殴り合いならともかく、ほとんど動けない相手に対し一方的に光条兵器で攻撃し続けた。どちらかといえば悪役を気取ることの多い円としても、さすがにこの状況は見過ごせなかった。
 光条兵器は殺傷力があるから、ケンカがしたいだけなら使うな。自分は要にそう言った。だが別のところでその殺傷力のある武器――しかも強化型を振り回す者が現れるとは……。所々で様々な契約者が要に勝負を挑み、大抵は武器を使っていた。彼女について動くつもりだったが、要が勝手に動き回るためになかなか合流できず、その都度肝を冷やされたものだ。
 それは和輝や氷雨も同様だった。氷雨は拳で殴りあうことで友情が芽生えるというのを体験したかっただけであり、和輝は要と剣術の修行がしたかった。だがその前に北斗のような男が本気で襲いかかってくるとなると止めざるを得ない。
「何を言ってんだ。パラ実ってのはこういうもんだろうが。いつ自分の命が無くなるかわからない、常にスリルと隣り合わせ、常に死が付きまとう。弱肉強食こそがパラ実ってもんだろうが」
「馬鹿ですかあなたは」
 北斗の主張に真っ向から反論したのは和輝だった。
「そもそも今回は単なるケンカが目的でした。殺し合いではありません。それが証拠に学ランの皆さんはみんな拳でした。何人かは武器を手に持っていましたけど、それでも殺傷力は低いものばかりです。それに引き換え、あなたは何をやっているんですか」
「…………」
「あなたのやっていることは単なる殺しです。それを自覚したら、さっさとこの場から離れてください」
「う……」
 和輝の目に射すくめられ、北斗はミストリカを握る両手をかすかに震わせる。
「『熱血硬派ごっこ』をやるならさ、やっぱり拳の方がいいんだよ? だって殴り合わないと友情って生まれないしね」
「うぐ……」
 氷雨のその一言がとどめとなり、北斗は剣を引いた。

「た、助かった〜……」
 一連の戦闘が完全に終わると、気の抜けた要はその場で仰向けに倒れこんだ。
「ほ、ホントに助かったぜ……」
 アレックスもまた緊張が解けたのか、その場に座り込んだ……。