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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

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     ◆

 愛美たちは、尚も花を探している。が、どこかそれは、目的を忘れ去られた散歩に近い。
「さぁ、小谷さん。この美しい花を受け取って欲しいんだ。君にピッタリな、何とも可愛らしいこの百合を」
 寂しそうに見つめていた筈の百合を、今度は嬉しそうに愛美に渡すエース。愛美は「うわぁ!」と、何とも嬉しそうに花を受け取る。
「ありがとうございます! エース先輩!」
「いやいや、大した事じゃないさ」
「どうしました? そんなに難しい顔をして」
 その様子を、それこそ難しそうな顔をして見つめている未沙にそっと声をかけるエオリア。
「あ、いえ……その……」
「大丈夫ですよ、彼は特に下心があるわけじゃないですから。エースはね、花がとっても好きなんです。そして自分が大切に育てた花を、その花が似合う人にあげるのが大好きなんですよ」
「そうなんですか、なんかロマンチックですねぇ」
 どうやら彼の言葉に安堵したのか、素直にもらった花を見て喜ぶ愛美を柔らかな笑顔で見つめる未沙。
「えっと、朝野 未沙さん、でしたよね」
「あ、はい」
「あなたは随分と小谷さんを思っているみたい」
「……はい」
 少し恥ずかしそうに、未沙は俯いた。
「良い友達を持って、彼女は幸せですね。ちょっと、羨ましいなぁ」
「ありがとう……ございます」
 一層照れる様に未沙が俯く。と、隣からひょっこりと顔を出すルクセン。
「うん?何やってんの?あんたたち」
「友達って大事だよね、っていうお話ですよ」
 「ふふふ」と続けるエオリアを見て、ルクセンは「ふぅん」と返した。
「あのさ、その不思議なお花って、どんな形なのかな?」
 急に、全員に対する質問を浮かべるなずな。
「それ、私も気になります!」
 なずなの言葉に一番に反応したのはクリス。
「それはやっぱり、可憐な、小さな白いお花とかじゃないですかね?」
 人差し指を立てて顎の下に置き、天を仰ぎながら首を傾げる瀬織が言った。
「えー! 私ピンクとかがいいなぁ! なんか可愛いしねっ」
「うんうん! ピンク可愛いよねっ!」
 結の言葉に反応したのは美羽。
「小さくて、可愛らしくて、如何にも!って感じだったら、良いですね」
 ベアトリーチェもにこにこしながらそう補足した。
「愛美さんはどんなお花だと思う?」
 再びなずなが尋ねると、真剣な表情になって考え始める愛美。「うーん」と唸り、「どうだろう」と呟き、それが数分にも続く。
「そ、そんなに悩まなくても良いんじゃないか?」
 思わずユーリが苦笑を浮かべながらに愛美へ助言した。「ですよね」と笑う愛美は、しかし「そうだなぁ」と呟き、「やっぱり」と口籠っている。
「もう少し、時間かかりそうですね」
 アニスが苦笑いを浮かべていると、前方を歩いていた二人も会話に参加し始める。
「やっぱり、ちょっと毒々しいんじゃないの? そういう花って」
 と、リディア。
「まぁ、そうだねぇ……あんまり綺麗すぎると色々と厄介だからね、自然界は。だから少し不気味、くらいの方が長続きするものだわねぇ」
 フィオレッラが冷静に考える。
「まぁ、姉さんとしてはどんな花かが分かっただけでも充分なんじゃない?」
「確かにねぇ。見れるだけで幸せだよ。あたしはさ」
「だ、そうですよ」
 クリスがそう合いの手を入れると、一度も“確かに”などと同意している。
「そういえば……」
 そこで話題を変えたのは、淳二だ。
「先輩の話によると、結構危ない。と聞いていましたが、特に危ない思いはしてないですよね、まだ」
「そうですね。此処にくるまでも特に危ない場所があったわけでもないし……今もこうして皆さんでお話してますしね」
 カムイが思い出したかの様に言った。
「安全なのは良い事――コホンッコホンッ」
「うん?どうしたのユイユイ、風邪?」
 結が途中で咳きこんだのを見て、美羽が心配そうに近付く。
「(ユイユイ?)だ、大丈夫だよ。少しだけ、喘息があるんだ、だからそれ」
「あまり無理はしちゃダメだよ?」
「そうですよ、無理は体に毒ですから」
 美羽とベアトリーチェがそう言うと、ようやく“どんな花が良いか”と言う考え事から解放された愛美が、何やら見つけて一同を引き留める。
「ねぇ、皆さん。結ちゃんちょっと休ませてあげようよ。私もちょっと疲れちゃったし」
「賛成だな。少しは休息も必要だと思う」
 ユーリが賛成した。どうやら、両隣のクリス、瀬織もやや疲れが見えてきていた様で、それを心配しての判断らしい。
「先を急ぐものじゃないですしね、賛成です」
 綺人もそう言って、愛美が見つけた少し開けた空間に向かって進路を変える。
「あたしも疲れちゃったから、休憩しよっと」
 なずなも綺人たちの後に続いて、愛美の見つけた空間に向かい、休憩をしようとしていた。が、何かが遠くの方で聞こえる。
「あれ、なんだろう。なんか少し地面が揺れてる様な気が……」
 なずなが今まで自分の立っていた場所に振り返った瞬間、それはやってくる。
ウォウルが全員に、それとなく警告しておいた身の危険。その本来の意味が。
彼等の前にその姿を現したのである。
「愛美、あんたは他の子たちをしっかり守ってあげなさいよ」
 一同はすぐさま戦える様に武器を手にして身構える。その中、未沙とルクセンが愛美の近くに来ていた。
「大丈夫だよ、マナ。ちゃんと、私が守ってあげるからさ」
 そう言うと、未沙が箒状の光条兵器を取り出して身構えた。
「みんな、大丈夫だよ。マナたちは私が守るから、とりあえずみんなはゴーレム倒すのに集中して」
「助かります」
 ふと、未沙の隣に現れたのは、いつしか姿が見えなくなっていた刹那の姿が。一言だけ呟いた彼女もまた武器を手に、目の前に立ちはだかるゴーレムと、辺り一帯を警戒する。
「守りが固いなら、こっちもガンガン攻めればいいんでしょう?」
 レキがにんまりと笑った。
「そういう事だ、まずは俺とルクセンさんで攪乱するから、あとは任せた!」
 エヴァルトがそういうとルクセンと目配せし、ゴーレムの足元へと駆け寄る。
「ノロマめっ! 俺の速度について来れるか!」
 二人でゴーレムを攪乱している間に、魔法による援護の準備は着々と進んでいた。
「まずは氷術です」
 クリスの言葉により、ユーリ、淳二の三人が氷術の準備を進める。
「動きがノロいのならば、更に動けなくしてしまえば良いだけの話だろうよ」
 エヴァルトとルクセンが交互にゴーレムを攪乱させ、決して後ろにも、ましてや前にも動かない様、その場でうまく立ち回り、動きを止める。壁を、天井を、床を蹴り、縦横無人に駆け巡る。
「うぅ……あたしも目立ちたいよっ! ねぇねぇベアちゃん、言っちゃダメ?」
 その様子をうずうずと見ながら美羽がベアトリーチェに尋ねた。
「まずはみなさんのやり方をよくよく見てみればいいじゃないですか」
 何とも重圧のある音と共に、ベアトリーチェは不敵な笑みを浮かべたままに、手にする大剣で地面を穿つ。
「べ、ベアちゃん……?」
「そろそろ氷術、打つなら打てば?」
 遠く、ゴーレムの周辺からルクセンの声が響いた。
「では、さっそく」
 淳二をきっかけに、彼らの前に溜まっていた氷術の塊が、次々にゴーレムの足元へと突き刺さり、みるみる内にゴーレムの足場をなくしていく。
「それでは、動きが止まったところで私たちの出番、ですね」
 カムイが大槌を振りかぶり、軽快な足取りでゴーレムに近付き、轟音共に振りかぶる。
「後ろは任せてよ」
 レキはしっかりと銃を構え、ゴーレムの反撃に備えた。カムイの反対側には綺人が立っており、いつでも抜刀が出来る構えで持って攻撃のタイミングを伺っている様である。
「どうにも圧倒的な気がしますけどね。こちらが」
「気は引けるけど……攻撃する?」
「私はいつでも平気ですけどね」
 和輝、パラス、スノーがそう言いながら、各々の武器で手遊びしながら、しかしこれから行うであろう攻撃を見守っていた。
「相手がまだ戦闘可能状態なら、攻撃って言う事で」
「了解」
「わかりました」
 どうやら瞬時に方針は決まったらしく、臨戦態勢を保ったままに、周り一同と同じく様子を伺う三人。
「せい……やっ!」
 掛け声と共に、ゴーレムの左腕にカムイの大槌がぶつかった。まるでコンクリートを殴った時の様な、何とも乾いた音が響く。
「いい打撃ですね、カムイさん」
 打ち込んだ後の隙を狙ってゴーレムがカムイへ平手打ちをしようとした瞬間。構えていた綺人が抜刀し、ゴーレムの掌を切って捨てた。
「綺人さんこそ、良い太刀筋で関心しますよ」
 互いに賞賛しあっていると、背後から声がかかる。
「二人とも、後ろ!」
 レキの声に思わず上を向く二人の頭上には、綺人が切り落とした方とは反対側のゴーレムの掌が空を覆っていた。思わず頭を抱える二人はしかし、落下の止まっていた掌を不思議そうに見つめるばかりだ。
「良かった、間に合ったね」
 レキがほっと息を漏らし、二人を見つめる。
「どうやら構えておいた意味、あったみたいですね」
 和輝も“何とか間に合った”と言う様にそう言って、ゴーレムを見上げる。
「結構難しいよね、こういうの」
 その隣にでは、パラスが額の汗を拭いながら笑っている。
「私としては、もう少し派手な戦闘を期待してましたが、まぁともあれ、お二人が無事で何よりですよ」
 スノーはゴーレムにランスを突き立てたままにそう言った。