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不思議な花は地下に咲く

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不思議な花は地下に咲く

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     ◆

 その頃ウォウルたちは、というと――。
「ねぇねぇ、みんなの趣味とか教えてよ」
「……」
「………」
「…………」
 ウォウルが一人盛り上がっているのに対し、既に一同は疲労困憊気味である。何より彼、話が長い。そして諄い。故に彼等は既に、殆ど彼の言葉を聞いてはいなかった。
「ねぇ……リオン」
「はい?」
「絶対人選間違えたよねぇ、僕たち」
「そうですね」
 北都とリオンが、苦笑と言うよりはもう、疲れ切った笑顔でそんな事を呟いている。
「だからやめようって言ったのに……」
 その言葉につられて、セルファも肩を落としながらゴチた。
「みんな疲れ切ってるのって、殆どあの先輩の所為だよね……」
「彼、耳良いですからね。そういう事言ってると聞かれちゃいますよ。俺は知りませんからね」
 北都、リオン、セルファの愚痴を聞いていた真人は、少し三人から距離を取って歩いている。
 どうやら彼等、少しでもウォウルと距離を取りたいのか、彼を残して少し前を先行していた。故に自分たちの声は聞こえていないと思っての言葉だ。が、真人の言葉の通り、ウォウルにしろラナロックにしろ、何処に耳がついているのか、随分と遠くまでよく聞こえているらしく、突然会話に入り込んでくるのだからしょうがない。
 一同はため息をつきながら、極力ウォウルと近づかない様に洞窟内を進み続けている。敵の気配と花の探索に加え、後方からやってくる面倒な先輩にも注意を払わなければならないのだから、さぞ大変な事だろう。
「それにしてもさぁ……」
 と、そこで、ウォウルが立ち止った。
「凄いよね、君。中願寺さん、えっと……綾瀬ちゃん?だっけ」
「えぇ」
 彼の後ろを歩く綾瀬に目を向けたウォウルは、まじまじと綾瀬を見る。
「目が見えないのに平然と歩けるんだ。凄いよ本当に」
「幼い頃よりこうでしたから、もう慣れてしまいましたわ」
 「へぇ」と、感心している様なリアクションを取った彼は再び歩みを進める。と、突然綾瀬が彼に声をかけた。
「あの――ウォウル様?」
「うん?」
 振り向く事をせず、返事を返すウォウル。
「ウォウル様はどうやら“コウフクソウ”に関して何かご存知の様ですが、どのような効果の物なのでしょうか?」
「え、何の事だい?」
「無理やりにでも愛美様を引き留めなかったと言う話を伺ったのですが、それから考えるに、命に関わる程危険な存在ではない、と、推測しますが」
 彼女の言葉に、ウォウルは少しだけ言葉を止めた。返事が遅れる。
「まぁ、実物を発見すればいい訳で……私としても、言葉で知るよりも実際に観た方が楽しそうなので、無理に話していただかなくても構いませんわ」
 やはりウォウルは何も言わない。と、急にどこか、綾瀬の雰囲気が変化し、まるで別人の様な雰囲気へと変化した。
「ってな事で、こっからは半分は俺の役目だな」
 あまりに突然の事だったからか、ウォウルは目を丸くしていたが、しかし何か、何かがわかったのだろう。すぐさま彼は額に手を当て、笑い始める。
「おや、おやおやおや。そういう事かい。あっはっはっは」
「うん?何だい先輩、何がそんなに面白いのさ」
「なんでもないよ。それより君、名は何と言うんだい?」
「……わかってんのか。つまんねーの。俺は綾瀬の兄だ、飛鳥って言う。よろしくな、先輩」
「飛鳥君。覚えておくとしようかな」
 中願寺 綾瀬は、己のすべき質問が終わった途端、彼らの前から身を引いた。そして現れたのが彼、中願寺 飛鳥(ちゅうがんじ・あすか)である。
「んで、このドレスが魔鎧。漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)。きっと綾瀬のやつ、ビックリさせたくて紹介してないんだろうから、俺が代わりに紹介しておくよ」
「……どうも」
「これはこれは、魔鎧さんでしたか。ごめんね、気づかなくって。いやぁ、ごめんごめん」
「……別にいいですよ」
 そんな会話を交わしていたウォウルたちの前方から、北都たちの声が聞こえる。
「先輩! あっちの方で何か起こってるよ!地鳴りがするし!」
「急いで駆け付けた方が良いんじゃないですか?」
「なんでしたら、俺たちで先に行きますが」
 北都、リオン、真人の順に声が聞こえる。
「あっちは確か……ああ」
 別段急ぐ様子もなく、今まで通りの歩調で歩みを進めるウォウルは四人に向かって声を発した。
「大丈夫だよ、あっちはラナたちの道だからね、特に急ぐ必要もないさ」
 その言葉に、どうやらセルファとしてはかちんと来たらしい。
「何よそれ! あんた仮にもパートナーでしょ!? パートナーが危ないかもしれないって言うのに、何よその態度!」
 ゆっくりとは言え、既にそこまで大声を出さなくても声が聞こえる位置にいるウォウルに対して、セルファが叫んだ。
「そんなに怒らないでよ。怖いなぁ……僕の言葉がひどいと思うかどうか、なんなら先に行って確かめてみるといいよ」
「言われなくてもそうするわ!」
「あ、セルファ! 待ちなさい」
「僕たちも行こうか」
「そうですね」
 駆け出すセルファの後を追う真人。そして真剣な面持ちになった北都とリオンが二人の後を追った。
「元気なのは良い事だねぇ。僕も見習わないとなぁ」
「随分と軽いノリだね、先輩。そんだけパートナーを信用してるってのかな?」
 少し皮肉った様に飛鳥が言った。体が綾瀬なだけに、その様子は若干歪な物だ。
「そうだよ。信用しているさ。彼女は怒らせると怖いからね、僕は知らんふりしておくのが一番いい」
「ふぅん」
 どこか含みのある笑顔を見せる綾瀬、改め飛鳥は、ウォウルと共にそのままの歩調で、ラナロックたちの元へ向かうのだ。