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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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    ★    ★    ★
 
「んーっと、チョコチップにチーズケーキ、コーンで」
 アイスクリーム屋のワゴンで長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が、ダブルディップのアイスクリームを注文していた。
 ツァンダの商店街は、今日も人通りが多い。
 そんな人を眺めながら、ストリートを歩いて行く。これで、隣に彼女でもいれば最高なのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。
 ウインドウショッピングを洒落てみると、アクセサリーの数々がアンティークなテーブルの上にならべられた物がディスプレイされていた。
「うーん、パートナーのみんなに、何かお土産でも買っていってあげるかなあ。どうせなら、オリジナルの物がいいけど、高そうですしねえ……」
 アイスをペロペロとなめながら、長原淳二はちょっと考え込んだ。ショーウインドウにそんな彼の後ろを通りすぎていくカップルの姿が映る。
「ほんとにいいんですか、お忙しいのに、私の服選びをしてくれるだなんて」
「もちろんだよ。バッチリといいの選んでやるぜ」
 夕条 媛花(せきじょう・ひめか)に聞き返されて、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が自信満々で答えた。
 夕条媛花はいつも天御柱学院の制服をオフでも愛用しているので、さすがにかわいい私服を着せてあげたい、いや、むしろ着ろ――というのがトライブ・ロックスターの思惑であった。それ以上に、それを口実に、こうしてデートに誘えるというのが最大の目的ではあるのだが。
 今までいろいろお世話になっているので、たまにはこういうのもいいだろう。
「確か、この近くに、かわいい服専門の店があったはずなんだけどなあ」
 目的の店を探しながら、二人は大通りを進んで行った。
「ゲーセンに行くのです。ダーリン、ゲーセン、ゲーセン!」
「はいはい、行くぞー」
「ああん、待ってくださいな。そんなに押さなくても……」
「さあさ、行きましょう」
 店を物色しながらゆっくりと進む二人を、アニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)にまとわりつかれた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が走って追い越していく。その後ろを、天鐘 咲夜(あまがね・さきや)に背中を押されたセレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)が胸をゆらしながら追いかけていった。
「なんだ、ありゃ……、あっ、あったあった、この店だ」
 一瞬あっけにとられたトライブ・ロックスターだったが、その拍子に目的の店を見つけて指さした。
「かわいい服専門店?」
 ちょっと疑いの目で、夕条媛花がトライブ・ロックスターを見た。店の中に入って見回してみると、メイド服やナース服やキャットスーツやチャイナドレスや……コスプレショップ?
「たまには、普段着ない服を着てみるのもいいもんだぜ。さあ、着替えた着替えた」
 いつの間にかいろいろな服をかかえたトライブ・ロックスターが、店員の女の子を伴って夕条媛花に行った。何やらトライブ・ロックスターはこの店の常連なのか、あうんの呼吸で店員が夕条媛花を試着室へと引っぱっていく。
 さすがにここで拒絶するのもまずいだろうと思って、とりあえず夕条媛花はおとなしく従うことにした。
「おお、か、かわいい……」
 ミニスカートのフレンチメイド服に着替えてでてきた夕条媛花に、トライブ・ロックスターが見とれた。ピンクのエプロンドレスは、ミニスカートがパニエでふわっと広がって、オーバーニーソックスの絶対領域をかわいく際立たせている。白いエプロンもフリルがふんだんに使ってあって、実にかわいらしかった。
「よし、次お願いします!」
 トライブ・ロックスターが、店員に衣装チェンジを要求した。
 次に夕条媛花が記せられたのはセーラー服だ。胸元が必要以上に大きく開いていて胸当てがないのでちょっと大胆なデザインになっている。たっゆんな人が着ればそれなりに谷間が協調されるのだろうが、残念なことに夕条媛花は平らな胸元の肌が見えるだけである。だが、それがいい! と、トライブ・ロックスターは心の中で拳を握りしめて勝利宣言した。きめの細かい健康的な夕条媛花のお肌を見られただけでも眼福である。
手加減はしねえ。ヘイ、ネクスト、プリーズ!」
 パチンと指を鳴らして、トライブ・ロックスターが要求する。なんだかだんだん悪のりしてきているようなのだが……。
 艶のあるコバルトブルーに輝くシルクのミニチャイナは、夕条媛花の細い手足をすらりと長く見せていた。もっとも、脇下や腰の両サイドに必要以上に深く入ったスリットや大きく空いた背中に、夕条媛花は恥ずかしがってすぐに引っ込んでしまったが。
 次に着替えたゴスロリ衣装は、黒のレースがふんだんに使われていて、ちょっと動くたびにひらひらと揺れ動いた。
 なんだか、だんだんとセクシー系になっているのは気のせいだろうかと、夕条媛花がちょっと訝しんだ。ここまで着替えを楽しんでいて、ちょっと遅すぎるとは言えたが。
「おお、最高だぜ!」
 さすがにバニーガール姿にされたとき、夕条媛花は網タイツにつつまれたすらりとのびた脚で、トライブ・ロックスターに必殺の一撃を入れた。頭の上で、ウサ耳のカチューシャがゆらゆらとゆれる。
さすがに、やばいか……。申し訳ございません。わたくし、調子に乗ってしまいました……」
 トライブ・ロックスターが、土下座して謝る。
 さすがにその後選んだのは清楚な白いワンピースだった。控えめなフリルの飾りが要所にあしらわれていて、かわいいアクセントとなっている。白いレースの日傘と組み合わせたら、とてもかわいいだろう。
「うん、これなら、いつでも一緒にでかけられるぜ」
 満足そうにうなずくトライブ・ロックスターの言葉に、夕条媛花は微かに頬を赤らめた。
 
    ★    ★    ★
 
 ツァンダにある最大のショッピングセンターにあるエントランスは大きく吹き抜けになっていて、ガラス張りの天井からちょうどいい感じの日の光が降り注いでくる。広場と言っていいほどのエントランスには、パラソルつきのテーブルがいくつもおかれ、緑の鉢植えがスクリーンのように要所要所におかれて、それぞれの空間を仕切っていた。
「ここの、特選シャンバラ山羊のミルクから作ったソフトクリームというのは、やっぱり絶品ですね」
 わざわざ行列にならんで買ったソフトクリームをなめながら、長原淳二がそれらのテーブルの間を縫うようにして、アクセサリー売り場を目指していった。
「それで、その子が新しいパートナーなんだね」
「うーん、大きい子ですね」
 竜螺 ハイコド(たつら・はいこど)に呼び出されたソラン・ジーバルス(そらん・じーばるす)藍華 信(あいか・しん)が、紹介された白銀 風花(しろがね・ふうか)を見て言った。身長は175はあるだろうか。
「実は、彼女がふーちゃんなんだ」
「信様のペットのふーですわ!」
 竜螺ハイコドの紹介で、白銀風花がぺこんと頭を下げて挨拶した。
「なんだってえ!?」
「ええと……、冗談だよな?」
 その言葉に、藍華信が卒倒しそうな叫び声をあげ、ソラン・ジーバルスが現実逃避するかのように軽く手を振った。
 ふーちゃんというのは、以前、藍華信が公園で拾ってきたわたげうさぎだ。ハトに餌をやっていたら、そのハトを押しのけるようにして、巨大なわたげうさぎがドスドスとやってきた。泥まみれでハトの餌を奪う姿があまりにもかわいそうに見えたのと、何よりもその巨大さに目を引かれて拾ってきてしまったのだった。
 そのまま何ごともなくペットとして飼っていたつもりだったのだが、いったいなんでこんなことに……。
「いや、なんでもソランが変身しているところを見て、自分も試したらできちゃったとかなんとかで……」
 竜螺ハイコドが白銀風花に代わって説明するが、この場合変身したのではなく、完全獣化の変身を解いたという方が正しいのだろうか。
 なんでも、物心ついたときからずっとわたげうさぎの姿でいたために、自分の基本の姿はわたげうさぎだと信じ込んで、人間の姿になることを忘れてい待っていたのだという。まあ、人間大のわたげうさぎを拾ってきたところで普通は気づきそうなものだが……。
「本当に、本当なのか?」
「はいですわ。ほら、このとおり……」
 ぽんと、白銀風花がふわふわもこもこの巨大わたげうさぎに変身した。
「ほんとだ。ふーちゃんだ。なんで言ってくれなかったんだ。それよりも、飼い主のワタシより先にハイコドに言うなんて酷いじゃないかあ」
 思わずふわふわもこもこをきつくだきしめながら、藍華信が叫んだ。
 白銀風花が、あわてて元の女の子の姿に戻る。
 思わず、きつくだきしめていた藍華信があわてて白銀風花から離れた。
 えっ、なんでという目をして、白銀風花がちょっと悲しそうな顔をする。
「ええと、もうペットっていうわけにはいかないな。ええと、ああうっ、いったいどうしたら……」
 藍華信が頭をかかえた。
「そんな、信様、いつものようにもふもふしてください」
「いつものように……」
 白銀風花の言葉に、ソラン・ジーバルスがじとぉっと藍華信を見る。
「いや、だからペットとのスキンシップをだ。いや、もうペットじゃないから、ああああ」
「で、後一つ、僕の左腕は義手なんだ」
 転げ回る藍華信はほうっておいて、竜螺ハイコドがカミングアウトを続けた。
「ちょっと、それ何だよ。私、聞いてない」
 今度は、ソラン・ジーバルスが竜螺ハイコドにつかみよった。
「いや、この際だから、言い忘れてることはすべて伝えて、クリーンになっていようと思って……」
「そういうことじゃなくて、なんで今まで私にまで黙ってたんだよ。恋人にまで内緒にしておくべきこと!?」
「そんなに騒がなくても……。少し前に、一人であっちこっちに行ってたときにちょっとね……」
「ちょっとじゃないでしょう。いったい、少し前って、いつ? 私と出会う前? 後?」
 詰め寄るソラン・ジーバルスに、竜螺ハイコドが困り果てた。
 その態度が、ソラン・ジーバルスをさらにいらだたせた。腕一本なくしたというのに、平気で恋人に対してでも大したことないからと、言うのを忘れるようでは、この先不治の病になったとしても、言うのを忘れたという理由で黙っていかねないではないか、この男は。
「こうなったら、すべてはいてもらうわよ。もう、放すことがなくなるまでべったりくっついてやる。いい、これから豪遊よ、ハイコドの財布がなくなるまでとことん搾り取るよ!」
「いや、搾り取るのはお金ではなくて、秘密だったんじゃ……」
「細かいことは構うな!!」
 そう叫ぶと、ソラン・ジーバルスは竜螺ハイコドを引っぱって、貴金属売り場の方へとむかった。
「ああ、待ってください、ハコ兄様、ソラ姉様。信様、追いかけましょう。あの、私に乗ります?」
「いいから、ハイコドたちはほっとけ」
「じゃあ、いつものように私をもふもふします?」
「ああああ……」
 どうしていいか分からずに、藍華信が頭をかかえて何かと葛藤した。