リアクション
ヒラニプラのマニュアル 「ふぁーあ、今、なん時?」 ベッドの上で、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、ゆっくりと身体を起こした。 かけていた毛布が滑り落ちて、ちょっと小振りだが形のいい胸が顕わになる。 まだ完全に目覚めない頭でぼーっと周囲を見回すと、隣で寝ていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の艶やかな背中が目に留まった。 そのままセレアナ・ミアキスが目を覚ますかとジーッと見つめていたが、微かな寝息が規則正しく聞こえてくるだけで、それ以上は何もおきそうになかった。昨夜とは、対照的に静かで穏やかな時間だ。 とりあえず、意識ぐらいはシャンとさせようと、セレンフィリティ・シャーレットはベッドから抜け出した。 長い足をストンと床につけると、セレアナ・ミアキスを起こさないように毛布をすり抜ける。一糸纏わぬ裸体が顕わになるが、誰も見る者などいないのだから気にすることもない。もちろん、セレアナ・ミアキスは例外だ。 シャワーの冷水が頬を打つ。冷たさは、すばらしい気つけ薬だ。流れ落ちる水の雫が、まだまとめていない長い髪から、背中から腰のくびれを通って、発達した太腿から足首へと怠惰を流れ落としていく。 バスタオルで髪を拭きながらベッドルームへ戻ると、セレアナ・ミアキスが目を覚ましていた。 「おはよう」 「おはよう。シャワー浴びる?」 「うん」 乱れたショートカットをくしゃくしゃにしながら、セレアナ・ミアキスが答えた。 セレアナ・ミアキスがシャワーを浴びるうちに、セレンフィリティ・シャーレットはいつものビキニ姿に着替えた。ほとんど、全裸のときと変わっていない感じだが、これが彼女のステイタスでもある。 コーヒーを入れながら冷蔵庫を漁ると、昨日買ってきたドーナッツの残りが出てきた。 「これでいいや」 適当に箱を開いてテーブルの上におくと、ナプキン代わりにティッシュペーパーの箱をそばにおく。 「ふう、さっぱりした」 バスルームから戻ってきたセレアナ・ミアキスが、身体にバスタオルを巻きつけただけの姿でキッチンテーブルに就いた。 「ドーナッツか……」 「何か作る?」 「いいんじゃない、それで」 熱いコーヒーを飲みながら、二人はもしゃもしゃとドーナッツにかじりついた。 テレビから、お昼のワイドショーがBGMとなって、ただ流れて行く。 「暇だぁ」 「だって休日だもの」 突然天井をむいて叫んだセレアナ・ミアキスに、セレンフィリティ・シャーレットがあっさりと答えた。 「でも暇だあー」 「歩哨任務や監視任務よりはましよ」 「それはそうだけどさあ。せっかく二人なのに」 「まあ、昨日は疲れたから、のんびりするのもいいんじゃない」 組んだ腕の上に顎を載せてぺったりとテーブルにくっついたセレンフィリティ・シャーレットが、零れ落ちたツインテールを左右に広げて下からセレアナ・ミアキスの顔を見あげる。 「まあ、いいかあ」 ちょっと胸の所のバスタオルの結び目を直しながら、セレアナ・ミアキスが軽く椅子を後ろに倒して言った。 ★ ★ ★ 「防塵パーツですか。そうですねえ、そちらのお嬢さんの構造ですと、インテーク用のフィルターと、関節部のシールド系のパーツが必要ですね」 機晶姫用のパーツ屋の中で、店員がフォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)の仕様を品定めして言った。 「頼むよ、いい部品つけてやりたいんだ。ここなら、いい部品があるって聞いてわざわざやってきたんだよ」 御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が、店員に頼んだ。 キマクでは、ジャンク部品は豊富だが、高性能の純正品は手に入りにくい。 「うーん、なるべく交換が少ない形にすると、サイクロン式がいいんだが、機晶姫にとりつけるとなるとねえ。無難な乾式フィルターにするしかないかな。関節部は、シリコンカバーでかなり防塵と可動は両立できるけど、さすがに戦闘後はメンテナンスは必要だね。サポーターのような形状で、脱着式にすればかなり使い回しはよくなるけどどうします?」 店員が、サンプルの写真を見せながらいろいろと説明してくれた。 「じゃあ、そのリーズナブルな奴で。後、何かほしいものはあるかい?」 御弾知恵子がフォルテュナ・エクスに訊ねた。 「そうだなー、関節自体も新しくしたいし、装甲とか、オイルとか、塗料とか……」 「ううっ」 フォルテュナ・エクスの希望に、ささっと背をむけた御弾知恵子がお財布と相談した。 「後、顔の皮膚や髪の毛も新しくしたいし……、戦闘で結構痛むんだよね」 「うん、たまには女の子らしいことも言うじゃん。よおし、なんとかしよう」 悲鳴を言う財布の口を黙らせて、御弾知恵子がドーンと胸を叩いた。せっかくパートナーが、女の子らしいことに目覚めたのだ。ここでどうにかしてあげないでどうする。 「OK? やったぜ! じゃあ終わったら新しい服も買おう!」 フォルテュナ・エクスは、まったく遠慮なしに叫んだ。 「じゃ、後でヒラニプラ鉄道に乗って空京まで行こうよ。そこで服買って、食事だね その一言に、御弾知恵子のお財布がヒットポイント0になった。 |
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