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学生たちの休日7

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学生たちの休日7

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「……あたらないですね」
「へたくそ」
 シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が、ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)を揶揄する。
 森の中に立てた棒の先に丸い板がついただけの的は、未だに無傷だった。
「こうして使っていれば、何か思い出す思ったのですが」
 シリンダーを出して、排莢する。ばらばらと、地面に薬莢が零れ落ち、すでに転がっていたものとぶつかって乾いた音をたてて跳ね返った。
「まったく。本当にそれはぬしの持ち物なのか?」
「そのはずなんですが。いや、それを確かめるために撃っているというところでしょうか」
 自信なさそうに、ラムズ・シュリュズベリィが言った。
 彼の記憶は一日毎にリセットされる。クトゥルフ学科の主任教師を名乗っているせいかとも思うが、それすら、真実か妄想なのか、本人は分からなくなることが多いようだ。
 今日は、自室の机の引き出しから見覚えのない銃が出てきた。
 これは誰の物なのだろうか。
 いや、自分の部屋、それも自分の机の引き出しにしまわれていたからは、これは自分の物なのだろう。だが、いつこんな物を手に入れたのだ?
 記憶はなくとも、身体はそれを覚えているかもしれない。
 その一縷の期待を試すべく、人のいない場所を選んで試し撃ちを始めたのだが、呆れるほどに命中しない。確かに、身体が覚えてはいたようだ、これは使い慣れていないと。だが、だとしたら、なぜこんな物がある。それとも、何かの目的のために、初めてこれを手にしたとでも言うのだろうか。
「やれやれ、少し撃ち方という物を教えてやろう。いいかな、まずこう構えて……」
 見かねた、シュリュズベリィ著『手記』が、拳銃の撃ち方をラムズ・シュリュズベリィに指導し始めた。
 的の方を見ると、見知らぬ娘が興味深そうにこちらを見ていた。これも、厳格か妄想なのだろうか。
 的にむかって照星をむける。照門をそれに重ねる。その先で、的と娘の姿が重なった。溶け合ったそれが、なぜかパートナーのシュリュズベリィ著『手記』の姿になる。それとも、あそこにあるのは手記そのものか?
 恐ろしく自然に引き金が引けた。
 銃声とともに誰かが倒れた。
「おい!」
 地面の上に、シュリュズベリィ著『手記』が倒れている。
 いや、それは、先ほどまでこちらを見ていた白いドレスの娘だ。
 どこまでが本当か、分からぬままに、ラムズ・シュリュズベリィはその光景を見つめていた。
 
    ★    ★    ★
 
「むにゃむにゃあ……」
 ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)は、のんびりと世界樹の枝の上で昼寝を楽しんでいた。ぴょこんぴょこんと、無意識に猫尻尾が踊って夢のリズムを刻む。
「うう、ここはどこなのだあ。また迷ったのだあ……、ぐすっ」
 また迷ったらしいビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が、ドタドタと枝の上を走ってきた。意図したわけではないが、ウルフィオナ・ガルムのひょこひょこしている尻尾を踏んでしまう。
「みぎゃあ!!」
 飛びあがったウルフィオナ・ガルムが、勢い余って枝の上からずり落ちた。
 ビュリ・ピュリティアの方は、その悲鳴に驚いてあわてて逃げ去っていく。
くそっ、しくったぜ。誰だ、あたしの綺麗な尻尾を踏んだ奴は……」
 かろうじて突き立てた爪で枝の側面に引っかかったウルフィオナ・ガルムは、なんとかよじ登って元の場所へと戻った。
「くそお、何か手がかりは……」
 超感覚を使って、ウルフィオナ・ガルムが周囲の臭いを嗅いだ。
「あれっ、なんかうまそうな匂いがしてくるなあ。あっちからか?」
 枝の先の展望台の方から漂ってきた甘くいい匂いに、引き寄せられるようにウルフィオナ・ガルムは進んで行った。
 
    ★    ★    ★
 
「たまには、こういうところでの読書もよろしいものですね」
「ええ、お嬢様」
 リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)が、紅茶のお代わりを注ぎながら、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)に答えた。
 世界樹の東に面する展望台は、ちょうどいい木陰となって、熱からず寒からず、そよ風が肌に心地よいという感じだ。たまには、こういう場所での読書もいいだろう。
「まあ、わしとしては、本体の虫干しもできるので好都合ではあるがな」
 サンドイッチをほおばりながら、アルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)が言った。すぐ近くのテーブルの下には、足に立てかける形でアルマンデル・グリモワールの本体である魔道書が立てかけてある。
「お暇そうですね。まあ、こんな日でもないと外には出てきそうにもありませんし」
 リリ・ケーラメリスが、アルマンデル・グリモワールに言った。
 放っておくと、アルマンデル・グリモワールにつきあって、レイナ・ミルトリアが引きこもり予備軍になってしまいそうだ。魔術式研鑽などと言えば聞こえはいいが、リリ・ケーラメリスとしてはもっと外に出てリフレッシュしてもらいたいと思っている。
「そうだな、ここで魔法陣の書き方を教えるというのも、趣が変わってよいかもしれぬ」
「ここでですか?」
 読んでいた本から顔を上げて、レイナ・ミルトリアが聞き返した。
「なあに、あの魔法陣であれば……」
「ああ、こんな所で、みんなで美味しいもの食べてる!!」
 突然の大声が、アルマンデル・グリモワールの言葉を遮った。
「やはり来ましたわね、駄猫!」
 さっと、リリ・ケーラメリスが格闘の構えをとる。
「あたしの分は!?」
 怒濤のように駆け寄って、ウルフィオナ・ガルムが叫んだ。
「はいはい。ワタシのをあげますから」
 苦笑しながら、レイナ・ミルトリアがバスケットの中からサンドイッチを一切れ取り出してウルフィオナ・ガルムに渡す。
だっしゃあ、あたしの勝ちだな
「まったく、お嬢様はウル子に甘すぎます」
 はしゃぎながらサンドイッチをぱくつくウルフィオナ・ガルムを横目で見ながら、リリ・ケーラメリスがレイナ・ミルトリアに言った。だが、まあ、そんな予感はしていたのだ。
 ――しまった、なんで特別製マスタード入りのサンドイッチを用意しておかなかったのかしら。ああ、私のばかばかばか……。
 今になって悪巧みを思いついて、リリ・ケーラメリスは自分の頭をポカリと叩いた。