リアクション
★ ★ ★ 一方、こちらは大国のお城の謁見の間。 「このままでは、あなたは女として負けたままです」 眼鏡を左の中指で押し上げつつ、月詠 司(つくよみ・つかさ)は切り出した。 「はぁ??」 玉座で頬杖をついていた女王は、あっけにとられた様子で声を出す。 「わらわがどうして負けなのじゃ。王子はだれの手にも届かぬ場所で眠りについておる」 「はたしてそうですか?」 司は後ろに控えているシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)と、効果的に視線を合わせた。 その思わせぶりな態度に、かちんときた女王は頬杖をはずして玉座に座り直す。 不機嫌そうに眉が寄っていた。 「どういう意味じゃ?」 「今、あの国で何が起きているかご存じないのですか? 王子を目覚めさせるため、国中の者が続々と塔に押し寄せているのです」 「ふん。何をしようと魔女の呪いは解けぬ。王子は死ぬまであそこで眠り――」 「いいえ。そうはなりません」 司の合図で、シオンが前に進み出た。手には、例のおふれがきを持っている。 「……なんと! 白き魔女がこのような真似を!」 「王子は運命の相手からキスを受けることによって、目覚めることが可能となったのです」 おふれがきをクシャクシャに丸め、忌々しげに踏みつける女王。 そんな彼女を見て、司はとある提案をもちかけた。 「むう。半信半疑で来てみれば、まさかこのようなことになっておろうとは…」 あきらかに人が通った形跡のあるいばらの森を前に、女王はうなった。 「さあ女王様。あなたも王子の元を目指しましょう」 シオンがうきうきとした声で背中を押す。 「な、なに? わらわが?」 「そうですわ。そのためにその格好をしてもらったんですから」 今、女王はシオンの手によって男装させられていた。 女王は、これはこの国でだれにも自分と悟られないための変装だとばかり思っていたのだが…。 「ちょっとちょっと、シオン」 司がシオンを引っ張って、少し離れた位置へ連れて行く。 「やっぱり無茶じゃないですか。どう見ても女王は「外見性別:男」には見えませんよ」 ちら、と女王を盗み見る。 女王はその美貌で貴族の男たちを射止め、ついには大国の王との結婚まで手に入れた、絶世の美女だった。残念ながら、いくら男物の服を着せたところで、そのBQBの砂時計体型をごまかすことはできそうにない。 「うーん……じゃあやっぱり、計画第2案の方にしましょうか」 ちょうどタイムリーに向こうから目当ての人物が走ってきてることだし。 「えっ?」 驚く2人の前、シレンとスレヴィの2人が、どっかんと女王の背中に体当たりをぶちかましたのだった。 「なんじゃ、おぬしらは! 痛いであろうが!!」 「……つーーっ…。そりゃこっちのセリフだ!! なんでこんなトコにボーっと立ってやがんだよ! 刺すぞババァ!!」 地面にぺったりしりもちをついて、地面に打ちつけたあごをさするシレンに、ひょこひょこシオンが近付いた。 「まぁまぁシレンさん。そう腹を立てないで。ワタシたち、あなたに良案を授けに来たんですのよ♪」 シオンの言う「計画第2案」とは、ズバリ『シレンと女王をくっつけちゃえば魔女に呪いも解いてもらえるし一件落着だよね!』計画だった。 本当に、その通りにいけばまーるく収まる話だったのだが…。 「はぁ!? なぜわらわが何の教養もない、このようなガサツな熊を夫にせねばならんのじゃ!?」 「こんなババァを嫁になんて、冗談じゃねえ!!」 司、シオンの説得も空しく、2人は同時に叫んだ。 ルドルフ王子に求婚したことからも分かるように、女王は年下の美形好き。ガサツなオッサンのシレンは、反対に吐き気がこみ上げてくるほど生理的に受けつけない。 顔をちらと見ただけで、うっぷと口元を覆ってしまう。 「大体、こんな年増のオバハンより若い娘の方がいいにきまってるじゃねーか! だれが考えたって分かりそーなモンだろー!」 「とっ……年増!?」 「ああ! ババァもババァ、厚化粧の化けモンなんか、お呼びじゃねーんだよっ」 「なんですってぇ!! 盗賊ふぜいが、よくもこのわらわに……ええい、呪い殺してくれるわ!!」 「ま……まぁまぁ…2人とも、そんな興奮しないで…」 「女王を再婚させようなんて、ばかなこと考えているのはどこのだれーーーーっ!!」 なんとかなだめようとした司を、そんな叫びとともに怒涛の疾風突きが襲った。 「うわーーーーーーーっ!!」 悲鳴をあげながら、司は一瞬でお空でキラリと光るお星様になる。 だれに何をされたか、多分彼は全く分かっていなかっただろう。 「あ、あなたは――」 肩で息するリカインの剣幕に押され、あとずさるシオン。 キッ! と振り向き、リカインは主犯である彼女ももれなく疾風突きでぶっ飛ばした。 「お城で話を聞きつけてあとを追ってきてみれば…。 こんな男が新しいお父さまだなんて、私は絶対に嫌ですからね!!」 リカインの激怒に、女王はただ、コクコク頷くしかなかった。 |
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