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●パトニー盗賊団をぶっつぶせ! 4

 盗賊団討伐チームとパトニー盗賊団の大荒野でのぶつかり合いは、果てしなく続くかに見えた。
 もうもうと立ち上がる砂煙の中、剣と剣が打ち合う音、魔法の光が飛びかっている。
 両者一歩も退かない、そんなドシリアスな戦いが繰り広げられる中。

「キャー、なんでなんで起こしてくれなかったのよーーー! ベアーっ!!」

 そんな、今にも泣き出しそうな悲鳴が後方から聞こえてきた。

「何度も起こしましたよ。でも美羽さん、そのたびに「うーん……分かった。起きる」って、ちゃんと返事してたじゃないですか」
「そんなの知らなーーーいっ」
「大体、前の夜に夜更かしなんかするからいけないんです。もっと早く寝ていたら朝にはちゃんと起きられたはずですよ!」
「だってだって、夜中のテレビで『格闘! 種もみ剣士最強伝説!』の再放送やってたんだもんっ! あれ、録画失敗して見逃しちゃってたから、今度こそ見なくちゃって思ってー!」

 とかなんとか。2人は口論しながら一直線に、全速力で戦場を走り抜ける。
 互いしか見ていないので、周囲の喧騒は全く目に入っていない。

 運悪く2人の動線にいた者は、盗賊団も正義の味方も関係なく、皆等しく小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)のミニスカキックで蹴散らされた。
 2人の背後には、もんどりうって倒れるしかばね累々…。

「もー!! 王子のキスシーン見逃したら、ベアのせいだからねっ!」
「美羽さん自身のせいでしょう! そんなにひとの起こし方に文句があるなら、自分ひとりで起きなさいっ」
 何度も言われ続けてついにキレたか、温厚なベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が声を荒げてぷいっと顔をそむける。

「……えーんっ! ベアが怒ったぁーーっ!!」

「あっ、美羽さん、待ってっっ」
「ベアのばかー、わからずやーっ」
 美羽は現れたときよりさらに加速して、近くの人間を跳ね飛ばしながら戦場を走り抜けて行った。


「……ば、か…」
 さすがにその速度にはついて行けず、置いてきぼりにされてしまったベアトリーチェの前に、とんでもない巨躯の盗賊が立ちはだかる。

「よお、お嬢ちゃん。よくもうちの者を痛めつけてくれたなぁ」
 肩に担がれているのは重厚なトマホーク。その刃幅はベアトリーチェの頭より広い。

 青ざめ、ぶるぶる震えているベアトリーチェ。しかしそれは、彼らへの恐怖からではなかった。

「もうっ……もう、悪いのは美羽さんの方でしょう! なのになぜ私が謝らなくちゃいけないような気分になるんですかッ」

 キッとにらみつけ、ベアトリーチェは視界に入る盗賊たちに『我は科す永劫の咎』を次々とぶつけていった。
 完璧やつあたりだ。された方はたまったものでないが、この場合、ぶつける相手は正しいのでよしとするべきか。
 歴戦の立ち回りも用いてひと通り暴れると気が晴れたのか、彼女は再び美羽を追って走り出した。

「やっぱり私が先に謝らなくちゃいけないんでしょうね……はぁ…」

 背後には、変なポーズを決めて倒れている石像累々。
 中には「ありがとうございますっ!」のポーズを決めている切の石像もあった。

★          ★          ★

「……はっ」
「気がつきましたか、アヤ」
「ここは…」
 いまだ残る睡魔の残滓にぐらぐら揺れる頭を振りながら身を起こす。なんだか床までぐらぐら揺れている気がする。
 綺人は、枕元で正座していた瀬織を見上げた。
「僕は一体…」
 一生懸命最後の記憶を思い出そうとする。
 たしか、大荒野でパトニー盗賊団と戦っていたのだ。クリスとかいう遠い国のお姫様と一緒に……それで…。

「お持ち帰りされたのです」
 瀬織が、とんでもないことをアッサリ言い切った。

「――エッ?」

「今、わたくしたちがいるのは、船の上なのです。ユーリが言うには、なんでも、クリスのお国への直行便なのだとか」
 しかしそう聞かされても、綺人には何がなんだか。
「あの……でも…」
 混乱をきたしている綺人。それを知ってか知らずか、瀬織はほうっと息をつき、困ったものね、と言いたげにほおに手をあてる。
「守りきれなくてすみません。でもわたくし、アヤの守護天使ですから。見守ることしかできないのです」
「イヤ……ソレハ、自分デシマスカラ……デモ……………………コレ、何デスカ?」

 床が揺れているのは、つまり、自分の頭がぐらぐらしているからじゃなくて、本当に揺れてるってこと!?

「あの子……王子に会いに、行くって……た、戦うんでしょうっ? 捜してるのは自分より強い相手で…っ?」
 僕、あの子と一度も剣を合わせたことないんですけどーーーーっ!?
「ええ。そのこともわたくし、言ったのですけれど、クリスいわく――」

『私はアヤには絶対勝てないのです! 剣をむけるなんて絶対絶対無理ですから!』

「…………」
 綺人はもう、二の句が告げない。

「もうこうなっては仕方ありません。覚悟を決めるしかないでしょう」
「か、覚悟、って…」
「もちろん、異国で生きる覚悟です。もう船の上なのですから、その方が建設的です」

 瀬織は、綺人が気絶している間中、そう考えて、一定の割り切りというか心の切り替えができたのだろう。
 しかし目覚めたばかりの綺人は、いまだこの展開についていけず、ひたすら絶句するしかない。

「大丈夫です、アヤ。わたくしはどこまでもあなたと一緒です! 守護天使ですからっ」

 言い切る瀬織の前、綺人は、船に乗った女の子は異人さんに連れられてどうなってしまったんだろう? とかぼんやり考えていた…。