リアクション
★ ★ ★ ――ぞくっ。 「なに? 今の悪寒は…」 王子を逆恨みした女王を母に持つリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)王女は、大国にある町のとある小劇場の待合室で、ぶるると背筋を振るわせた。 彼女は身分を偽って、城下町のとある小劇場で歌姫としてときどき舞台に立っている。 なにしろ「私は母であるより女でいたいの!」とかいうタイプの勘違い女、色ボケた親なので、結構自由に動けているのだ。 娘には、とんと関心がないようだ。 多分女王は彼女が年頃の美しい娘に成長していることも、全く気づいていない。 気づいていたら、今ごろ自分の歳と衰えを実感した挙句、王女 に対してかなりやばい手段に出ていただろう。 (それとも、そのことに気づいた…? 今の怖気はそういうこと?) 無意識的にさすっていた手の下で、鳥肌が立っていた。 一番最後に見た女王の姿を思い出す。あれはたしか昨日で、ヒステリー起こしながら王子の運命の相手募集のおふれがきを引き破っていたっけ…。 あんな状態で、王女の存在を思い出したとも考えにくい。 (そもそもここ半年ほど、女王は王子に夢中で、それ以外のことなんか頭になかったみたいだし) 今回死んだ王様も、本当の父親というわけではないし、父親だった期間も短かったので、そんなに悲しいとは思わない。 ただ…。 (今度という今度は、お母様もやりすぎだわ。いくらアイドル顔したイケメンの年下が好きなミーハーとはいえ、ひと回り以上年下の、しかも世継ぎの王子に夢中になるなんて。 でもまぁ、不幸中の幸いというか、あののらくらした王子にもこれで運命の相手が見つかるでしょうし。いくらお母様でも王子に運命のお相手ができてしまえば、きっと諦めもつくでしょう…) 「それでも往生際が悪いようなら、今度という今度は護身のために身につけた疾風突きで王位強制継承でもしてやろうかしら? なんて考えていたせいかしら。お母様とリンクしちゃった?」 もしくは何か、全く別の、嫌なことがこの身に起きそうな悪い予感か…。 しかしリカインも、それ以上深く考え続けることはなかった。 小劇場のスタッフから声がかかったのだ。 「リカインちゃーーん。そろそろ出番だから、スタンバってくれるかなー?」 「はぁい」 化粧道具をぱぱっとポーチに詰め、席を立ったリカインの頭には、すでにこれからの舞台のこと以外はすっかりぬぐいさられていた。 ★ ★ ★ ところ変わって再び塔の周囲の迂回路。 人目につかない侵入路を探してとてとて歩くルナミネスは、野望を夢見る力(妄想力)はひと一倍あったが、計画性とかじっくり腰を据えて構えること(我慢)は大きらいだった。だから黒き魔女にも 「短期集中みっちりコースでお願いします」 と注文をつけていた。 「それはいいが……そうしたら、魔法は尻から出るようになるぞ」 「おしり以外のとこからでお願いします! でも最短コースで!」 その結果、彼女の魔法はアレなところから出るようになってしまっていた。 というか、魔女はスーパースペシャル短期コースを修了した彼女に、そこから出るようになったから、と宣言をした。 あまりに恥ずかしすぎるので、実地に試したことはない。 「でもいきなり本番より、ちょっと試しておいた方がいいかもしれませんね」 そこへ、いきなり野うさぎが道に飛び出した。 これぞまさしく恰好の実験体! 「えーい、これを見ろーーーー!」 ルナミネスは黒マントをにぎりこんでいた両手をがばっと開いた。 その下は、素っ裸である。 魔女は両胸から魔法が出る、と言ったのだ。 なら下半身は何かで覆えと言いたいところだが、侍女である彼女の数少ない服はワンピース型しかなかったのだからしょうがない! 何もつけていない両胸から、今まさにしびびびびと光線が放たれようとしたときだった。 突然横のしげみががさりと揺れて、福が立ち上がった。 「なっ、何してんの、あんたっ!? 道端でいきなり前はだけたりして、あんた痴女っ!?」 いきなり本番とか、これを見ろとか、ぶつぶつ言っていたのをしっかり聞いていた福には、そうとしか思えない。 というか、ここにいるのは自分と彼女だけ。 ということは、彼女のターゲットはアタイ!? 「そんな貧相なもの見せられたら、こっちの方が大メーワク!! ううっ、気持ち悪い……さっさと隠しなさいっ」 思わず口元をおおってしまう。 人に見られた、とショックを受けたルナミネスは真っ赤になってよろめき、板にけつまずく。 ピンがぽーんと抜け、次の瞬間、ゴンッ! とルナミネスの頭にたらいが直撃した。 ルナミネスは、ばったりその場に倒れてしまった。 「……やったわ。露出狂の変態に、正義の鉄槌をくだすことができた…!」 ――しびれ粉というよりも、たらいの重みで気を失ったようですが。 正義は勝ーつ! と自分の成果に小躍りする福。だがそのとき風がぴゅうっと吹いて、福はくらりとめまいを感じた。 「……しまった……こっち、風下だった…」 残念! 福、残念! 「でも……アタイやったよ、トト…。おなかいっぱい食べるために…」 きらきらハートに瞳を輝かせながら、やりきった満足げな顔をしてばったり倒れる福。 あとには、グゥ〜〜〜、グゥ〜〜〜、と鳴り響く、腹の虫の音だけが響いていた。 だれも彼女たちに救援の手を差し伸べる者は現れなかった。 ――ここ、迂回路だしね。 気絶したままの2人に、やがていばらがシュルシュルとツルを伸ばして巻きつく。 2人は、いばらの森に引き込まれてしまった。 |
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