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1ヶ月遅れのイースター

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1ヶ月遅れのイースター

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ダンス・ウィズ・バニーガール

 先の騒ぎで逃げ出さなかった生徒たちが、ざわめきながら雅羅の周りに集まってきた。そのうちの1人、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がいぶかしげに愛美が走り去ったほうを見やりながら声をかけてきた。

「一体なにごとなの? 愛美の様子が変で……バニーガールになってるし。
 呼びかけたけど見えてないみたいだし、目もなんか紅く光ってるし……」

雅羅が呻くようにいった。

「どうやら私のせいらしいの……きっとわたしの災いを呼び寄せる体質のせいよ」

雅羅はイースターエッグをずっと持っており、その卵から現れたらしい先ほどのイースターバニーのこと、バニーにされてしまった人たちが愛美も含めて全部で10人いること、事態を収拾するには校内に隠されたイースターエッグを一刻も早く探し出し、足元の光る巣に全て集めねばならないことなどを手短に語った。

「……そういうことですか。ですがウサギの件はたまたまだと思いますよ」

「そうよ! 言いたい奴には言わせておけばいいのよ」

アーサーとヴィクトリカが言い、大助もうなずいた。

「だ、大丈夫。多少の不幸が重なるなんて誰にでもあるさ……」

集まった生徒たちも同情的にうなずいている。先ほどの、愛美に髪を刈り取られてしまった女生徒が、頭を清楚なウィンプルで覆って声をかけてきた。リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)である。

「これ以上、多くの悲劇を生まない為に、目の前の現実に立ち向かわないと。
 みんなででイースターバニーを食い止めましょう!」

……そう。当座何かに取り組んでいたほうが、自らの悲惨な状況を考えないで済む場合もあるのである。だが、そう語るリリィの瞳には悲壮な決意と、うつろさもまた宿っているのであった。
美羽がツインテールを振りたてて言った。

「そうねっ! 早くみんなを元に戻さないと! 私も協力するよっ!
 とにかく、会った人にこのことを伝えていかないとね」

「学校内7箇所ののどこか、ですか……」

リリィが物憂げにつぶやくと、雅羅が少し元気を取り戻した様子で言う。

「わたしはまず、音楽室を探してみようと思うの。楽器の陰とか棚とかあるし」

全員一致で、おのおの校内を探すこととなった。雅羅たちは何人か坊主にされてしまった生徒に励ましの言葉をかけたり、事情を知らない生徒らに警告したり、協力してくれそうな生徒に声をかけつつ、音楽室へとやってきた。

「うーん、結構探すところ、あるなぁ」

美羽が腕を組んだ。

 神代 明日香(かみしろ・あすか)は調べ物をするためにたまたま蒼空学園を訪れていた。廊下を歩いていたとき金色の閃光に包まれたのだった。
どのくらいそこに立っていたのか。我に帰ると、髪を束ねるリボンと同じ赤いサイドリボン付きのレオタードにウサミミにタイツ。赤いリボン付きチョーカーといういでたちに変わってしまっている。そして手には身の丈よりも大きな、研ぎ澄まされた大鎌が……。

「な、なんなのでしょうこの衝動は……か、髪の毛を刈りたいのですぴょん……
 で、でも、娘の髪は命ですぴょん! 出来れば男性の……」

ふらふらと歩き出す明日香。音楽室のそばを通りかかったとき、大助がこちらに背を向けているのが見えた。

「か〜、髪の毛〜ぴょ〜〜〜ん!!」

おもむろに大鎌を振りかざし、高く差し上げたまま音楽室へ走りこもうとし……鎌の先は無情にも、音楽室のドア枠に突き刺さった。

「あ……あ、刺さっちゃったぴょん」

ほとんど鎌にぶら下がるようにして、あせって鎌の先を引き抜こうとする明日香。雅羅が叫ぶ。

「あ、新手のバニーだわ! 倒すわけには行かない、戦闘できなくする方向で!」

「ラジャー!」

大助が全員が攻撃を避けやすいようすぐに彗星のアンクレットを作動させた。

ようやく鎌を引き抜いた明日香が、大鎌を振り回し……もとい、振り回されてよろよろしながら迫る。しばしば意図しない箇所に鎌の先が刺さり、奇妙なダンスを踊っているようだ。

「下手に動くと首ごと刈っちゃうので危ないぴょん。動かないでくださいぴょん〜!」

「十分危ないですって!」

 アーサーが叫んで、フルーレを構えたまま鎌を避ける。
明日香としては唯一の男性、大助目指しているらしいのだが、右に左に大鎌を振り回しており、その反動で大きくぶれている。そのため狙いも何もあったものではなくなっている。飛び道具はここでは楽器を傷つける恐れがある。ヴィクトリカと雅羅は頑丈な木の譜面台を手に身構え、飛んでくる鎌の平を叩いて軌道をそらした。
不意にリリーがゆらりと明日香の正面に立ち、ウィンプルを脱ぎ去った。吸血鬼に立ち向かう尼といった趣だ。

「既にわたくしには、逃げる必要など無くなっているのです
 逃げるのはあなたですわ、イースターバニー!
 聖なる光に退去せよ!」

バニッシュがすさまじい光輝を放った。目がくらんでよろけた明日香に、美羽がすかさずバーストダッシュの加速を加えた強力なハイキックをイースター・バニーの武器に見舞った。スカートが派手に舞い上がったが、強烈な光で、誰も見えてはいない。すさまじい衝撃に明日香は吹っ飛び、そばにあったベートーベンの石膏像に後頭部をぶつけ、その場に昏倒した。

「……大丈夫、気絶しただけね」

雅羅がすぐ明日香の様子を確かめ、念のためにと紐で明日香の手足を縛った。
全員で卵の捜索を始め、ほどなく楽譜入れの棚とピアノの陰からかすかに金色の微光を放つ、ニワトリの卵の倍の大きさの、ピンク色に白い花柄のものと、淡いブルーに魚模様のイースターエッグを2つ見つけ出した。

「これで2つ。あと8つね」

卵を手に雅羅は言った。大助が気絶している明日香を抱えあげ、皆はカフェテリアへ向かった。