イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

長雨の町を救え!

リアクション公開中!

長雨の町を救え!

リアクション

 ざあざあと雨が降り続いている。中央に近い部分は雨で覆い隠されているほど。そうでなくても、遺跡は嵐の中にすっぽりと入ってしまったかのようだ。
 が、逆に言えば、視界と音を雨が覆い隠してくれているのだ。身を隠すには都合が良い。建物の影に身を隠し、雨から逃れている御凪 真人(みなぎ・まこと)は、通りを警邏するかのように歩くゴーレムを眺めていた。
「強力そうな番人ですね。使う魔法も考えなければなりませんか」
「手足を破壊できればいいんだけど……魔法で防御力が強化されてるみたいだし、難しいか」
 その隣で、セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)が腕を組んでいる。
「やれやれだわ。こんな面倒なことに首を突っ込んで……」
「まあ、そう言わずに。困ってるみたいだからさ」
 すぐそばに控えている翌桧 卯月(あすなろ・うづき)日比谷 皐月(ひびや・さつき)が言葉を交わす。卯月は大きく息を吐いた。
「いいわ、私が何とかするから。協力してちょうだい」
「もちろん、構いませんけど……彼は?」
 真人が皐月を示して問いかける。皐月は片腕で困ったように頬を掻いた。
「見学してろってさ」
「いつも無茶するんだから」
 怒る調子の卯月。セルファは、不思議そうな表情をしながらも、ゴーレムを示した。
「遺跡の方へ戻るみたいね。ここで引きつけておかないと」
「それじゃあ、打ち合わせ通りにおねがいしますよ!」
 真人が杖を振り上げ、ゴーレムへ向けて魔力を解放する。遺跡の一角で起きている嵐が突如吹雪へと代わり、ゴーレムの周りで逆巻いた。
「ゴーレムだけを狙うことはできませんが、動きを鈍らせるくらいなら……!」
 呪文を制御しつつ、セルファにアイコンタクト。セルファが頷いて、剣と盾を手にゴーレムの眼前に飛び出す。
「こっちよ、かかってきなさい!」
 目前に現れた侵入者を撃退するため、ゴーレムはセルファに向けて突撃の構えを作る。が、氷が関節に張り付き、さらには足下が凍っているせいで、踏ん張りがきかない。転びそうになりながら、勢いのない接近だ。
「時間を、稼げばいいのよねっ!」
 その隙に、卯月が一気に間を詰める。軽身功を駆使した足取りは、氷の上ですらしっかと走ることができる。すれ違いざま、ゴーレムの凍り付いた膝を踏みつけるように蹴り、離れざまに矢を放つ。そしてすぐに建物の影に身を隠す。
「どこを見てるの! こっちよ、こっち!」
 ゴーレムが襲撃者を捜している間に、セルファが声をかける。結局、卯月を見失ったゴーレムは、セルファを追う。
「なるほど、頭は使いようだな」
 パートナーのチームプレイを眺め、皐月は呟いた。
「まだまだ。ここからが詰めですよ」
 真人は距離を保ったまま、二人がゴーレムをおびき寄せる方へと向かう。その先には、水没した遺跡の一部。
「さあ、私を追いかけてきなさい!」
 セルファは盾と体さばきでゴーレムの攻撃をかわしつつも、じりじりと押されて水たまりを背負う格好だ。
「……今です!」
「今度は、こっちよ!」
 呪文の用意をしながら、真人が告げる。そのとき、影から飛び出した卯月が弓を放ちながら、軽身功を用いて水面へと駆け出した。
 ゴーレムは見失っていた目標を見つけ、そちらに顔を向けた。侵入者の排除のため、止めなければならない……その命令は、ゴーレムが水に落ちることを避けることよりも強く、体を突き動かす。ましてや、普通、水の上を走る人間との戦い方が、ゴーレムに命令として含まれているわけがない。
「かかったわね!」
 水際に飛び出しかけて急制動をかけるゴーレムの足下をくぐり抜け、セルファは背中側に回る。そして、
「だめ押しよっ!」
 盾に仕込まれたパイルバンカーを、ゴーレムの腰の中心へ向けて打ち込んだ。ゴーレムの表皮を砕くには至らないが、その衝撃が巨体を傾がせる。
「よしっ!」
 卯月が跳び上がり、水たまりの向かい側へと避難するのと同時、派手な水柱を立ててゴーレムが水中へ落下する。
「仕上げです!」
 真人が魔力を込めて、その水面を凍り付かせる。ゴーレムの上半身を巻き込んで、水面が氷に覆われた。ゴーレムは逃れようともがくが、水の中で思うように動きが取れず、氷を砕くに至らない。
「いつまでも閉じ込めることはできないでしょうが……とりあえず、みんなが遺跡の中に入り込むまでは、ここに居てくれるでしょう」
 そうして、真人が親指を立てる。セルファが同じように指を立てて答えた。
「なかなか、うまく決まったんじゃないかしら?」
 濡れた髪をかき上げて、卯月が言う。
「そうだな、いいチームワークだった」
 おかげで楽ができた、とでも言うように、皐月が答えた。なるほど、他人と協力する手本を見せられたような気分だった。


 遺跡は全体としては緩やかな丘になっているのだが、頂上に当たる中央部はすり鉢状にくぼんでいるようで、ついに中央部から溢れた水が待ちへ向けて流れ出した状況であるらしい。
「ゴーレムの数は……だいぶ、減ってきているみたいだね」
 雨から隠れてレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が周りの状況を確かめ、呟いた。
「遺跡が戦いで傷ついているアル……」
 その隣で、チムチム・リー(ちむちむ・りー)が濡れた体を揺すっている。
「もう少しの辛抱だよ。ゴーレムが遺跡の中心部から離れてるおかげで、侵入経路が見えてきてるから。そうすれば、中に入った人たちが女王器を壊してくれるはず」
「うん……。あ、来たよ!」
 チムチムが前方を示す。一体のゴーレムが地響きを立て、源 鉄心とティー・ティー(てぃー・てぃー)を追って近づいてきている。
「このあたりまで引きつければ、十分か……?」
 遺跡までの進路からゴーレムを引き離したことを確かめるため、鉄心が振り返る。視界は雨でなかなか効かないが、かなり距離を稼いだはずだ。
「たぶん……。そろそろ、皆が遺跡に近づいているはずです」
 ティーが返事を返す。その進行上に、レキとチムチムがぱっと姿を現す。
「ここは任せて! このゴーレムをもう少しだけ引きつけておくことができれば、皆が遺跡の中には入れるはず!」
 その背後から、建物の影に隠れていたレキのゴーレムが姿を現す。サイズは二回りほど小さいが……
「壊すのが、目的じゃないもん」
 レキの命令に従って、そのゴーレムは突っ込んでいく。遺跡のゴーレムに組み付いた。
「どうするつもりなんだ?」
 と、鉄心。
「壊すんじゃなくて、時間稼ぎだけ、できればいいアル」
 光学迷彩により、ふっと姿を消してチムチムが答える。かと思った時には、
「そりゃ!」
 チムチムがどこから取り出したのか……おそらくは、着ぐるみの中からだろう……大量のバナナをゴーレムの足下にまき散らす。もともと、雨で滑りやすくなっていた石畳の上、遺跡のゴーレムは踏ん張りがきかず、ずるりと崩れ落ちる。
 2体のゴーレムのとっくみあいも、こうなってはまともなモノにはなるはずもなく、起き上がろうとしては転び、泥沼の様相である。
「なるほど、こうして時間を稼ぐんですね……」
 感心したようにティーが呟く。レキは大きく頷いた。
「だって、女王器を破壊されれば、ゴーレムが戦う理由はなくなるわけでしょ? だったら、壊さなくてもいいじゃない。案外、雨が降らなくなった後は新しい名物になったりして」
「そううまく行けばいいけどな……と」
 鉄心が額を軽く抑える。超人特有のテレパシーによる念話である。
「……よし、本隊が遺跡中心部へ接近したらしい。もう大丈夫だ」
「この子を離しても、大丈夫なのかな?」
 レキが首をかしげる。鉄心が軽く頷いて答えた。
「中心部でゴーレムが暴れて、被害が出ないようにしているはずさ。彼らの仕事は、近づく敵を撃退することだからな」