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リアクション
「だいぶ生徒たちも集まってきましたね」
本日の授業を終えたアルテッツァ、レクイエム、六連 すばる(むづら・すばる)も合流した。周辺の聞き込みに行っていたロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)、レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)、イルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)それにコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)と一緒に。「住民からなんか聞けたか?」とブラウが問うた。
「貴重な証言は特になかったよ。 住民も事件があった時刻には家にいたのに、すぐ外での出来事に気づかなかったらしい」
レヴィシュタールの報告にブラウが「そうか」と肩を落とした。これまでの事件もそんな感じで、周辺からの事情徴収が上手くいっていない。しかし、レヴィシュタールの言葉が「ただ――」と続く。
「ただ、事件現場近くに住んでいる子供が、昨日の夕方に小さな破裂音を聞いたと言っている。丁度事件があった時間に」
「恐らくサプレッサー(減音器)付きの銃を使ったんだよ。サプレッサーを使えば、銃声はささやき声程度の大きさに抑えられるよ。閑静な住宅地でも聞こえにくいかもしれないけど、子供の耳には聞こえたんだね」
イルベルリが己の《博識》を示す。
子供と言うのは大人に比べて、鼓膜が柔らかく大人の聞こえない高音の音も聞こえる。そういった点でも子どもだけが気づいていたのだろう。
「病院にいるダリルも同じ意見みたい。あと、犯人は《光学迷彩》を遣っているみたいだって。銃の型番は今照合中だってさ」
彩羽の報告。有益な情報。しかし――。
「なかなか厄介だな。……姿を見せずに襲ってくるとなると、こっちも相当警戒しないといけないぞ」
ロアがそう呟く。しかも相手は短時間に効率よく犯行を済ませるような輩だ。
「せやな……。こっちもその為の準備はしとるが――。そいや、先生方は何かわかったか?」
ブラウはアルテッツァたち先生がたに意見を求めた。まずはすばるが答えた。
「あなたから貰った学内の『反強化人間派』に属すると目される人達だけど。なんかアイツら纏まってなさそうよ? 結託して何か起こしているような動きはなかったわ」
「やろうな……。どっちかというと学院自体は肯定派よりや。それよりも学外の『反強化人間派』の方が人数が多い。そっちの人間が犯人やったらもっと面倒なことになりそうやけどな――。他にわかった事は?」
レクイエムが報告する。
「強化人間に対する私怨的なところで調べてみたけど、学院の公的記録からはあんまりそういった学院に不利になる情報は残ってなかったわ……当たり前ね。でも昔のゴシップ誌から面白い記事が出てきたわ」
取り出した雑誌をブラウに渡す。発行年は2018年。強化人間の暴走事件が起きた年の刊行物だ。付箋の貼られたページを捲ると。『悲劇・結婚式が葬式に、巻き込まれた新郎と新婦』と仰々しいタイトルがあった。
それはブラウも関わっている強化人間の暴走事件の記事だった。当時の天御柱学院で起きた事故に、結婚予定の二人の教員が巻き込まれて亡くなった。というものだ。ゴシップ誌らしく、脚色の多い文章で二人に起きた悲劇を延々と書きつらねていた。レクイエムにとってはなんとも“面白そうな記事”だったので、つい紹介した。記事が記事だけに信憑性が問われるが、嘘か本当かと言えば――、
「本当の話らしいのよそれ。当時の学院から務めている先生に聴いて確認したわ。でもその肉親からの復讐はなさそうよ。二人の家族は今も日本に住んでいるみたいだし、空京には来た事ないみたい」
「まあ、犯人自体、ここの土地勘のある奴みたいだしな……」とシリウスも賛同。続けてアルテッツァも頷き言う。
「当時、教員と研究者に多くの死傷者を出したみたいですからね。ボクとしてもその被害者の誰かの怨恨で起こしているのが今回の事件ではと思います」
「確かにそれやったら、ワイらエキスパート部隊がよう狙われるのも分かる。ワイらの内の誰かが起こしたらしい事件やからな……覚えとらへんが」
その事件は、ブラウやカナン、最近まで別件を追っていたルージュ関わっている事件だ。しかし、その強化人間の暴走事故が誰のせいなのは分かっていない。当の本人たちも事件のあった以前の記憶がない。
「被害者リスト内の、“生きている”研究者辺りが怪しいと思います。特にこのへんは天御柱関係者の自宅が多い。犯行が東地区周辺に集中しているもの、犯行時刻が夕方のみに集中しているのも、犯人の行動がルーティン化しているのでしょう」
流石は天御柱の教員かとこの時はロアも感心する。しかし、後々彼が学院を訪れた時には彼はアルテッツァに別の感情と落胆を抱く事になるが――。
「じゃ、犯人は今日も事件を起こす可能性が高いんじゃないか? “強化人間狩り”はほぼ毎日犠牲を出してるしさ」
と、ロアが推測する。更に、コアの推論。
「しかも、ブラウの部隊ばかり狙っている。私の予想では、ブラウ、君本人がターゲットなではないか? 君の部隊員を多く奇襲することで戦力を減らし、本人が出てきたところを仕留める。さっきの話からも、君が誰かに恨まれている可能性は高い」
「今まで襲った強化人間が殺されていないのも、ブラウをおびき寄せるための挑発ってわけね。態と殺さないことで、ブラウを犯人に近づけさせやすくしている?」とサビクの論が加わる。
そして、ロアがブラウにある提案をした。
「ブラウ。ここはキミに囮になってもらうのがいい思うんだが……」
犯人の狙いがブラウなら画期的だが、多少危険な掛でもある。
「待って! まだ犯人の狙いがブラウくんと決まった訳じゃないよ」
反対を示すリオ。その隣で、「リオが君付け……」と嫉妬オーラを滲ませるフェルクレートル。
「でも、効果的ではあるかもね」と彩羽もその作戦に賛同。彩華分かっているのかどうかは分からないが一緒に頷く。
「あの……、囮ってなら私がなるよ……。狙われているのが強化人間なら私でも……」
「結奈! お前が優しいのはわかるが、お前だけが囮になるなんてそんなの、俺が許さない」
結奈の献身的意見に直哉が否定的に声を荒らげた。実の妹を危険に晒したくないのだ。
「まあ、マテや。確かに、犯人はワイが狙いかもしれん。そーやないかもしれん。どっちにしたって、犯人の尻尾を捕まえんとあかん。その為の準備ももうしとる。“ワイも囮になったる”」
ブラウは直哉への説得も兼ねてそう皆に伝えると、結奈の肩を掴んだ。
「あぶのーなったら逃げてかまへんで。ちと協力してくれんか?」
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