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リアクション
6
「冗談! 電気が消えたらネトゲができないじゃない!」
停電爆弾の話を聞いた志方 綾乃(しかた・あやの)の第一声は、これだった。
「どうかなあ。ライフラインじゃないと思うな」
と言ったのは、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だ。
「どういうこと?」
「詩穂がテロリストなら、駅や新幹線の制御装置に停電爆弾を仕掛けるかな。新幹線の渦電流ブレーキや回生ブレーキは、電気により制御されているでしょ?」
「そうなの?」
綾乃のパートナー、ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)は頷いた。
「停電爆弾ってのは、おそらくグラファイト爆弾だろうな。――まあ機晶爆弾だから、それによく似たもの、ってことだが。こいつは、爆発によって電気抵抗が低く電気伝導の性質を持つ長い炭素繊維のワイヤーを大量に周囲に放出し、発電所から送電施設や電線路など電力系統の絶縁を損なって電力送出を妨害する。この炭素繊維は大量に施設に付着することで機能を奪うわけだが、これを除去――」
綾乃の目が点になっているのに気づいた。詩穂ですら、ついていくのがやっとの様子だ。ラグナは咳払いをし、
「――要は中に入ってる炭素ワイヤーが発電施設に絡みつくことで停電を引き起こすってことだ。つ・ま・り・だ。万が一爆発しちまっても、お前らが体張ってワイヤーを全部受け止めれば停電は起こりえないって訳だ。多分そのはず。簡単だろ?」
「ああ、なるほど!」
綾乃はぽんっと手の平を拳で叩いたが、再び首を傾げた。
「それで、もし防げなかったら?」
「摩擦円盤によるディスクブレーキのみでは、時速三百キロならば停止まで数キロメートルかかるの」
「……つまり突っ込む?」
「そういうことになるかな」
「大変じゃないですか!!」
「だから、そう言ってるんだろ」
半ば呆れ気味にラグナは言った。
「うむむむ。そうすると仕掛ける場所として最適なのは、駅ビルですかね」
「どうして?」
と詩穂。
「送電ケーブルと変電所の二ヶ所を同時に攻撃できればベストでしょう」
駅ビルが爆発すれば、ケーブルも変電所も同時に破壊できるだろうと綾乃は推理した。
今度は詩穂が納得する番だった。
「送電ケーブルは考えてなかったな」
しかし詩穂は、他の場所の可能性も捨てていなかった。綾乃たちと別れた彼女は、駅の司令室へ向かった。駅へは既にアクリトから連絡が行き、すんなり入れてくれたが、何の異常も見られないという。その生徒に騙されたんじゃありませんか、と案内してくれた駅員は、どこか小馬鹿にした口調で言った。
詩穂の携帯電話に綾乃から連絡があったのはその時だ。また馬鹿にされる気がしたが、駅員にそれらしい物が見つかったことを伝えた。その駅員は「まさかねえ」と言いながら、「まあ、周囲からお客さんを避難させましょう」と答えた。
一度は綾乃の提案により駅ビルに上った二人だったが、実は彼女は高所恐怖症だった。
志方ないのでラグナの「小型飛空艇ヘリファルテ」で降りることにしたが、これがまた綾乃にとっては恐怖で、地上に降りてしばらく使い物にならなかった。
降りながらラグナが見たところケーブル類は無事だったが、正確にどのケーブルが何に使われているかまでは分からない。
変電所は当然立ち入り禁止だったが、ここもアクリトの要請で、入れるようになっていた。
しかし、周囲は機械ばかりである。【先端テクノロジー】を持つラグナですら、区別をつけるのが難しい。
「うーん、やっぱり元でしょう」
と綾乃は変電所の中央制御室へ向かった。そして途中で見つけた。
「……これだ」
地球にあるBLU-114/Bによく似たそれを。
詩穂が朝野 未那(あさの・みな)を伴って現れたとき、ラグナは蓋を外した爆弾を前にどうしたものか悩んでいるところだった。
「どうしたの?」
「下手に弄ると、新幹線が突っ込むんだろ? 最悪、俺と綾乃で防ぐにしても、隙間から飛んだら困るから、おまえが来るのを待ってたんだよ。で、そいつは?」
「朝野 未那ですぅ。解除のお手伝いに来ましたぁー」
「……大丈夫なのか、こいつ?」
「一応、テクノクラートですぅ」
「……そりゃ頼りになるな。よし、二人で取り掛かろうぜ。綾乃と詩穂は万一のときの盾な!」
「出来れば盾にはなりたくないですけど」
綾乃は変電所を見上げた。一つ間違えれば感電死するかもしれないという想像が、俄かに現実味を帯びてきた。
すると綾乃たちの周囲に、何か薄い膜を張ったような感触があった。すぐにそれは消え、今のは何だったのだろうと綾乃と詩穂は顔を見合わせた。
「【耐電フィールド】ですぅ。これで私たちの危険は軽減されますぅ」
ヒュウ、とラグナは口笛を吹いた。
未那の技術は感嘆すべきものだった。精密な仕事を、眉一つ動かさずにこなしていく。そのくせ、生真面目でも切羽詰った顔でもない。ごくごく普通の表情だ。
最後にスプールに巻かれ、プラスチックケースに収められた炭素繊維ワイヤーを抜き出すと、口調も変えずに、
「おしまいですぅ」
と言った。
「やるなあ、おまえ!」
「恐れ入りますぅ」
ラグナは未那の肩をバシバシと叩いた。
「俺も負けてられねえぜ。なっ、綾乃!」
振り返ると、綾乃と詩穂はへたり込んでいた。
「何やってんだ、おまえら?」
「き、緊張の糸が……」
「き、切れたけど切れたまんまじゃいられない……」
詩穂は爆弾のところまで這い蹲ると、その上に手の平を翳した。キン、と頭が軽く痛む。次にデジタルビデオカメラを額に当て、今見た映像をそのまま映し出す。
「どれ」
ラグナが映像を再生した。
真っ白なジャケットを着た男だ――。
迷う様子は全くない。すっとやってきて、ただ置いたという感じだ――。顔は分からないが、髪は短く細身――。
ルカルカ・ルーが読み取った人物とは、違うようだ。
「この映像、学校に持ち帰って見てもらおう」
「おい、他の爆弾は!?」
綾乃がかぶりを振った。
「今から探しても、見つけるのは夕暮れ。解体は無理。それにそんな体力、残ってないでしょう」
「そんなことねえよ!」
勢い良く立ち上がったラグナは、しかしすぐに眩暈を感じてフラついた。
「大丈夫ですかぁ?」
「精神的にかなりきているはず。こんな調子でもし解体したら、今度は爆発しちゃうかもしれません」
「けど!」
「他の人に任せようよ」
と詩穂。
「大丈夫ですぅ。他の爆弾は、姉さんと未羅ちゃんがやってくれますぅ」
ラグナは未那を見下ろした。未那はにっこり笑って言った。
「<アサノファクトリー>にお任せ下さいなのですぅ」
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