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リアクション
3.アンサンブル#1 ― フォー・ユー ―
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彼等は街中を歩いている。住宅地からは少し離れた商店街の様な場所。道の両側には数々の店があって、故に自然、人が賑わっている。ラナロックとそれに付き添う一同は、しかしその光景とは全くそぐわない会話を繰り広げていた。
「いい加減落ち着きましょうよ……ラナロックさん」
淳二は苦笑ながらにラナロックをなだめていた。淳二だけではない、その場、ラナロックに付き添う一同全てが彼女をなだめ、彼女が暴走しない様に細心の注意を払う。
「私は落ち着いてますわよ。もう」
苛立ってはいれど、どうやら彼女、相当プレゼントが気に言ったのか、店のショーウィンドウ越しに髪飾りにしている程に気に入ったのであろう風
鈴を見てにっこりと笑った。
「レキさんとカムイさんが見たら、きっと喜びますね」
ベアトリーチェがそんな事を呟きながら、再び自分の前にいる美羽へと言った。
「うん。まぁそれに、プレゼントは全部自分でも持っていこうってしてたし、私たちのプレゼントも気に入ってくれたみたいで何よりだよ。まぁ……」
言いながら、しかしため息交じりの彼女は、ラナロックへと指をさす。
「貴方……怪しいですねぇ」
「相変わらずな事はしてるみたいだけど、ね」
通りすがりの人々に毎度銃を突きつける彼女をなだめる一同は、それはもう大いに疲れいている様子である。
「あぁ……ウォウルさん、早く見つからないかなぁ…」
託が苦笑し、隣のリオンが笑いながらに呟いた。
「それにしても、ウォウルさんを誘拐だなんて、随分と変わった人――」
彼は隣にいた北都に口を押えられる。
「それ言っちゃ駄目だからね! わかった?」
北都に向かって首を縦に振ったリオンと、ため息をつく北都。その様子を見る一同が笑いながらラナロックに続き歩みを進めると、霧丘 陽(きりおか・よう)が一同に近付いてきた。
「ねぇねぇ、どうしたの? この騒ぎ。何かトラブルでも――」
突然声を掛けられたから、なのか。ラナロックが何の躊躇いもなく彼の太ももを撃ち抜いた。
「貴方、どちら様です?」
「っ!? いぃぃぃぃっっ!?」
「ちょ、ちょっとラナロックさん!」
「大丈夫か?」
悲鳴にならない悲鳴を上げる陽と、銃声によりパニックになっている周囲の人間を掻き分ける様にして様に近付くアキュート。淳二がラナロックの腕をすぐに抑え彼女を制止した。今の彼女ならば、次に陽の頭を狙う危険性は、十二分にあるのだから。
「おい、マンボウ。とりあえず回復魔法掛けといてくれ。弾丸は貫通してるみたいだからそれだけで充分だろ。おい、にぃちゃん。足は動くか?」
「……た、多分…っ!」
ウーマが彼らの元に降りてくると、すかさず回復魔法をかけ始めた。
「おいおいねーちゃん、いきなりってのはもうよせよ。幾ら人手があってもそれやられちまうとこっちの肝が冷えっぱなしだ」
「………」
アキュートの言葉を聞いたラナロックがむすくれながら腕を組み、そっぽを向いた。
「大丈夫?」
託が心配そうに陽に近付いてきて、彼の顔を伺った。
「い、いきなりなんなんですか!?」
「ちょっとね、赫々云々なんだよ」
「……それでも酷い」
「まぁ、お気持ちはわかりますよ」
北都、リオンも彼に近付き肩を貸した。
「先輩! どっちにしても、もう無暗に発砲しちゃ駄目だかんね! 先輩なら犯人が攻撃してきてからでも間に合うでしょ!?」
「そうですよ、あんまり暴れたら、犯人の人たちを捕まえるよりも先に先輩が捕まってしまいますよ?」
「………」
美羽とベアトリーチェの言葉で少しは釘が打てたのか、そっぽを向いたままの彼女に反論はない。
「何の騒ぎですか?」
騒ぎを聞きつけてやってきたルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)は、その光景を見て絶句した。銃を握ったままでそっぽを向いているラナロック、撃たれた為に足を負傷し、北都とリオンに肩を借りている陽、血だまりが出来ている道路。そしてラナロックを咎める一同。
「えっと、殺人現場か、何かです?」
「いや、えっと……これはその――」
淳二はばつが悪そうにルーシェリアの元へやってくる。どうやら何とか穏便に事を済ませようとしているらしい。が、隣にいた託が苦笑しながら彼女に状況を説明する。と、同時に、陽の時の二の舞にならない様、彼女の近くにいる淳二と託以外が慌ててラナロックを羽交い絞めにした。
「あぁ、実はねぇ――」
「あ、託君!」
淳二の静止も遅く、彼はざっくりとではあるが事情を説明し始めてしまった。
「そうだったですかぁ……あの方が、ラナロックさんです?」
「うん……そうだよ」
「ラナロックさーん!」
その足を彼女へと向けるルーシェリア。呼ばれたから、と振り返ったラナロックを見た彼女は、そこで立ち止まり、突然腕を組んで頬を膨らませた。
「ラナロックさん、あんまり皆さんや一般の人に迷惑かけたらだめですぅ!」
「……」
またか、とばかりの表情を浮かべた彼女は、「わかりましたよ」と呟いてホルスターに銃を収める。が……
「あ、敵」
意味の分からない発言をしながら、ラナロックが様子を見に来た一般人へと銃口を向け、発砲する。と、至近距離にいたルーシェリアが突然バックラーを手にはめると、その銃弾を弾く。
「だからぁ! 撃っちゃ駄目ですよぉ!」
「!?」
どうやらその光景、一同としても以外だったらしく、ラナロックを含めた全員が唖然としていた。
「わかりましたかぁ!?」
無言のままに数回、驚いた顔のまま頷くラナロックを見て、ルーシェリアは「なら良かったです」と、にっこり笑顔で頷いた。
何とか騒ぎを収集した一行は慌ててその場を離れ、更に別区画へと向かう。どうやらラナロックも、無暗に発砲できない事がわかったのか銃をしまったまま、一行の一番最後尾を黙って歩いているだけだ。
「それにしてもよく、あの距離でラナロックさんの銃弾を弾きましたね」
衿栖が何やら関心しながら、隣に来ていたルーシェリアへと声を掛ける。
「殆ど山勘でしたですぅ! あの距離ならラナロックさんの指の動きとかで大体のタイミングがわかりますし、タイミングがわかれば後は手を出せば勝手に弾いてくれるですぅ」
「なるほど、キミはそう言う戦い方に慣れている様だな」
「バックラーを使っているのでぇ……あの距離は一応得意レンジですよぅ」
にっこりと笑い、カイに返事を返した。
「ラナさんがまた暴走しそうになったら、よろしくお願いしますね、ルーシェリアさん」
「二度目があるかはわかりませんが、頑張ってみるですぅ!」
両手を小さく肩口に持っていき、握り拳を作って意気込む彼女。と――
「ねぇねぇ、皆」
のんびりと、いつもと変わらない様子で北都が一行に声を掛けた。
「どうしたんですか?」
「ラナロックさん、居なくなったよ。って言うか、今誰かに連れてかれちゃった」
「………え?」
「後を追うぞ!」
衿栖、カイの言葉に一行は慌てて踵を返し、何者かに連れ去られたラナロックを追いかける事にした。
「ウォウルさんに続いてラナロックさんまで連れ去られたら、笑い話にもならないよねぇ……あはは」
託の苦笑に、一同も全くだ、と呟いた。