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リアクション
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「シュークリーム買っちゃった……駄目だなぁ……どうも甘い物には」
呟きながら街中を歩いているのはケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)だった。手には、たった今甘い匂いの誘惑に負けて買ってしまったシュークリームが入った袋を持っている。
「まぁでも、暑いからね。冷たい物食べたいけどアイスって感じじゃ、ないんだよねぇ」
後悔した、と言った風で呟いていたケイラはしかし、にっこりと笑って手に持つシュークリームの袋を見ていた。と、その時である。
「待ってぇ! せんぱーい!」
遠くから聞こえる声。が、明らかにケイラの方へと近づいてくるそれに、顔を上げる。
「うん?」
彼女が見た先には、紫色のカクテルドレスを着た女性が一人、涙を瞳一杯に浮かべて走ってきている。
「えぇ!? な、なな、何! この状況!?」
驚きのあまり言葉を失っているケイラの前で、カクテルドレス姿の彼女、ラナロックがそれはもう豪快に顔面からすっ転んだ。
「………」
「あの、その……大丈夫?」
「………」
露わになった肩。涙を浮かべる瞳。華奢な躯体。なのに腰には銃を二挺。その姿を見たケイラが、更に首を傾げながら恐る恐るラナロックの顔を覗き込む。
「大丈夫……じゃないです」
「え」
「恥ずかしい……もう嫌、死にたい……」
「えぇ!」
「せんぱーい!」
何とか追いついてきた一行も、その様子を見て立ち止った。
「あの、これって状況……?」
「あ、私、説明しますよ」
苦笑のまま、衿栖が彼女に説明を始めた。自分たちの今の目的、此処までの経緯、そして、何故今この様な状況になっているのか。
道端ではなんだから、と、近くにあったベンチにラナロックを中心として一同が集まり、口ぐちにケイラへ説明していく。
隣では、黙々とケイラが買ったシュークリームを彼女からもらって食べているラナロック。
どうやら彼女、甘い物は好きらしく、満面の笑みでシュークリーム頬張っている。
「成程ね、そんな事があったんだ」
「そう言う事だ。なんにせよ、キミがラナロックの足止めをしてくれたのは助かるぞ。ありがとう」
カイがケイラの手を握り、ぶんぶんと振り回す(あくまでも、カイの中では握手の範囲であるが)。
「そうだったわ……」
と、貰ったシュークリームを食べ終わったラナロックがすっくと立ち上がり、腰から銃を引き抜いた。
「犯人、捜さなくちゃ……いけなかったわ」
「ちょ、またそのパターン!?」
「え? えぇ?」
美羽が驚きのリアクションを取っている横で、ケイラはやはり状況が読めない、とばかりにあたふたしている。
「こらこら、街中でそんなもの振り回すと、危ないぞぉ」
声の主はフィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)。両手を腰に当て、何とも眠そうな目のまま、口元だけ笑っている。
「事情は聞いたけどな。勝手に」
フィーアの横にいたデーモン 圭介(でいもん・けいすけ)も、何やら含みのある笑顔を浮かべたままにそう呟いて一同を見やる。
「此処は自分たちも、ラナロッちゅんに協力しよう」
「誰……?」
「ラナロッちゅん? そこの女子の事だっ。自分が今命名してやった」
北都の質問に、圭介は胸を張って答えた。
「まぁ! 素敵っ!」
それに対し、ラナロックは満面の(作り)笑顔を浮かべて圭介に銃を向ける。だから当然、一同は慌てて彼女の手足を抑え込む訳で。
「ってか、(色んな意味で)可愛そうなラナロック……。兎に角、僕たちも協力するからね」
少しも表情が変わらないフィーアを見ている一同が、何処か彼女とラナロックの面影が似ているなぁ、と思いつつ、誰ひとりその事には触れずに道を進める事とした。
一同が再び探索に戻ろうとした矢先、リオンが何かを見つける。遥か遠く、空の上にいるそれを、彼は見つけて北都の裾を引っ張る。
「何さリオン。何か面白いものでも見つけたの?」
「ええ、とても面白いものを見つけましたよ北都。面白すぎてちょっと膝が笑ってしまうくらい」
「…………」
その発言を聞き、リオンの顔を見た北都は、その異変に気付く。彼の顔は、決して笑っていない。
「どうしたの?」
「あそこに――」
リオンが指を指した方向、眩しそうに空を見上げる北都はしかし、彼が見つけた何かを見て驚いた。
「……ドラゴン」
「うん? どうしたんだい?」
北都、リオンの異変に気付いた淳二が、そこで一同に報告した。焦りひとつ隠さずに。
「皆さん! 向こうの空! レッサードラゴンです!」
全員がふとそれを見上げる。悠然と、しかし何かに狙いを定めているドラゴンを見た一同。
「このタイミングでドラゴン。もしかして――」
ラナロックは何か、糸口を見つけた様子で走り出す。
「あぁ! またっ!」
「扇風機、おいてきて正解でしたね……」
ベアトリーチェの苦笑を残し、再び一行はラナロックの後を追って走り始める。