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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

     ◆

 おそらくその場にいる全員にその状況を質問しても、明確な答えを持つものはいないだろう。すなわちそれは――”聞くだけ野暮”という分類の物事として処理されるべき事。
 鳳明、ヒラニィ、天樹と緋雨、麻羅は何故だか現在、荷馬車に揺られていた。その光景になんとも似合いすぎる歌を口ずさみながら。と、そこでヒラニィが歌をやめ、突然のように荷馬車からとびおりた。
「あれ? 何処に行くの?」
「うむ! 今わしはラナロックを見かけた気がするから、声をかけに行こうかと」
「え? 何処にいるの?」
 彼女の言葉を聞き、馬車の中に残っていた彼らは、ヒラニィに習い馬車を降りる。
「わしはその様な人影、見てはおらぬぞ?」
 麻羅は辺りを見回しながら呟くが、彼女の言葉通り、人影のない路地に変わりはなく、ヒラニィの言葉に首を傾げる一方だった。
「違う違う! あそこの路地に人がいたのだ!」
 彼女たちから見て一番手前側の路地へと走るヒラニィを、四人が後を追った。路地を曲がった彼女たちはそこで、ヒラニィが言っていた人影を確かに見る。
「あ、ホントだ」
 鳳明の言葉に如何ほどの意味があったのか、ヒラニィは特に何と返事を返すわけでもなく、走ってその人影に追いつき、声をかける。
「ラナロック、探したぞ! ほら、わしらちょっと道に迷ってしまって――」
「え――?」
 声をかけられた人影が、しかし声をあげてヒラニィへと振り返る。と、そこで声をかけたヒラニィが言葉をとめた。その人影は、ラナロックではない。
「あれ?」
「違うみたい、だね」
「そうじゃな」
『確かに後ろ姿、背格好jは似てるけどね』
 ヒラニィは苦笑を浮かべ、後ずさりしながら謝った。
「す、すまん! 間違えた。人違い。 ごめんね」
「うわぁ、結構最後の方棒読みで適当だし」
 鳳明がその様子を見て、聞こえるはずも無い突込みを入れながら、ヒラニィの元へと近づく。
「ねぇ、ヒラニィちゃん。何だってこんな状況になったかわかるかしら?」
 その声色には、若干の苛立ちが込められていた。
「まぁまぁ、そんなに苛々しないで……」
 緋雨が鳳明を宥めながら二人の下へと近づいてくる。
「それはわしの所為じゃないぞ! 心外な!」
「直接は違うかも知れないけど、でもヒラニィちゃんが『衿栖さんが犯人だぁ』なんて言うから……」
「それも関係ないし! ってか、違う違う、それを言うなら緋雨がだな」
「わ、私そんなこと言ってないよ!」
「まぁ落ち着け」
『そうそう、道に迷ってみんなとはぐれたのは誰の所為でもないから』
 麻羅と天樹が仲裁に入っていると、ヒラニィが突然首を傾げた。
「あれは――ラナロックか?」
「だから、違うって……第一、ラナロックさんあんな格好してなかったじゃない。さっき」
 ヒラニィの疑問に目を向ける一同。その先には、紫のカクテルドレス姿の女性の姿があった。が、その手にはなんとも物騒な銃が二挺、握られている。
『あれ、でもあれって…』
「うん、銃を両手にこの辺うろついてるって言ったら、多分あの人だけだと思うよ」
「どちらにせよ、不振人物に変わりはないがの」
 再び走り出すヒラニィ。どうやら今度こそ、との思いが強かったのか、先ほどよりも幾分か速いペースでラナロックらしき人影へと近づいていく。
「今度こそラナロック――!」
「でも、だとしたら危なくない? あの人、話の感じからしても、さっきの感じからしても、いきなり後ろから声かけられたら……」
 鳳明は暫くの思考の後、慌ててヒラニィを呼び止める。
「待って! あの人に後ろから声かけたら……!」

「ぎゃっ!」

 そこで、ヒラニィの悲鳴が聞こえる。慌ててそちらへと向かう四人。
「ほら、やっぱそうきた」
 姿を見ていずとも大体予想がついた四人は、やれやれ、とばかりにヒラニィたちのもとへと向かう。が、その悲鳴は――全く四人が意図していなかったもの。ヒラニィの僅か数センチ横に、ゴーレムが地面に埋まっているではない。その様子がなんだかわからない鳳明、緋雨たちは、思わず固まったままだった。
「な、何でゴーレム?」
『銃声にしてはずいぶん大きな音だと思ったら、こういう事ね』
 顔が引きつりながらホワイトボードを握る天樹が、ホワイトボードをしまうと武器を手にした。
「(ねぇ鳳明。ゴーレムを倒せば犯人の糸口がつかめるかもしれないよ)」
「そ、そうかな。……うーん、ま、とりあえずヒラニィちゃんを助けなきゃいけないから、戦うしかないよね」
「あーあ、結局お気に入りのお洋服がぁ……」
「汚れん様に立ち回ればよかろうよ。さ、頑張ろうかね」
 それぞれがそれぞれの武器を握り、ゴーレムへと向かって構えを取った。ゴーレムも、背後の彼らが臨戦態勢に入った事に気づいたらしく、四人の方へと振り返った。
「それにしてもでっかいわね、ちょっと困ったなぁ」
 緋雨がそんな事を呟いていた時、不意にゴーレムからは本来聞こえない様な音がする。そう、まるで銃声の様なもの。そしてそれは、ゴーレムの表面にある硬い岩の部分に辺り、数発が地面やら塀やらを削る。そして更に、ゴーレムには似つかわしい声が聞こえた。
「あら、ごめんなさいねぇ」
 一同が思わず目を、耳を疑う中、ヒラニィだけは先に、そのタネを見て驚きの色を見せる。
「ら、ら…ラナロック!」
「なぁに、お嬢さん。暫くぶりねぇ。私に何か御用でも?」
「ラナロックさん? あれ? って事は、ゴーレムの後ろに?」
「そうねぇ、後ろにいるわ」
 と、そこでゴーレムは大きく両腕を空高く振り上げると、それを地面目掛けて叩きつける。必然、道路を舗装しているコンクリートが粉々に砕け散り、なんとも恐ろしい勢いで四人目掛けて飛んできた。
「そういう時は――っと」
 鳳明が数歩前にせり出ると、ゴーレムが殴った位置へ数歩程度まで距離を縮め、手にする槍を自分の前で回転させた。
「そんなものならぜんぜん防げるわよ。残念でした」
 にんまり笑った彼女は、両腕を地面にたたきつけた体制のままのゴーレムへと攻撃を開始する。後ろに控えていた麻羅、天樹もそれに便乗し、攻撃する為にゴーレムとの距離を縮めるのだ。
「あらあら、私の出番は必要ないみたいかしらねぇ?」
 面白そうな表情でその様子を見ていたラナロックはしかし、なおも銃口をゴーレムに突きつけたまま、動こうとはしない。