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美緒が空賊!?

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美緒が空賊!?
美緒が空賊!? 美緒が空賊!?

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第1章 襲われた飛行船

「よたか、アンタあれだけの課題でひっくり返ってるわけぇ? 整備課の課題以外は全て小学校3年レベルよ。アンタのバカって、キリがないのねぇ……って、聞いてないわね、これじゃ」
 呆れたようにそう口にするヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)へと声を掛けたのは、彼らのパートナー、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)だ。
「まあまあ、いいじゃないですかヴェル。これで我々も『夏休み』に合流できるわけですから」
 そう、彼ら3人は先に避暑地へと向かったパートナーと合流すべく、飛行船に乗っていた。
「それにしても、ヨタカは不思議ですよね。整備課の課題にはかけ算わり算以上の数式が出ているのにそれらは平気で、普通のかけ算わり算がだめとは……」
 アルテッツァも不思議そうに首を傾げ、その親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)へと視線を向けた。
「やっと課題が終わったぎゃー。かけ算って何だぎゃーわり算って何だぎゃー」
 2人の話題にされている彼は、今にも魂が口から飛び出していそうな抜け殻状態だ。

「あれっ、あの飛行船って空賊船!?」
 展望台で、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)と話をしていた杜守 柚(ともり・ゆず)が声を上げる。
「あらん? 何かしらあの黒いの?」
「……あの黒い固まりは……空賊でしょうか?」
 レクイエムの言葉に、外へと視線を向けたアルテッツァは、徐々に大きくなっていくその塊に、空賊の旗の髑髏マークを見つけて呟いた。
 そうしているうちに、空賊船から砲弾が放たれ、雅羅たちの乗っている飛行船が揺らいだ。
 周りの乗客たちがパニックを起こし、スタッフの制止も聞かずに展望台から出て行く。
「あっという間にパニック状態ね」
「被弾、ですか。……戦闘の匂いがしますね」
 辺りを見回し、レクイエムとアルテッツァは頷き合う。
「……ぎゃ? ドス黒〜い闘いの匂いぎゃ」
 被弾の揺れで、我へと返った夜鷹は笑んだ。
「ウサ晴らしできそうぎゃ! 楽しみだぎゃ!」と。

「空賊か、厄介な相手だね」
 柚のパートナー、杜守 三月(ともり・みつき)がぼやく。
 そして、再び放たれた砲弾を受け、飛行船が大きく揺らぐと、3人はバランスを崩す。
 倒れかける途中、空賊船の甲板に、黒いコートとドクロマークの入った帽子姿の泉 美緒(いずみ・みお)がいるのを雅羅は見つける。
 空賊退治に出かけた彼女が行方不明になってしまっているのは、学園を越え、噂として聞こえてきていた。
 その彼女が、空賊と共に在る。
(残党に捕まって、矢面に立たされているのでは――?)
 そう考えた雅羅が完全に倒れ込んだと思った瞬間、抱きとめられた。
 彼女を抱きとめたのは、アルテッツァだ。
「娘さん、大丈夫ですか? ……こちらは危険です、避難して下さい」
「ありがとう。でもそういうわけには行かないわ」
 そう答えて、雅羅は彼から離れると、踵を返した。
「雅羅ちゃん!? 何処へ!?」
「美緒さんの姿が見えたのよ! 助けに行かないと……!」
 訊ねる柚に答え、雅羅は飛空船の外に出るべく、展望台の出入り口へと向かう。
「え、あ、私も行きます!」
「あんまり突っ走った行動したら、危ないよ!」
 続く柚に、三月も声を上げた。

「荷物や身代金目当てならいきなり船が沈むことはないでしょうから返り討ちにしてやるわ!」
 空賊の襲撃に、そう意気込んだ宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、不意に聞き覚えのある名前が聞こえた気がして、外の空賊船を見上げた。
(あれ、泉美緒よね? 友達の妹分がなんで?)
 聞き覚えのある名前が聞こえただけではない。
 見上げた先に、その名の少女――美緒の姿を見つけた祥子は目を見張った。
 確かめに行かねばと展望台の出入り口へと足を向ければ、同じように「美緒を助けに行く」と声を上げている雅羅の姿がある。
「手助けさせていただけるかしら?」
 そちらへと近づいて、そう声を掛けた祥子に、
「仲間が多いほど、心強いわ」
 そう雅羅は微笑んだ。

(空賊ですか。人の世の悪党などはこの赤銀の女王(自称)たるわたくしが退治してさしあげますわ♪ そもそも災厄を呼ぶのは魔王の転生体(自称)のわたくしの業ですから対処もしませんとね)
 自称、魔王の転生体だと名乗る神皇 魅華星(しんおう・みかほ)は、空賊の襲撃に、そう思いながら、展望台を出る。
「偶然巻き込まれたけど、これも何かの縁だと思う」
「悪い奴はやっつけろと、運命が囁いてる!」
 想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)と、彼のパートナーの想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)も、空の景色を楽しんでいたというのに、空賊に襲われたことを何かの縁だと結びつけ、雅羅に協力することを告げた。
(災難体質の刑事が主人公の古い映画が地上にあったわね。タイトルはダイ……)
 夢悠の隣で、そんなことを思う瑠兎子の目に付いたのは、雅羅の豊かな胸。
「ダイ・バスト!」
 大声で言いながら、その胸へと瑠兎子が指を伸ばすと、
「そんなことしてる場合じゃないよ!」
 制す夢悠の手が、代わりに触れてしまう。
「きゃあ!?」
「うわっ!」
 重なる悲鳴と、驚きの声。触れた手は、すぐに引っ込められる。
「ご、ご、ごめんっ! でも、姉ちゃんが……!」
 謝罪し、弁明の言葉を並べようとする夢悠に、頬を染めた雅羅が口を開く。
「わ、分かってるわ! 事故よ、事故っ!」
「ごめーん♪ 雅羅ちゃんの緊張を胸ごと、ほぐしてあげようと思って♪ それだけ柔らかかったら問題ないわね♪ お詫びに雅羅ちゃんの胸に傷一つ付けないよう頑張るから許してね」
 瑠兎子の言葉に、ますます頬を染めた雅羅は「あ、遊んでないで、行くわよ!」と声を上げ、我先にと展望台を出て行く。

「ま、待ってよ雅羅さん! 1人じゃ危険だよ!」
 近くで雅羅の様子を見ていた四谷 大助(しや・だいすけ)も声を上げ、追いかけ始める。
「とっとと追い払うわよ! むしろ、残らず叩き潰すわ!」
 グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)も追いかけながら、声を荒げた。
 いつもであれば、他のパートナーが一緒に居たり、逆に自分は置いて出かけられたりして、滅多に大助と2人きりになることなどないのだ。
 それなのに、空賊の襲撃という邪魔が入ってしまった。
「なによ……せっかくの2人きりだったのに……」
 更に、大助はというと、後輩の女の子を心配して、それを追いかけている。
「……? グリムのヤツ、なに怒ってんだ?」
 雅羅を追いかけながら、半歩後ろを駆けるパートナーの様子に、大助は首を捻った。

「またか、黒髭! しかも泉さんが?」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、空賊船を見上げ、その甲板に美緒の姿を見つけて、声を上げた。
「そしてサンダースさんが向かっている!?」
 更に、雅羅が展望室を出て、空賊船へと向かっているのを確認して、ますます驚きの声を上げてしまう。
「1人で行かせるのは危険だ」
 驚いている場合ではない、とエヴァルトはトランクを開けると、中から取り出したアーティフィサー・アーマーやグレートヘルムなどで武装して、更に特殊なフィルターを貼った布で全身を覆い、自身を視覚的に感知できなくさせてから、雅羅の後を追った。

 所用を片付け、彼女の元へと急ぎ、帰ろうとしていた矢先に、飛行船が襲撃されてしまった。
 帰宅が遅くなる旨を彼女に告げるため、電話をかける御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の隣で、
「美緒ちゃんの様子が変だよ!? どうしよう?」
 迫り来る空賊船の甲板に美緒の姿を見つけた、彼のパートナー、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が声を上げる。
「……陽太です。飛行船のトラブルで合流が遅れそうです。……ええ、トラブルが片付き次第、急いで帰りますので……愛しています、環菜」
 恥ずかしげもなく、愛の言葉を囁いてから、彼女との通話を切った陽太は、声を上げているノーンが指差す先、空賊船の甲板を見上げた。
「確かに、ただ事ではなさそうですね。行ってみましょうか」
 彼女の姿を確認し、陽太とノーンも展望台の出入り口へと向かえば、駆け出す雅羅と、幾人かの学生の姿が映る。
「雅羅ちゃん、何か考えがあるのかな? とりあえずお手伝いするよ!」
 ノーンが首を傾げつつ、そう陽太へと告げると、彼も頷き、2人も彼女の後を追った。