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リアクション
「……はぁ、はぁ」
逃げたマキと雅羅、その警護をしている生徒たちは、そろって息を整えていた。
何とか怪物からは逃れられたが、いつまた、どこから敵が現れるかわからない。そんな恐怖が皆を苦しめる。
「……も、もういやぁ。何でこんなところにきたのよ」
そんな恐怖から、ついに雅羅が泣き始める。たび重なる緊張が限界を超え、つい本音が漏れていった。
「なんなのよ、ここぉ……いや、もういやぁ」
「……ごめんなさい。巻き込んでしまって」
雅羅の言葉に、申し訳なさそうな顔をしたマキが頭を下げる。だが、今の雅羅に、マキを気遣う余裕はなかった。
「ううっ、いやよぉ……もう、ウチに帰りたいぃ」
次々に弱音が飛び出す。誰もがどうしようかと顔を見合わせていると、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が雅羅に近づいてきた。
祥子は、凛とした表情で雅羅の前に立つと、大きく手を振りかざし、
――パチンッ!
「しっかりしなさい!」
泣き崩れる雅羅の頬を平手で叩いた。
「貴方が泣いていたって、一向に事態はよくならないのよ。いえ、それどころか、こうしてる間に、例のチカっていう子の命が危ないかもしれないわ」
雅羅に対して、祥子は辛らつな言葉を告げる。だがそれも、彼女なりに雅羅を思っての行動だ。
「この程度の恐怖、乗り越えて見せなさい。それとも、貴女は臆病風に吹かれて、女の子を見殺しにするほど弱い人間なのかしら?」
「ぐすっ……い、いいえ」
「そう。なら、いいわ。さあ、早くチカさんを助け出すわよ」
そういって祥子は雅羅の肩に優しく手を置いた。それに励まされ、雅羅は涙を拭った。
「……はい。すいませんでした。取り乱してしまって。マキさんも、ごめんなさい」
「いえ、気にしないでください」
立ち直った雅羅に謝られ、マキは居心地が悪そうに顔をしかめた。
気まずそうな二人を見かねて、想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が近づいていく。
「ところで、雅羅ちゃん。『耳なし芳一』の話って知ってる?」
「はい?」
突然の話題に、雅羅が首をかしげる。同じく、マキもわからないと首を横に振った。そんな二人に想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が説明した。
「耳なし芳一は、とある寺に住んでいた盲目の琵琶法師です。芳一は、平家の亡霊に憑りつかれ、それを撃退するため、全身にお経を書いて亡霊から身を守ったと言われています」
「え、えっと……その話がどうかしたんですか?」
マキが顔をしかめ、質問を返す。それにクフフと瑠兎子が怪しい笑みを見せた。
「だからぁ……そのお経を、二人にも書いてあげるって話よ! さあ、まずは雅羅ちゃんから!」
「え、え、ええっ!」
困惑する雅羅を差し置き、瑠兎子はどこからか取り出した毛筆を片手に、雅羅の腰をがっちりと掴んだ。
「安心して。ちゃんと服の上からしてあげるから。墨もないから、お経を書く仕草だけになっちゃうけど、それでもお経の効果はあるわよ! 大丈夫! ワタシが保証する!」
「そ、そんなメチャクチャな理屈が……きゃあっ!」
「うっへっへ! 最初はお腹からぁ♪」
「ひゃあっ! や、やめっ、く、くすぐったいわよ!」
「いひひっ! ほれ、ほれぇ〜♪ ここか? ここがいいのんか?」
「ひぃっ! や、ん、んぁっ! や、やめてぇ……んんっ!」
「うぇっへっへ! 口では嫌がってても、身体は正直だぜぇ!」
「んあっ! や、やああっ、……そ、そこはだめぇえっ!」
「ぬっふっふ! それでは、そろそろその豊満なお胸様のほうに、」
――ゴスッ!
「そこまで」
調子に乗ってきた瑠兎子の脳天に、夢悠のチョップが決まる。その一撃で、瑠兎子は頭を押さえて、その場にうずくまった。
「まったく。雅羅さんを元気づけようとして、困らせてどうすんだよ」
「ううっ、ユッチーがお姉ちゃんに暴力振るったぁ」
シクシクとわざとらしく、頭を擦る瑠兎子にハァーと夢悠は長いため息をついた。
だが、そんな二人の様子を見て、雅羅たちの顔にも笑みが戻る。多少は気分転換になったようだった。
だが、
「――きゃあああっ!」
次の瞬間、洞窟の奥から悲鳴が聞こえた。女性の悲鳴だ。それを聞いて、その場にいる全員の顔に、もしやこの声はとの考えが浮かぶ。
「……チカ!」
そう呟くと同時に、マキがいてもたってもいられず走りだした。
そんなマキの動きに、最初に気づいたのは、少し離れた場所から全員を監視していた氷室 カイ(ひむろ・かい)だった。
「ベディ! 止めろ!」
「はっ!」
カイの命を受け、マキの近くで控えていたサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)が動く。走りだすマキを腕に抱き、後ろへ下がらせた。
その隙に、カイが声のした方へと駆け出した。だがすぐにその足は、止まることとなった。
カイの視線の先では、ふたたび夥しい数の骸骨たちがカチカチと音を立てながら、こちらへ向かってきている。
「……ちっ」
舌打ちし、カイは後ろを見た。背後には、マキや雅羅たちがいる。カイの実力なら、骸骨たちを蹴散らして、悲鳴の主を追うこともできる。しかし、これだけの骸骨たちをすべて殺しきって、悲鳴の主を追うことは無理だった。
「……しかたない」
ふぅとため息をつき、カイは刀に手を当てる。薄暗い洞窟の中に、白刃がきらめいた。
「――怯えてる後輩を見捨てられるほど、俺は器用じゃないからな」
そうひとり自嘲的に笑い、カイは単身、怪物の群れへと突っ込んでいった。
その頃、悲鳴を上げたチカは、複数の生徒たちから逃げている最中だった。
追いかけてくる生徒のひとり、神皇 魅華星(しんおう・みかほ)はハァハァと息を切らしながら、走っている。
「ま、待ちなさーい! わ、わた、わたくしたちの話を聞くんですーっ!」
魅華星は必死に叫んで、チカに止まるよう求める。だが、相変わらずチカは、スピードを落とすことなく、逃げ続けていた。
「ま、まったく……なんで、止まってくれないのですか? わたくしはただ、この骸骨を操っているネクロマンサーについて聞きたいだけですのにぃ」
愚痴るように、魅華星は呟く。彼女は、チカがこの骸骨たちを操るネクロマンサーのことを知っていると考えていた。
そして自身もネクロマンサーであり、『ネクロマンサーは、生者と死者とをつなぐ存在だ』と考えている魅華星としては、このような形で死者を操る敵に、納得がいかないのだった。
「絶対許しませんわ! こんな暴力のために死者を弄ぶなんて! このわたくしが、真のネクロマンサーとしての心構えというものを叩き込んで差し上げます!」
「……フッ。どうでしょうかね」
気合十分の魅華星に対し、その横を走っていた高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)が嘲笑するように呟いた。その言葉に、魅華星はムッと顔をしかめる。
「どういう意味ですの?」
「別に。ただ、あのチカって子自身が、そのネクロマンサーって可能性も捨てきれないんじゃないかと思っただけですよ」
玄秀は魅華星と違い、チカこそがこの事態を引き起こしている元凶だと考えていた。だからこそ、彼は魅華星の行動が無駄なモノに見えていた。
しかし、そんな玄秀の意見を、魅華星は一笑する。
「はっ! 何を言い出すかと思えば! そんなことあるわけないじゃないですか!」
「へー。何でそんなことが言えるんですか?」
「そんなの決まってます! あんな可愛い子が、悪いネクロマンサーなわけないじゃないですか!」
「……それ、マジで言ってるんですか?」
ふたたび、玄秀の顔に嘲笑の色が覗く。だが魅華星はあくまで強気な姿勢を崩さなかった。
「当り前ですわ! アニメだった小説だって、ああやって逃げ回っている女の子は、いつも被害者ですもの!」
「ふっ。話にならないですね」
「何ですか! 赤銀の魔王にしてネクロマンサーの王(自称)であるこのわたくしに向かって、その態度は!」
「別に。気に触ったんなら謝りますよ」
「うぐぐっ!」
二人がそんなやりとりをしているその時だった。二人の正面から白い影が飛び出してくる。思わず、二人の足が止まった。現れた影を見て、顔をしかめる。
「ちっ……出ましたか」
現れた骸骨が二人の行く手を塞ぐ。それに玄秀は露骨に舌打ちした。
「こんな雑魚、いちいち相手にしてられませんね。適当に倒して、先を急ぎま、」
「ダメよ、玄秀」
玄秀の意見を、パートナーであるティアン・メイ(てぃあん・めい)がぴしゃりと否定する。真剣な視線を骸骨に向け、ティアはバスタードソードを構えた。
「死者の魂を弄ぶのは許せないわ。この骸骨たちを放っておくなんて、私にはできない」
「あ! 貴女いいことを言いますわね。わたくしも貴女の意見に賛成ですわ!」
そう言って魅華星も『メテオブレイカー』と名付けた光条兵器を取り出す。二人はすでに戦う気満々といった様子だった。
「……はぁ。またティアのおせっかいが……しかも、今回は二人だし」
気合の入った二人の女子に、玄秀はひとりため息をついた。
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