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リアクション
救助隊の参加者たちが、洞窟に入ってから一時間ほどが経過していた。
その頃、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はたったひとり、骸骨たちの目を盗んで、洞窟の奥深くまで進んでいた。
(ふむ。ここまでは順調に侵入できたが……)
洞窟の天井に逆さまの状態で掴まりながら、唯斗は眉間にしわを寄せている。
(例のチカとかいう女の子は見つからないし、骸骨どもはあちこちにウヨウヨしていやがるし)
そう呟く唯斗の下では、カタカタと音を立てながら、複数の骸骨たちが獲物を探るように動きまわっている。
(まさかこんなに、骸骨どもがいるとはな。んな事、出来るネクロマンサーなんているわけ……いや、確かに心当たりはあるけど)
そんなことを考えながら、唯斗は頭に浮かんだ人物の姿を思い浮かべる。
その時だ。唯斗が思い浮かべた人物が、のそりのそりと洞窟の中を歩いているのが見えた。
「……噂をすれば」
アイツは一体何をしてんだと、呟きながら、唯斗は天井から離れて地面を歩くエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の前に降り立った。
「よお、エッツェル」
「ん? おや。誰かと思えば、唯斗さんですか。妙なところで会いますね」
どこかのんびりした様子でエッツェルが言葉を返す。そんなエッツェルに、唯斗は不審げな視線を向けた。
「お前、こんなとこで何してんだ?」
「いや、それなんですがね。気まぐれにフラフラとそこらを散歩していたら、いつの間にかこんな洞窟の中まできていたんですよ」
不思議なこともありますよねと、呑気に告げるエッツェル。そんな気の抜けた返事に、唯斗のほうが顔をしかめた。
「はぁー……まぁいい。ところで。この骸骨どもだが。まさか、お前が喚んだんじゃねえよな?」
「骸骨? ……ああ、先程からそこらをうろついてる死霊のことですか。それなら、」
そこまでエッツェルが呟いた次の瞬間、
――ゾブッ!
エッツェルの胸を、白骨の腕が貫いた。彼の背後から近づいた骸骨の一体が、彼を殺そうと襲いかかったのだ。
明らかに致命傷に見える一撃。普通の人間なら、即死していてもおかしくない。
だが、
「――ああ、もう。本当に、さっきから鬱陶しいですね」
こともなげにエッツェルはそう愚痴ると、左腕におさめた奇剣「オールドワン」を出す。その奇怪な剣を使い、背後から襲ってきた怪物を一撃で粉砕した。
「……相変わらず、人間離れしたヤツだな」
「いえいえ、それほどでも」
身体に残った骸骨の腕を引き抜きながら、エッツェルは平然と答える。
「とりあえず、今のでわかったよ。どうやら、この件にお前は絡んでないんだな」
「ええ、そうですね。そういえば、唯斗さんはどうしたんです? 今日はおひとりで、洞窟探検ですか?」
安心する唯斗に、今度はエッツェルが質問する。それに『ああ、そのことか』と、今度は唯斗のほうが、こともなげに告げた。
「エクスとかと一緒にきたんだけど、あいつら遅いから、置いてきた」
「……まったく、唯斗のヤツめ。妾を置いていくとは」
唯斗たちからずいぶんと離れた場所で、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)はそう愚痴っていた。自分を置いていった相棒に対しての苛立ちを、隠そうともせずに頬を膨らませている。
「まあまあ、エクス姉さん。そんなに怒らないで。唯斗兄さんだって、悪気があったわけじゃ」
「いや。むしろマスターの場合、悪気がないことのほうに問題があるんじゃないですか?」
紫月家の良心と言える紫月睡蓮(しづき・すいれん)が、エクスの機嫌を取り、プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が素直な感想を口にしている。
「プラチナムの言う通りだ。まったく……一度、本人に文句を言ってやらねば、妾の気が済まんぞ」
そう言いながら、エクスは長双剣型の光条兵器「契約器・テスタメントギア」を取り出し、両手に構える。正面から一斉に襲い掛かってくる白骨の亡霊たちを、次々に切り裂いていった。
「とにかく、唯斗を探すぞ。その後、例のチカとかいう少女を助けるとしよう」
「うーん、でもエクス様? 私は、そのチカって娘が怪しいと思うのですが?」
エクスたちの身を案じ、プラチナムがそう助言する。逃げ回っているチカこそが、この現状を生み出している元凶である可能性はある。ならば、不用意に近づくのは危険ではないかと、プラチナムは考えていた。
「で、でも、もし本当に救助が必要だったら、可哀想ですよ?」
心配そうに睡蓮は、エクスとプラチナムの顔を交互に見つめる。そんな睡蓮の頭を撫でながら、エクスは心配ないと告げた。
「いずれにしろ、彼女を捕まえんことには話にならんだろう。チカという娘が黒か白かということは、捕まえた後に論じればいい」
「……そうですね」
やれやれと、プラチナムは頷いた。それに睡蓮も満足げな表情を浮かべる。
「さて、まずは唯斗だ! アイツはすでに黒だとはっきりしている。見つけたら容赦するのではないぞ」
そんなエクスの言葉に、二人は苦笑いを浮かべた。
マキの護衛チームに混ざっていた月詠 司(つくよみ・つかさ)はその時、顔をしかめて困惑していた。
「……あの、シオンくん? 今、なんと?」
「だから、リルを呼びなさいって言ったのよ」
司の相棒である吸血鬼、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)はニヤニヤと笑みを見せながら、司にそう告げた。
「えっと、とりあえず、それは何故?」
「わからない? これだけあちこちに骸骨がいるのよ。警護の人手が、多いにこしたことはないと思うけど?」
「うーん。一応、筋は通ってるけど」
何か引っかかるといった様子で、司は顔をしかめる。それにムッとシオンが表情を曇らせた。
「何? 何か不満でもあるの?」
「いえ、そういうわけでは……ただ、私としてはむしろ、そこにいるマキくんのほうに注意した方がいいと思っていましたので」
「……へー♪ 司もなかなかいいところに目をつけるわね」
そういうと、シオンはその表情に不敵な笑みを浮かべた。
「やはり、シオンくんも彼女が怪しいと思いますか?」
「さーねー♪ そんなこと、今はどうでもいいでしょ」
クスリと笑い、『今はまだ、ね?』と意味深な言葉を小さく呟くと、シオンは顔をあげた。
「それより、今はリルよ。早く呼び出して。あのマキって子を調べるなら、それこそ人手が必要でしょ?」
「はいはい、わかりましたよ」
そう告げると、司は渋々、召喚に納得する。次の瞬間、司の胸元が怪しく光り、空間を裂いて、悪魔、リル・ベリヴァル・アルゴ(りる・べりう゛ぁるあるご)がその場に出現した。
一見、十歳前後の少年にしか見えない彼は、眠そうに目蓋を擦っていた。
「……ん? なんだよパパ、いきなり呼び出したりなんかし……え?」
その時だった。丁度良く、出現したリルの足元の土が盛り上がる。そこから、白い骨の手が伸び、ガシッとリルの足を掴んだ。
「――は、はわっ、はわわわわわわわっ!」
口をパクパクさせ、リルの顔が一気に青ざめる。土の中から骸骨が顔を出した瞬間、恐怖はピークに達した。
「で、でででで出たぁああああああああああーーーーっ!」
この世の終わりだと言わんばかりの悲鳴を上げ、リルは一目散に逃げ出した。そんなリルの姿を見て、シオンはケラケラと腹を抱えて爆笑していた。
「きゃははははっ♪ やっぱり、リルは予想通りの反応を見せてくれるわ♪」
「……シオンくん。リルくんがこうなることを知って、仕向けましたね?」
「さー、どうでしょう♪ それじゃ、ワタシはこれから使い魔で、逃げ惑うリルの姿を盗撮……じゃなかった。使い魔で、周囲を監視してるから」
そう告げると、楽しげにシオンは使い魔の操作に集中してしまう。やれやれと、ひとり司は疲れたため息をついた。
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