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リアクション
浜辺に現れた巨大クラゲの話は、そこそこ広い海岸でバラバラになってゴミ拾いやトラブルの解決に奔走していた他の掃除屋を現地に集結させていた。
掃除屋である雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)もその一人である。
「ちょっと!? 大変な事になってるじゃない!? ゴミ拾いなんかしてる場合じゃないわね!!」
万博の宣伝を兼ねてパビリオンの衣装を着ている雅羅の背後に立っていた樹月 刀真(きづき・とうま)と南部 豊和(なんぶ・とよかず)、ルクセン・レアム(るくせん・れあむ)が、彼女の発言と共に、思い思いの表情で互いを見やる。
「俺は……」
刀真が重い口を開く。
「彼女の災厄について自分なりに考えて彼女と接しようと思っていた。ああいう独りの奴を放っておくのは個人的に無理だからな。だからゴミ拾いを手伝っていたんだ」
豊和が刀真に同意の視線を送りつつ、朔のエンリルと格闘する巨大クラゲを見つめ、
「僕は、安全で楽しい海水浴を楽しんで貰おうって思って掃除屋に参加したんです。ところが、雅羅さんも掃除屋をやっていると聞き……。あぁ、変な意図はないのですが、ただ前のコンビニの時みたいに、変な人に絡まれるんじゃないかと思いまして。心配なのでゴミを拾いながら雅羅さんを探して合流したんです」
二人の話を聞いていたルクセンも口を開く。
「私は人手がどうしても足りない、と頼まれたので。ええ……終わったら掃除屋の人達と海水浴したいなぁ……ホラ、夏も終盤なこの時期に、掃除屋を手伝う訳ですが、どうにもゴミや女子の敵なクラゲがいるようで。ひとつ、大掃除をしてみますか、て感じかな?」
三人の会話を聞いて、雅羅と同じパビリオンの衣装を着た漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、冷ややかに呟く。
「どうして特攻隊の出撃前夜みたいな話をしているの?」
「ゴミのポイ捨て禁止」と書いた看板をいくつか抱えていたレミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)が、現在の場所にも一つ、パイルバンカーで掘削した後にそれを立て、
「月夜様……状況は非常に酷似していると思われます」
ここで話は、雅羅一行が平和にゴミ拾いをしていた時まで戻る。
刀真は雅羅と共にゴミ袋を持ち、海岸を歩きながらゴミを拾い集めていた。
一番量が多くなるであろうし、重そうな燃えるゴミは刀真が、軽いペットボトル類は雅羅が、やや重いビンや缶は月夜が担当する、という取り決めで黙々と作業をしていた。月夜はこの担当制度にやや反論しようとしていたが、刀真の「もし、彼女に俺のを渡すとする……足に重いゴミ袋を落とされて骨折したいか?」という説得力ある一言で渋々同意した板。
「あーあ。私に限って、どうしてこういう地味な仕事ばかり斡旋するのかしらね……でも、仕方ないのかな」
雅羅も薄々、己の巻き起こす厄災について考え始めているようだ。
「雅羅、何か思うところがあるようだけど、俺達は気にしないから」
「……万博のパビリオンも、きっと……何か起こるんでしょうね」
コンパニオンの服を掴む雅羅に、同じ服を着た月夜が儚く微笑む。
「違うよ、雅羅。これは、万博だし私達の展示物【蒼空学園の今までとこれから】の宣伝も兼ねて現在のパビリオンの衣装を一緒に着ようってだけじゃない?」
余談であるが、月夜は更衣室で一緒に着替えが終わった後に、雅羅の胸を見て乙女ちっくなダメージを受けていた。必死で寄せて上げても、月夜のそれは雅羅に及ばない。
更に、着替え終わって刀真の元に戻る際、海水浴客の、主に男性の視線が、自分ではなく並んで歩いている雅羅にばかり向けられている事がトドメとばかり彼女の胸に突き刺さっていた。
「(……くっ悔しくないモン! 私のもちょっとは大きくなってるモン!)」とはどちらの言葉であろうか?
月夜の回想はさておき、刀真は足元に海から流れ着いた流木を見る。
「(邪魔だな……でも、ゴミにするにはやや大きい……切って小さくするか)月夜! 黒の剣を出してくれ」
「え……」
サッと胸をガードする月夜。
「……ん? 何不思議そうな顔をしてるんだ? 光条兵器の黒の剣だって……」
「また……揉まれる」
「いや、珍しくないよ!? 毎度毎度胸鷲掴まないよ! ちょ!? 雅羅さん? どうして視線がブリザード!? 待て待て、誤解だって!!!」
慌てふためく刀真の傍を豊和とレミリアが通りかかる。
「皆で安全に海を楽しむために、ご協力お願いしま〜す!」
「ん?」
「あれ、雅羅さん? また何か問題ですか?」
ズズーンと暗くなる雅羅。
「えぇ!? あ、あれ?」
「豊和、どうやら雅羅様はまだ問題の発生前かと……」
レミリアがフォローを入れる。
「豊和もゴミ拾いを?」
「ええ、刀真さん。ほら、海てそこの流木の他にも、危険なものが一杯流れ着いてますよね。釣り針とか、割れたガラス瓶とか……」
「ああ、危険だな」
刀真の言葉にまた雅羅が落ち込むのを月夜が確認していた。
「本当、海水浴に来た人には、ゴミ箱があるんですから、ちゃんとそこに捨てて欲しいものです……」
そう語る豊和は、由緒ある掃除屋の出で立ちをしていた。すなわち、危ない物を踏んでも大丈夫な厚底のビーチサンダルに軍手といった装備である。
豊和とレミリアは、ゴミを集めつつ、海岸に捨てるような人達が居れば、ちゃんとゴミ箱に捨てるように呼びかけもしていた。
レミリアが肩に抱える看板もその啓発のためである。
予め「ポイ捨て禁止」と書いた看板をいくつか用意していたレミリアは、豊和のゴミ拾いに付き合いながら、間隔をあけて海岸に建てていた。少々景観は悪くなるのは彼女も承知の上の行動である。
「要は、ゴミを出させなければ良いのだけど」
と、言いつつも、目に止まった常識の範囲内に留まらない執拗なナンパ行為、痴漢、恐喝等々のゴミへの的確且つ非情なパイルバンカー攻撃は幾度か行っていた。「掃除屋だ。社会のゴミを掃除しにきた!」とか……案外、ノリノリで。
「あれ? あんた達も雅羅と一緒なの?」
そこに、同じくゴミを拾っていたルクセンが合流する。
「ルクセンさんも掃除屋を?」
「そう! 何かさ、昨日掃除屋のバイトの人が浜辺で怪我して人手が足りないからって」
「そのバイトの人は、私と行動を共にしてた人だわ……」
海を見つめていた雅羅が呟く。
「え?」
「……全治一ヶ月だって……」
潮風が雅羅の髪を揺らす。
皆が黙った海岸にザザーンと波が打ち寄せる。
「え……と、どうして浜辺のゴミ拾いでそんな大怪我を……?」
ルクセンに、みなまで言うな! とばかり月夜が走りよる……と。
「ん? 何?」
ルクセンの慎ましい胸元を見た月夜が、彼女に握手を求めていた。
巨大クラゲ来襲の一報が彼らに飛び込んできたのは、そのすぐ後である。
「雅羅・サンダース三世、お前の物差しで俺や月夜を測るな……お前が勝手に気にして壁を作っている原因の災厄なんか、俺達なら鼻歌混じりのスキップで乗り越えられるんだよ!」
月夜の胸元から取り出した光条兵器『黒の剣』を構えた刀真が、襲いかかるクラゲの触手を断ち切り、叫ぶ。
「フフフ……私のパイルバンカーが光って唸る!」
レミリアがパイルバンカーで打ち出した杭が、雅羅に襲いかかる触手を砂浜に固定する。
「体の殆どが水だということは……火術!!」
「私だって負けないわよ!!」
豊和の腕から放たれた炎と、ルクセンのアーミーショットガンのスプレーショットがクラゲを牽制する。
「凄い……これなら雅羅の悪しき伝統を打ち破れるかも!!」
雅羅を中心とした陣形を組んでクラゲを迎え撃つ刀真、豊和、レミリア、ルクセンを見ていた月夜が、胸元にしまってあるラスターハンドガンを抜くのも忘れる程、見事な連携を見せる。
「みんな、気をつけてよ!! あの触手は半透明、目を凝らさないと接近されて海に連れてかれるわよ!!」
と、雅羅が未だ朔のエンリルと格闘を続けるもう一匹を見やる。
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