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リアクション
「――ティアさん、お疲れ様です。少し一休みしませんか」
ティアが一回りして自席に戻ると、タイミング良く芦原 郁乃(あはら・いくの)と秋月 桃花(あきづき・とうか)が歩み寄ってきました。
許可を得てティアの隣に椅子を引いて座った二人は、紅茶とお菓子を差し出してティアに進めます。
「ありがとうございます」
礼を言ってカップに口をつけたティアは、改めてくるりと辺りを見回しました。
それぞれが和気あいあいと会話を楽しみながらお守りを作っているようです。
「ティア、久し振りだね」
そんなティアに郁乃がにこにこと話しかけました。
「はい、あの時はそのぅ……すみませんでした」
「ううんいいのいいの! 大変だったけどちゃんと戻してくれたし、何だかんだで楽しかったしね」
でも、と苦笑を浮かべて、郁乃は紅茶を啜る。
「あの時は私であって私じゃなかったから、ちゃんとお話できなくて残念だなぁって思ってね。ティアとちゃんとお話したかったの」
「へっ」
「折角だし仲良くなりたいじゃない? 元気だったかも知りたいし、積もる話って色々あると思うの」
「ティアさん、この機会に少しお時間を頂けませんか? 息抜きがてら、おしゃべりでも」
「は、はい! ……ぜひ」
郁乃と桃花の提案にティアははにかむように笑って見せます。
「さぁさぁ、お菓子も食べて食べてー。桃花のお菓子は美味しいよ!」
「わぁ、いただきます」
「お菓子! さっそくお守りの効果だね!」
郁乃が勧めたお菓子の皿に伸びる、ティアのものではない手。
さっといくつかのクッキーをかっさらっていったのは天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)でした。
思わずあっけに取られて見ていると、パートナーであるフィアリス・ネスター(ふぃありす・ねすたー)と次原 志緒(つぐはら・しお)も近寄ってきました。
「すみません、みなさん。ほら、結奈ちゃん。ちょっとは遠慮しないと」
「ふふ、たくさんありますから皆さんもどうぞ。フィアリスさんも」
「あっ、ありがとうございます」
「ご歓談中にすみません……」
「いいよいいよ〜。皆で話そうよ」
「このお菓子美味しい!」
「……ほんとですねぇ」
結奈と一緒にティアも舌鼓を打ちます。
「フィアリス、編み終わったけどこの先どうすればいいの?」
「あっ、そうね。ペンダントにでも加工しましょうか」
もくもくと紋様を編んでいたクラウディア・テバルディ(くらうでぃあ・てばるでぃ)に問いかけられて、フィアリスは振り返ります。
「みなさんお上手ですねぇ……きれいな紋様」
「願いを込めましたから」
「効果抜群みたいだもんね!」
賑やかな結奈たちを見ながらおしゃべりに興じていたティアが、紅茶のカップを置いたその時。
「――見つけたのだよ、ティア!」
「ふぇっ!?」
背後から呼びかけられてティアは飛び上がらんばかりに驚きました。
慌てて返事をしながら振り返ると、そこにはリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)が立っていました。
「ええっと……?」
何のご用でしょう、と首を傾げると、リリはがしっとティアの手を掴む。
「ティア、君の魔術はすごいと聞いた。そこで頼みがあるのだよ」
「な、何でしょう……?」
「君の魔道書を見せてほしいのだよ。その強力なエンチャントの秘密をリリも知りたいのだよ」
「え、ええっ!?」
「お願いだ、その力は何処から来るものなのか知りたいのだ」
「お、お見せするわけには……というか今手元にないのです……」
「見せてもらえるなら待っている」
「で、でも……ここを離れるわけには……」
「それならせめてこのエンチャントの秘密だけでも教えてほしいのだが」
「え? それはえーっと、思いを込めてつくることです」
「ふむ、してその方法とは?」
「願いに応じた方法を間違いなく使うこと。そのために知識が必要、です……魔道書はつまりその教科書なので……」
「では、こういった場合は……」
リリの剣幕に負けて汎用魔術について話し始めた二人は、いつしか議論を交わしていました。
元々ティアも魔女ですから、魔術の話は得意分野です。あーでもないこーでもないと話す二人は楽しげにも見えました。
「あれ?」
いつの間にかいなくなっていたパートナーを探していたユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)は、すっかり話しこんでいるリリたちを見つけてくすりと笑みをこぼしました。
「リリちゃんにお守りを作ったけど……もう願いが叶ったみたい」
手のうちにあるお守りにかけた願いは『リリちゃんに友達が出来ますように』。
そのお守りと二人を見遣って、もう一度微笑むと、ユノは二人へと歩み寄っていきます。
「リリちゃ〜ん、そろそろティアを解放してあげなよ〜」
「ユノではないか」
「ティアは今日は先生なんだよ〜。他のみんなもティアとお話したいだろうし、独り占めは此処までね〜」
ね、と微笑みかけると、リリは素直に頷いた。
「手元に魔道書はないというし、また後日ゆっくりと話しにくることにしよう」
「あ、ねぇ、ところで貴族と結婚できるお守りってやっぱり無理?」
「え、そ、それはちょっと……」
「ティア、ちょっといいか!」
ユノたちとティアに割って入るようにして現れたのは、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)でした。
「俺どうしても強くなりたいんだ。ティアは装備強化のエンチャントも作れるんだろ? ってことは強くなる方法も知ってるよな」
「え、えっと、それは……」
「どうすれば強くなれるんだ? 一時的でもいい、戦闘中だけでも強くなる方法を教えてくれ」
勇刃に肩を掴まれて、ティアは困ったように眉を寄せました。
「はいはい、そこまでにしろよ」
と、その瞬間ティアを後ろから引く影がひとつ。
「今日はそういう場じゃないだろ? それにティアが困ってる」
「っ、だが……」
「強くなりたいのなら折角なんだしそういうお守りでも作ったらどうだ?」
「お守り……」
「そう、ティアのお守りは普通のお守りじゃないぞ。人の性格を変えちまうくらいの力がこもってる」
「あ、……」
な、と牙竜に視線を向けられて、ティアはちょっと気まずそうにこくこくと頷きました。
「わ、わたしも勇刃さんの為にお祈りしますから……!」
「もー、今日はもめに来たんじゃないでしょー。ほらほら、みんなティアと話したがってるよ」
郁乃にも宥められ、勇刃は渋々その場を引きました。
パートナーのところに戻りつつも、後ろ髪惹かれたような様子の勇刃を牙竜も苦笑して見送ります。
「あ、ありがとうございます……」
「ん? 気にすんなって。それより材料少なくなってきたから取ってくるな」
ぽふ、と頭を撫でて、牙竜はさっとその場を離れてしまいました。
「あ……」
引き留めようと伸ばした手は間に合わず、きゅっと小さな握りこぶしに姿を変えました。
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