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リアクション
「よし出来た!」
高らかにあがった声はリア・レオニス(りあ・れおにす)のものです。
「よかった、無事完成しましたね」
リアのお守りの完成を見守っていたレムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)も微笑んで安堵したように息をつきました。
「ティア! すまないがこれを検めてくれ」
「あっ、はい!」
駆け寄ってきたティアに丁寧にお守りを検めてもらっている間、待ちきれないというようにトナカイを呼んで備えます。
「素敵なお守りですね。……真剣に作ってましたけど……どなたかにあげるんですか?」
「ああ、アイシャに……女王に幸せがあるように、そして彼女との絆が深まるようにと」
「そうですか……、うん、きっと喜んでいただけますよ」
お守りに込められた想いのまっすぐさに目を細めて、ティアはそれをリアへと丁寧に返しました。
「ティア、ありがとう。本当にありがとう。今日はとてもいい時間だった。それじゃあ俺は早速届けにいってくるよ」
「リア、待ってください。折角彼女に会うのに服が乱れていますよ」
前を閉じて、と言って直してやりながらレムテネルはこっそり自分の作ったお守りをポケットに滑り込ませました。
大切な友人が愛する人と幸せな時間を過ごせるようにと願った、小さなお守りは、きっと加護があるでしょう。
トナカイに乗ってはやる気持ちと共に飛び立つリアにそっとブレスをかけて、レムテネルは彼を見送りました。
「私たちも帰ろうか」
お守り作りを終え、帰途につきはじめるみんなを見て、杜守 柚(ともり・ゆず)も杜守 三月(ともり・みつき)を振り返ります。
その手には小さなお守り。それは想い人である高円寺海を思って作ったものでした。
『もしこの想いが恋なら、海くんと一緒にいさせてください』
少しだけずるい気もしたけれど、そんなふうにかけた願い。
もしもも何も、三月には恋だと思えたのですけれど、見守ると決めた三月は何も言いませんでした。
ただ、三月の作ったお守りは海と柚の恋愛成就のお守りだったのですけれど。
三月が嘆息しながら柚の後をついていくと、柚はふと足を止めました。
その視界の先には、想い人その人がいたからです。
「海くん……」
自分たちがここにいることも知らなかったというのに、海が此処にいる。
それでもう、答えは出ていました。
「行って来なよ、柚」
三月がお守り片手にぽん、と背を押します。
「……うん。行ってきます!」
柚はぱっと振り返ると、三月に笑いかけて彼の下へ駆けて行きました。
「くそーあんまり話を聞けなかったな……」
いや今なら人も少ないしいけるか?と勇刃が意気込んだ矢先。
「健闘さん」
「ダーリン!」
紅守 友見(くれす・ともみ)とアニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)に袖を引かれて振り返ります。
何事かと首を傾げると、二人に一斉にお守りを差し出されて、思わず受け止めます。
それらは勇刃に幸せがあるようにと二人が作ったものでした。
「折角ですから作ってみたんですの」
「ダーリンにいいことがいっぱいあるように、ってね!」
「そんな……効果はあまり持たないんだから気を遣わなくていいのに」
遠慮しかけて、けれど勇刃ははたと気づきました。
「いや待てよ、コレを調べれば何かわかるかも……」
そうです、これは二人が作ったとはいえティアが力を込めたお守りではありませんか。
効力のあるうちに調べれば何か秘訣が分かるかもしれません。
「二人ともありがとう、さっそく帰ろうか」
「はい!」
「ティアさん、今日は楽しかったのですよ!」
「また今度魔術についてお話いたしましょう」
「お疲れさまでした、気をつけて帰ってくださいね!」
踵を返す勇刃を追いながら、ティアに大きく手を振ってその場を後にするカルミと友見を見送って、ティアも手を振り返しました。
「それじゃあティアさん僕も一足先に失礼します」
陽太がお守りを手に暇を告げました。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったです。お守りも出来たし……」
「環菜さんへのお守り、ですね」
「ええ、早く帰って渡してあげたいので」
「気をつけて帰ってくださいね」
「はい、それじゃ!」
踵を返して帰途を急ぐ陽太に続いて、博季もその場を辞します。
それぞれが愛しい妻のもとへと、思いのこもったお守りを手に帰るのでしょう。
その顔はとても幸せそうに見えました。
「出来た!」
最後の飾り結びを終えた火村 加夜(ひむら・かや)は、明るい声と共に顔をあげました。
安らげるようにと願いを込めた内符とラベンダーのドライフラワーを包んだ、手縫いの青い小さな袋。
それを閉じる花のような形の飾り結び紐。
ひとつひとつ想いを込めた、世界でたった一つのお守りです。
いつも多忙な彼が少しでも心がいやされるように願ったものでした。
喜んでくれるでしょうか。それを思うと少しドキドキしましたが、彼ならきっと受け取ってくれるでしょう。
加夜はひとつ頷くと、さっそく私に行こうと席を立ちました。
けれど未だに席を立てないでいるのは宙野 たまき(そらの・たまき)です。
すっかりお守り、もといミサンガは編み終わっているのですが。
イメージトレーニングが上手くいかないのです。
「俺、いつも見守ってるから。これ、俺だと思って……いや違うな」
ブツブツとつぶやきながらいつしか振り付きで行われているイメージトレーニング。
「これ、よかったら。ってそっけなさすぎるな」
うーん、と悩むたまきは、お守りを見ながらぽつりと口にしました。
「……アリサ」
それは誰よりも大切な少女の名前。
「アリサ、俺は前線へは出られないけど、いつも見てるから。それを覚えていてくれたら嬉しい。あと、これ。有名な魔女のお守りだそうだ。持っていて損はないと思う」
伝えたいことを素直に口にする。それが何故かとてもしっくりきました。
たまきはゆっくりと立ち上がると、ぐっとお守りを握りしめて彼女のもとへ向かいます。
今なら受け取ってもらえる気がしました。
「――さて、理知もそろそろ行かないとね?」
桐生 理知(きりゅう・りち)を振り返った北月 智緒(きげつ・ちお)は、にっと微笑みます。
「折角いいお守り作ったんだから、早く渡してあげないと」
理知のお守りも大切な人――辻永翔のためのもの。
そのお守りを渡すために小さな勇気を、と智緒は理知の背を押しました。
「だいじょーぶ、ティアさんの力も込めてもらったし、私も応援してるよ!」
ねっ、とティアを振り返る智緒に、ティアも微笑んで頷きました。
「きっと大丈夫ですよ。想いは届きます」
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