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リアクション
<part5 カップルゲーム>
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は妻の御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と二人でプレーランドツァンダに来店した。妻と肩を並べてメダルゲームのコーナーに進む。
「このゲームでどっちがたくさんメダルを稼げるか勝負しませんか? 勝った側は相手になにか一つリクエストできるって条件で」
「マネーゲームの一種ね。面白そうだわ」
環菜は喜んでうなずいた。陽太はコインを自販機で買ってきて、自分と妻に百枚ずつ配った。二人は隣り合ったゲーム機の前で丸椅子に腰かけ、それぞれゲームを始める。
遊びとはいえ、陽太は真剣だった。妻にリクエストしたいのは、二人でまったり過ごせる温泉旅行に行くこと。前もって店の関係者に台の攻略方法を聞きまでして、今日の勝負には備えている。きっと勝てるはずと陽太は信じていた。
だが。
「あ、フィーバーだわ」
環菜のつぶやきに目を向けると、ゲーム機の中に縮こまって入っている機晶姫の口から、メダルが大量に吐き出されているところだった。メダルは嵐となって渦巻き、ケースが破裂しそうなくらいゲーム機の中に満ちて、取り口から外に溢れてくる。
「やっぱりマネーゲームはどれも同じね。簡単すぎるわ」
「ま、まだ負けてませんから! 他の台に行きましょう!」
陽太は場所を移した。
「またフィーバーだわ」
「またまたフィーバー」
「ここの店ってフィーバーしかないんじゃないのかしら?」
「どうしよう、そろそろ持ち運ぶのが大変になってきたんだけど」
環菜は店中のコインを出しまくり、段ボールに何杯ものコインが集まった。ゲーム機の中は空っぽ。
ついに店員が済まなそうに言ってくる。
「あの、お客様……。他のお客様のご迷惑になりますので、そろそろ……」
「もうゲーム終了にした方が良さそうね。私の勝ちよ」
環菜は肩をすくめて陽太を見やった。
陽太は軽く落胆する。
「残念です。で、環菜のリクエストは?」
「あのね……、たまにはあなたと温泉にでも行きたいの。どうかしら」
「えぇ!? 僕も同じことをリクエストしようと思ってましたよ!」
「そうなの? なんだかおかしいわね」
環菜と陽太はお互いを見つめて微笑み合った。
「羽純くん、羽純くん! あっちに相性占いゲームがあるみたいだよ! 行こ!」
遠野 歌菜(とおの・かな)は夫の月崎 羽純(つきざき・はすみ)の手を引っ張って急かした。
「それはいいが、この店なんか変じゃないか……? 妙なゲームばっかりあるし、パラ実生っぽい悲鳴が時々聞こえてくるし……」
「気のせいだよ! 私の耳には羽純くんの声しか聞こえない!」
「そ、そうか……」
羽純は頬が火照るのを感じながら、さっさと相性占いゲームとやらを終わらせて店を出ようと思った。ここは危険な匂いが濃すぎる。
二人はピンクで塗られた筐体の前に着いた。歌菜はゲーム機の上の方に貼られたマニュアルを読む。
「ふむふむ、質問に選択肢が五つ。二人とも同じ答えを選べたら、相性度アップなんだね!」
「なあ……結婚してるのに今さら相性占って意味あるのか? ゼロパーセントとか出たらどうするんだよ」
微妙な空気になったら困るな、と羽純は思ってしまう。
「そんなのあり得ない! 心を一つにして頑張ろっ!」
歌菜は言い切って、ゲームを始めた。
五分後。
「やたっ! 全問正解だよ!」
歌菜は両手を握って飛び跳ねた。
「ふう……やれやれ」
羽純は額の冷や汗をぬぐった。ゼロパーセントになって離婚でも切り出されたら大事だった。
画面に『相性度百パーセント!』となぜか血文字で表示され、『リア充爆発しろ!』という文が現れる。
「え、なにこれ……」
歌菜は喜びの舞を踊るのをやめて固まった。筐体の前部が開き、中から爆弾が転がり落ちてくる。黒い球体に火縄のついた、いかにもな爆弾。既に導火線に着火していた。歌菜は悲鳴を上げる。
「きゃー!?」
「あっぶなーい!」
メイド服姿のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が、颯爽とローラースケートを滑らせて走り込んできた。床に手を下ろすと爆弾をキャッチ。そのままそこを通り過ぎ、くるくると回転しながら窓の方へと接近して、爆弾を放り捨てる。窓ガラスが割れ、外から爆音が轟いた。破片が店内に降り注ぐ。
ミルディアは一仕事やり遂げた顔で戻ってくる。
「いやー、危なかったね、お二人さん! もう少しで警察沙汰になるとこだったよ! これは撤去撤去!」
「既に十分、警察沙汰レベルだと思いますわ」
和泉 真奈(いずみ・まな)はとりあえず筐体に『危険! 近寄るな!』のシールを貼りまくった。
バイトのミルディアと真奈は店内を回って、やばいゲーム機がないかチェックしていたのだ。監獄史大戦とか波羅蜜多挫悪奴2とか、違法すれすれの筐体が結構持ち込まれていた。
歌菜は憤慨して拳を握る。
「酷いよ! 好きでリア充に生まれてきたんじゃないんだから、リア充にだって生きる権利はあるはずなのに! これは私たちへの挑戦だよ! 受けて立つよ! もうカップル向けゲームを制覇しちゃう!」
「それよりこの店から避難するべきじゃないか……?」
羽純は当然の疑問を呈した。
「逃げたら非リア充に負けを認めることになるでしょ! ねえ店員さん! カップル向けのゲームって他にはどこにある?」
「うーんっ、ないっ!」
ミルディアは笑顔で即答した。
店長のアユナが騒ぎを聞きつけ、真っ青になって飛んでくる。
「なにがあったの!? 壊れたゲーム機はないわよね!? 被害額は!? あとついでに怪我人はいない!?」
「安心してくださいな、店長様。ミルディア様がなんとかしてくれましたわ」
「えっへん!」
ミルディアは可愛らしく胸を張った。
「良かったわ……」
アユナは安堵の息をつく。
真奈が歌菜たちを手の平で示してアユナに言う。
「こちらのお客様がカップル向けのゲームがしたいとおっしゃっているのですが、この店はそういうゲームが少ないですわよね。カップル客は意外と多いですし、その手の需要を見込んだゲーム機を増やしてみては?」
アユナは顎に拳を添えて考える。
「そうね……。お金が入ったら」
「そのときは地上の基板を輸入できる業者を紹介しよっか? パパの会社なんだけどね!」
なかなかに商売上手なミルディアだった。
また今のような爆発事故があってはかなわない。
店長のアユナと、バイトのミルディア、そして真奈は、三人で店内をしっかり視察して回ることにした。目を皿にし、怪しい筐体がないか捜す。
椎名 真(しいな・まこと)は昔懐かしい対戦格闘ゲーム『アクセルギア・クロス』の前に座っていた。店長が歩いているのを見て声をかける。
「ちょっと店長さん、いいかな? 話があるんだけど」
「ま、また本物の爆弾が出てくるゲームがあったの!?」
アユナは怯えながら聞き返した。真もさっきの大騒動は見ていたので苦笑する。
「いや、そういうのじゃなくて。一通り店のゲームを物色したんだけど、客の視点から改善して欲しいところがいろいろあって」
「あら、なにかしら」
アユナは経営者の顔に戻った。
「まず、メダルゲーとクレーン系の飲まれる率が若干高いような気がする。設定おかしくない?」
「う……、ばれたわね。借金返すお金が要るから、高めにしといたのよ」
「なるほど。でも、高くすると客の財布の紐が固くなるから、逆効果だと思うよ。あと、シューティングゲームのボタンレバー周りをもうちょっとメンテした方がいいかもね。当たり判定が命だから。格ゲーはボックスとA落ちを切り替えられると助かるな」
真は指折り数えながら、気付いたことを話した。
アユナは手帳にメモを取る。
「……ありがとう。あなた、凄く詳しいけど同業者なの?」
「いやいや、しがないアケゲファンだよ」
「そうなの? 他にもアドバイスがあったら聞きたいわ」
「喜んで。こういう古き良きレトロゲームがある店は希有だからね」
真は顔をほころばせた。
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