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リアクション
<part7 絶叫悶絶さくらんぼキャッチャー>
店内からトイレに向かう狭い通路。その隅っこで、追い詰められたウサギのような風貌の少年が震えていた。
少年の名は周防 春太(すおう・はるた)。ゲームセンターに来たというのに携帯でソーシャルゲームをしていた彼は、Sレアカードをゲットした非常にグッドなタイミングで、モヒカンたちに因縁をつけられてここまで連れてこられたのだ。
「YOYO! 坊ちゃんYO!」「なーんかいいとこの坊ちゃんみてえじゃねえかYO!」「あれだあれ、俺らにいちおくまんえん小遣いくれねえ?」「うぇへへへ!」
モヒカンたちは春太を取り囲み、なぜか唇を尖らせてフーフーと息を春太の顔に吹きかけながら脅す。
春太は必死に虚勢を張った。
「カードもお金も取ってください。それであなた方の気が済むならね。それでも僕の魂、尺八を奪うことはできませんよ! 僕の尺八はこれからパラミタ中のあまたの美少女たちが吹くんだ! いや、吹かせてみせます!」
モヒカンたちは黙り込んだ。もしや威圧できたのかと春太が思いきや、モヒカンたちは頬をぽっと赤らめ、両手で抱えて顔を見合わせる。
「尺八、だってよ」「パラミタ中の女が吹くほど素敵な尺八……」「それなら俺たちも、そっち、でいいかなあ……」
春太はびくっとする。
「そっち!? そっちってなんですか!?」
「だから金じゃなくて尺八で払えつってんだよ!」「つーか払ってくださいお願いします坊ちゃん」「坊ちゃんんん!」
モヒカンたちはいっそう激しく息をフーフー吹きかけてくる。
−−ピーンチ! 僕の貞操、絶対的に絶命ピーンチ!
春太はガラではないが反撃することにした。両手を構え、技名を叫ぶ。
「ヒロイックアサルト、天牙!」
「天牙だとおおお!」
モヒカンたちは聞いたこともない技名だが律儀に驚いた。
春太の顔から邪気が抜け、神々しい表情になる。春太は脱力して壁にもたれかかる。
「ふう……。金とか名誉とか女とか、もうどうでもいいですよね……。世界が平和になりますように」
−−説明しよう! ヒロイックアサルト:天牙とは、戦闘前に使用するとスッキリして攻撃力が上がるだけの超地味な必殺技なのだ。ぶっちゃけ誰も殺せない必殺技なのだ!
「坊ちゃんんんんんん!」
モヒカンたちはさらに魅力的になった春太に飛びかかる。
「そこまでよ! あんたたち!」
凛々しい女の声が響いた。一同が声の方を見ると、通路の入り口に伏見 明子(ふしみ・めいこ)が仁王立ちしている。
「まったく、モヒカンの気配がすると思ったら、こんな修羅場にハッテンしてるとはね! 一応聞いとくけど、これって新手のプレイとかじゃないわよね?」
「ないない! ないです!」
春太は無我夢中で首を振った。
……さて、どうしてあげようかしら。ゲーセンにまで来て暴力で鎮圧するのもちょっと可哀想よね。
明子は考えつつ、手は怪力でモヒカンの首根っこを鷲掴みにしていた。『潰れるっす! 砕けるっす!』というモヒカンの悲鳴は耳に入っていない。
……ゲーセンは不良の縄張りみたいなものだし。
明子は歴戦の武術でモヒカンたちを次々とボコっていく。
……今日ぐらい見逃してあげようかしら。
全員をタコ殴りし、修羅の闘気で畏怖させて土下座させる。
「はっ!? 考えてるうちに終わってる!? 習慣って恐ろしいわ……」
明子はようやく自分のしたことに気付いた。
モヒカンたちはなんかの信者みたいに明子に頭を下げまくる。
「姐さん、すんません!」「なんでもしますから許してください!」「俺らマッシュポテトにはなりたくないっす! 姐さん!」
「あんたらの姉になった覚えはないわよ。でもそうね、本当に反省しているというのなら、この薬を試してみない?」
明子は店長がバイトに配った『人をぬいぐるみに変える薬』を差し出した。
「このクスリを俺らに!?」「許してもらったうえにクスリまでもらえるなんて最高っす!」「姐さんマジ天使ぱねえっす」
モヒカンたちは大はしゃぎで薬を飲み込んだ。人相の悪いぬいぐるみが四体、通路に落下する。明子はぬいぐるみを拾って歩き出した。
「さーて、これを干し首キャッチャーに入れておくか。こいつらにも店に貢献するチャンスぐらいあげなくちゃね」
「まままま待ってください! ぼぼぼぼ僕も姐さんについていきます! なんでもしまちゅ!」
思わぬ救いの女神の出現に、春太は感動に身を震わせる。酷い噛み具合だった。
「姐さんじゃないって言ってるでしょうが!」
「じゃ、じゃ、じゃあ、お姉ちゃん! お姉様!? 姉々!?」
迷惑がる明子のあとを、春太はしつこく追いかけた。
武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)はさくらんぼキャッチャーのコーナーで、店長のアユナと話していた。
「……それでな、やっぱり景品が干し首ってのはよっぽどマニアックな客にしか受けないと思うんだ、アユナ酋長」
「私は店長よ! 部族の頭じゃないわ!」
アユナは腕組みして牙竜の意見を聞いている。
「そうだったな、アユナ艦長」
「艦長でもないわ!」
「で、灯に需要の多そうな景品を仕入れてもらった。灯、見せてくれ」
「はい、これです」
龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)は段ボールから景品を取り出した。たくさんの小箱に抱き枕シーツが折り畳んで入っている。
一種類は、フリューネ・ロスヴァイセの全身がプリントされた抱き枕シーツ。おっぱいが強調されたデザインだ。
もう一種類は山葉涼司の姿がプリントされた抱き枕シーツ。こちらもおっぱいが強調されたデザインで、バックに『ウホォ! いい校長!』と達筆で記されている。
「これは……まずくないかしら?」
アユナは眉をひそめた。
灯は真面目な顔で言う。
「倫理的にほんの少し問題がありますが、需要は確実です。フリューネさんの人気はアユナメモ帳さんも知ってらっしゃるでしょう?」
「メモ帳ってなによ! 長ですらないじゃない! ……まあでも、みんなじゃかじゃかコインを注ぎ込むのは確かよね……」
アユナは計算高そうな表情で考え込んだ。
牙竜は肩をすくめて笑う。
「景品がさばけるのに半日とかからないだろうな。さっさとさばいてしまえば、あとは問題ない。ゲットした奴は人に話さないだろうし、こんな場末のゲーセンに本人が来るわけ……」
「本人って誰のことかしら……?」
背後で声がした。牙竜が肝を冷やして振り向くと、顔を真っ赤にしたフリューネが立っている。牙竜は頭を掻いて釈明する。
「あー、いやーこれはフリューネさん。違うんですよ、このシーツのモデルはフリューネさんのそっくりさんであって、決してフリューネさんでは……」
「店のものを壊したりしたくないから、外でちょっと話そうか……?」
フリューネは自分の抱き枕シーツが入った段ボール箱を抱え、引きつった笑みを浮かべた。
「は、はい……」
牙竜はフリューネに襟の後ろを掴まれ、引きずられるようにして連れて行かれる。灯が心配そうに手を振った。
「包帯と消毒薬、用意しておきますね」
「鎮痛剤もたっぷり頼む……」
牙竜は力なくつぶやいた。
白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)の目の前にはガラスの壁があった。そのガラスには、淡くぬいぐるみの姿が映っている。非常に人相の悪いぬいぐるみだった。目が異様に血走っていて、手には長ドスを握っている。
−−なんだこいつは? 趣味わりーな。つーか、なんで俺はこんなとこにいるんだ?
竜造は微動だにできなかった。かろうじて視線だけは動かせるようなので自分の体を見下ろすと、ガラスに映っているのと同じぬいぐるみの姿が目に入る。
−−これ俺かよ! なんでぬいぐるみなんかになってんだ!? こんなザマになる心当たりなんて……そういや、徹雄の野郎が珍しくジュースを奢ってきやがったけど、あれに薬が混ざってたのか!?
周囲を見回すと、他にもぬいぐるみが積んであり、頭上にはクレーンがある。ここはさくらんぼキャッチャーの内部らしい。
当の松岡 徹雄(まつおか・てつお)は、筐体の外で鼻唄をうたいながら床にモップがけをしていた。竜造の視線に気付き、にやりとして手を振ってくる。
−−舐めた真似しやがってクソ親父! ぶち殺してやる! おら、こっから出せ! 出しやがれぇ!
竜造は心の中で叫ぶが、それは声にならない。
「どうして笑ってるんですか? 思い出し笑い?」
黒凪 和(くろなぎ・なごむ)が徹雄に不思議そうに尋ねた。
「いや、ほらあれだよ」
徹雄はさくらんぼキャッチャーの中の竜造のぬいぐるみを指差す。和は仰天した。
「竜造!? 姿がないと思ったらあんなとこに! まずいですよー。あとで大暴れしますよー……」
「それはそのとき考えるさ。今日の仕事は平和なバイトだし、竜造がいるとやりにくいからねえ」
徹雄は上機嫌で掃除を続けた。
ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はさくらんぼキャッチャーの近くで屋台を開いていた。昨日までは掃除をしていたのだが、あることに途中で気付いたのである。
つまり、食事に帰る客がとても多いということ。だから、軽食を出せば客の足を引き止め、しかも軽食の売り上げも入って一石二鳥なのではないか。そう店長に提案し、早速やってみることになったのだ。
「……で、これがメニュー?」
店長のアユナは屋台に並んだ料理を眺めた。
セリナは透明のプラスチックコップに入った黒い液体を手の平で示す。
「はい! これは青汁コーラ! 健康にいい青汁を子供の好きなコーラで割って、健康志向の人から子供まで幅広い層を取り込むのを目指しました!」
「なるほど。よく考えたわね」
アユナは感心した。
セリナはやたらと真っ赤で真っ黄色な焼きそばを指差す。
「こっちはスーパーヒート焼きそば! 対戦ゲームで熱くなっている人もいますし、唐辛子とマスタードを沢山詰め込んで、心だけでなく体も熱くなってもらいます!」
「熱くなった客はコインを寄付する速度もヒートアップ、ってわけね!」
セリナはカラフルなかき氷の入ったバケツを持ち上げる。
「熱くなりすぎた人には、このブリザードかき氷! いろんなシロップを贅沢にかけました。みんなで楽しめるバケツサイズです!」
「うーん、サービスしすぎな気もするけど、元は水だから安いものよね」
アユナはうんうんとうなずいた。
セリナは掃除をしているアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)に呼びかける。店長とはファーストネームが同じだが別人だ。
「ねえ、ちょっと味見してみませんか? タダですから!」
「え、わ、私ですか……?」
アユナ・レッケスは和の背中に隠れ、おどおどしながら尋ねる。
「そう、あなたです! まだ私も味見してないんですよ」
「で、でも……」
「せっかくああ言ってるんだから、食べさせてもらいましょうよ、アユナさん」
和は穏やかに諭した。彼女にはもっといろんな人と関わりを持って仲良くなって欲しい。これはその好機かもしれないのだ。
「食べてくれると凄く助かりますー」
セリナはにっこりと微笑んだ。その笑顔に惹かれ、アユナ・レッケスは屋台に近づいた。青汁コーラのコップを手に取り、口をつけて傾ける。アユナの双眸から涙が溢れ出した。
「あんまり……美味しくないです……」
「泣くほどまずいんですか!?」
和はびっくりして、青汁コーラを飲んでみる。
……想像を絶する味だった。美味しくないとかまずいとか以前に、これは本当に食べ物なのだろうかと怪しむ方向性の味。
和とアユナ・レッケスはトイレに疾走し、うがいをしてからさくらんぼキャッチャーのところに戻った。
キャッチャーのケースの中では、竜造のぬいぐるみがどす黒いオーラを放っている。警備のバイトたちがモヒカンを捕まえる度に薬を飲ませて放り込んでいったので、モヒカンのぬいぐるみもたくさん。元からあった景品の干し首も健在だ。半裸の山葉涼司の抱き枕シーツまで置いてある。
干し首キャッチャーから漂ってくるのは、危険で衝撃的な空気。このコーナーにはプレーランドツァンダの負の部分が蓄積されてしまっていた。隣にはゲテモノ屋台まで店を構えている。
「こんなところに近寄るお客さんなんているんでしょうか……」
和は本気で心配になってきた。
だが、物好きな客は来た。それも結構な人数来た。
藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)はその一人。三度の飯より干し首が好きな彼女としては、さくらんぼキャッチャーに挑戦しないわけにはいかなかった。店の雰囲気も不気味で素敵だし、テンションが上がってくる。
しかし、この手のゲームは不慣れなので、まずは他の客のやり方を観察していた。
「ふむ、ああやって掴むんですね……。崩して落とすのもありみたい……」
優梨子は可愛い干し首の並ぶ光景に癒されながらつぶやいた。
コーナーの片隅にある筐体には、なぜかそれだけ電源が入っていなかった。
実はこの筐体、弥涼 総司(いすず・そうじ)と飛良坂 夜猫(ひらさか・よるねこ)が改造したものなのである。夜中に扉をピッキングして店に忍び込み、ロングハンドとワイヤークローを組み込んだ特製だ。
徹夜明けの夜猫は、壁と筐体のあいだに挟まるようにして爆睡していた。
「まったく……ゲームセンターに連れて行ってくれると思ったら……わしにこのような真似を……させおって」
無念そうな寝言が唇から漏れる。
他の客のゲームを見物していた雅羅に、総司が頭を下げる。
「空京万博のときはすまなかった。オレの妄想とはいえ、雅羅ちゃんのヌードの絵を描いて」
「本当に反省してるのかしら? あなた、似たようなセクハラを何度もしてるわよね」
雅羅は疑わしげに眉を寄せた。
「オレはもう心を入れ替えたんだ。その証拠に、雅羅ちゃんにこの前のお詫びをしたい。なんでも好きな物取ってあげるから、ちょっとこっちに来てくれ」
総司は神妙な顔で歩き出した。雅羅は警戒を緩めず腕組みしてついてくる。総司は自分が改造した筐体の前にやって来た。
「どうだ、なにが欲しい」
「うーん、そう言われても困るわね……。変な景品ばっかりだし……」
雅羅はさくらんぼキャッチャーのケースに顔を寄せて中を覗き込んだ。
「実はオレも欲しい物があるんだ」
総司は投入口にコインを入れ、矢印ボタンとクレーンを下げるボタンだけを使って怪しげなコマンドを打ち込んだ。雅羅はたいした興味もなさそうに聞く。
「ふーん、なに?」
「雅羅ちゃん……それはキミの……」
総司は雅羅の顔をじっと見つめる。
「さくらんぼだぜーっ!」
「きゃー!?」
筐体のあちこちからワイヤークローとロングハンドが飛び出した。ワイヤークローが雅羅の体に巻きついて動けなくする。ロングハンドが機械ながらいやらしい手つきで雅羅に迫っていく。
雅羅は総司を睨みつける。
「やっぱり反省してないじゃない! 放しなさい! 放しなさいってば!」
「これが真のさくらんぼキャッチャーだぜー! って……え?」
雅羅あるところに災いあり。バチバチッと不吉な音がして、ロングハンドに火花が走った。筐体から黒煙が漏れ出す。ワイヤークローの力が緩んだので、雅羅はとっさに抜け出して床を転がる。
大音声を上げて筐体が爆発した。
近くにいた総司と、熟睡していた夜猫が爆風で窓から店外に吹き飛ばされる。
「あー! オレのさくらんぼちゃんがー!」
「なんじゃなんじゃ!? どうなっておるんじゃー!?」
二人は遥か遠くへ飛ばされてお空の星と消えた。
爆発も二回目ともなれば、あまり騒ぎ出す客もいない。すぐにゲームセンター内は落ち着きを取り戻し、皆はそれぞれのゲームを再開した。
四谷 大助(しや・だいすけ)は雅羅に近づいて声をかける。
「あ、雅羅! 一緒にさくらんぼキャッチャーでハイスコア狙わない?」
「セクハラはお断りよ」
さすがに当事者の雅羅は平然というわけにもいかず、緊張した面持ちで言う。現場を見ていなかった大助はよく分からずに笑った。
「公共の場所でそんなことする奴いないよ。……もしかしてなにかあった?」
「ううん。そうよね、警戒しすぎるのも良くないわよね。狙いましょ、ハイスコア!」
二人はさくらんぼキャッチャーの前に並んでゲームを始めた。雅羅がボタンを押し、クレーンを景品の上まで移動させる。クレーンは上手く景品を捕らえ、出口に落とした。
「雅羅凄い! もしかしてこういうの得意?」
「昨日も結構やり込んでたから。次は君の番よ」
「頑張るよ!」
大助は勇んでボタンに手を置いた。
「ふむふむ、だいたいコツは分かりました」
優梨子は他の客の観察を終えた。
両替機で大量の硬貨を仕入れてきて、手元に積み上げる。観察から得た知識でもって、ボタンを操作する。目当ての干し首の上でクレーンが止まった。ゆっくりと下がっていき、干し首を掴む。揺れながら戻り、出口に干し首を落下させる。
「ああ、なんて可愛らしい干し首でしょう……」
優梨子は取り出し口から干し首を拾い上げて頬ずりした。コインをさらに注ぎ込み、どんどん干し首を獲得していく。手に入れた干し首が足元で山になる。
店長のアユナが通りがかり、干し首の山を見て驚いた。
「凄い量ね。そんなに取った人いないと思うわ。慣れてるわね」
「そんなに慣れてはいません。一重に私の干し首への愛が成せる業なのですよ」
優梨子は新たに取った干し首を撫でながら微笑した。
一方、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は三千円も使って一つも取れずにいた。
「うー……、なんでよう……。これ、本当に取れるゲームなの……?」
もはや半泣きである。失敗すればするほど頭に血が上ってきて、余計に操作が下手になっていく。
屋台でそれを眺めていたセリナは、放っておけない気分になってしまった。唯一『食べられる』と評価されたブリザードかき氷をバケツに入れ、ミーナのところに持っていく。
「どうぞ、サービスです。ちょっと頭冷やしませんか?」
「あ、ありがと!」
ミーナはそのサイズに圧倒されながらも、かき氷をスプーンですくってシャクシャクと食べた。体の熱が奪われるにつれ、冷静さも戻ってくる。
ミーナはとりあえず、一番上手いと思われる優梨子を参考にすることにした。他の筐体の陰に隠れて、じいっと眺める。ボタンさばきや、一見関係のなさそうな足さばきまで頭に叩き込む。
その次に上手そうな雅羅を観察していると、雅羅が視線に気付いて振り向いた。
「どうしたの? 私に用?」
「あ、えっとね、全然景品取れないから、どうやったら取れるか真似しようと思って!」
「そうなの……。私と一緒にやってみる?」
「うん!」
ミーナは喜んで雅羅の隣に並んだ。雅羅は操作のコツを丁寧に教えてくれる。
そして、ついに。ミーナがクレーンで掴んだぬいぐるみが出口に落ちた。
ミーナは思わずぬいぐるみをぎゅうっと抱き締める。
「やった! やったよ!」
「頑張ったわね。なんだか私まで嬉しいわ」
雅羅に頭を撫でられ、ミーナはもっと楽しくなって目を細めた。
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