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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

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 契約もしていない状態で“黒髭”が憑依しているというのは、不安定な状態らしく、ブラッドレイ海賊団を見つけて、幾人かが出撃したというのに、彼は内に入ってしまっていた。
 美緒はラナたちを傍に、不安そうな顔をして窓から外の様子を窺っている。

「私掠船の存在は百合園が今後、エリュシオンとの交易を活発に推し進める場合、どうしても出てくるのが海賊問題だと思いますので、わたくしは賛成です」
 キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)が声を掛けた。
「今後のために……ですか」
 “黒髭”とのことで悩む美緒はまだ、そこまで先のことが見えていなかった。
「東西に分かれていた昔と違い現在のシャンバラは【国軍】として旧ヴァイシャリー海軍も吸収して今に至っているので百合園として痒いところに手の届く存在は重宝するのではないかとわたくしは考えるのですわ」
 キュベリエの言葉を1つ1つ頷くように聞く。
「ただ、問題は私掠船が目を盗んで同盟国であるエリュシオンの船も襲うような事にならないように黒髭海賊団に監視の意味も含めて契約者が常時乗っているような状態が望ましいと思うのです。もちろん、そうすることになれば、必要だと言ったのはわたくしなのですから、わたくしも一員として、乗りますわ」
 私掠船の必要性を説くだけではなく、キュベリエは己を売り込む。
「まあ、まずは美緒……あなたが“黒髭”と契約し、この私掠船を確立するところが問題なのですけれど。いかが?」
 美緒の中の不安定な存在を確かなものにするためにも契約は必要だと、推す。
「私掠船がどれほど必要なのか、少しは理解できたのではないかと思います。それに、今のようにいつ何処で“黒髭”様と入れ替わるか分からない状態が続くよりは、契約した方がいいのかもしれないことも……何か変わるための機会なのだとは思いますわ。でも、すぐには決めかねるのです。契約するか否か……それは、せめて、この1件が終わるまで、お待ちいただけませんか?」
 美緒は真っ直ぐとキュベリエの方を向いて、そう応えた。

「私掠船ね。ボクとしては賛成だよ」
「円さん……」
 桐生 円(きりゅう・まどか)も美緒へと声を掛ける。
「自立したレディを目指しているなら、自衛や荒事も出来るようになるべきだ」
 偏った意見かもしれないけれど、彼女なりの意見を美緒へと伝える。
「結局は、美緒君がどうしたいかじゃないかな? 皆に動いて貰って何かを成し遂げたいのか、自分で動いて何かをしたいのか。美緒くんは何時も守られていた立場だし、そういうのが重要なんじゃないかなーって。ボクだったら守られるだけの立場なんて御免だしね。やっぱり自分からいろんな事をしてみたいじゃないか」
「私掠船なので法律に反しない行動を心がけるべきよね。美緒さんのしたいことが合法か、違法か、アドバイスするわよ」
 円のパートナー、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がそう助言する。
「わたくしがどうしたいか……」
 問いかける円に、美緒は考える。
「自分から敵船乗りこむんだったら援護するよ? 廻りも援護してくれると思うから、今回は思い切ってなんでもやってみるべきじゃないかな? いい機会だし」
 続けられた円の言葉に、美緒は1つ頷いた。
「わたくしは、百合園女学院に入学するまでは何事も1人では出来ませんでしたわ。けれど、入学してから1つ1つ、出来なかったこと、苦手だったことを克服してきましたの。黒髭様はそんなわたくしに、また1つ克服する機会を与えてくださったのですわね」
 そう告げた美緒は円、そして傍に控えたラナを順に見つめて、再びゆっくりと口を開く。
「……乗り込むほどの勇気は出ませんけれど、ただここに居て護られているばかりではいつもと変わりません。甲板に出て、こちらの船まで入ってきた方の退治を手伝いますわ」
「美緒君」
 決意を告げた美緒に、円は微笑む。
「美緒。私があなたを守ります。決して、あなたに傷一つつけさせません」
 ラナも決心した美緒の言葉に、反対することなく、純白のビキニアーマーへと姿を借りて、美緒に纏われる。
 そのとき、外から大きな音がして、船が揺らいだ。
「いったい何が……ッ!」
 外の様子を見ようと窓に駆け寄る美緒の身体が一瞬、傾ぐ。
「俺様の船に何があったぁ!?」
 けれども倒れることなく踏み止まり、顔を上げなおした美緒は、“黒髭”と交代していた。
「上空から、奇襲してきたようね。ブラッドレイ海賊団では、ないのかしら?」
 “黒髭”より早く窓の近くまで寄り、外の確認をしていたヘイリーが告げる。
「マストに向かって殴りかかっているみたい。このままだと折られるかもしれないわね。……で、どうすんの?」
 状況を伝えた彼女は、“黒髭”の方を向き、訊ねる。
「もちろん、返り討ちだ!」
「ま、お手並み拝見と行きましょうか」
 “黒髭”の返答に、ヘイリーとリネンは頷き合う。
「やりすぎには気をつけなさいよ?」
 オリヴィアが横から告げ、「ああ」と生返事をしながら“黒髭”は皆と共に船室から出ていく。