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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

リアクション

 魔鎧として姿を変える前に、グラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)は、パートナーのセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)幸田 恋(こうだ・れん)に祝福を送る。
「行くぜ相棒、ガンガン攻めろ! 護りは俺に任せな!」
 それから流線を基調とし、随所に刺々しい装飾がなされた、攻撃的な形状をした金色のプレートメイルへと姿を変えたグラハムをセシルは纏い、空飛ぶ魔法↑↑の効果で恋と共に飛行すると、黒髭海賊団の船へと向かった。

 船の上まで辿り着くと急降下しながら、セシルは鬼の力を覚醒させた。更に怪力を引き出し、メインマストへと殴りかかる。
「またセシル殿が暴走した……ヴァイシャリーの人達、大人しく帰ってくれないかな……」
 恋はぽつりと呟きつつも彼女の背を守るため、鬼の力を覚醒させる。身長が伸び、額に角が生えた。
 セシルが何度か殴打を繰り返すうち、ミシミシと音を立て、マストは折れ始めた。
「何事だぁ!?」
 船の奥から純白のビキニアーマーを纏った“黒髭”が護衛をしていた学生たちと共に、出て来る。
「うおっ、マストがっ!?」
 メインマストが折れていることを目の当たりにし、驚きの声を上げる。そして、それをやってのけた人物、セシルの方へと向き直った。
「フォークナー海賊団首領、セシル・フォークナーです。国家公認の海賊と嘯き、人の居場所を土足で踏み荒らす所業、許すわけにはいきません。黒髭海賊団、及びその協力者の皆さん」
 名乗り、静かに告げるセシルは、そこで一呼吸置く。そして、再び口を開くと、
「……全員、この場で叩き潰してやりますので、覚悟なさいませ」
 そう、ドスを効かせた声で警告をした。
 ヘルハウンドの群れをけしかけて、セシル自身は“黒髭”に向かって突っ込んでいく。
 恋も牽制のためのさざれ石の短刀と、銘刀【風雅】を手にセシルの後を追った。

(海賊がパラミタ内海を荒らし回るとなれば、パラミタ内海に面する我らが『雪だるま王国』にとっても、他人事ではありません。海運業が乱されれば、物流が滞る。物流が滞れば、経済に深刻なダメージが……)
 そう考えるクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、パートナーの危機一髪と共に、“黒髭”に続いて船内から甲板へと出てきた。
「活動が軌道に乗るまで、お茶の間のヒーローたる俺がお手伝いすると決めたのです。彼の邪魔はさせませんよ!」
 甲板に溢れるヘルハウンドの群れを危機一髪に任せて、クロセルは両腕を向けた。その両腕に纏っていた鎧が左右同時に噴射され、セシルに向かって飛んでいく。
「つっ!」
 両腕に挟まれるような形で、飛来した両腕の鎧はセシルに大きな痛みを与えた。
「ぎゃうんっ!」
 危機一髪の振るった絶望の剣から轟雷が放たれ、ヘルハウンドの1匹を襲う。
「少し引き受けるわ」
 ヘルハウンドの多さに、リネンが告げて、両の手それぞれにカナンの剣と曙光銃エルドリッジを構える。
 エルドリッジの引き金を引くと、光り輝く銃弾がヘルハウンドに向かって、飛来する。心身の調和が取れたモンクのみが体得できる必殺の一撃だ。
 その銃弾を追いかけるようにリネンは踏み込み、これまた光り輝く刃となったカナンの剣で切り裂いた。
 痛みを受けながらもヘルハウンドはリネンを喰らおうと、牙を向ける。
 大きな口を開けて飛び掛ってきたところをリネンは剣で受け、そのまま切り返した。
 その横を駆け抜けたセシルが両手それぞれに構えた超電磁トンファーを振るい、“黒髭”と周りを囲む学生たちを巻き込んで、全体に攻撃を仕掛ける。
 ヘイリーが素早く、その一撃の邪魔をするために、2本の矢を同時に放った。
 セシルの両サイド前方から放たれた2本の矢が襲い掛かり、攻撃しかけたトンファーへと突き刺さる。
「貸し一つ……つけとくわよ」
 隣に並ぶ“黒髭”に告げて、彼女は再び、矢を番えた。
「おいたはメーなんです!」
 セシルや恋、ヘルハウンドの群れに向かって、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が声を上げる。ディーヴァである彼女の神ですらおののくその声は、セシルたちに痛みを与え、トンファーや刀、牙による攻撃力を低下させる。
 それでも負けじと恋は風雅を“黒髭”の頭部を狙って振り下ろす。
「させないわ」
 間に割って入った亜璃珠の掲げる手にはブレスレットがきらめく。そのブレスレットが亜璃珠の“黒髭”と美緒を守るという思いに、防御フィールドを展開し、恋の刃を弾き飛ばした。
「ブラッドレイ海賊団! この者達は私掠船を名乗り、海と自由を愛する私達海賊を弾圧しようとしています! このような者達を生かしておいてはなりません。共に戦いましょう!」
 どうにかブラッドレイ海賊団と協働できないものかと、セシルは声を掛ける。
「言われなくてもそっちに乗り込んでやらぁ!」
 その言葉が引鉄になったわけでもなさそうだが、手の空いたブラッドレイ海賊団の海賊たちが幾人か、板を渡して乗り込んできた。
「ふしぎ光線、ビビビーっとするです!」
 空京万博のシンボル、空京たいむちゃんタワーのミニチュアを構えたヴァーナーは、乗り込んでくる海賊の1人に向かって、掲げた。
 瞳がキラリと光って、ビームを発射する。ビームは海賊の手元を貫いて、手にしていた短剣が落とされた。
「くっ!」
 海賊は腰に短剣を佩いていたもう一振りの短剣を抜き直すと、ビームを発射させたヴァーナーでなく、“黒髭”に狙いを定めて、斬りかかった。
「させないよ!」
 振り下ろされた短剣を長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が振るったブライトグラディウスが弾き飛ばす。
 そして海賊の間合いへと踏み込むと、ブライトグラディウスから冷気を放ちながら、逆に斬りかかった。
「くそっ!」
 弾き飛んだ短剣を取ろうと身をかがめる海賊に、続けざまにブライトグラディウスを繰り出して、彼とその後方からやってきた海賊を斬った。
「今のうちに拾え!」
 後方からやってきた海賊が、短剣の海賊へと声を掛けながら、淳二へと長剣を振るって斬りかかる。
「っ!」
 ブライトグラディウスで受けようとするも切り返しが間に合わず、淳二は肩を斬られてしまった。
「イタイのイタイのとんでいけなんです〜」
 ヴァーナーが空かさず天使の救急箱を開く。
「そんなっ!?」
 斬られた淳二の肩の傷が、見る見るうちに治っていき、海賊は驚き声を上げた。
「ありがとう」
「どういたしましてです〜!」
 傷口が治ったのを確認したヴァーナーは微笑みながらそう返して、救急箱の蓋を閉じる。
「それで、次はおまえか?」
 淳二は改めて、ブライトグラディウスを構えると、再び、続けざまに繰り出し、今の間に短剣を拾った海賊も巻き込んで、斬りかかっていく。
 他の板から乗り込んだ海賊が、大分減りつつあるヘルハウンドの群れの間を通り抜け、“黒髭”に向かっていく。
「おまえらの頭の首は頂くぜー!」
 声を上げながら、手にした槍を突き出してくる。
「させないと、仰っているでしょう?」
 告げる亜璃珠の掲げた腕に付けられたブレスレットが煌き、防御フィールドを張って、一撃を防ぐ。
 海賊の槍先がフィールドに触れ弾かれた瞬間、レッサーワイバーンに乗った正悟が、“黒髭”を抱き上げて、高く飛び上がった。

***

 程なくして、乗り込んできた海賊たちも倒され、ヘルハウンドの群れも居なくなってしまった。
「うぅ、ここまでですの?」
「一旦引きましょう、セシル殿」
 成す術もなくなり、恋に声を掛けられたセシルは手近なマストを殴りつけると、甲板から海に向かって、飛び込んだ。恋もその後に続く。
「くそ、待てっ!」
 “黒髭”が後を追おうと手すりへと手をかけた。
「待ちなさい、美緒は泳げませんわ!」
 だが、亜璃珠の制止は1歩間に合わず、“黒髭”は手すりを蹴っていた。
「それを早く言えっ! ……だが、俺様が乗り移ってんだ、少しくらい!」
 海へとダイブした“黒髭”が泳ごうとするけれど、泳げない美緒の身体では動きも鈍ってしまうのか、上手く泳げず、その場でもがく。
「おねがい、キュルルちゃん!」
 ヴァーナーが船の傍を泳がせていたパラミタイルカへと声を掛けた。
「キュイー♪」
 パラミタイルカが返事をするように鳴き、“黒髭”を背に乗せる。
 亜璃珠も待機させていたレッサーワイバーンを向かわせて、彼を甲板へと引き上げた。