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リアクション
第四章:秘宝無頼伝
「……やれやれ。なにをやっているですか、彼らは……。想像以上に頼りない上に緊迫感のかけらもないですね……」
そんな勇者たちを遠くから見つめる女性の影がありました。
絶大なる魔力を秘めた存在としてこの世界に降り立ち、勇者たちを手助けせんと見守っていたセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)です。
セフィーは、勇者たちのパーティーに加わりその戦闘力と明晰な頭脳を持って冒険をよい方向に導こうと思っていたのですが、これまでのいさささかグダグダな行動にあきれて彼らの目の前に出現するのをためらっていたのです。
「ドラゴンがアレとかお玉を持って敵に突撃とか、助ける気にもなりません。まあ、このゲーム、こういう作風なんでしょうが……とはいえ、このまま放っておいてもドツボにはまる一方でしょう。気合を入れ直すためにそろそろ仕掛けますか……厳しい奴をひとつ……ね」
ひとつ笑みを残して、彼女は姿を消します。
さて……。
「ゲロッパ・シティへようこそ」
勇者たちは、第二の秘宝のある街にやってきました。
ここは、西側の帝国の中でも随一の勢力を誇る大きな街です。
これまで勇者たちが旅してきたどの街よりも大きく、町並みは洗練され人々は活気づいています。
さて、さっそく目的の大富豪の家に行ってみましょう。
「はあ……。わからない人たちですね、あなたたちは」
この街の支配者の一人、大富豪にして貴族のローデリヒ・エーヴェルブルグ(ろーでりひ・えーう゛ぇるぶるぐ)は勇者たちの来訪にため息をつきます。
「前々から告げている通り、我が家にある秘宝は50億VGです。リーズナブルな価格でしょう? それ以外では譲るつもりはありませんと言っているのですよ」
「……」
「わかったらお引き取りを。なに、50億VGなど、ちょっと稼げばすぐにたまりますよ」
「……」
出直すか、と不承不承、勇者たちが去っていったのを見計らって、ローデリヒは隣の部屋へと向かいます。
「勇者を名乗る連中がやってきたので、体よく追い払っておきましたよ」
「ふん、性懲りもせず。奴らに秘宝が使いこなせるわけがなかろう」
答えたのは、このあたり一帯を治める大貴族にして、帝国の大公グランデンブルグ大公ローデリヒに仕える宰相の武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)です。
「今更、おっとり刀で魔王討伐などと笑わせてくれる。この西大陸ランバルディアの我が神聖ロマーニア帝国では、既に国境線で魔王軍と帝国軍が激突している。彼らの力など借りずとも、わが帝国だけで魔王軍を追い払ってくれよう」
「せっかく最前線から帰ってこられてこのお屋敷で休まれているところを、大したお話も持ってこれず残念です」
「なに、かまわんさ。最前線の基地とこことの行き来はもう慣れっこだ。秘宝に魔力を補充するために戻ってこなければならないのは最初から計算の上のこと。向こうの屋敷の防備も抜かりはない。戦線は膠着しているし、二三日英気を養うとするか」
そういうと、幸祐はお付きの執事を呼びます。
「俺は奥の書斎で雑務をこなさねばならん。屋敷の管理は任せたぞ」
「はっ、かしこまってございます」
恭しく一礼したのは、執事として配置されたロード・アステミック(ろーど・あすてみっく)です。
彼は、幸祐が奥へと去っていくのを見計らうと、ポツリと漏らします。
「あのお方は、秘宝を手に入れ変わってしまわれましたのぅ。さて……」
その頃。
秘宝の持主に追い払われた勇者たちは、街の酒場でたむろしておりました。
「それは大変でしたね。お疲れでしょう、勇者さん。ゆっくりと休んで、いい案がでるといいですね」
応対してくれたのは、この酒場の主人のルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)です。
「宿屋は自由にお使いいただいて結構です。魔王を倒した勇者たちが泊まった宿とあれば箔もつくというものです」
「宿屋も併設しているのですか?」
「ええ、ここは元々、冒険者たちが集う出会いと別れの酒場です。滞在しながらゆっくりと仲間を見つけることができますよ。といっても、すっかりさびれてしまいましたけどね」
ルークの言うとおり、酒場内は閑散としていてあまり客はいそうにありません。
「親切な人だにゃー。安心して活動に打ち込めるにゃ」
「……ふふふ」
そんなこんなで、どうやって50億VGを稼ごうかと算段しているところへ、この宿で給仕をしていたオウガ・ゴルディアス(おうが・ごるでぃあす)が料理を持ってやってきます。
「この街には、大きなカジノがあるでござるよ。大金を短期間で稼ぎたいなら、そこへいくといいと思うでござるよ」
「しかし、カジノとはリスキーですね」
「少々危険でござろうが、他に方法はないのでは」
言いながら、彼はおかわりを持ってこようとして盛大に転んでしまいます。まあ、それはおいておくとします。
掃除をしていた伽耶院 大山(がやいん・たいざん)が、一思案の末に教えてくれます。
「手に入れる額が額だけに、まずカジノのボスと顔つなぎをしておいた方がいいでしょうな。何とかわたりだけでもつけることなら出来ますぞ」
「それはありがたい。さっそく行ってみるとしましょう」
勝てるか否かはともかく、一度のぞいて見るだけでものぞいてみようと、彼らは立ち上がります。
「……」
そんな勇者の一行を酒場の片隅でちびちびやりながらこっそりと見ていた人影がありました。
勇者の手伝いをするために後をつけてきていた、忍者の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)です。彼は、これまでにも陰ながら勇者たちの露払いをしてきたのです。
その彼も少々思案どころの様子。
(そもそも、50億VGなどという金額稼げるはずなどないのは誰も承知のうえのはずです。あの大金持ちは、最初から秘宝を譲るつもりなどないのでしょうね。……となると、絡め手でも使ってみますか)
唯斗は一つ頷くと姿を消します。
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