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リアクション
「ふむ。まあこんなことだろうと後をつけてきて正解だったぜ」
どこからともなく姿を現したのは、この世界で賞金稼ぎをしていた十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)です。
賞金稼ぎといっても、お尋ね者を狩ったりするのではなく、全滅したパーティーを回収して持ちカネの半額をいただこうというなかなかに美味しい商売です。
遺体に群がるダークな商人。まあ世知辛い世の中です。
「カンオケ用意してあるから、丁重に詰めろよ。教会まで連れて行って生き返らる」
宵一が声をかけたのは、同じく賞金稼ぎの助手として配置されていたヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)です。
「あうう……、この娘たち可哀想です……」
ヨルディアは猫勇者たちのご冥福を祈りながら、倒れた御影たちをとても丁寧にカンオケにつめます。
「まだ魂はあの世までいってねえよ。教会で呼び戻すんだから」
重労働を厭う宵一は、下っ端たちに作業を手伝わせガーゴイルに乗せてカンオケを少し離れた町の教会まで運びます。
「こんちわ〜。聖女さんいる? いつものお願いしたいんだけど」
酒場の常連のような台詞で宵一が教会へ入っていくと、そこには見目麗しい聖女さまが待ち受けておられました。
「……また来たか。死体あさりのハイエナが」
ずいぶんと口の悪い彼女、教会に配置されたレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)であります。
「まあ、そう言うなって。『賞金首を狩るよりも地味でカッコイイよね』とか『救助した方からの謝礼がマジ半端ない』って町で噂の花形ビジネスなんだぜ」
「それにしても。この猫耳勇者死んでしまうとは情けない」
カンオケを開けると、意外にもやり遂げた満面の笑みをうかべたまま勇者たちは眠っています。すでに魔王を倒したかのようなドヤ顔です。
その顔を見ていると、少々助言もしたくなってきます。
「……と、いいますか正直な話、情けなすぎて嫌になってきますね。どれくらい嫌かといいますと蘇生する気がなくなりかけるほどに嫌です。いえ、むしろこのまま墓穴に投げ込みたくなるほどに嫌ですね。なんなら火葬という名の焼却処分にしてもかまわないくらいに嫌になってます。」
「……」
宵一は聖女様に寄付金を握らせます。これもまあ必要経費みたいなものです。後で冒険者たちから回収すればいいだけのこと。
「しかしまぁ……いいでしょう。蘇生しないと話が進みませんし、居座られるのも迷惑ですので蘇生はしてあげましょう……。寄付金さえ貰えれば、神はいつだってアホウどもの味方ですから」
宵一から前金を受け取ると、レイナは祈祷を始めます。
「あぁ、主よ。この哀れで愚鈍で役立たずなデクノボウの御霊をここに呼び戻したまえ……」
優しげなBGMと共に、光が降り注ぎ、勇者たちは生き返ります。
「にゃー!」
「ふう、いい夢みましたわ。すでに魔王を倒したような。……あれ、ここは?」
オルフェリアが起き上がると、さっそく宵一が寄ってきます。
「おかえり。さっそくだけど、必要経費その他もろもろ含めて所持金の半分をいただいていくから」
「……え?」
「ねえ、少し負けてあげましょうよ。そうしましょう……」
ヨルディアは、ねだるような目で宵一を見ますが、彼は受け入れません。
「ひい、ふう、みい……、と、はいまいどあり。またのご利用をお待ちしております」
用さえ済めば宵一はさっさと去っていきます。
「あの、これ……。こんなことで挫けずに頑張ってくださいね」
わずかながらお金を返してくれるヨルディア。
「……ありがとうございます」
「では、お気をつけて」
ヨルディアも去っていきます。
なるほど、こういうからくりだったのですね。世の中奥が深い……。
「お疲れ様。これで蘇生は終了したわけですが」
まだ何が起こったかあまりよくわかっていないオルフェリアたちに、レイナは言います。
「それでは、さっさとあなたたちの使命を果たしに出向いてください。無駄に居座られても邪魔なだけですから」
「……はい、よくわかりませんが、ありがとうございました」
「ふん。次に帰ってきたら今度は墓穴を用意しておいてあげますからね」
「……」
なんか、散々な言われようです。
いささかしょんぼりしながら御影たちが教会を立ち去ろうとすると、シスターとしてお手伝いをしていたリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)が、申し訳なさそうに頭を下げます。
「あの、気を悪くなさらないで下さいね。あの方なりにあなた方を心配しているのです」
「ええ、わかっています。あまりご迷惑をおかけしないようにしますわ」
「あなた方に旅のご加護があらんことを。……では、行ってらっしゃいませ」
「はい」
聖女様たちに見送られて、オルフェリアたちは再び冒険へと出発します。
「やはり、仲間が必要じゃないでしょうか」
オルフェリアは戦力不足を痛感しつつ、町並みを見渡します。
ここはどこでしょうか。ツギノ村とは違うようですが。聞いていみましょう。
「ここはチュウカンの町。西に行き、山を越えると竜の洞窟があります」
おお、なるほど。前のサイショの村の話と繋がっているようです。
「そこに棲むドラゴンは、すでに勇者さまたちが倒したとか」
そのようです。オルフェリアたちは安心して第二の秘宝を探せるって訳です。
「……」
ですが、果たしてどうしようかとうろうろしていると。
「君たちですか。噂の頼りない勇者様ご一行ってのは」
熟練冒険者風の青年が声をかけてきます。
「ちょっと色々あってあぶれてしまいましてね。冒険なら力なれますよ」
彼は、トレジャーハンターの鳥野 島井(とりの・しまい)でした。
本当は、ドラゴン退治の方についていきたかったのですが向こうはもうパーティーがいっぱいだったのです。
もとより、お宝が手に入るなら、誰の味方をしても構わない主義です。この心配なご一行の力になるのも悪くないでしょう。
「あ、よろしくお願いいたします。私たちもどちらへ向かえばいいのかよくわからなくて」
とオルフェリア。
「まずは、仲間を集め装備を整えてLV上げをしましょう」
「このエクスカリニャーじゃだめかにゃ……?」
「それはちょっと……」
島井は苦笑しつつ言葉を濁します。彼女らの改心の作だというのはわかっているのですが、どうも戦いには向いていないようです。
「武器屋での調達が終わったら、町の人たちからの情報収集と、アイテムの回収も済ませておきましょう」
「にゃー! タンスや引き出しをあさるにゃ!」
「冒険に必要な物を丁重に譲って頂くのですよ、本来は」
苦笑続きの島井たちは民家を訪れます。
色々な人が住んでおり、様々なお話が聞けるようです。
その中の一軒の扉を開くと。
「……おやめください、勇者さま!」
「あるじゃねえかよ、ここに。剣とコインがよ」
上の方からなにやらモメる声が聞こえますので、行ってみます。
「……」
いました、先客が。
勇者の仲間として先に登録されていた瀬道 聖(せどう・ひじり)が、オルフェリアたちに先んじてアイテムの回収を行ってくれているようでした。
「あんな方、仲間にいたのですか?」
「……データ上では登録されています。冒険の仲間に加わってもらいましょう」
ルクレーシャがヒソヒソと答えてきます。
タンスをあさっていた聖は勇者たちに気づくと、爽やかな笑顔で話しかけてきます。
「おつかれさん、待ってたよ。……この家、何もないとか言いながら、しっかりと宝物を隠してやがった」
聖は戦利品を持って仲間に加わってくれます。
「結構貴重品を隠し持っている家が多いからな。俺に任せておけば全て回収してやるぜ」
なんとも頼もしい限りです。今後、民家のアイテム回収は彼に一任しましょう。
「あの、本当にすいませんすいません」
ぺこぺこ謝っているのは、聖のパートナーの幾嶋 璃央(いくしま・りお)です。
「メッ! あまり勝手に引き出しとか開けるものではありません」
「魔王を倒すためだ。世界平和のために、一般市民の皆様が持つ道具類は、ありがたく使わせていただく!」
キリッとカッコよく告げる聖。
「ここが終わったら、前にいたツギノ村とサイショの村にも行ってみよう。こういう積み重ねが勇者を成長させるんだからな」
彼の言葉に従い、勇者たちは丁寧に町を回ります。
「ごめんくださ〜い。アイテムの回収にうかがったんですけど!」
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