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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ

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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ
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09.ヒラニプラ第三小学校


 スクール・アーミー

「敵はひるんだぞ! 攻撃を止めるなー!!」
 大掃除のためにヒラニプラ第三小学校にやってきたたちは肝心の学校に入れずにいた。
 校門を潜ろうとすれば、濡れ雑巾を丸めた雑巾爆弾と水鉄砲ならぬ校内の備品らしきホースによる一斉射撃が飛んでくるのだ。
 それを避けるため、一行は校門の左右に分かれて、爆撃と射撃が収まるのを待っていたのだが……。
「ちょっと! 止めなさいよ!!」
「うるせーぞ! 女子」
「何よ馬鹿男子!!」
 今はいたずら小僧を率いる男子生徒只野 翔太(ただの・しょうた)と女の子を率いる姫野 花(ひめの・はな)
グラウンドで角をつきつけ合わせている。
 その間、爆撃と射撃が止まるのかと思えば、未だ続行中だ。ぶっちゃけ埒があかない。
「ぐれりんの言う通りだね。よぉし――」
 すっくと金元ななな(かねもと・ななな)は立ち上がった。
 
 金元 なななはシャンバラ教導団・情報科の生徒である。
 青い髪にくるんと回ったあほ毛がチャームポイントのチャーミングな美少女だ。
 だが、その正体は――
 遥か無限に広がるフロンティア――宇宙の平和と正義を守る銀河宇宙警察に所属する宇宙刑事である。
 どんな悪事も(なななにとって)も見逃さない。
 彼女が一度念じれば――ふるさとM87星雲からレーザーキャノン

「――は、残念ながら、今修理中で発射されないんです」
((((( 嘘だー!!!! ))))))
 可愛いく小首を傾げるなななに全員が心の中で突っ込んだ。

 ちなみに翔太といたずら小僧たちは、じっとなななの名乗りを見守っている。
 花たち女生徒が小声で「ちょっと?! どうしちゃったの?」と聞けば、
 全員が口を揃えて「バッカ、お前! 名乗ってる間は攻撃しちゃいけない、きまりごとなんだよ!!」と答えた。
 
「――なのでぇ、なななのレーザーガンで勘弁してください」
 何をどう我慢するのか全くわからない。むしろ、一般人、しかも子供に銃を突きつけるのはいかがなものか。
「大掃除の邪魔をする者は例え、子供でも容赦はしません」
「う、うるせぇ!!」
「そーだ!! 大人が子供に銃向けんのかよ!?」
「レーザー銃や宇宙刑事が怖くていたずらができるか!!」
 だが、対する子供たちも売り言葉に買い言葉。仕舞いには翔太が大見得を切った。
 正に一触即発。
「あぁ。何となく想像通りの展開ー。ど、どうするの?」
 事態を見守っていたサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は、パートナーのリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)を振り返る。
「……ここまお約束とはね。今日は混ぜるな危険の大売出しかしら」
「呑気なこと言ってる場合なの?」
 おろおろと落ち着きのないサンドラにウィンク一つ。すっと立ち上がるとリカインも子供達の前、なななの背後に回る。
 端正な顔に流れる金の髪を指で払うと、すうと息を吸い込んで――腹の底から吼えた。
「いい加減にしなさい!!」
 大音声に空気がビリビリと震える。
耳の近くで聞こえたその大音量になななは耳を押さえ、姫と女生徒たちは目を丸くし、翔太といたずら小僧たちは尻餅をつく。
 だが、素早いもので翔太たちは動ける者だけ連れて、あっという間に駆けていった。
「待ちなさい――って言っても無理ね」
 つかつかと逃げ遅れた少年に近付くと、凛とした表情から一転、優しく話しかけた。
「急に怒鳴ってごめんね? 驚いたでしょう。そこの怖い宇宙刑事のなななくんに撃たれなくて、良かったわ。
 でもね――君たちもいけないのよ? それはわかってるかな」
 怒るでも、責めるでもない。諭すような響きに、少年達はこくりと首を縦に振った。
「よろしい。それじゃ、学校を綺麗にするために色々教えてくれるかな」
 と、成り行きを見守っていた生徒の中から一人の少女が進み出た。
「教導団の方ですよね? 姫野 花です。 ようこそ! ヒラニプラ第三小学校に」

「ちょ、ちょっと。なななさん!? どこに行くんですか?!」
「だって、あの子たち逃げちゃうよ?!」 
 一方我に返ってちりじりに逃げ出す翔太たちを追いかけようとしていたなななはサンドラに引き止められていた。
「尚更ですよ。ここは子供達の庭です。集団の力と地の利を舐めてかかると痛い目ちゃうよ?」
「大丈夫! なななは宇宙刑事だし! いざとなればM87星雲から」
「……さっき、修理中だって言ってたじゃん!!」 
 不満そうなその手にサンドラは【星屑のアンクレット】を握らせた。
「これは?」
「お守り。可愛いでしょう」
「星だね! なななのパンツも今日は星柄だよ」
「もう! パンツはいいから! それを持って、今日は――できれば大人しくしてくださいよ」

  * * * 

「冬休みで学校はお休みなんです。でも、今日は大掃除だから、特別」
「あたしたち、お手伝いに来たの!!」
「課外授業ってやつですね」
 花の案内でグラウンドにやってきた一行は生徒たちを見回した。一年生から六年生まであわせて五〇人くらいだろうか。
 先ほど、校門で待ち構えていたガキ大将と取り巻きらしい数人の男子生徒の姿はない。
「――さっきの、ほら、校門の子達はどこに行ったの?」
「あいつは六年生の只野 翔太。校内のどこかに隠れてるはずです。
 いっつも悪戯ばっかりしてくる癖に一つ上だからって威張ってるんです」
 リカインが問えば、花は唇を尖らせて教えてくれた。
「じゃあ、大人しくはしてないわよねぇ……」
「大丈夫!! なななのレーザーガンが火を――」
「噴かなくていいわよ。相手は子供なんだから、ムキになっちゃ駄目でしょ? なななくん」
 リカインが諭すが、レーザーガンを取り出したなななに子供たちは怯えてしまう。
 と、絶妙なタイミングで風が吹き抜けた。流れる風が光を受けてキラキラと輝く。いや、これは風花だ。
 通る風を目で追った先には人好きのする笑みを浮かべた少年――風森 巽(かぜもり・たつみ)がいた。
「ヒラニプラ第三小学校のみんな! こんにちは」

 風森 巽は蒼空学園に通う男子生徒である。
 幼い頃土砂崩れによって目の前で姉を亡くした少年は――力を望んだ。
 強く、誰かを守る力を、誰かに辛い思いさせぬよう。
 蒼い空から風が吹けば腰の変身ベルトが光を放つ。

「――変、身っ!!」
 掛け声ともにトンボを切って宙を舞う。地面に降り立つ姿は少年から正義のヒーローに転じていた。
「風森 巽――またの名を仮面ツァンダーソークー1。今日は皆と一緒に大掃除をするために駆けつけたぜ! よろしくな!」
 握手を求めるように手を差し出せば、わぁと子供達から歓声があがった。

 その後は誰ともなしに、掃除の分担をしようということになる。
「よぉし。ツァンダーはこの風に乗る力を使って窓を掃除するぜ!」
「じゃ、あたしはセレアナと一緒にグラウンドの掃除にしてくるわ」
「セレンがそれでいいなら、私はどこでもかまわないわよ」
「どこ担当しよっかな? ……よしっ! 給食の調理室だ! 腹が減っては戦はできぬ! ……っておじいちゃんも言ってた」
「……キミの基本は食べ物なんですね。わかりました。やるからには手は抜きませんよ」
「ボクは校舎だよ! 廊下の掃除をするね!!」
「チムチムも校舎アル。一緒にやりたい子はついてくるアルよ〜」
「俺は――なななはどうするんだ?」
「なななは校内を巡回――」
「なななくんは私と一緒よ。特別教室や職員室の鍵預かってるあんたがふらふらしてどうするの」
「子供たちじゃ大変でしょうしね。その辺りは私たちで」
「じゃあ、俺にも手伝わせてくれよ。特別教室っても結構数あるだろ? な、ユーシス」
「……今日だけですよ? 全く」

  * * * 

 障害物のない直線のコース。
 校舎一階の覇を争うのはレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とパートナーのチムチム・リー(ちむちむ・りー)だ。
 子供達の声援を受けて、猛スピードで雑巾片手に駆けて行く。
 一歩、上背のあるチムチムの方が先じんる。
「このまま一気に振り切るアル〜」
「させないよ!! 勝つのはボクだよ」
 白熱する勝負にギャラリーの熱気も上がっていく。それはゴール直前で最高潮になる。
 縮まらないリーチの差のままゴールしようしたチムチムが盛大に滑った。
「うわわわ!?」
 つんのめった勢いのまま巨体がぐるぐると回転する。
 その隙をレキが見逃すはずもなくもなく。
「ボクの勝ちだね! じゃ、チムチム、よろしくね〜♪」
「うう。残念アル……子供達の相手は任せるアルよ」
 立ち上がるとチムチムは大きな手を広げて子供達に呼びかけた。
「さーお掃除する子は集まるアル!」

「チムチムが下。君達が上。誰かと協力すれば色んなことができるアル」
 巨体の両肩に子供を乗せて窓を磨く。
 いつもと違う目線に子供達は大はしゃぎだ。僕も私もと子供たちがチムチムに群がる。
「順番アルよー」
 一方外でも、窓掃除が始まっていた。
「さ。高いところはこの仮面ツァンダーの出番だ!! みんなは手の届く範囲を頼んだぞ」
 高く飛び上がった巽――いや、仮面ツァンダーがまるで地面を歩くように宙を進む。
 その姿に歓声が上がり、子供達は懸命に手の届く範囲を雑巾で拭き始めた。

「いいかい? 雑巾の水はしっかり絞るんだよ」
「はーい!!」
 左右に並ぶ子供達にレキは説明する。
 雑巾がけレースに負けたチムチムに子供達の相手を任せて、自分は掃除に集中するつもりだったのだが、
気付けば周囲には子供達が集まっていた。
 どうやら、チムチムとレキの雑巾がけレースは思ったより子供達の心を掴んだようである。
「準備はいいかな? じゃあ、端から端まで一気に行くよ!!」
 廊下に横一列に並ぶレキと子供達。
「よーい、どん!!」
 レキの掛け声にあわせて、雑巾がけレースが再開された。

  * * * 

 花と数人の女生徒たちの案内で特別教室に向かった一行は手分けして掃除をはじめる。
(……この分だと以外にすんなり終わりそうですね)
 教壇の上から教室全体を見回していたユーシス・サダルスウド(ゆーしす・さだるすうど)は背後に視線を移す。
 なななとパートナーのシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)が並んで、不用品を片付けている。
(……なんだ。上手くいってるんですか)
「あ。あの」
 くいと、袖が引かれた数人の女生徒がいた。
 その中の一人がバケツを差し出してきた。
「よっかたら、使ってください。水切りもついてるから、楽だと思います」
「助かります。――気配りが細やかですね」
 そう言って、微笑みかければ少女たちの頬がほんのりと赤くなった。
(……色んな意味でガラありません……少し、自己嫌悪ですよ)


 女性とは褒め慈しむ存在。その結果として呼吸をするように口説かずにはいられない。
 そんな性分のシャウラが今、口説こうとしているのは“電波”と揶揄されることも多い金元 なななだ。
 くるりと回った青いあほ毛が揺れるのを眺めながら、手を差し出す。
「ほら。重いもんは俺が手で運ぶからさ。なななは台車を使えよ」
 シャウラは取り替えた蛍光灯をその手から奪う。
「あ。別に大丈夫なのに……じゃ、なななはこの書類を……」
 書類の山を抱え上げた。どう見ても蛍光灯より重そうだ。
「あ。俺がやるぜ。貸せよ」
 慌てて、蛍光灯を壁に立て替えて、両手を伸ばす。
「あ? そう?」
 言われるままになななが荷物を差し出してくる。
 このまま行けば――きっと、手が触れる。不可抗力だ。狙ってやることではない。
 ただ、それだけに、心が跳ねた。
 と、次の瞬間――
 ――ドン ドン バン
 教室の窓ガラスに泥雑巾が激突した。内と外からだ。
 校庭と廊下に泥まみれの足跡を残しながら、翔太たちが逃げていく。
「出たな!? 悪餓鬼!!」
 それに気付いたなななは教室を飛び出す。
 当然、何かを持っていたことも。話をしていたシャウラのことももう頭にはない。
 シャウラの手が空しく空を掴んだ。
 続いて、あった支えを失って、書類の山が散らばる。
 見るからに硬そうな書類ファイルの角がシャウラの足に落ちた。
「――――!?」
 声にならない悲鳴が職員室に木霊した。

「ううう。ななな〜」
 痛みを堪えながら、未練がましく開いたままのドアを見る。
 気配はない。きっと、しばらくは戻ってこないだろう。
 一部始終を見ていたユーシスは肩を竦めた。そばには数人の少女が取り巻きよろしくいる。
「……まぁ、下心があるから上手くいかないんじゃないですか?」
 皮肉ってやれば、うるさいとむくれた返事が返ってきた。
 それを耳にしたリカインとサンドラは顔を見合わせる。
「ななな君に? それは――物好きというか……大変だわ」
「同感。凄い、勇者がいたもんだね」
 言いたい放題の言葉を無視するとシャウラは散らばったファイルを拾い始めた。