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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ

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【なななにおまかせ☆】あばよ! 今年の汚れ
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リアクション

「今年一年お世話になりました♪」
 今にも歌い出しかねない調子で工具をピカピカに磨き上げるのは朝野 未沙(あさの・みさ)
 機晶姫の修理屋である『アサノファクトリー』を営む未沙の手際は流石に手早く、的確だ。
「来年もよろしくね」
 散らばった工具を種類別に纏めて、次々と道具箱に収めていく。
「――どうして、少佐にお任せした場所だけ、元の状態から更に散らかるんですか? 」
 片付けているといよりは、乱雑に積まれていた工具をしっちゃかめっちゃかに散乱させている長曾禰の様子に一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は頭を抱えた。
 掃除下手もここまでくればある意味才能である。
「いや……その……俺はこのままでも別に問題ないんだが……」
「問題です。書類は積み上げたまま。工具は出しっ放し、投げっぱなし。部品やパーツは使えるものと使えないものが一緒くた」
 お世辞にも綺麗と言えない。あらゆるもが絶妙のバランスで積まれ、散乱する作業スペース。
 これで作業ができるとは思えない。アリーセは深々と溜め息をついた。
 年下の少女の最もな言い分に長曾禰は幾分バツが悪そうに頭をかく。
「これでは、快適に作業ができないでしょう」
「いや、これがな。そうでもないぞ?」
「あ。わかる。わかる。以外に綺麗に片付いてるよりは作業しやすかったりするんだよね」
 でもでもと言い募るメカニックにメカニックが同意を示す。
「だろう? このな。適度に散らかった感がな」
「そうそう。いるものにすぐ手が届くっていうね!」
 アリーセは腕を腰に当ててると首を横に振った。そんなことが掃除をしない理由にはならない。
 ここは後輩として苦言を呈すべきところだ。
「駄目ですよ。それは少佐や未沙さんに限ったことです。一人で作業するならともかく。色んな人が作業するんですから」
「でもなぁ。お前さんも分かってるだろ? 俺、片付けとか掃除は苦手なんだよ」
 困ったように眉を寄せる長曾禰。天才メカニックの意外な一面は何やら人間臭く、可愛いらしい。
「大丈夫です。私が教えます。まず、ものの定位置を決めましょう。まず、工具。種類ごと、動作別にまとめて置く」
「動作別ってのは何だ?」
「例えば――切るなら鋸やカッター、チェーンソー。締める・緩めるならドライバー、レンチ。そんな感じに分けるんです」
「なるほどなぁ。種類ごとよりはそっちの方がいいな」
「じゃあ、まず動作を考えて、そこに何が入るかまとめてください。
 動作はイコンの基本整備とか、外装の塗装、パワードスーツの整備とかでもいいですよ」
 ふむふむと考えを纏めだす長曾禰に未沙も興味を示す。 
「私も手伝うよ! おやっさん。メカニックとしてどんな道具使ってるのか興味あるんだよね」
「よしよし。じゃあ、まずパワードスーツの基本整備だ。使うのは――」
 雑然とした作業スペースはこうして、少しずつ整理整頓されていった。
 片付けならが、ふとアリーセは気になっていたことを口にする。
「……作業スペースがこの様子だと、長曾禰少佐のご自宅の様子が思いやられますね……」
「……まぁ、その何だ。……ここと似たようなもんだな」
「もし、ご迷惑でなければ少佐がご自宅を大掃除する際には手伝いに伺いましょうか?」
 突然の申し出に目を瞬かせた長曾禰は、だが、ゆっくりと首を横に振る。
「その必要はないさ。俺の家は学生寮だ。だから、今頃誰かが掃除してくれてる。気持ちだけもらっておくよ」
 ありがとうと長曾禰は目を細めた。

  * * * 
 
 パワードスーツは分厚い装甲を持つ、イコンに比べて薄くもろい。
 それは人の肌よりは頑丈で銃弾の一発や二発は屁でもない。だが、集中砲火や重火器の前ではそうもいかない。
 パワードスーツの利点は人間の体を守ることではなく、装着者のポテンシャルの向上、それを生かした機動性だ。
 故に、いついかなる時でも“動く”ことが重要になる。
 パワードスーツ装着者で構成されるパワードスーツ隊に所属している三船 敬一(みふね・けいいち)は後輩の
テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)と二人で基地の格納スペースにずらりと並ぶパワードスーツの整備と清掃を行っていた。
 その脇を洗浄車を駆る瀬名 千鶴(せな・ちづる) が通り過ぎていく。
「それじゃ、テレサちゃん、ちょっと行ってくるわね」
「あ。貸出許可出たんですね。良かったです。でも一人大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。それじゃ、後でね」
「瀬名はどこに行くんだ?」
「天気もいいから、車両を洗車すると言っていました」
 それで、長曾禰に掛け合っていたのかと納得する。
 結局、本部の方に許可を取り付けにいくことになったため、今から作業に移るようだ。
「先に終わったら、手伝いにいくか?」
「えぇ。そうしましょう」
 二人は整備を再開する。敬一は武装を分解して中に溜まった汚れを掃き出し、テレジアは装甲を磨き上げている。
 一年間の感謝を込めての作業だ。
 簡単な整備は二人で行い、最終チェックは第一人者である長曾禰に依頼した。
 掃除の合間にやってきた長曾禰はモップをテレジアに預けると、瞬く間に最終チェックを行い、追加の整備をメモして去っていった。
 本当は二人と一緒にこのまま作業したいと言っていたのだが、自分の作業スペースの片付けが残っているらしい。
――うるさい後輩がいてな……まぁ、あんな年頃の娘はなんだかんだで可愛いもんだよなぁ
 そう言っていたどこにでもいる普通の男の横顔。迅速に作業をこなす真剣な横顔。
 二つの表情を思い浮かべながら
「……本当に天才だな、おやっさんは」 
 と、銃身の内部の煤や埃を取り除きながら敬一が呟けば、同意するようにテレジアが頷く。
「えぇ。まさに神技でした」
「あぁ。あっという間だったからな。さすがに驚いた」
「私も天御柱では整備科でしたが……あそこまでの方は初めて見ました」
 その言葉に、手を止めると敬一はテレジアの顔を盗み見る。
 テレジアは研修生だ。天御柱学院から教導団にやってきて、敬一の後輩になった。
 二ヶ月前のことだ。あれからもう二ヶ月。いや、まだ二ヶ月か。どちらにせよ、年があければ彼女は元いた学園に帰っていく。
「――敬……三船少尉? 何か?」
 視線に気付いたテレジアも装甲を磨く手を止めて、顔を上げる。
 その律儀な物言いがらしくて、敬一はふっと頬を綻ばせた。
「真面目だな。テレジアは――課業中といっても、大掃除だ。それにここには俺だけだ」
「……あ……はい」
「今年も終わりだな」
「…はい…」
「掃除、終わったら、一緒に汁粉食いに行くか」
「いいですね。ご一緒させてください。敬一先輩」
 帰っていく後輩の承諾を得ると敬一は作業に戻る。
 テレジアの顔に小さな花が咲いた。
 

 外に並んだ車両を前に千鶴は腕をまくりあげる。
 一年間――いや、短い研修期間の感謝を込めての車両整備だ。
「さ、汚れを綺麗さっぱり洗い流すわよ! 立つ鳥、後を濁さずって言うものね――」
 視線の先にはイコン基地。その向こうには校舎が見える。
 それを目に焼き付けててから、千鶴は勢いよくギアをチェンジした。