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リアクション
「ここまで来れば一安心だと思います」
横抱きにしたハデスを降ろした咲耶はヘタヘタと座り込む。足を止めたヘスティアはその場に直立したままだ。
「ここはどこだ?」
ハデスは落ちかけた眼鏡をかけなおす。
「この壁は……シャンバラ宮殿ですね。きれいに整備されてます」
ここでも数こそ少ないものの、ボランティアの影が見て取れる。
「よし、ポスター作戦、第二弾の開始だ!」
「ちょっと、兄さん! まだ懲りてなかったんですか? さっきの騒動をどう思ってるんです?」
「あれは大成功だ。あの騒動によって、秘密結社オリュンポスの知名度は更に上がったのだよ」
ハデスはスプレー糊をシャンバラ宮殿の壁に吹き付ける。咲耶も仕方なく後に続いた。そこにヘスティアがポスターを貼っていく。
ポスターは、まだ400枚以上も残っていた。
「見つけたーっ!」
咲耶が振り向くと、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が駆け寄ってくる。その後ろには樹月 刀真(きづき・とうま)達も続いていた。
「山葉校長から連絡が回ってるんだからね」
「それがどうした! このドクターハデス、恐れるものは」
ハデスが言いかけたところで、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が、太ももに装備したホルスターからマシンピストルを抜き取るとゴム弾を連射した。
「口上を言う途中で撃つなんて卑怯だぞ!」
開いたハデスの口にゴム弾が飛び込む。仰け反ったハデスは咲耶の胸の中に倒れこんだ。
「さすがです、月夜。ところで今日は黒のレースか、相変わらずだな〜」
叫んだ刀真の頭に向けて、月夜のゴム弾が連射される。刀真は“口は災いの元”のことわざを、今日この時体感した。
「親切に言ってやったのに撃つなよ! 痛いよ! ってあぶな!?」
月夜はマシンピストルを刀真の喉元に突きつけた。
「刀真は私の事嫌いにならないんだから! ……大丈夫だよね?」
月夜にとっては確認にすぎなかったが、それ以外の人間にすれば脅しと変わりない。
「いっつもいつもゴム弾で人の頭撃ちやがって……うん? 嫌いにはならないよ」
そう答える刀真の顔は、あきらかに引きつっていた。
わずかにゴム弾の連射が反れたことで、ヘスティアの反撃が始まった。あの小柄な体のどこにそんなに格納されていたのかと思うくらいに、ミサイルが発射される。
今度の人数は3対5。先ほどのように大勢でもなく、トイレブラシもないため、混乱は起きなかったが、ミサイルの連射を押し切るには足りなかった。
そうなると、宮殿周りの被害の方が大きくなる。
「あーん、アイシャちゃんの宮殿がー」
「……仕方ないですね」
刀真は月夜に命じて、攻撃の一方向に隙を作らせる。再びハデスを抱えた咲耶が、その方向に走り出す。ヘスティアも追撃を警戒しつつ、咲耶の後を追った。
「山葉校長に連絡を入れておきましょう。戦力も明らかになったことですし、今度は捕まえられるんじゃないですか?」
「いたぞ!」
「こっちだ!」
ハデスを肩に乗せたまま咲耶は逃げ回る。
「兄さーん、いい加減に起きてー」
その後をヘスティアが付いてくる。時折「反撃しますか?」と咲耶に聞くものの、咲耶は黙って首を横に振った。
タイミング良くアレイ・エルンスト(あれい・えるんすと)はアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)と挟撃するように迫る。
しかしいざ攻撃しようとして、咲耶を見るとその手を緩めてしまう。
「女の子? オレは凶悪なテロリストと聞いていたが」
「なんかやりにくいな」
一旦、チャンスを逃すと、再び捕まえるのは難しい。それでも山葉校長からの通達を見たり、アレイの連絡を貰ったりして、徐々にメンバーが集まってくる。
「勇刃様ー! 頑張ってー」
黄色い声をあげているのは御東 綺羅(みあずま・きら)だ。
彼女の目前では、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が空飛ぶ箒パロットで牽制する。天鐘 咲夜(あまがね・さきや)も幻槍モノケロスで追い込んでいるのだが、綺羅には目に入らないらしい。
ホウキと槍で追い込むものの、攻撃は仕掛けない。それには理由があった。
「そこまででございます!」
紅守 友見(くれす・ともみ)が地面に機関銃を据えて、咲耶を狙っていた。勇刃と咲夜は最初からこの場所に追い込むことを狙っていたのである。
「一歩でも動いてご覧なさい、遠慮なく撃ちますわ」
咲耶はここまでかと諦めかけた。
「ヘスティア! ミサイル発射!」
そこでようやく気付いたドクターハデスが、ヘスティアに命令する。
「かしこまりました。ハデス博士」
命ぜられるままにヘスティアはミサイルを乱射した。もしこの時、友見に引き金を引く決意があれば、この騒動はここで終わっていただろう。
しかし牽制として構えていただけの友見には、引き金は重すぎた。
逃げ回る一方だった敵。その予想外の反撃に、勇刃はパートナーの安全を確保することに全力をつくす。
咲夜を背後に回してかばうと、飛んでくる最低限のミサイルだけ軌道を変えて弾いた。
友見はと見れば、虎の子の機関銃とプレシア・アーグオリス(ぷれしあ・あーぐおりす)をかばって無事だった。
「勇刃様の足を引っ張っるんじゃないわよ!」
応援していただけの綺羅が一番悔しがる。
「なんだい! 情けないね!」
そこを飛び出してきたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
ヘスティアのミサイルをかわすと、セレンフィリティはヘスティアに、セレアナは咲耶に打ちかかる。2人の獲物がいつもの銃と槍であったら、ここでも優位に立てたかもしれないが、残念なことにゴミ挟みとホウキだった。
「ヘスティア! 3連続発射! 咲耶! 逃げるぞ!」
気を取り戻したドクターハデスはセレンフィリティ達がミサイルの対応に追われている間に姿を消した。
「兄さん! いい加減に止めましょうよ!」
1時間後、駄菓子屋でもんじゃ焼きを食べる3人の姿があった。駄菓子屋は相変わらず賑わっている。子供達ばかりではなく、大人の姿もあった。
「おばちゃん! もんじゃお替わり!」
黒髪に黒い瞳、黒いコートと黒ずくめの男は、3度目のお替わりを頼む。
「はいよ。今日は1人かい?」
「ええ、なんかボランティアだとか。俺はそんな柄でもないので」
「付き合ってやれば良いのに、寂しがってるかもしれないよ」
黒ずくめの男は「かなわないなー」と頭をかいた。
「アリスはどうしてこんなところに?」
及川 翠(おいかわ・みどり)とミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)、アリス・ウィリス(ありす・うぃりす)の3人ももんじゃを食べている。
「わかんないの、気がついたらここにいたの」
不思議な返事に3人は「うーん」と考えたが、出来あがったもんじゃにコテを進めた。
クロセルと童話スノーマンも、もんじゃ焼きを食べている。駄菓子屋横で演説をしようとしたが、子供達が騒ぐ上に、村木のお婆ちゃんに「寒いだろ、中で温まっていけば」と誘われて、演説は頓挫した。
「雪だるま王国の名前を広めるには演説と行動が一致してなくてはいけないんです!」
力説するクロセルの横のテーブルでは、別の結社が相談をしている。
「いや、ここまでの戦果を考えれば大成功だ。このまま年が明ければ、オリュンポスの名前は世界中に響き渡ってるに違いない!」
「反対にすっかり忘れ去られてそうですけど」
話し合うハデスと咲耶をよそに、お腹の減っていたヘスティアは黙々ともんじゃを口に運んだ。
しかしながら3人は既に連絡を受けていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)やベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に見つかっていた。
ただし美羽もベアトリーチェも応援を呼ぶことはできなかった。
「どうしても?」
「……どうしても」
2人を制していたのは中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)。
「あの3人は方々で事件を起こしているのよ。ここで捕まえる絶好のチャンスなのに」
「このお店で騒動を起こされるのが迷惑なんです」
「取り逃がしたら、どう責任を取るつもり?」
「美羽様こそ、村木お婆様や子供達に被害が及んだら責任が取れるのですか?」
にらみ合いがしばらく続いたが、美羽が折れる。
「店を……出るまでよ」
綾瀬はうなずいた。
ハデスと咲耶が話し合いを続ける中で、ヘスティアは村木お婆ちゃんを呼んだ。ポスターを手渡すと頭を下げる。
「ハデス博士、あれを」
ヘスティアの指し示す方向には、オリュンポスのポスターが貼られていた。
「良いんですか?」
咲耶が村木お婆ちゃんに尋ねると、「面白いね。1枚くらい良いよ」と笑顔が返ってくる。
「よし、我らが世界征服の暁には、この駄菓子屋を世界展開させようではないか」
ドクターハデスは次なる妄想を膨らませる。
クロセルはそれを悔しそうに見つめた。
「雪だるま王国もポスターを作るべきだったのでしょうか」
童話スノーマンは答えに窮した。
「そろそろ出ましょう。ご馳走様」
咲耶は勘定を支払い、ドクターハデスの一行は駄菓子屋を後にした。
「もう良いわね」
「ええ、ご自由に」
美羽がボランティア仲間に連絡を取った。
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