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リアクション
そろいのエプロンで決めた清泉 北都(いずみ・ほくと)とモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)は町中のゴミを拾って歩く。
「北都、やはりこの格好は……」
モーベットはエプロンを嫌がったが、北都は「汚れるより良いよねぇ」と意に介さなかった。
「それともあんな風にジャージにするぅ?」
2人の目の前を屋良 黎明華(やら・れめか)が走っていく。普通にしていれば十分な美少女であろう彼女も、今日はジャージ上下に髪をひっつめて、「公園に突撃ー!」と完全掃除対応の格好をしていた。
「あれはあれで面白そうだねぇ」
モーベットは脳裏で自分がジャージ姿になったとこを想像して身震いした。
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は手当たり次第にゴミを集めていく。その傍らでセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が丁寧に掃き掃除を進めていく。
大胆なセレンフィリティと繊細なセレアナでピッタリのコンビだった。
セレアナはセレンフィリティがさぼることの無いように、ピッタリついて監視していたが、ゴミ広いが面白いのか意外にもさぼる雰囲気は微塵も感じさせない。
「んー♪ んー♪ んんんー♪」
鼻歌交じりに軽快に足を進めながら、目に付いたゴミを片っ端から袋の中に入れていった。
ただしそれはそれで見咎めるものもいる。
「おい! なぜしっかり分別しない? 資源ゴミも焼却ゴミも混じっているではないか!」
エプロン姿のモーベットが、セレンフィリティに詰め寄った。
「あら、可愛い」
セレンフィリティはとがめられたことを気にせず、モーベットのエプロンに目を留める。可愛いと言われてしまったモーベットは顔を紅潮させてエプロンを脱いだ。
「欲しけりゃくれてやる! しかしゴミの分別を……」
「良いの?」
セレンフィリティはエプロンを受け取ると、コートを脱いで身につける。コートの下はいつもの青いトライアングルビキニなだけに、何も着ていないところにエプロンをつけたのと変わらないように見えた。
「似合うかな?」
「何て格好してるのよ!」
セレアナが駆け寄ってくる。
「そうだね。さすがにちょっと寒いよ」
「そうじゃなくって……」
コートをセレンフィリティの肩にかけたセレアナは、モーベットに頭を下げる。
「ごめんなさい。とりあえず集めるように言ったのは私なんです。後で私がちゃんと分別しますから」
モーベットはどこか怒り足りないようだったが、北都が「それなら構いません」と場を収める。
「あー、あんたもエプロンなんだ。そうかお揃いだったんだね。じゃあ返さないと」
セレンフィリティはエプロンを取ると、モーベットに返した。
「いや、返さなくても……」
セレンフィリティにセレアナ、そして北都に見つめられて、渋々エプロンを身に着けた。
「じゃあ、お互いに頑張ろうねー」
トラブルになりかかったことを気にする風もなく、セレンフィリティはゴミ拾いを再開する。一例してセレアナも掃き掃除を続けていった。
「可愛い……か」
モーベットは今更ながらにエプロン姿を後悔した。あのまま今の女にあげても良かったなとつくづく思う。と同時に先ほどのエプロン姿を思い出す。
「モーベット、顔が赤いよ。熱でもあるの?」
伸ばそうとした手から顔を引いて避ける。
「なんでも無い。こちらも掃除を続けよう」
蒼空学園の生徒会長として、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は空京のあちらこちらを見て回っている。
「今のところは異常はなしかぁ」
落書きこそあったものの、実際に描いている現場に出くわすことはなかった。
「まぁねぇ、街をあげて清掃する日に描こうって奴らは、そうそうはいないだろうねぇ」
冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)も落書きをする人を見つけようと探し回ったが、ことごとく空振りに終わった。
「こんなことなら、事前にカメラでも仕込んでおくべきでしたわね」
歯噛みして悔しがるものの、今更の後悔でしかない。
「どうしようかしら。もう帰りましょうか」
悩んでいた小夜子にラブ・リトル(らぶ・りとる)が声をかけた。
「ねぇねぇ、あなたもボランティア?」
「ええ、そうですわ。それが何か?」
「あたしの掃除道具使っていいよ! あたしも掃除手伝いたいんだけどさ! 残念ながら力が足りなくてあまり綺麗にならなくて〜♪」
ラブ・リトルから渡された道具は、身長30センチそこそこの彼女に合わせて、ミニミニサイズだった。
「あたしは後ろで皆を歌で激励するからさ! ほら、遠慮しないでこの道具を持って……それじゃGOGO!ヨロシク〜♪」
言うだけ言うと、道具をポンポンに持ち替えて、歌って踊り始める。
アイドルさながらに歌も踊りも堂に入っていたが、小夜子からすると小鳥が飛び跳ねているようにしか見えない。
「まぁ、やってみましょうか」
手渡されたホウキは、小夜子には筆程度の大きさで、細かなところを掃除するのに役立った。
「これはこれで面白いですわ」
思わぬ発見に小夜子の心は躍った。
白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)に逃亡?された松岡 徹雄(まつおか・てつお)達も、地道に街を掃除していた。
本職の徹雄が素早くゴミを拾って分別しながら袋に入れていく。黒凪 和(くろなぎ・なごむ)とアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)は徹雄のフォローを務めた。
ゴミ袋がいっぱいになると和が素早く入れ替える。他のボランティアであっても、袋が足りなさそうであれば、遠慮なく分け与えた。
アユナは2人について、ゴミをちょこちょこ拾うだけだったが、時折ゴミ袋に収まりそうのない大物を徹雄が拾うと「アユナ、頼む」と放り投げる。
「はい。トモちゃん?」
定まらない瞳で大物ゴミを見ながら、鉈で粉砕していった。
時折、勢い余って、止めてある自転車やくくり付けてある縦看板まで破壊しそうになるが、鉈を避けつつ徹雄と和が羽交い絞めにして止めた。
「お掃除って難しいね。トモちゃん」
そんな徹雄を遠目に見つめる女の子がいた。イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)だ。
もう1人のパートナーティー・ティー(てぃー・てぃー)が一緒だが、マスターの源 鉄心(みなもと・てっしん)は見当たらない。
「あの方、どこかで見た気がしますの……」
徹雄の姿を真剣な眼差しで追っかける。
「確か……あれは今から36万……いえ、昨日のこと?」
ゴミを拾う手の止まったイコナにティー・ティーが声をかける。
「イコナちゃん、どうしたの?」
ハッとイコナが正気に戻る。
「ううん、なんでもないんだけど……なんだか……」
徹雄の姿を追いかけて視線の定まらないイコナを不安そうにティー・ティーが見つめる。
「何かありましたか?」
そんな2人に声をかけたのが同じシャンバラ教導団の小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)だ。
「持ちきれないのであれば代わりに持つよ」
2人のゴミ袋を持とうとしたが、イコナもティー・ティーも「「大丈夫です」」と声を揃えて言った。
「そう……じゃあ、一緒に回りましょうか」
3人は小暮秀幸を真ん中に並んでゴミを拾い歩く。
「今度はあっちに行きましょう。あっちにはパスタのおいしいお店があるんですよ」
「次はこっちに、もう少し行くとケーキとプリンのおいしいお店があって……」
ティー・ティーの案内を聞いていた小暮が「クスッ」と笑う。
「ティー殿の説明ですと、おいしい食べ物屋さんばかりなんですね」
そんな指摘をされたティー・ティーは、顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
機嫌を損ねたと感じた小暮は、あわててティー・ティーに「すみません」と謝った。
「自分はあまりそう言ったお店を知らないので参考になります。機会があったら、ぜひ行ってみようと思います」
チラッとティー・ティーが小暮を見る。
「じゃあ、今度、少尉も一緒に食べに行きませんか?」
いきなりのお誘いだったが、小暮は「はい」と笑顔で応えた。
空京の公園についた屋良 黎明華(やら・れめか)は公園を一周してゴミを拾い集める。誰と競争しているわけでもないが、ボランティアの参加が多い公園内では、「負けない!」と一生懸命に動いた。
袋にまとめたゴミを仮設の集積所に置いたところで、小さくお腹が鳴った。
「ちょっとひと休みしようかな。腹が減っては……って言うもんね」
香ばしい匂いをたどって、クレープ ノーブルファントムと書かれたクレープ屋を鼻で探り当てる。髪を束ねていたゴムを取ると、黒髪をなびかせてクレープ屋に近づく。
「ひとつくださーい!」
「いらっしゃい!」
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と佐々木 八雲(ささき・やくも)が黎明華を迎える。
「おっ! ボランティアの人ですねぇ。それならサービスしちゃうよぉ」
「じゃあトッピング全部乗せ! 麺固め! 脂多めで!」
鄙にもまれな美女の来店で、フルーツでも大盛りにしようかと考えていた弥十郎と八雲は、予想外の注文に頭を悩ませる。
とりあえずフルーツを全種類乗せて、麺は無いものの、クリームとチョコレートを多めにしておいた。
「ありがと」
大きな口をあけてかぶりつくと、顔よりも大きなクレープをわずか3口で食べきった。
「お替わり! 今度は野菜マシマシでよろしく!」
相変わらずマイペースな黎明華の注文。
あっけに取られた弥十郎と八雲は、ツナとポテトサラダと野菜の組み合わせを作る。生地を大きめに焼いて、いつもの倍の量の具を載せた。
それでも黎明華の前では5口と持たなかった。黎明華がここに来る前に、日本一周食い逃げの犯罪を行っていたことなど、弥十郎と八雲には知るよしもない。
「ちょっと食べ足りないかな。今度はお勧めを作ってよ」
目いっぱい大きく焼いた生地に、食べ応えがあるであろうソーセージやベーコンをぎっしり巻いて提供した3つ目も、黎明華にとってはおやつ代わりに過ぎなかった。
「ご馳走様、また来るねー」
「また……来るんだってさぁ」
「あれだけ豪快に食べてくれれば、見てるこっちも気持ちは良いけどな」
食材を半減させたクレープ屋は、急いで追加を仕入れの電話をかけた。
「なんかせわしいと思ったら、清掃活動だとさ」
アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)とウーマ・ンボー(うーま・んぼー)は通りがかった公園で事情を聞いた。
「年の瀬に掃除は付きもんだが、こう目いっぱいやられちゃ、興ざめだなぁ。多少汚れてた方が、住みやすいってのがあるもんだろう」
アキュートは「白河の〜♪ 清きに〜♪ 魚も住みかねて〜♪」と即興で鼻歌を歌った。
仲間内での忘年会の買い出しにでかける途中のアキュートとウーマだったが、行った先々で、酒を一杯、つまみを一口と重ねていくうちに、すっかり出来上がりつつあった。
ウーマも体全体を赤くしつつ、荷物を体中に引っ掛けてフラフラと飛んでいる。
「おっ! 焚き火じゃねえか。寒い時にはなによりのご馳走とも言うな。ちょっと温まっていこうか」
ウーマを引っ張って、焚き火の輪に加わった。
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